こんにちは。グッドパッチでプロジェクトマネージャーをしている服部と申します。

この連載では「サービスブランディング」の進め方やスキルの磨き方、維持するための仕組み作りを解説しています。今回はサービスブランディングをうまく展開するために不可欠な、「チームの一体感を作るコミュニケーション術」に触れたいと思います。

これまでの記事でもお伝えしている通り、サービスブランディングは社内外にステークホルダーが多いため、一貫性を保つのが非常に難しいです。例えば、こんな悩みを抱えているプロダクト担当者の方は少なくないのではないでしょうか。

  • マーケティング部門が練り上げたブランドメッセージを、営業部門が理解していない
  • カスタマーサポートが独自の応対スタイルを確立してしまい、ブランドの一貫性が保てない
  • 商品開発チームとUXデザインチームの意識の差により、顧客体験にギャップが生まれる
  • 経営陣からブランド強化を求められているのに、各部門の協力を得るのが難しい……

などなど。各部門がそれぞれ「正しい」と信じる方向で動いた結果、顧客に届けられる体験がちぐはぐになってしまうのです。

どうすれば組織の壁を超え、一貫性のあるブランド体験を作り出すことができるのか。第2回の記事では、ソリューションとして「デザインガイドライン」をご紹介しましたが、本記事では、実践的なチームビルディングとコミュニケーション設計という、また違った角度から課題解決の方法を、具体的な事例とともに取り上げます。

なぜサービスブランディングには、組織全体の巻き込みが重要なのか

おさらいになりますが、サービスブランディングは、企業が提供するあらゆる顧客接点において、一貫したブランドイメージを構築することを目的としています。

単にロゴやキャッチコピーを統一するだけでなく、商品やサービスの品質、従業員やカスタマーサポートの応対、店舗やWebページの雰囲気、SNSでの情報発信など、あらゆる要素を含むため「点」ではなく「面」の施策といえるでしょう。これらすべてが「ブランド体験」となるため、かつてないほどチーム全体の協力が必要とされているのが現状です。

主なチーム全体の協力が必要な理由

製品やサービスの機能面での差別化が難しくなる中、一貫した顧客体験が競争優位性になりやすい一方で、スマートフォンひとつで、企業のさまざまな顔を瞬時に確認できるため、少しでも一貫性を欠くと、信頼性が損なわれてしまうリスクもあります。

サービスブランディングは、決して一部門だけで完結できるものではなく、顧客接点となるあらゆる場面に関わる、部署、チームを巻き込んで進めていく、まさに企業活動そのものにもなってきているのです。

サービスサイト、営業資料、広告バナーなどはもちろんのこと、営業トーク、カスタマーサポートの対応、SNSでの情報発信に至るまで、サービスに関わるすべての人が、同じ方向を向いて行動するには、単なる「ルールの押し付け」では、まずうまくいかないでしょう。それぞれの部門が「そのブランド体験が“なぜ”重要なのか」を深く理解し、共感することが成功のカギなのです。

何事も「なぜ」が一番大切──共通認識を得るための「社内コミュニケーション術」

各部門がブランド体験の重要性を認識し、理解、共感するためにはどうすれば良いか。そのためにも、まずはサービスのビジョン、ターゲット、ブランドイメージなどを、全社員で共有する必要があります。そこで効果的な施策の一例が「ワークショップ」です。

例えば「理想の顧客体験」をテーマに、グループワークでアイデアを出し合ってみましょう。

  • 顧客はどんなときにサービスを利用するのか?
  • サービスを通して、どんな気持ちになってほしいのか?
  • どんな言葉で語りかければ、顧客の心に響くのか?

部門を超えて意見交換することで「顧客中心」の視点が育まれ、サービスに対する共通認識が生まれます。「共通の認識を持つ」というのが非常に大切です。

ワークショップで生まれたアイデアや決定事項は、社内報などを活用して、全社員に共有しましょう。難しい専門用語を並べるのではなく、写真やイラストを効果的に使い、ストーリーを交えながら伝えることで、社員の理解と共感を深めることができます。

成功事例を共有することも効果的です。「チーム横断で検討した 新しいブランドメッセージを導入したら、顧客からの反応が大きく変わった!」といった事例も紹介することで、 社員のモチベーションを高め、サービスブランディングへの意識を促進することができるかもしれません。

下記の内容はサービスブランディングに限ったことではないですが、社内コミュニケーションを円滑にしていく上で押さえておくと良いでしょう。すぐに実践できるアクションとしてもお勧めです。

<成功のための3つのポイント>
・「Why」から始める
単なるタスク割り当てではなく、目的の共有から、全員が「なぜこれが必要か」を理解する
・小さな成功体験を作る
大きな目標を小さなマイルストーンに分解。達成感を共有し、モチベーションを維持する
・定期的な振り返りと調整
定期的に振り返りのセッションを行う。課題の早期発見と解決策の共同検討

チーム間で異なるゴールやKPIをどう整理すればいいのか?

社内全体の意識が統一できたら、次は「サービスブランディングの成功」という共通のゴールに向かって、具体的にアクションを起こすフェーズです。しかし「それぞれの部署で異なるKPIを追っている」「目標達成のための指標がバラバラ」というような状況では、一丸となって進んでいくことは難しいでしょう。

例えば、マーケティング部門が「Webサイトへのアクセス数を増やす」というKPIに集中するあまり、顧客獲得後のフォローがおろそかになってしまい、カスタマーサポート部門の負担が増加してしまう……なんてことも起こり得ます。

このような事態を防ぎ、サービスブランディングを成功に導くためには、部署横断的なプロジェクトチームを結成し、部門やチーム間でKPIを共有し、互いの指標の理解と連動を意識することが重要です。いわゆる「メトリクスツリー」のような形で、それぞれのKPIの関係性が分かりやすい形で整理されているとベストでしょう。

それぞれの部門が「自分たちのKPIだけを達成すれば良い」という意識ではなく、「サービスブランディングの成功」という共通の目標を達成するために、どのように連携していくべきかを考えることが重要です。

各チーム間でのKGIやKPIなどの共有・連携

また、目標面での意識統一はできても、考え方やスタンスを共有し、統一するのはまた異なる難しさがあります。

一例として、そういった場合はブランド価値を具現化・言語化したドキュメント「ブランドブック」を作り、チームや全社員に共有する方法もあります。ブランドブックは、単なるデザインガイドラインではなく、以下の要素などを盛り込むと良いでしょう。

ブランドブック

このようなツールを作成し、ブランドに対する理解を深め、共通認識を醸成することでチーム間連携も効果的に進めることができます。

ROIは避けて通れない、データの可視化と進捗管理も重要なポイント

チーム間で共通認識が生まれれば、サービスブランディングの準備が万端だというわけではありません。最後に意識すべきは「本当に効果が出ているのか?」ということ。相応の投資が必要な分、ROIは避けて通れず、軌道修正を繰り返しながら進めていく必要もあります。

そこで重要となるのが、定量・定性データに基づいた進捗管理です。以下のような点を意識し、「感覚」ではなく「数字」で可視化することで、現状を客観的に把握し、具体的な改善策を検討できます。

サービスブランディングの効果を「見える化」するKPI設定

Webサイトへのアクセス数や資料請求数など、マーケティング活動の成果を測るKPIだけでなく、「ブランド認知度」「ブランドイメージ」「顧客ロイヤルティ」といった、サービスブランディングの効果を測るKPIを設定することが重要です。

例えば、顧客満足度調査を実施したり、SNSでのブランドに対する言及を分析したりすることで、顧客のブランドに対する意識や感情を把握できます。

KGI・CSFを設定し、進捗状況を共有

プロジェクトの最終的な目標であるKGI(Key Goal Indicator)と、KGI達成のためにクリアすべき重要成功要因であるCSF(Critical Success Factor)を設定し、チーム全体で共有しましょう。定期的に進捗状況を共有する会議などを設けることで、課題や改善点を早期に発見し、迅速に対応できます。

定量データと定性データを組み合わせて分析

Webサイトのアクセスログなどの定量データだけでなく、顧客インタビューやアンケート調査で得られた定性データも合わせて分析することで、より深い洞察を得ることができます。データ分析ツールなどを活用することで、効率的にデータを収集・分析できるだけでなく、視覚的に分かりやすく表現することも可能でしょう。

顧客からのフィードバックや、社内メンバーからの意見を取り入れるためのアンケートを定期的に実施し、それらの結果を可視化することで、顧客が感じているイメージと企業が伝えようとしているブランドメッセージのギャップを特定し、より一貫性のあるブランディングを推進していけるよう意識していくことが大切です。

一貫性のあるサービスブランディングの実現に向けて、明日からできること

本記事では、サービスブランディングの成功に欠かせない、チームビルディングとコミュニケーション設計について解説してきました。サービスブランディングは、単なるロゴやキャッチコピーの開発にとどまらず、組織全体で取り組むべき戦略的な活動です。

以下に「明日から実践できそうなこと」として、この記事で紹介した内容をまとめました。これらを参考に、チーム全体でサービスブランディングについてぜひ考えてみてください。

・社内でサービスブランディングについて話し合ってみる
チームメンバーを集めて、現状の課題や理想の顧客体験について意見交換してみましょう

・ブランドブックやデザインシステムの導入を検討してみる
専門の制作会社に相談したり、無料で使えるツールを活用したりするのもおすすめです

・顧客の声を積極的に収集し、サービス改善に生かしてみる
アンケート調査やインタビューを実施したり、SNSでの反応を分析したりするのも有効です。

グッドパッチには、サービスブランディングプロジェクトを推進した経験と実績のあるデザイナーが在籍しています。ブランドブックやデザインシステムに関する課題をお持ちの方や、まずは相談してみたいという方は、こちらからぜひ、お問い合わせください。

関連リンク

グッドパッチデザインパートナーシップ – サービスブランディング紹介ページ
https://design-partnership.goodpatch.com/solutions/service_branding

差別化とユーザー増のカギになるサービスブランディングとは? メリットと進める上での注意点
https://goodpatch.com/blog/2024-07-servicebranding01

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事業の本質を捉えたサービスブランディングに必要なスキルの磨き方https://goodpatch.com/blog/2024-09-servicebranding03

サービスブランドを「維持」するための仕組みづくり──基準の定義からレビュー体制の構築まで
https://goodpatch.com/blog/2024-11-servicebranding04

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