事業の本質を捉えたサービスブランディングに必要なスキルの磨き方
皆さんこんにちは。グッドパッチでプロジェクトマネージャーをしている服部と申します。
前回、「一貫性のある効果的なサービスブランディングの進め方」について、顧客体験設計の発想とアプローチを活用して基本的な部分を紹介しました。
前回までの記事をご覧いただいた方の中には「サービスブランディングって難しそうだ」と感じた人もいるのではないでしょうか。
ブランディングには明確な定義や手順があるわけではなく、様々なスキルや知見が複合的に関係してきます。事業の本質を捉え、サービスやプロダクトの提供価値を反映した戦略や設計をしていくことは、決して簡単なことではありません。
サービスブランディングを進める中で、以下のような課題に直面する方も多くいます。
- 事業目的やターゲット顧客、ブランド価値など上流部分を十分に把握し、それらをアウトプットに反映させるのが難しい
- サービスの全体像を理解しても、事業やマーケティング課題の意図を適切に把握するのが難しく、一貫性のあるサービスブランディングやコミュニケーションデザインの設計ができない
- 事業の方向性が変更になった場合、戦略との整合性を保つことが難しい
しかし、これらの理由があったとしてもサービスブランディングを進めていくことは避けて通れません。重要なのは、これらの課題を乗り越えるために知識を身につけ、スキルを磨くことです。
第3回目となる今回は、サービスブランディングに必要なスキルとその磨き方についてご紹介していきます。
目次
サービスブランディングを進めるために必要なスキル要素
サービスブランディングを成功に導くための代表的なスキル要素には、以下のようなものがあります。
- ビジネス知識の習得
- プロダクト開発プロセスの理解
- データ分析力の習得
- ビジネスコミュニケーション能力の向上
- デザイン思考の深掘り
それぞれ、どのようにスキルを磨いていけば良いかを紹介していきます。
1.ビジネス知識の習得
事業目的、ビジネスモデル、収益構造の理解
まず基礎となるのがビジネス知識です。事業の根幹を支える要素を深く理解するため、事業目的、ビジネスモデル、収益構造の理解は不可欠です。
なぜこのサービスが存在するのか、どのように価値を生み出し、どのように収益を上げるのかを把握することで、ブランディングの方向性も明確になってくるでしょう。例えば、BtoBなのかBtoCなのか、サブスクモデルなのか単品通販なのかなど顧客との関係性構築の仕方が異なるケースもあります。
これらビジネスモデルを理解することが、適切なブランドメッセージや顧客体験を設計をする土台となります。
業界動向、競合、市場環境の把握
業界動向、競合、市場環境の把握も重要です。自社のサービスやプロダクトは市場でどのような位置づけにあるのか、競合他社はどのような戦略を取っているのかなどを理解することで、差別化するポイントを見つけていきます。
マーケティング理論の学習
さらに、マーケティング理論の学習も欠かせません。実際は、マーケティング担当者やPR担当者などと一緒に進めることとなりますが、同じ目線で会話する上では、顧客セグメンテーション、ポジショニング、4PやSTPなどの基本的なフレームワークを理解・適用したアウトプットが求められます。
これらのビジネス知識を総合的に活用することで、単なる表層的なデザインや広告だけでなく、事業の本質に根ざしたサービスブランディングが可能になり、顧客のニーズを深く理解し解決する独自の価値提案を明確に打ち出すことができるでしょう。
ビジネス知識の習得は一朝一夕にはいきませんが、日々の業務の中で意識的に学び、実践することで徐々に身についていきます。経営陣やプロダクトオーナーとの対話、業界レポートの定期的な確認、マーケティング関連の書籍や講座の受講など、様々な方法で知識を深めていくことが大切です。
2.プロダクト開発の理解
ブランドの本質はサービスそのものにあります。プロダクト開発プロセスを理解し、積極的に関与することで、サービスの本質を反映した、一貫性のあるブランディングを考えていくことができるようになります。
例えば、アジャイル開発の考え方でサービスやプロダクトを運営している場合、小さな単位で機能をリリースし、ユーザーフィードバックを基に改善を重ねていきます。この手法をとることで、サービスやプロダクトが市場の変化や顧客ニーズにすばやく対応できるのはもちろんですが、ブランドの提供価値も常に最適化することができます。
サービス立ち上げ初期であればコアとなる機能をリリースし、ユーザーの反応を見ながらブランド体験側もそれに合わせて洗練させていくアプローチをとることも可能になります。
要件定義、設計、実装、テストなどの各フェーズを理解することで、プロダクトのUIデザインからユーザーが触るタッチポイントまでを把握でき、一貫したブランド体験を考える時に役に立ちます。
さらに技術的な知識についても習得していると、Web上でのインタラクティブな要素を取り入れた独自のブランド体験を提案できるかもしれません。
プロダクト開発プロセスの理解は、以下のような具体的なアクションで深めていくことができます。
- 開発チームのスプリントレビューや振り返りに参加し、開発の進捗や課題を把握する
- ユーザーテストに立ち会い、実際のユーザー反応を直接観察する
- プロトタイピングツールを使って自らアイデアを形にしチームと共有する
3.データ分析力の習得
サービスブランディングにおいても、ユーザー行動の把握や施策の実施前後の効果などデータを分析する力は非常に重要です。
ユーザー行動データの分析
- Google Analyticslなどのツールを使いこなし、ウェブサイトなどの利用状況を把握する
- A/Bテストを設計・実施し、どのようなデザインや文言がユーザーに響くかを検証する
- ヒートマップやユーザーセッション録画を分析し、ユーザーの行動パターンを理解する
例えば、ブログのアイキャッチ画像やSNSに投稿する画像においても、どのようなビジュアルや見出しがクリック率が高いのかや資料ダウンロード数を高めるかを検証することで、どんなブランドメッセージがターゲット顧客により刺さるかなどをみていきます。
KPI(Key Performance Indicator)とKGI(Key Goal Indicator)の設定と達成度分析
ブランディング活動の成果については、短期的な測定が難しい場合があります。可能な限り測定可能な指標に落とし込み、定期的に進捗を確認しましょう。最終的には、消費者調査をかけるなどして測定していくことが一般的です。
数値として定期的に観測できる指標として、例えば以下のようなものがあります。
- ブランドの認知度を測定する→ブランド助成想起率/ブランド純粋想起率
- ブランドの独自性を測定する→ブランド第一想起率/ブランド支配想起率/ブランド連想
- ブランドの満足度を測定する→NPS/顧客ロイヤリティ
これらの指標により、ブランディング活動の ROI(投資対効果)を明確に示すことができるので、指標や測定方法について学んでおく必要があります。
データに基づく施策立案と実施力
競合分析のデータから自社の差別化ポイントを明確にし、ブランドポジショニングを最適化するなど、データから得られた洞察をもとに、具体的なアクションプランを立てる能力が求められます。データ分析力を磨くことで、感覚や経験則だけでなく、客観的な事実に基づいた施策を立案・実行できるようになります。
データ分析力を磨くためには、以下のようなアプローチが効果的です。
- 業界のベンチマークやケーススタディの研究
- オンラインコースやワークショップへの参加による、データ分析の基礎習得
- 実際のプロジェクトでデータ分析を担当し、実践的なスキルを身につける
- データサイエンティストやアナリストとの協業による、専門的な知見の吸収
4. ビジネスコミュニケーション能力の向上
サービスブランディングでは、社内外の様々なステークホルダーと協働する機会が多くあります。コミュニケーション能力を身につけることで、これらステークホルダーとブランドビジョンを効果的に共有し、組織全体でブランド価値を実現することができます。これにより、一貫性のある強力なサービスブランディングが可能となります。
プレゼンテーション、ファシリテーション能力
ブランド戦略を効果的に伝え、実行に移すためには、説得力のあるプレゼンテーション能力が必要です。例えば、経営陣に対しては施策の効果やROIや競争優位性を説明したり、クリエイティブを担当するチームにはブランドの視覚的表現について詳細に説明するなど、相手に応じたアプローチが求められます。
また、ブランディングプロジェクトを円滑に進めるためには、多様な意見を引き出し、建設的な議論を促進したり、チーム内の意見の相違を調整し、合意形成を図るなどのファシリテーション能力も重要です。
関係者間のコンセンサスビルディング
サービスブランディングは、多くの場合、複数の部署や外部パートナーとの協働が必要です。そのため、異なる背景や専門性を持つ関係者間でコンセンサスを形成する能力が重要になります。例えば、短期的な成果目標と、長期的なブランド構築の必要性のバランスをとるなど、異なる優先事項の調整が求められます。
プロジェクトマネジメント
明確な目標設定とタイムラインの策定、進捗管理と適切なフィードバックの提供など複雑なプロセスを効果的に管理する能力は、ブランディングプロジェクトにも求められます。
これらのコミュニケーション能力を向上させるためには、以下のような取り組みが効果的です。
- 社内外のプレゼンテーション機会を積極的に求め、実践経験を積む
- コミュニケーションスキル向上のためのワークショップやセミナーに参加する
- メンターや上司からフィードバックを受け、継続的に改善を図る
- 異なる部署や専門分野の人々と積極的に交流し、多様な視点を学ぶ
5. デザイン思考の深掘り
デザイン思考は、サービスブランディングの様々な場面で活用できます。
ユーザー中心のアプローチ実践
デザイン思考の核心は、ユーザーのニーズと欲求を深く理解し、それに基づいてソリューションを開発することです。
- ユーザー検証:インタビュー、観察、アンケートなどを通じて、ユーザーの真のニーズを見つける
- 共感マッピング:ユーザーの感情、思考、行動を可視化し、深い洞察を得る
- ペルソナ作成:代表的なユーザーイメージを具体化し、チーム全体で共有する
サービスの本質的な提供価値を見出し、ブランドの成長機会を特定するために、多角的な視点からユーザーと非ユーザーを深く理解することが大切です。そのためには、ユーザーの行動を丁寧に観察することが重要です。また、ブランドとファンとの間にどのような関係が構築されているかを分析することで、ブランドの強みを認識し、さらに発展させることもできます。
一方で、そのサービスを全く使っていない人にとっては、何が障壁となってサービスの利用に至っていないのかを理解することも重要です。これにより、市場拡大の可能性や新たなターゲット層を見出すことができるでしょう。
コンセプトメイキングやストーリーテリング手法の活用
デザイン思考を活用し、強力なコンセプトとストーリーを構築しましょう。
ブランドの簡潔さを魅力的に表現する 「コンセプトメイキング」とブランドの背景や価値観を印象的に伝える「ストーリーテリング」を組み合わせて、心に響き共感されやすいブランドイメージを作っていくのが理想です。
デザイン思考を効果的に活用するためのポイント
- 常にユーザーファーストの姿勢を持つ:自社の都合ではなく、ユーザーにとって価値を最優先に考える
- 失敗を恐れず、実験する:完璧を求めすぎず、小さな実験を繰り返し改善していく
- 多様性を重視し、多角的な視点を取り入れる:異なる背景や専門性を持つメンバーでチームを構築する
アイデアとコンセプトを視覚化し、共通理解を促進するデザイン思考は単なる手法ではなく、問題解決に対する考え方や姿勢を変える「思考習慣」と捉えられます。組織全体に根付いていくことで、真に価値あるブランド体験を生み出し、進化させていける可能性が高まるでしょう。
まとめ
サービスブランディングは、事業やサービスの本質を深く理解し、ユーザーのニーズに寄り添い、一貫したブランド価値や体験を提供し続けるプロセスです。本記事で紹介したスキル要素は、決して短期間で習得できるものではありません。完璧を求めすぎず、失敗を恐れずできることから着手することをおすすめします。
グッドパッチには、サービスブランディンの元となるWebやアプリなどのプロダクト開発における事業理解や提供価値の言語化など、事業責任者やブランドマネージャーと会話しながら要件が不明瞭な状態のプロジェクトも推進した経験と実績のあるデザイナーが在籍しています。
サービスブランディングに関する課題をお持ちの方や、まずは相談してみたいという方は、こちらからぜひ、お問い合わせください。
それでは、次回もお楽しみに。
関連リンク
グッドパッチデザインパートナーシップ – サービスブランディング紹介ページ
https://design-partnership.goodpatch.com/solutions/service_branding
差別化とユーザー増のカギになるサービスブランディングとは? メリットと進める上での注意点
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