皆さんこんにちは。グッドパッチでプロジェクトマネージャーをしている服部と申します。

サービスのロイヤリティを高め、ライバルに一歩差をつけるためにどうするか──。この連載では、グッドパッチで支援する機会も増えている「サービスブランディング」について解説しています。今回は第2回です。

サービスブランディングの定義やメリットをご紹介した第1回の記事では、「単にサービスの宣伝やプロモーションをするだけでなく、ブランド体験をデザインし、一貫したブランドコミュニケーションを行うことが重要」とお伝えしました。しかし、それは決して簡単なことではありません。

サービス(プロダクト)は無形の商材であるからこそ、多くの顧客接点が生まれます。しかし、それぞれの接点で受ける印象や湧き上がる感情(=体験)がバラバラでは、一貫したブランドイメージを醸成できないのです。

プロダクトそのものや、Webサイト(LP)、広告、SNS、グッズ、採用など、顧客が触れるであろう、あらゆるシーンでブランドの価値観を一貫して伝える必要がありますが、実際にクライアントと接していると、以下のような課題をよく耳にします。

  • 顧客体験やストーリーを感じてもらいたいが、どのような接点で、どう表現すればよいか分からない
  • 顧客の視点に立った一貫性のある体験設計とはどういうものか
  • 顧客視点ではなく、上層部の個人起点で価値定義がされ、意思決定が行われる

これに対しては、プロダクト開発の場面でも用いられる「顧客体験設計(CXD:Customer Experience Design)」の考え方が有効なアプローチとなります。本記事では、顧客体験設計の基本と意義を解説した上で、具体的なサービスブランディングの考え方や進め方の代表例をお伝えします。

顧客体験設計とは?

顧客体験設計とは、製品やサービスを利用する「顧客の体験そのもの」をデザインするアプローチです。優れた製品やサービスを提供するだけでなく、顧客がそれらと関わる過程全体を設計することで、付加価値の高い体験を創出することを目指します。

体験設計をするときは、顧客の視点に立ち、顧客のその一連の行動を旅(ジャーニー)に捉えた「カスタマージャーニーマップ」を作って可視化するのが一般的です。

サービス(プロダクト)と顧客がどのように出会い、実際に利用し、次の行動に至るまでの一連の流れにおける、顧客の行動や心理を詳細に捉えます。各顧客接点(タッチポイント)における体験を一つひとつ設計し、全体として一貫性のある体験を提供することが重要です。

カスタマージャーニーマップ

一貫したサービスブランディングに顧客体験が重要な理由

サービスブランディングにおいて顧客体験設計が重要なのは、ブランドそのものが顧客に対する価値の集合体だからです。魅力的なブランドとは、サービスやプロダクトの品質はもちろん、Webサイトの使い心地、コンテンツ、広告の印象など、顧客が接する全ての側面で高い価値を感じられるものです。

つまり、単にサービスやプロダクトの機能面だけでなく、顧客が実際にそのサービスとどのように接し、どのような体験をするのかを設計することで、高い価値を体現したブランディングが可能になるのです。

例えば、ホテルブランドでは客室、フロントサービス、レストラン、アメニティなど、顧客の旅行の各場面における体験を丁寧に設計する必要があります。そして、それらの体験が統一されておらず、ブランドコンセプトを反映したものになっていなければ、ブランド力は低下してしまいます。

一貫したブランディングを実現するには、顧客体験設計の発想と手法が不可欠なのです。次に、具体的なサービスブランディングの進め方をご紹介します。

顧客体験設計を取り入れたサービスブランディングの進め方

顧客体験設計の考え方を取り入れ、一貫したサービスブランディングを実現するには、以下の3つのステップが重要になります。

1. 顧客視点に基づいたタッチポイントの洗い出し

顧客の視点に基づいて、あらゆる顧客接点(タッチポイント)における体験を一つひとつ丁寧に設計するためにも、まずはタッチポイントを洗い出すことが肝心です。サービス自体を除いても、例えば以下のようなタッチポイントがあります。

  • Webサイト
  • 自社開催セミナー
  • 営業資料
  • SNS
  • メルマガ
  • キャンペーンやPOPUPイベント、展示会など

このように、顧客はさまざまな接点でサービス(プロダクト)に関する情報に触れます。どんな接点があるのかを洗い出した上で、カスタマージャーニーマップに落とし込む際に可視化していくと整理しやすくなるでしょう。

2. 体験の「一貫性」を確保する

次に考えるべきは、個々のタッチポイントを通じたブランド体験の、一貫性を確保することです。記事冒頭で触れた通り、さまざまな顧客接点で受ける印象や湧き上がる感情がバラバラであってはいけません。

各タッチポイントで受ける印象が統一されることで、顧客は断片的な体験ではなく、サービス(ブランド)との関わり全体に対して一貫したストーリーを感じ取ることができるはずです。

カスタマージャーニーのステップに沿って、タッチポイントの役割ごとに、伝えるべき訴求ポイントを調整する必要はありますが、サービス全体で与えたい印象やメッセージ、そしてブランドコンセプトに基づいた価値を明確にすることで、それを軸にしながら最適化できるようになります。

一貫性

3. 共感を生み出すコミュニケーション設計

サービスやブランドに対する支持や好意を得るには、コミュニケーションを通して顧客との情緒的な繋がり、すなわち「共感」を生み出すことも重要です。共感が生まれれば、愛着が生まれ、ロイヤリティの向上につながる可能性があります。

そのためには、顧客の行動やニーズをよく理解し、メッセージの内容やトーン、視覚的なデザインなどを通して、顧客の価値観や感情に訴えかけるコミュニケーションを設計する必要があります。

これらのステップを踏むことで、一貫したブランドの体験価値の提供が可能になるのでます。ここからは、より具体的なブランド価値の明確化とコミュニケーションの手法について説明します。

ブランド価値の明確化と一貫したコミュニケーションデザイン

一貫したサービスブランディングを実現する上では、サービス(プロダクト)自体の価値などを明確にし、それを効果的に伝えることが不可欠です。

サービス(プロダクト)の価値観と信念の明確化

まずはサービスやプロダクトが大切にしている中核となる価値観や、ブランドの存在意義となる信念を明確にする必要があります。例えば、以下のようなものが考えられます。

  • 人々に喜びや感動を与えたい
  • 環境に配慮した持続可能な社会を実現したい
  • 最先端のイノベーションを提供し続けたい
  • 誰もが公平に質の高いサービスを受けられるようにしたい

こうした核となる価値観や信念を軸に、提供するサービスやブランドメッセージを考えていくことが大切です。これらがブランドに反映されることで、顧客やユーザーの共感や信頼を深めることにも繋がります。

視覚的・感情的なコミュニケーションデザイン

次に、そのサービスやプロダクトの価値観や世界観を、顧客に対して視覚的かつ感情的に訴求するコミュニケーションデザインを行う必要があります。メッセージの内容はもちろん、以下のようなデザイン要素にブランド価値観を反映させることで、印象的な訴求が可能になります。

  • ロゴ、カラー、タイポグラフィなどの視覚的なアイデンティティ
  • 広告、Webサイト、動画などのクリエイティブ表現
  • 適切な写真やイラストの使用
  • 発信するメッセージの語調や文体(トーンオブボイス) 

など

サービスやプロダクトとしての優位性を出すためには、使いやすさに加えて「応援したい、使い続けたい」と思えるような、ユーザーの心に寄り添うデザインが求められるようになってきています。

こうしたユーザーの心に寄り添うブランドメッセージを、あらゆる顧客接点で一貫して発信することで、サービスのブランドへの共感と支持を醸成し、本物のブランド力がついていきます。

グッドパッチでは、ビジュアルデザインによってプロダクトやブランドの魅⼒を引き出し、⼩さな課題解決から⼤きな夢の具現化までを⾏う「TORO」というサービスも提供しています。

統一感の演出に欠かせない、ガイドラインの構築

一貫したサービスブランディングを確立するためには、デザインにおけるルールづくり、つまりガイドラインの策定も有効な手段です。

このガイドラインではデザインの基本要素を確立する必要があります。ロゴ、カラー、タイポグラフィー、デザインモチーフなど、ブランドを視覚的に表現する要素の統一ルールを明確にしましょう。

<デザインのガイドラインにおける要素の例>

  • ブランドの理念・価値観
  • ロゴの使用規定
  • 色指定
  • タイポグラフィ
  • イメージ/写真の扱い
  • アイコン/グラフィックエレメント要素
  • トーン&ボイス
  • UIコンポーネント

これらの「規範」を定めたデザインガイドラインを整備し、組織内で徹底することがアイデンティティの乱れを防ぎ、一貫性ある表現のコントロールが可能となります。逆にデザインの一貫性が損なわれると、顧客体験における一貫性の担保も難しくなってしまうでしょう。

ガイドライン

もちろん、いきなり全てのタッチポイントでの体験やデザインに統一感を持たせるのは大変です。まずはサービス(プロダクト)自体のデザイン統一を徹底してから、顧客接点のデザインに広げていきましょう。そして、サービスやプロダクトの成長に合わせてデザインガイドラインの継続的な改善を行う。こうした構築と改善を意識しながら、サービスブランディングを行っていきましょう。

まとめ

本記事では、顧客体験設計の発想とアプローチを活用し、一貫したサービスブランディングを実現する具体的な方法をお伝えしてきました。

あらゆる顧客接点での体験を設計し、顧客の行動や感情を捉え、共感を生み出すコミュニケーションデザインを行うことで、ブランドへの理解と支持を高められます。

ブランディングの核となる価値観や信念を明確にし、それを視覚的・感情的に伝えるメッセージングと発信を徹底することも大切なポイントです。あらゆる接点で一貫したストーリーを告げることで、顧客との強い繋がりも生まれてくると思います。

ぜひ本記事の内容を生かし、自社のサービスブランディングを磨き上げていってください。

グッドパッチでは、サービスやソフトウエアプロダクトにおけるブランディングに知見をもったデザイナーが、顧客体験設計やブランド提供価値の言語化からデザインガイドラインの構築までご支援します。すでに課題をお持ちの方や、サービスブランディングを進める上での具体的なプロセスを知りたい方は、こちらからぜひお問い合わせください。

次回は「サービスブランディングに必要なスキルの磨き方」をテーマにお話ししたいと思います。

関連リンク

グッドパッチデザインパートナーシップ – サービスブランディング紹介ページ
https://design-partnership.goodpatch.com/solutions/service_branding

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