PdMなら知っておきたい、プロダクトの評価指標 KGI、NSM、KPIをつなぐ「メトリクスツリー」作成の4ステップ
多くのプロダクトやサービスが生み出される昨今、「自社のプロダクトが顧客に選ばれ、価値を提供できているか?」については事業を左右する要因であり、プロダクト作りや販売に関わるメンバー全員が常に気になるところかと思います。
このようなプロダクトの成長を正しく図り、事業上の収益向上やユーザーに対する提供価値向上といった成功の有無を定量的に示すのが「プロダクトメトリクス」です。
メトリクスはプロダクトの事業上コミットすべき目標に対しての到達度合いや、直近でリリースした機能のユーザーの受け入れ状態の計測など、様々なシーンでプロダクトの状態を定量的に示し意思決定の軸として活用されます。
ただ、プロダクト自体の複雑化(多機能・マルチプロダクトなど)に伴い、本質的な成果や価値を計測するメトリクス設計や活用が困難になっています。
今回は、複雑化するデータ環境でグッドパッチが実際に支援したケースモデルも交えながらプロダクトの成功や成長を正しく判断できるメトリクス設計のプロセスについて、ステップに分けて解説します。
目次
プロダクトの成功をメトリクスで計測する
何を持って「プロダクトが成功しているか」を定義するのは、さまざまな基準がありますが、本記事では「プロダクトビジョン」「事業価値」「顧客価値」の3つのバランスがとれた状態を指します。
「価値」というとVoC(Voice of customer)やユーザーインタビューなどの定性情報に基づいて判定することが一般的かと思いますが、定性的な情報はデータ量が少数であったり、主観がどうしても入ってしまうことから、これだけで判定するのはリスクを伴います。
定性的な情報のファクトをより深め、プロダクトが本当に価値となっているのか?そして事業としても成長しているのか?を適切に判断するために、定量データに基づいたメトリクスを定義し、計測することが必要なのです。
メトリクス設計に関する勘違い
プロダクトの成長を追うメトリクスを設計する上で、売上や利益といった成果そのものに偏ったケースが良く見られます。
もちろん売上・利益といった指標は、事業継続の観点で最重要指標であることは間違いありませんが、これらは指標の中でも「遅行指標」と言われる最終的な結果です。これだけでは「プロダクトの成長に向けて何をすべきか?」という価値向上に向けての意思決定や判断を行うことはできません。
指標については、以下の考え方で整理されます。
先行指標 | 遅行指標 |
成果予測因子 | 成果指標 |
改善コントロール可 | 改善コントロール困難 |
成果に対するインプット | 成果に対するアウトプット |
プロダクトのメトリクスを正しく設計し価値向上の意思決定を連続的に行うには、指標の意味合いや目的を正しく理解する必要があります。
最終的には、遅行指標を最大化させることが目指すべきゴールにはなりますが、そのために必要となるプロセス上の先行指標を適切に定義し、構造化することで、それぞれの指標間の相関や影響度合いが見え、より深い洞察や仮説を得ることができるようになります。
メトリクスの構造について:KGI→NSM→KPIの構造解説
上記でも触れたように、プロダクトメトリクスは以下の要素に分類されます。
指標 | 目的 | 例 |
KGI | Key Goal Indicator(キー ゴール インジケーター)の略で、「経営目標達成指標」 | 有料課金ユーザー数 |
North Star Metric | North Star Metricとは「北極星指標」の意で、ユーザー価値と事業収益の両方に影響を及ぼすグロース計測上の重要指標 | 登録◯日後のアクティブ数 |
KPI | Key Performance Indicator(キー パフォーマンス インジケーター)の略で、「重要業績評価指標」 | DAU / MAU |
一番上に位置するのは遅行指標であり、最終的に果たすべき成果となるKGIとなります。
そしてSaaSプロダクトなどで、最も重要視されるのが「North Star Metric(以下、NSM)」です。
NSMとは、プロダクトビジョンに基づいた「チームが目指すべき方向性と成功を測る指標」であり、そして「ビジネスで最も重要なことは顧客価値の向上」という思考から、顧客がプロダクトを使って得られる本質的な価値を正確に測定する指標で、結果としてビジネスが成長しているかを追跡できるようにする、最重要指標と位置付けられています。KPIは、上記のNSMを構成する各指標と捉えてください。
このように上位の遅行指標からブレイクダウンさせた形で、見るべき・追うべき・評価すべきメトリクスが構造的に接続され、それぞれの相関や影響度合いを可視化し、適切な課題発見から価値向上に向けた改善活動の意思決定がなされるようになります。
記事冒頭でも触れましたが、昨今はプロダクトの多様な行動データが取得できるようになっています。しかし、データや指標が複雑になるが故に、それぞれが点としてでしか見られず、本質的な指標から発見すべき事象が見つけられない、またはズレてしまう原因となっていると思います。
メトリクス設計のプロセスは4ステップで
ここからはメトリクスを設計するプロセスについて、ステップに分けて解説します。
本記事では大まかな流れとして押さえるべきポイントをお伝えします。具体的な詳細については、別の記事で改めて解説したいと思います。
STEP1:KGIを設定する
事業継続上、目標達成のための指標は不可欠。その観点で最も重要な役割を持つのがKGIです。
設計プロセスでは、プロダクトビジョンなどの長期的に追うべき目標と半期や当期といった短期で追うべき目標を明確に定義します。その中で、それらの達成に向けて最も重要な要素となる指標を抽出しKGIとして設定します。いわゆる「SMART原則(具体的・測定可能・達成可能・関連性がある・期限が明確な目標)」が有効活用できるでしょう。
STEP2:NSMを定義する
NSMはプロダクトビジョン・事業の成果・ユーザー価値と直接結びついており、業績指標だけでなく、事業全体の目標や価値観(プロダクトビジョン)を反映し、組織全体の焦点を1つに絞る役割を担います。NSMを設定することでチーム全体が共通の目標に向かって動くことができ、事業内の意思決定が効率化されるようになります。
- NSMは事業の成長を目指す上で重要な指標
- KGIとKPIの中間に設定され、顧客視点も取り入れた指標
- NSMを取り入れることでKGI達成までの道筋が明確になり、組織の方向性を揃えることができる
NSMを設定するプロセスにおいては、以下を考慮して定義していきます。
【プロダクトの分類と特性を把握する】
【3要素の具体化】
これらを考慮しながら、各要素を満たす指標を洗い出し、データなどを駆使して裏付けしていきます。このとき関係するメンバーなどチームでワークショップなどを行い、議論をした上で合意形成することで、より効果的なモチベーションツールとなります。
STEP3:NSMを構成するKPIを設定する
次はSTEP2で定義したNSMを構成するKPIを設定します。
KPIは「どの指標か」「どう測定するか」によってプロダクトの成功に寄与する要因が明確となります。ここで適切なKPIを設定することで、プロダクトや事業が抱える問題点を明らかにし、解決策を設計するガイドとなります。
KPIを設定するプロセスにおいては、以下を考慮して定義していきます。
【4要素に当てはめる】
要素 | 意味 | 例 |
幅 | プロダクトを広げるために増やすべきもの、その結果増えるもの、プロダクトが持つ資産 | ユーザー数、コンテンツ数など |
深さ | どれくらいプロダクトの体験にのめり込んでいるか。時間やお金、労力をどれだけつぎ込むか | セッション滞在時間、課金金額、シェア数など |
頻度 | どれくらい繰り返しプロダクトと接点を持つか | セッション数、検索回数など |
効率 | いかに無駄なくプロダクトの価値を発揮できるか | レコメンドタップ数、検索ヒット数、起動から機能利用までの時間など |
また、以下についても検討しながらKPIを洗い出し定義する必要があります。
- KPIもプロダクトビジョン・事業収益・ユーザー価値に接続されるか
- プロダクト上測定可能か
KPIは一度設定して終わりではなく、プロダクトデータやユーザーインサイトに基づいて、そして、プロダクトの成長に伴って定期的に見直すことが重要です。また、KPIの改善がNSMのどの指標にどの程度影響を及ぼしたのかについても定点観測することも求められます。
STEP4:洗い出した指標をツリー化する
最後のステップとして、各指標間の因果関係を整理しメトリクスツリーを構築します。これまで定義してきた指標をツリー化することで「指標を改善するには何が必要か?」「上位指標の課題はどの要素が影響しているのか?」などといった改善・課題の要素分解が容易になります。
メトリクスツリーの頂点にくるKGIからブレイクダウンさせてNSMを、さらにはその下位に因果関係を持つKPIを配置します。KPIにおいては、洗い出された指標から「Top KPI」と「Sub KPI」に更に分解されるケースもあります。
このように各ステップで定義されてきた指標を点として見るのではなく、線として繋がりを持たせることで、事業収益上の成長や課題だけでなく、ユーザー価値が提供できているのか?についても、定量的に測り、様々な判断に活かすことが可能となります。
さらに、このメトリクスツリーはPdMやビジネスサイドのメンバーだけでなく、上位の意思決定に責任を持つ人に向けての説明や報告にも活用することができ、シームレスかつスピーディーな動きでグロースサイクルを回すことにつながります。
作って終わらない。具体の活用と意思決定
メトリクスを作っただけで満足していては、プロダクトの成長は実現できません。これらの各指標は適切に分析と意思決定を繰り返すことで、プロダクト自体の未来を方向づけることができます。そのためにはモニタリングし施策へと反映させ、その結果がどうなったのか?について追いかけ、さらに改善へつなげることが大切です。
【活用に向けての要素】
- KGI満たすためにどの指標変化が必要なのか?=NSM
- NSMを動かすためにどのようなサブ指標が存在し
- どこがインパクト観点で優先度が高いのか
- どこから着手開始できそうか
特にプロダクト・ビジネス上のロードマップにおいてm実行した施策や戦略の影響度や成果を測る「検証プロセス」をメトリクス設計時に組み込むことをおすすめします。
最後に
いかがでしたか?今回はメトリクス設計の重要性と設計プロセスの考え方を中心にお伝えしましたが、実際に作るとなると様々なステークホルダーが存在し、実業務がある中でワークなどを繰り返し策定していくことになり、一筋縄ではいかないでしょう。
とはいえ、プロダクトの成功や成長に向き合いコミットするためにはユーザーの声と等しく定量的なデータは重要な役割を担います。それを点として見ていては、適切な意思決定はできません。ぜひ、この機会にメトリクス設計を検討していただければ幸いです。
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