プロダクトマネジメントの必要性と役割、習得するべきスキルを解説
商品やサービスを成功に導く上で必要とされる「プロダクトマネジメント」。「どのような手法なのか」「どのようなスキルが必要なのか」を正しく理解し、運用できている方は少ないのではないでしょうか。
プロダクトマネジメントとは、商品やサービスなどの構想策定からリリース、改善までの全プロセスを一貫して推進するマネジメント手法です。プロダクトの本質的な価値を伸ばす手法として注目を集めています。
本記事では、プロダクトグロースを専門に行うチームを持ち、2011年の創業以来、デザインファームにおけるパイオニアとして多くの企業に向けてデジタルプロダクトのUIデザインやUXデザインの支援をしてきたグッドパッチが、プロダクトマネジメントの必要性やプロセス、プロダクトマネージャーに求められるスキルなどプロダクトマネジメントに取り組むために必要な基礎知識を解説していきます。
プロダクトマネジメントを理解してプロダクト開発に活用するためにも、ぜひ参考にしてみてください。
監修:加納俊平(株式会社グッドパッチ プロダクトマネージャー)
新卒でヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)に入社後、スポーツメディアサイトのWebデザインやアプリのUIデザインなどを担当。2020年にUXデザイナーとしてグッドパッチに入社。ユーザーリサーチや、LPのデザイン、開発ディレクションなど幅広く経験。現在はプロダクトマネージャーとしてユーザー観点と事業観点の両面からクライアント企業のプロダクトグロースを支援している。
目次
プロダクトマネジメントとは
プロダクトマネジメントとは、商品やサービスなどの構想策定からリリース、改善までの全プロセスを一貫して推進するマネジメント手法です。
プロダクトマネジメントの目的は、プロダクトを通して実現したい最終的な目標(プロダクトビジョン)を達成することです。その役割は、以下の2つに定義できます。
【プロダクトマネジメントの役割】
- プロダクト価値による収益の最大化
- 利用するユーザーへの価値提供の最大化
プロダクトマネジメントでは、事業収益の最大化と同時に顧客ニーズに応えるプロダクトの開発が求められます。その実現のためには、さまざまなポジションの人材が互いに協力しなければなりません。
そこで必要とされるのがプロダクトマネージャー(PdM)です。
プロダクトマネージャーはプロダクトマネジメント全体を管理し、関係者をリードしながらプロダクトを成長させる役割を担います。
プロダクトマネジメントが必要とされる理由
プロダクトマネジメントの必要性が高まっている背景には、2つの理由があります。
1つ目は、消費者や企業のニーズの多様化です。
競争環境が激化し、消費者ニーズが多様化した市場では、プロダクトそのものに価値がないと消費者から選ばれません。消費者や企業のニーズ、市場の変化を迅速に捉えつつ、プロダクト全体を俯瞰して管理し競争力を高めていく上で、プロダクトマネジメントの考え方が必須になってきています。
2つ目は、開発チームとビジネスサイドをつなげる組織づくりのためです。
開発チームとビジネスサイドの両面を理解した上でプロダクトを創出するには、ミッションやビジョンの策定、戦略の立案、市場調査などさまざまな過程が必要です。一方で、多くの企業ではこのような戦略的な工程や組織づくりが徹底できていない結果、チームで足並みをそろえられずに開発効率が落ちたり、思うようにサービスをグロースできない、といった課題があります。
プロダクトビジョンの達成を目指して一丸となって自走できる組織づくりをするためにも、プロダクトマネジメントを理解することが必要になってきています。
【フレームワーク】プロダクトマネジメントの概念を分かりやすくした「プロダクトマネジメントトライアングル」
プロダクトマネジメントの必要性が理解できたところで、実際にどのような手法なのかをより深く理解していきましょう。
下記はDaniel Schmidt氏によって提唱された「プロダクトマネジメントトライアングル」と呼ばれるフレームワークです。
引用元:プロダクトマネジメントトライアングルと各社のPMの職責とJD
この図を見ると分かるように、プロダクトを軸に、開発者、顧客、ビジネスの3つの要素が関わっています。プロダクトマネジメントを成功させるには、これら3つの領域を健全に機能させることが必要です。
例えば、顧客ニーズを満たすには、優れたデザインやデータ分析が欠かせません。プロダクトの開発者とプロダクトビジョンの達成を目指すには、プロダクト仕様の決定や業務調整が必要でしょう。
どこか1つでも欠けると、プロダクトにマイナスの影響を及ぼす可能性があります。プロダクトマネージャーは、全領域を理解して健全に機能させる役割が求められるのです。
プロダクトマネジメントでやるべきこと
プロダクトマネジメントで求められる業務は多岐にわたりますが、主にやるべきことは大きく3つあります。ここでは、プロダクトマネジメントの各段階でどのようなことをするのか解説していきます。
【プロダクトマネジメントでやるべきこと】
- 「なぜ」するのかを決める
- 「何を」するのが決める
- 「なぜ、何を」するのかをステークホルダーに広める
「なぜ」するのか決める
プロダクトマネジメントでは「なぜこのプロダクトを開発するのか」「なぜこの戦略が必要なのか」などの「Why」を決める必要があります。
Whyの根源は下図の3つに集約でき、それぞれ明確にすることが求められます。
Whyの根源の1つ目は「目指す世界に近づけるため」です。
目指す世界はビジョンとも言い換えられ、ビジョンを明確にすることで、プロダクト開発の文脈におけるWhyの根本的な理由がクリアになります。
ビジョンを明確にするには、まずは関係者へのヒアリングが必要です。その上で個々の思いを集約し、プロダクトビジョンの達成に近づけるにはどうすればいいのかを整理しましょう。
Whyの根源の2つ目は「ユーザーが求めているから」です。
ユーザーが求めていること(=ユーザーニーズ)を明確にすることで、ユーザー体験向上の文脈でのWhyを明確にできます。
ユーザーニーズの検証やアンケート調査など、さまざまな方法を使い「ユーザーが本当に必要な機能なのか」「ユーザーの欲しいコンテンツなのか」など理解を深めていきます。
Whyの根源の3つ目は「プロダクトを継続するため」です。
プロダクトを継続するには、事業戦略を踏まえたプロダクトマネジメントが重要です。事業戦略を明確にすることが、プロダクト継続を目的とした本質的な理由を明確にできます。
前述のようなユーザー体験のみを追求してもプロダクトを事業成功につなげることは困難です。事業として成立しなければ継続も難しくなります。「このプロダクトがどのように利益拡大につながるのか」など事業戦略を踏まえて検討していきます。
「何を」するのか決める
続いて「なぜ」に基づいて何をするべきか決めていきます。何をするのか決める際の判断基準としては、下記3つの軸が代表的です。
例えば、ユーザー要件では、プロトタイピングやユーザーテストを実施し、新しい機能がユーザーにどの程度有用なのか確認します。その上で優先順位をつけて何を開発するのか決めていきます。
また、ビジネス要件や開発要件では各主要人物とコミュニケーションを取りながら、何をするとビジネス成果にコミットできるのか考えていきます。
このように、プロダクトマネジメントでは「なぜ」の問いで終わらず、「何を」するのか具体的なアクションに落とし込むことも重要な役割です。
「なぜ、何を」するのかをステークホルダーに広める
「なぜ、何をするのか」が決まったら、下記のようにセールスやエンジニア、デザイナーなど各ステークホルダーと連携して浸透させていきます。
ステークホルダーへの浸透が必要な理由は、下記の3つです。
1.チーム内の認識をそろえ、皆が納得感を持ちプロダクト開発に向き合うため
2.目指すべき方向性をそろえて、質の高い議論をするため
3.各ステークホルダーの役割、スケジュールを明確にするため
特にプロダクト開発では、チーム全員が共通認識を持ち同じ足並みをそろえてプロダクトビジョンの達成を目指すことが重要です。
各ステークホルダーに、プロダクトの目的や取り組み内容などをしっかり伝えることで納得度を高め、モチベーションを高めながらプロダクト開発を推進できます。
プロダクトマネジメントの実践における課題
プロダクトマネジメントの必要性は近年急速に認知されているものの、実践においてはさまざまな課題があります。ここでは、プロダクトマネジメントを実践における大きな2つの課題をご紹介します。
【プロダクトマネジメントの実践における課題】
- プロダクトマネージャー(PdM)が不足している
- プロダクトマネージャーのスキルが不足している
プロダクトマネージャー(PdM)が不足している
プロダクトマネジメントの需要は拡大しているものの、プロダクトマネジメント全体を管理し、関係者をリードしながらプロダクトを推進する「プロダクトマネージャー」が不足しています。
プロダクトマネジメントの成功には、課題の把握や顧客の理解、開発、提供後の改善などプロダクトそのものだけでなく、ビジネスの面も網羅的に把握し、管理できる人材が必要です。
特にプロダクトグロースの現場では、即戦力となるシニアレベルの知識・スキルが求められますが、採用市場が形成されたばかりでシニア級の経験を持つ人材が不足しているのが現状です。
ジュニアレベルのプロダクトマネージャーの数は増えているものの、企業が求める人材の要件とは隔たりが多く、即戦力採用を求める企業とのアンマッチが加速しています。
プロダクトマネージャーのスキルが不足している
プロダクトマネージャーには、各ステークホルダーと関係を築きつつプロダクト成功に向けて主体的に行動する上で、さまざまなスキルが求められます。
特に日本市場におけるプロダクトマネージャーはエンジニア出身者や事業企画出身者が中心で、TechやBizの領域に強みを持つプロダクトマネージャーが多い傾向があります。
一方で少なくないプロダクトマネージャーが顧客視点での価値向上や、ビジョンミッション策定、プロダクトの戦略立案などに課題があり、スキル不足を感じています。
プロダクトマネージャーに求められるスキル
即戦力として必要とされるプロダクトマネージャーには、どのようなスキルが求められているのでしょうか?
ここでは、プロダクトマネージャーに求められる35項目のスキルをご紹介します。プロダクトマネージャーに必要なスキルを可視化するためにも、参考にしてみてください(スコアはダミーです)。
事業戦略
事業戦略とは、プロダクトの目標を設定し、目標達成に向けた計画を策定することです。プロダクトの核となる部分で、プロダクトマネージャーには欠かせないスキルと言えます。
必要なスキル | 概要 |
プロダクトビジョン策定 | プロダクトの目指す未来像を顧客、社会、事業の観点から言語化できる |
短期プロダクトロードマップ作成 | 四半期〜1年間のプロダクト開発組織の活動計画を優先順位を踏まえて作成できる |
中長期プロダクトロードマップ作成 | 3〜5年間のプロダクト成長のステップをプロダクトビジョン、顧客ニーズ、事業目標の観点から作成できる |
プロダクト戦略 | プロダクトビジョンを達成するための事業成長過程を明確に描ける |
マーケティング戦略立案 | プロダクトが市場で価値を生むための分析、意思決定ができる |
KPI管理 | 必要なKPIを設定し、施策ごとにKPIの効果検証ができる |
リサーチ
リサーチは「プロダクトがユーザーニーズを満たしているか」「市場にとって価値があるのか」など多角的な視点から調査をすることです。
顧客へのインパクトを考慮した施策立案をするためにも、プロダクトマネージャーにはリサーチスキルが求められます。
必要なスキル | 概要 |
競合調査 | 競合他社を分析し優位性や差別化要因を特定できる |
市場調査 | 外部環境と内部環境を分析してプロダクト戦略と紐づけができる |
定量分析 | プロダクトの利用データやビジネスメトリクスから仮説を立てて改善ができる |
ユーザーリサーチ | ユーザーインタビューなどを通じてペインポイント、プロダクトの価値を理解できる |
ユーザー検証 | プロダクトグロースに必要な仮説を立てて、検証のための設計、実査ができる |
ディレクション
ディレクションは、プロダクトビジョンの達成に向けて進行管理やステークホルダーに指示をする業務のことです。プロダクトにはさまざまなポジションの人材が関わるため、プロダクトマネージャーには、プロジェクトを円滑に進行する上で適切なディレクション力が求められます。
必要なスキル | 概要 |
施策優先度管理 | クライアント合意の下、優先順位を決めながら施策を管理できる |
スケジュール見積もり | 各チームとコミュニケーションを取りながら過不足のないスケジュール、見積もりを作成できる |
リソース調整 | 開発リソースの最適な分配、配置ができる |
開発ディレクション | 開発チーム進行管理や必要な指示を伝えられる |
UIデザインのディレクション | デザインチームに進行管理や必要な指示を伝えられる |
要件定義
要件定義とは、プロダクト開発の目的を明確にして、施策内容などを整理していく作業です。プロダクトマネージャーが中心となり、ステークホルダーと認識を合わせるスキルが求められます。
必要なスキル | 概要 |
ユーザー価値定義 | ユーザーの悩みや課題を明確にしてバリュープロポジションを設計できる |
要求への落とし込み | ユーザーストーリーをベースとした要件定義ができる |
プロダクト要件定義の作成 | 要求定義を実装要件に落とし込みエンジニアやデザイナーなどと合意ができる |
フィージビリティ確認 | 各ステークホルダーとコミュニケーションを取り施策や機能の実現可能性を調査できる |
詳細設計
詳細設計とは、施策の詳細を設計してステークホルダーと共有する作業です。専門性の高い作業なので、プロダクトマネージャーと専門家で役割分担することもあります。
必要なスキル | 概要 |
仕様詳細のドキュメント化 | 仕様詳細をドキュメント化しステークホルダーと共有、理解が得られるようコミュニケーションが取れる |
プロトタイプ作成 | 担当者に理解を促すプロトタイプを素早く正確に作成できる |
ユーザー体験設計 | プロダクトの成長過程におけるユーザー体験を可視化、言語化できる |
影響範囲の確認 | 開発の留意点や技術的制約などを把握して、他領域への影響を踏まえ要件調整ができる |
リリース
リリースは、制作したプロダクトをエンドユーザーに届ける作業です。プロダクトマネージャーは主にエンジニアやPRチームと協力して、問題なくリリースを実施するスキルが求められます。
必要なスキル | 概要 |
リリース戦略設計 | リリースに向けて関連するチームを巻き込みながら適切なプロモーションの設計、実行ができる |
ABテスト | ABテストを行い、より効果の高い施策を検討できる |
QA対応 | リリースにあたり懸念点がないか要件定義〜仕様策定を確認する |
リリースタスクマネジメント | 問題なくリリースできるよう設計、ディレクションができる |
コミュニケーション
プロダクトマネージャーは、各ステークホルダーと適切なコミュニケーションを取るスキルが求められます。本記事では、クライアントとのコミュニケーションスキルを中心に記載しています。
必要なスキル | 概要 |
フィードバックの受け取りと提供 | クライアントや社内のフィードバックを基にブラッシュアップできる
プロダクトマネージャー自身も適切なフィードバックができる |
プレゼンテーション | クライアントに対して納得感のあるプレゼンテーションができる |
チーム内コミュニケーション | チームを醸成させるための場づくりやファシリテーションができる |
コンサルティング
コンサルティングとは、クライアントの課題を明確にして解決策の助言や提案をすることです。プロダクト開発を内製化するときに必要なスキルです。
必要なスキル | 概要 |
ドキュメンテーション | プロダクト開発の一連の流れを可視化して、各施策の詳細、フローを明確できる |
ネゴシエーション | クライアントと期待値調整ができる |
ファシリテーション | 施策に必要なプロセスを提示してクライアントをリードできる |
プロジェクトの要件設計、管理 | クライアントのゴールに向かい要件設計やスケジュール管理ができる |
▼プロダクトマネージャーのスキルについては、下記の記事で詳しく解説しています。
PdM(プロダクトマネージャー)の「スキルマップ」を作ってみた
グッドパッチのプロダクトマネジメント支援サービス
プロダクトマネジメントに欠かせないプロダクトマネージャーに必要なスキルを身につけることは非常に大変で、どうしても時間がかかります。
とはいえ、スキル不足のままプロダクトマネージャーを担うと、プロダクトマネジメントそのものが成功しない可能性が出てきてしまいます。
そんなときは、グッドパッチのプロダクトマネジメント支援サービス「Product Growth Partnerships」をぜひご活用ください。
グッドパッチのUX領域に強いプロダクトマネージャーがプロダクト開発マネジメント、プロダクトマーケティングマネジメントの双方から支援し、下記のような価値を提供します。
【Product Growth Partnershipsが提供する価値】
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プロダクトマネジメントの人材不足を解消し、本質的なプロダクトの成長に向けて躍進したい企業さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
プロダクトマネジメントでユーザーへの価値提供を最大化する
本記事では、プロダクトマネジメントの必要性やプロセス、プロダクトマネージャーに欠かせないスキルなどをまとめて解説しました。プロダクトマネジメントは本質的な価値を提供するプロダクト開発に欠かせない手法です。
プロダクトマネジメントに取り組むには、核となるプロダクトマネージャーがチームを引率し成果を最大化することが欠かせません。
プロダクトマネージャー不足が深刻化するなか、プロダクトマネジメントに取り組む基盤の構築や人材不足にお悩みの場合は、ぜひ一度グッドパッチにご相談ください。
プロダクトグロースを専門チームがサポート
UXデザインに強みを持ったPdM(プロダクトマネージャー)メンバーが、貴社のプロダクト開発現場にジョインし、課題の発掘~定義、解決に向けての伴走やグッドパッチが持つナレッジをインストールし、プロダクト開発現場に不足しているスキルをサポートするなどソリューションの詳細をご紹介します。
このような方におすすめです
-
- 事業責任者が開発責任者も兼任しており、人手も時間も足りない
- 直近の開発に手一杯になっており、中長期の視点でプロダクトを捉えられていない
- 事業視点中心の開発になっており、ユーザーの視点をうまく取り入れられていない
など、外部パートナーとしてのPdM(プロダクトマネージャー)人材のサポートが必要な組織