今、世界レベルで求められるプロダクトマネージャーのマインドセットとは?
こんにちは!ライターの磯部です。
突然ですが、みなさん「プロダクトマネージャー」と「プロジェクトマネージャー」の違いを明確に説明できますか?
日本だとプロジェクトマネージャーという言い回しの方が一般的であるため混同されがちですが、海外にはプロダクトマネージャーという職種の人がいて、プロダクトの成功のために働いています。MicrosoftやAirbnb、Amazonでキャリアを築いてきたIan McAllister氏は、Quoraにて以下のように述べています。
Product managers own “What” and “Why“.
Project managers own “How” and “When”.
(a simplification, but generally holds true)
プロダクトマネージャーは、どんなプロダクトをなぜ作るのかに責任を持ち、プロジェクトマネージャーはどうやっていつ(までに)作るのかに責任を持つということです。
今回は、これからプロダクトマネージャーになりたい方、プロダクトマネージャーを探してる人に向けて、世界で通用するプロダクトマネージャーに必要なマインドセットを、グッドパッチのプロダクト群を率いるDavide Petrilloに話してもらいました。
<Davide Petrillo>
イタリア生まれ。ロンドン発で世界中にスタジオを展開するデザイン会社ustwoを経て、現在はリード・プロダクト・マネージャーとしてGoodpatchの自社プロダクト群を一貫して支えている。
参考:Goodpatchのプロダクト群を率いるプロダクトマネージャーが語る、日本発のデザイン会社で働く魅力
目次
プロダクトマネージャーの定義と日本・海外での違いとは?
──今日はよろしくお願いします。まずはDavideがグッドパッチで担っている役割について教えてください!
リードプロダクトマネージャーとして、Goodpatchが持つプロダクトであるProttやBaltoを統括しています。それぞれのプロダクトのプロダクトマネージャーとコミュニケーションを取りながら、どうやったらプロダクトをより良くできるか議論し、成功へと導けるように努めています。グッドパッチ自体をもっと先進的な開発現場にしていきたいと考えています。
全体を見て、自分が最も価値を提供できるプロダクトを判断し都度ハンズオンでコミットしています。今僕がコミットしているのはPrott。もっとグローバルマーケットで戦えるようにハンズオンで開発に関わっています。
ゆくゆくはチームのロールモデルになりたいとも願っています。ただ指図するだけではなく、自分も実際にハンズオンでやって見せることで、メンバーを巻き込んでいきたいと考えています。
──Davideの考える、プロダクトマネージャーの定義ってなんでしょう?
色々な定義がありますが、ひとつはプロダクトの成功に責任を持っている人のことだと考えています。プロダクトマネージャーの意思決定次第でプロダクトの成功が左右されると言っても過言ではありません。
では成功とは何か。ユーザーに愛されるプロダクトを作り、かつビジネス的にも利益を生める事業にすることです。両者は矛盾しているようかもしれないですが、ユーザーに愛されるプロダクトを作ることができればビジネスの結果も必然的についてくると考えています。
──ロンドンを始めとする欧州系の企業と日系企業では、プロダクトマネージャーの役割や捉え方の違いはありますか?
まず、言語の違いによる情報の集まり方に差があるように思えます。英語圏では、プロダクトマネジメントに関する方法論やマインドセットに関する情報がたくさんシェアされています。日本には一部しか伝わっていないので、デジタルコミュニティがあまり育っていないように感じます。肌感覚では5年くらいのギャップがあるんじゃないでしょうか。
でもそれは、英語を母国語としないイタリアでも同じような状況があるので、一概に海外と日本という対比で語ることはできません。
──言語的な壁がコミュニティの活性度合いを左右しているのですね。
一概には言えませんがそう思いますね。あとは、ユーザーを中心に考えることの重要度の違いです。日本のデジタルエージェンシーを色々見ていると、UXの中でもプロジェクトマネージャーとUIデザイナーに分かれていました。ユーザーを中心にデザインしようとしているけれど、他にやるべきこともあってフォーカスできない。つまり100%の時間をユーザーのインサイト発見に捧げ、ユーザーテストを繰り返しフィードバックをもらうことに専念できる人がいないのではと感じています。
あと、最近のグローバル規模のトップデジタルカンパニーで起きている兆候として、マネジメントの意味合いが“人を管理する”だけでないと考える人たちが増えています。今、必要とされているのは、マネジメントができる人材からコーチングができる人材にシフトしています。それぞれのメンバーが戦略を理解し、ビジョンへ向かって自走していけるのが理想的なチームだとして捉えられています。
そのため、プロダクトマネージャーはアジャイルコーチとして、きちんとプロジェクトが成功するように、チームの方向性をファシリテートする役割に徹することが求められます。
──そういったチームを日本企業が作っていくためには、どうしたらいいと考えていますか?
アジャイルマインドセットを、チーム内だけでなく組織全体に浸透させていくことだと思います。アジャイルは本来、プロダクト開発において素早く機能開発を行い、小さなサイクルを回していくことですが、それは開発チームだけではなくHRでもセールスにも有効な手法です。組織全体がアジャイルを前提とするマインドセットを持って働くことができたら、日本企業にもそういうチームが増えていくのではないでしょうか。
特に、エグゼクティブ層の人たちがアジャイルマインドセットを理解し、実践することが大切です。海外のやり方をそのままコピーするのではなく、日本のカルチャーにローカライズしたアジャイルマインドセットの形が必ずあるはずですからね。
プロダクトマネージャーに必要なスキルとは?
──プロダクトマネージャーとして活躍するためには、どんなスキルが必要だと思いますか?
好奇心、分析思考、そして自信を持つことです。
好奇心
プロダクトを使ってくれるユーザーはあらゆるバックグラウンドを持った人たちの集まりで、多様化しています。ですので、ユーザーがどのようにプロダクトを使うのか、なぜこのデータが取れるのか、それらをなんで?なんで?と問い続けられる好奇心が必要なのです。
加えて、開発にはデザイン・UX・テクノロジー・ビジネスのことまで様々な分野が混在しており、密接につながりあっています。これは、プロダクト開発の魅力でもあります。プロダクトマネージャーは、密接につながりあう分野に興味を持ちそれぞれを深くまで知ろうとする必要があり、それらをつなげる役割を担っているからです。
分析思考
入手可能なデータに基づいて仕事の優先順位を決定し、実行する能力を持つことがとても重要だと思います。直観だけでは信頼性が低く、チームの方向性を揃えることができません。
どのマーケットに入るべきか、自分たちのプロダクトがおいて、最も満たせていないユーザーニーズは何か、そして価格をいくらに設定すべきか。これら全ての決定は、ユーザーインタビューやアンケート、リサーチやA/Bテスト、そして分析から得られたデータに基づき立証されるべきです。手元にあるデータを閲覧することに抵抗がなく、必要なときに新しいものを確実に入手できるということはプロダクトマネージャーにとって根本的なことです。
自信
そして、自信を持つことです。ステイクホルダーやチームメンバーの板挟みになりながらも、プロダクトの成功という期待に応えることがプロダクトマネージャーの役割だからです。プロダクトの成功のためには、プロダクトマネージャーが自信を持ち続けることが必要不可欠です。
──プロのプロダクトマネージャーとアマチュアのプロダクトマネージャーの違いをどのように考えていますか?
アマチュアをどう定義するかによりますが、今回の場合、キャリア歩み始めたジュニアプロダクトマネージャーという前提で話させてください。それを前提とすると視野の広さの違いだと思います。
プロのプロダクトマネージャーには、異なる領域をつなげる役割が求められています。領域といっても大きく3つの領域があって、ビジネス、テクノロジー、そしてユーザー領域に対する知見が必要です。T型人材と言われるようにある特定の領域に明るかったとしても、それ以外の領域に対しても情報を集められる人がプロのプロダクトマネージャーだと思います。
──Davide自身は、プロダクトマネージャーとして持っている強みをどのように捉えていますか?
細かい具象ではなくて抽象的に考えてビッグピクチャーを描き、ビジョンや戦略を作れることだと考えています。
また、長年のソフトウェアデベロップメントのバックグラウンドがあることも強みと言えます。開発の優先順位を技術的な観点から見られますし、リリースを早めたりムダを省いたりできるのは、テクノロジーの領域に知見があることが役立っているからだと思います。
──Davideが思う、一緒に働きたいプロダクトマネージャー、とはどのような人でしょうか?
自分の弱いところを補ってくれるようなスキルを持っているプロダクトマネージャーですね。先ほど話した通り、私の強みは戦略や方向性を描くことですが、例えばツールを用いてユーザーストーリーを描くことは得意ではないと認識しています。だから、抽象的に思考できるスキルがあることを前提にして、自分に足りないスキルを補完してくれる人と一緒に働きたい。
あと、プロダクトの成功にはチーム内で均衡を保っている状態を作ることが大事です。プロジェクトを進める上で、基本的にはお互いの意見に耳を傾け、賛同して同じマインドセットを持つのが良いと思います。しかし、ときには同意しないことも必要です。それはなぜか。同意しないということはお互いが思っていることを表現し合い、議論できるからです。議論は多様なアイデアを創出するきっかけになるので、プロダクトの成功にとって良い機会だと思っています。
もし全員が同意して質問も出ずにうまく進んでいるときは何かしらが間違っていると思ってもいいと思います。チームのみんなが本音で話せていない可能性があるからです。
現在のグッドパッチのチームには別の視点から意見を言ってくれる人がいて、とてもいい状況だと感じています。
──これからプロダクトマネージャーを目指す人にメッセージをお願いします。
まずは、プロダクトマネジメントについての知識をインプットすることをオススメします。
依然としてたくさんの人が、プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントの違いを理解できていません。だからまずは、プロダクトマネジメントについて深く理解することがあなたの役に立つと思います。
学んでいくと、プロダクトマネージャーのの中にはいくつかのタイプがあることがわかります。なので、自分自身がどのタイプのプロダクトマネージャーなのか、何を強みとし弱みとしているのかをしっかり把握することが重要です。
そして、プロダクトマネージャーにチャレンジすることを恐れないでください。パッションと好奇心を持っている限り、きっと楽しめると思いますよ。
プロダクトマネージャーを目指す人におすすめの本・オンラインコース
最後に、Davideはおすすめの本やオンラインコースを紹介してくれました。
Agile Product Management with Scrum (Book)
Agile Product Management with Scrum: Creating Products that Customers Love
「スクラム開発のベースとした、プロダクトマネジメントについての入門書です。プロダクトマネージャーの役割やどのようにしたら成功するプロダクトを作れるかについて書かれています。最初に読む本としては良いです。初心者も経験者も楽しめる本だと思います」
Strategize (Book)
Strategize: Product Strategy and Product Roadmap Practices for the Digital Age
「『Agile Product Management with Scrum』の著者であるRoman Pichlerが書いた、とても興味深い本です。どのように戦略を作っていくのかについて説明されています。複雑じゃないし、分厚いわけじゃないので、さくっと読めますよ」
The Lean Startup (Book)
The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses
「誰もが知っている有名な本ですが、これはプロダクト作りの基礎を学ぶために読む価値のある本です。また、Leanについての他の本(『Lean Analytics』、『Lean UX』など)を読む前のベースになりますし、本書の中ではたくさんの興味深い本についての言及があります。必読です!」
※ 日本語版もあります。
This is Product Management (Podcast)
HP / iTunes / SoundCloud
「今日のプロダクトマネージャーが奮闘している事柄について学ぶために、モダンなプロダクト開発チームを支える多岐に渡る分野の素晴らしいアイデアについてのインタビューを収録しているプログラムです。デザインから統計学まで、網羅的に紹介しています」
Digital Product Management (Coursera)
Digital Product Management: Modern Fundamentals
「これはおすすめです。コーセラというオンライン授業です。スピーカーが面白いし、ちょっとtoo muchなくらい(笑)。プロダクトマネジメントについての包括的な知識や、アジャイルマインドセット、プロダクトチームやステイクホルダーとの関わり方やプロダクト開発に携わるときの心構えなど、広く学べます」
取材後記
Davideの話を聴いて、ひとりひとりが自主的に動けるチームこそが最強のチームであり、ユーザーに愛されるプロダクトを作れるチームなのではないかと学びました。プロダクトマネージャーの役割はプロダクトの成功を導くことであって、プロダクト開発に関わるメンバーを管理することではありません。Davideはインタビューの最後に「究極的には自分がいなくてもそれぞれのメンバーが自走できる状態になることが理想」と話していましたが、まさにそれだと思いました。
プロダクトマネージャーが一番ユーザーに専念できるように、それぞれのメンバーが強みとする領域に対して価値を発揮し、プロダクトの成功を導く。今回のインタビューで、理想のチームの姿についてのひとつの仮説を持つことができました。
この記事を通して、プロダクトマネージャーの役割や責任、ひいてはプロダクトの成功のためにやるべきことについて考えるきっかけになったのであれば幸いです。