突然ですが質問です。皆さんは仕事で「生成AI」を使っていますか?
最近は、さまざまな分野で生成AIの業務活用に挑戦する動きが活発になっていますが、一方でテクノロジーに苦手意識を持っている方も多く、ビジネスで活用しきれていないケースも少なくありません。
グッドパッチでは、生成AIを活用してデザインの可能性を広げるべく、さまざまな業務での活用を検証しています。検証を通じて見えたノウハウを蓄積することで、生成AIを活用したサービスにおける体験設計を支援しています。
先日この検証の1つとして、生成AIを活用してリサーチ結果をまとめる「個票」を作成してみました。この記事では、検証を通じて見えてきた、生成AIの活用メリットと課題をお伝えできればと思います。
目次
リサーチ業務の効率化を目指して
今回、AIによる個票の作成に挑戦したのは、生成AIを活用した「リサーチ業務の効率化」を目指したためです。UXデザイナーの仕事の中でも、リサーチ業務は特に工数がかさんでおり、生成AIで何か効率化できないかとUXチームで検討していたことがきっかけでした。
また、リサーチ業務は経験によって工数に差が生まれやすいのも課題でした。グッドパッチでは、プロダクトのターゲットや状況に応じて調査設計を丁寧に進めるため、フォーマットが細かく決まってはいません。ユーザー理解のために重要なプロセスではあるものの、効率化の余地がある部分だと考えました。
まずはUXデザイナー5人に協力を仰ぎ、普段の業務を洗い出すことからスタート。具体的には、インタビュー設計・インタビュー実施・議事録まとめ・インタビュー内容の整理といった活動です。
そして、人が扱わなくても品質が下がりにくいタスク、もっと時間をかけて行いたいタスクを議論し、生成AIを活用したリサーチ業務の効率化について、大きく4つのステップに分けてゴールイメージを固めました。
最終的には、さまざまなデータを基にした仮説立てや検証項目作成を生成AIが実施し、UXデザイナーは「インタビューするだけ」といった状態を理想(ゴール)としました。
とはいえ、いきなり理想にたどり着けるわけもないので、まずは最初のステップである「データを入れるとアウトプットが出力される状態」を目指すこととし、その中でも、全ての業務の根幹である「個票」に絞ってアプローチすることに決めました。
生成AIに個票は作れるのか?検証の方法をご紹介
個票を生成AIを使って作ると、どれだけ効率化できるのか──。経験が異なる3人のデザイナーに協力してもらい、経験による個人差がどれだけ出るのかも合わせて確認しました。
- 新卒UXデザイナー
- UX経験の少ないミドルデザイナー(元新規事業担当など)
- シニアのUXデザイナー
「カテゴリ設計」がテンプレ化のヒントに
まずは個表のテンプレート化を目指すため、どのようなアウトプットが出力されると良いのか、項目や文字量を検討すべく、さまざまなプロジェクトで制作した個票から共通項を整理しました。
共通点として上がったものの1つは「個票のカテゴリ設計」でした。というのも、普段どのように個票を作っているのか3人に確認すると、全員がインタビュー設計時に作成したカテゴリを活用してまとめていたのです。
カテゴリというのは、以下の図にある「〜について」というような、大きなトピックを指します。もちろん、このカテゴリはプロジェクトの内容や明らかにすべき事項に合わせて変わりますし、捉え方も個人差が生まれます。
そのため、カテゴリを生成AIに読み込ませて作成するものの、完全固定のテンプレートではなく、デザイナーに合わせて一部カスタマイズできることが望ましいと考えました。
生成AIに指示したプロンプト
次は生成AIにインプットさせるデータの作成です。具体的には架空のインタビュースクリプトを作成します。今回はテーマに「クルマの長距離移動におけるペインを探る」と設定しました。以下は、実際に作成したスクリプトとインタビューの回答(一部改変/抜粋)です。
この回答を基に個票の作成をしてもらうのですが、使う生成AIツールはMicrosoftの「Copilot」を選びました。コスト観点やExcelとの親和性が高いことが理由です(Google Spread Sheetとの相性は良くない)。以下がそのプロンプトと、このプロンプトを何回か試した結果のポイントです。
ポイント
- 指示内容を複雑にしすぎるとアウトプット後の整理が大変になるため、なるべくシンプルにする
- カテゴリの柔軟性が大事なので、プロンプトに重点的に入れる
- 精度を高めるため、テーマやレポートの趣旨を入れる
- 文量はインタビューの回答内容によって左右されるため、文字数ではなく、割合で指定すると適切なボリュームになりやすい
個票作成に生成AIを使ってよかったところ、イマイチだったところ
出力されたテキストを個票としてスライドにまとめたものがこちらになります。
CopilotによってExcelのテキストを個票形式にまとめることは十分実現できました。ただ、デザイナーがインタビューを通じて読み取った感情や文脈のニュアンスを個票に盛り込むことはできておらず、出力されたテキストの大幅な手直しも必要でした。
例えば、インタビュー中に「子ども(の面倒)ってしんどいよね」という発言があったのですが、生成AI(テキスト分析)はネガティブに捉えて書き起こしていたのに対し、話全体で見たときには幸福感のいち表現でしかないと捉えることが可能でした。
このように、話や表情の加減でネガティブな表現とはならない、という全体を俯瞰した上での判断はインタビューで相対した人間でないと捉えきれないようです。そのほかにも以下のような知見が得られました。
<Good>
- Excelの情報を基に大項目・中項目・小項目を区別して記載を分けることができていた
- 多くのタグづけ(キーワード)を考えてくれた
- 個票の作成時間の削減は新人デザイナーが5割、シニアが1割程度
<More>
- ニュアンス含め、全項目を見返してチェックする必要がある
- 総評などのニュアンスが大切な部分は、人が記載する方がクオリティが高い
個票の作成時間が半減した新人デザイナーに感想を聞くと、自身がゼロから作成した個票の時点では盛り込まれていなかった、拾いきれていなかったものが、生成AIが作成した個表には取り上げられていたとのこと。「時間の削減はもちろん、AIによる第三者の視点を取り入れられる点もメリットに感じた」と話していました。
一方、シニアデザイナーは「いつもアウトプットの項目を考えながら作業しているため、生成AIとあまり時間が変わらなかった」そう。ただ、アウトプット項目を考えること自体に時間がかかる新人などの場合は、効果的だろうという見解を示しました。経験の差を埋める有効なアプローチになりそうです。
UXデザイナーこそ、生成AI活用に挑戦すべし
新人はクオリティ向上と迅速化の補助として、シニアは100点を120点にする第三者のレビュアーとして活用するなど、生成AIは担当者のスキルに合わせて使いこなすパートナーとしては有用だと考えられます。特に「特徴を踏まえてタグ付けする力」は人間の語彙力に依存しがちなため、生成AIの方が勝る場面が多いでしょう。
私はエンジニアではないながらに、プロンプトを試行錯誤しながら作り上げていきました。もちろん最初は「このインタビュースクリプトを読み込んで個票を作成してください」くらいの軽い指示で試してみています。
ブラッシュアップを繰り返せば、アウトプットも良くなっていくので、まずは難しく考えずチャレンジしてみることが大切だなと感じました。
今回の検証では、ニュアンスの捉え方が生成AIにおける課題だと感じたので、次回は実際にインタビュー対象者の方に生成AIが作成した個表に対しての評価づけを協力してもらい、フィードバックを生成AIに伝えて改善を加えることでニュアンスの捉え方を変えていけるか実験してみようと考えています。
発展途上の部分も少なからずあるものの、文脈理解の力が伸びれば、インタビュー実施の際に、隣に有能な秘書がいて、勝手に個票まで作り上げてくれる──くらいの期待はできそうです。インタビューの議事録を活用して、自動的にレポートしてもらえる未来も近いかもしれません。
グッドパッチでは、生成AIがデザインを全て担うことはなく、生成AIと人が共存していくものだと考えています。生成AIを活用したサービスを作りたいが、「体験として機械らしさを無くしたい」といったご相談がありましたら、ぜひお声掛けください。