グッドパッチのUXデザイナーの黒子です。

普段はUXデザイナーとして働きながら、社内プロジェクト「AI Lab」のメンバーとしても活動しています。AIに専門性を持つメンバーで構成されるAI Labは、クライアントワークのAIプロジェクトにおける支援や社内向けのAIの浸透や活用促進などの活動をしています。

先日、生成AIアプリ開発ツール「Dify」の勉強会を社内で実施しました。DifyはLLM(大規模言語モデル)を組み込んだアプリを手軽に作れてしまうツールで、2024年に入ってからAI業界で非常に注目を集めています。

Difyは、エンジニアだけでなく、AIサービスの企画や体験設計、サービス開発に関わるデザイナーにとっても知っておいて損はないツールです!この記事では、社内勉強会の様子も紹介しつつ、Difyの概要と特徴をお伝えしていきます。

では、Difyについて見ていきましょう!

生成AIアプリ開発ツール「Dify」とは?

生成AIアプリ開発ツール「Dify」の特徴(凄さ)を一言で言うと、だれでもAIツール、AIエージェントを作れるところにあります。

Difyを使うことで、AIアプリ開発のハードルがDifyによって大きく下がり、専門的な知識を持つAIエンジニアがいなくても、用途に応じたさまざまな生成AIアプリを作れてしまうのです。

Difyは基本的にノーコードツールで、コーディングと異なり、処理の機能を持つブロックをつなげていき視覚的にプログラムを組み立てていきます。UIも使いやすいようにかなり工夫されており、直感的なインターフェースで目的に合わせたAIのプロセスを構築でき、AIチャットボットやAIエージェント、AIツールを簡単に作成できます。

誰でも生成AIアプリが作れる?Difyの5つの特徴

改めてDifyの凄さを5つの特徴に分けて、説明していきます。

  1. オープンソースのLLMアプリ開発プラットフォーム
  2. 豊富なテンプレートと構築サポート
  3. 使いやすいUIと柔軟な拡張性をもつノーコードツール
  4. RAGエンジンで出力をカスタマイズできる
  5. 公開と分析が手軽にできる

1. オープンソースのLLMアプリ開発プラットフォーム

DifyはOSS(オープンソースソフトウェア)として提供されており、誰でも使うことができます。基本的な機能は無料で使い始めることができ、Web版も提供されているためすぐに使い始めることができます。

また、OSSであるため、利用者や開発者の要望が開発者に届きやすく、アップデートの頻度が非常に高いです。GitHubを経由して機能開発に参加することもできます。

そしてDifyは、GPT-4oやClaude 3、Llamaなど、複数のLLMモデルを活用してアプリケーションを開発でき、AIアプリを開発する際の柔軟性が非常に高いです。例えば、一つのAIアプリの中で、処理に応じて異なる適したLLMモデルを選択することができます。

2. 豊富なテンプレートと構築サポート

Difyは、そのままでも豊富なテンプレートや拡張機能の構築サポートが提供されています。

テンプレートをそのまま使うことも、そこから用途に合わせてチューニングするのも簡単です。さらにはWeb検索のツールの提供やNotionなどのツールとの連携もサポートされているので、自分の環境にすぐに導入し活用することができます。

3. 使いやすいUIと柔軟な拡張性をもつノーコードツール

Difyの基本的な構築はノーコードで行われます。つまり、プログラミングをせずともある程度の機能を持つ、AIアプリを作ることができます。

プログラミングの代わりに、Difyはブロックを視覚的につなげるようにアプリケーションを構築していきます。固有の処理を持つブロックを順々につなげて、最後の出力につなげていきます。

プログラミングの知識がなくても、複雑な処理や連続的な処理を伴うAIアプリを作成できます。一方で、PythonやJsonなどの知識が少しでもあると、その活用の幅は一気に広がります。

4. RAGエンジンで出力カスタマイズできる

AIアプリを開発する際、自社データや特定の外部の情報をいれるシーンが度々訪れます。

Difyは、RAG(検索拡張生成)エンジンを機能として備えています。

RAGとは、LLMの処理を行う際に外部データを参照する技術で、関連情報の検索と高品質な回答の生成を可能にします。これまでのツールでは、RAGの実装には専門的な知識が必要でしたが、Difyでは、このRAG機能をデフォルトで提供しています。

これによって、アプリケーションのチューニングや、特定のタスクに最適化された高性能なAIアプリが作りやすくなりました。

5. 公開と分析が手軽にできる

最後の特徴は、公開と分析ができることです。

Difyで作ったアプリは簡単に他のユーザーに共有できるほか、ユーザー数やインタラクション数、LLMのトークンの使用量など確認できるダッシュボードがあります。ダッシュボードを見ることで、制作したアプリのパフォーマンスを見て、改善することもできます。検証が日常なデザイナーにとっては嬉しい機能ですね。

 

しかし、いくら「すごいんだ」と言っても、開発の経験がない人やAIに詳しくない人にとっては、ChatGPTのように直感的にエンドユーザーに価値を届けられるツールでないため、何となく掴みどころがないものではないでしょうか?

「Dify使ってAIアプリが作れるって、具体的にどんなものが作れるの?それはどうやって作るの?」

実際、グッドパッチ社内でもこのような声があがりました。こういうものは、話を聞くよりも実物を触ってみることが大事です。ということで、ここから本題の勉強会とハンズオンの様子を覗いていきましょう。

Dify勉強会の概要

今回のグッドパッチ社内勉強会は、Difyに触れていない人向けにファーストステップを踏み出してもらう導入編として企画し、当日は10名程度のメンバーが参加してくれました。

勉強会の時間は約1時間。「Difyとはなにか?」「Difyでなにができるのか?「Difyをどのように活用できそうか?」という観点から理解を深めることを目指し、デモ・概要紹介・ハンズオン・振り返りの4つのパートに分けて設計しました。

まずは、ざっくりとしたイメージを持ってもらうためのデモを実施し、特徴や代表的なユースケースを紹介して理解を深め、そしてハンズオンをしながら2通りのやり方でアプリを作る。最後に、業務でのDifyの使い方を考えるディスカッションを含む振り返りを行うという流れです。

勉強会に向けて50ページほどのスライド資料を準備しました。この資料では、5つの特徴からのDifyの深堀りといくつかの実際のユースケースの紹介をしています。

ハンズオンでキャリア相談アプリを作ってみる

勉強会では、記事冒頭で触れたようなDifyの特徴を紹介した後、ハンズオンを実施しました。ハンズオンでは、最低限のワークフローの制作からスタートし、個人のキャリア相談を行える「パーソナルキャリアエージェント」の構築を目指しました。

最初に作った状態が、【開始】と【回答】の間にLLMの処理をが一つ組み込まれたものです。LLMのノード(画像の中のボックスのようなもの)を選択し、その中でプロンプトを書くことで出力(回答)を得ることができます。

その後に、質問分類器の機能を【開始】と【LLM】の間に加えました。これにより、ユーザーから得た入力を分析し、条件ごとに処理の経路を分岐させることができるようになります。質問分類器の機能は、その中でもLLMが使われており、雑な入力でもそれなりの精度で処理を分岐させてくれます。

その後、Difyで提供されているAIの回答精度を上げるために前述したRAGを使い、質問分類器で分岐された先で外部の情報を参照できるようにワークフローを拡張しました。RAGを使うことで、テキストの出力時に任意の外部情報を参照させ、回答をカスタマイズし、よりユーザーが欲しい出力にチューニングすることができます。

今回はRAGが参照する情報に、デザイナーの職種ごとの特徴を含むデータを組み込み、職種特化のキャリアエージェントを作りました。

このような流れで、パーソナルキャリアエージェントのAIサービスを構築するワークフローをハンズオンで作りました。

触れることができなかった機能も多くありますが、Difyの概要や利用イメージを掴んでもらいました。

Difyの使い方を考える

ハンズオンの後、Difyの使い方について参加者で考えてみて、以下のようなユースケースアイデアが出てきました。

  • 複数のプロジェクトでバラバラに管理されているタスクを読み込んで、いますべきことを出力する
  • インタビューの文字起こしから、分析、ペルソナの叩きやペルソナの画像を作る
  • サービス種別ごとに資料データを入れて、アウトプットとしてLP/サービスページの構成/ウェビナーの素案3案などをレイアウトごとに書き出す

Difyではワークフローを組むことで、複数の処理を組み合わせて、一連の作業を自動化するユースケースが考えられそうです。このように、LLMで実現したい複雑な機能を持つユースケースを実用的に組み上げるための開発プラットフォームとしてDifyを活用できるでしょう。

そしてDifyの勉強会後のアンケートでは、以下のようなコメントが届きました。

“触るきっかけがないと触ろうとしないので、そのきっかけになってよかったです”

“動かすまでがすごく簡単になっていて、すぐに始められそうなハードルの低さを感じました!”

1時間という限られた時間でしたが、ファーストステップとしてDifyの面白さを知るきっかけになったようでした。一方でこんなコメントも。

“Difyに限らずAI全般についてなんですが、具体的なユースケースがいまいちピンときていないです。ユースケース事例をもっと知りたいです。”

“作成したツールを公開・デプロイして社内で使ってもらうまでの流れを知りたい。”

Difyは単一のサービスを提供するAIサービスではなく、AIサービスを開発するプラットフォームなので、具体的なユースケースや活用イメージを持つのは少し難しい傾向もあるかもしれません。

デザイナーに向けたDifyを使ったプロトタイピング

UXデザイナーとして、AIサービス/AIツールのプロトタイピングでの使い方も考えています。

Difyを使って目的の機能を簡易的に再現することで、生成AIを組み込んだサービスアイデアをクイックに検証できます。Difyでは簡単なログも確認できるので、ユーザーの行動の把握や品質の確認もすぐにできるのも嬉しいですね。

実際にR&Dの取り組みとして、AIを組み込んだリサーチプロセスのプロトタイピングに取り組んでいます。

Difyを使うことで、連続的で複雑な処理を組み立てることができるので、一連のリサーチ分析を補助するワークフローを組みながら、人とAIがコラボレーションするAIツールの利用法と構築の検証を効率的に行っています。

AIの取り組みを進める際、AIを既存のタスクに置き換えるように考えると、プロセスとのミスマッチや品質への懸念から失敗の原因になってしまいます。

AIを現場に導入するためには、AIを前提としたワークフローや利用者のメンタルモデルを構築していき、実際に現場に試験的に導入して検証と改善を行なうことが重要です。これまでの環境では、デザイナーがこのような取り組みをするためには技術的なハードルがありましたが、Difyを使うことで、だれでも高速にプロトタイピングを行なうことができるようになりました。

これからAIの活用が社会の前提となってくるなかで、デザイナーが主体的にAIのプロトタイピングを行うことができるようになるのはデザイン業界の進歩だとと思います。

これからのAIサービスの取り組み

LLMが学術的にも実務的にも発展する中で、サービスを構築する環境にも変化が起きています。

今回実施した勉強会では、その一部にしか触れられていませんが、30分程度のハンズオンでもある程度のカスタマイズしたAIアプリを作れることはやはり驚きです。

これまで専門的な知識を持つ一部の人しか作れなかったもの、開発に相当の時間と工数がかかっていたもののハードルは急速に下がってきています。その中で、Difyは日本でも開発者やユーザーが多く、コミュニティも育ってきています。DifyはAIサービス開発の民主化を促進してくれるかもしれません。

グッドパッチでは、新たなサービス創出を目指すパートナー企業とともに、AI技術を活用したサービス作りに取り組んでいます。AIを使った新規事業創出や、自社事業へのAI活用といった課題に、デザインの力で並走していきます。以下のバナーよりお気軽にご相談、お問い合わせください。

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