ChatGPTに端を発し、業務の生産性向上のカギとして注目を集めている生成AI。もちろんグッドパッチも例外ではなく、生成AIの業務利用について、デザイナー間で議論になることがあります。
先日話題に上がったのが、Googleが試験運用しているAIツール「NotebookLM」。リサーチや執筆といった業務に活用が見込まれる中で、デザイナーとしてはどのように使うのが良いのでしょうか。
使い方によっては、デスクトップリサーチのデファクトスタンダードになりそうなNotebookLM。この記事では、基礎的な部分から実務での具体的な活用法までをまとめてみました。
ちなみにグッドパッチはAIプロダクト開発を伴走型でご支援しています。詳細はこちらの「AI Solutions:AIプロダクトのデザイン・開発支援サービス」をご覧ください。
目次
Googleの生成AIツール「NotebookLM」とは?
NotebookLMを一言で言うと「PDF資料やWebサイトなど、特定の情報源を基に情報の整理を一緒に行ったり、リサーチの手伝いをしてくれるAIツール」です。
複数のWebサイトや、Googleドライブ上の資料をアップロードするだけで、その情報をベースにChatGPTのような形で対話ができるようになります。
Googleのページでは、以下のような説明がされています。
NotebookLMは、ユーザーの思考をサポートするパーソナライズされたAIコラボレーターを提供します。ドキュメントをアップロードすると、NotebookLMがこのソースの即席の専門家となります。ユーザーはNotebookLMといっしょにドキュメントを読む、メモを取る、共同作業をするといったことを通じて、アイデアを練ったり、整理したりできるようになります。
NotebookLMの主な特徴は、以下の4点にまとめられます。
Gemini 1.5 Proの最新版を「無料」で使える
2024年8月現在、GoogleのAIモデル「Gemini 1.5 Pro」はGemini Advancedとして月額2,900円で利用できますが、それをNotebookLMでは無料で提供しています。高性能なGemini 1.5 Proを使ってみたい方にもおすすめです。
登録できるソース(ドキュメント)の文字量が多い
NotebookLMの特徴は、何といっても登録できるドキュメントの量でしょう。1つのソースに50万語まで含めることができ、最大50個のソースを載せて活用することができます。
例えるなら、新書(約10万字)を50冊を読み込ませた上でその中の情報と対話ができるというわけです。そのため、専門性の高い内容を記載した論文や一般的な書籍などをソースとして情報を検索したり、内容を要約したりできるのです。
また、Gemini 1.5 Proが扱えるトークンの規模も処理できる情報の多さに一役買っています。Google公式のリリースでは、Gemini 1.5 Proは100万トークンを扱えるとうたっています。これまで20万トークンが最大規模とみられていた中で約5倍のサイズ。処理可能なトークン量を武器に、より多くの情報を取り込んだ上で回答を出してくれるのです。
情報の出典を教えてくれるので、参照元をたどれる
NotebookLMでは、AIチャットボット型の検索エンジン「Perplexity」やマイクロソフトのAIアシスタント「Microsoft Copilot」と同じように、提示した情報の引用元を教えてくれます。
ただ、この2つと違うのは、PerplexityやMicrosoft Copilotでは質問した内容についてWeb上から該当する複数のソースを基に回答を提示しますが、NotebookLMは、あらかじめソースを指定しているため、その中から引用元を明確に示してくれます。情報の信頼性を担保しやすい仕組みと言えるでしょう。
他の人への共有が非常に簡単
学習させたNotebookLMは、Google Docsやスプレッドシートのようにボタン1つで他の人に共有ができ、気に入ったものや他の人に共有したい回答は、メモとしてピン留めすることで、簡単に残すことができます。
NotebookLMの基本的な使い方
- NotebookLMにアクセスし、「NotebookLM を試す」を押し、Googleアカウントでログインします。
- ログイン後、「+新規作成」のボタンを押して新しいノートブックを開きます。
- ノートブックを開くと、以下のようなポップアップが表示され、ノートに登録する情報ソースを選択できます。対象の形式のファイルのアップロードやGoogleドライブとの連携、WebサイトやYouTubeのリンクの連携、テキストの貼り付けなどによって、情報のソースの登録を行います。Googleドライブ内の資料もソースとして登録できますが、業務関連で機密情報に当たるものはアップしないよう、くれぐれもご注意を。ヘルプページには「ユーザーの個人データがNotebookLMのトレーニングに使用されることはありません」と記載してありますが、Googleの方がアップロードした資料の中身を見る可能性がある、と記載があるので、情報漏えいになるのは間違いありません。
- 例えばWebサイトのリンクを登録すると、以下のように「登録したサイトの内容のサマリー」と「質問の候補」という表示が出てきます。下部の入力エリアから質問をすることでチャットを始められます。1つのサイトに対する質問では、回答の精度が上がらない可能性もあるため、できれば目的に応じた5つ以上のサイトをソースとして登録すると良さそうです。質問をするとチャット形式で回答が返ってきます。ここで問いかけた内容は自分しか閲覧できません。また、一定時間が経つとチャットの内容は消えてしまいます。入力エリアの上部に質問例も提示されているので、そこから質問をすることも可能です。
NotebookLMの便利な機能
引用元の表示
先ほども触れましたが、質問の回答の中には引用先の表示があり、数字をクリックすることで引用元の情報を閲覧できます。文中の情報が自動でハイライトされるので、どの内容を基に回答を表示したかを明らかにできます。
メモ機能
質問の回答をピン留めすることで「メモ」として残すことができます。メモとして残した機能は、以下のようにトップに表示できます。
前述の通り、通常のノートに対する質問や回答の結果は本人しか見ることができませんが、メモとしてピン留めした情報は共有しているチームメンバーも閲覧できます。
メモ機能は質問に対する回答以外にも、メモだけを残すこともできます。リサーチなどで用いる際は、考察や気付きなどをまとめておく手段として使うこともできるようです。
専門的な情報を短時間で理解したい場合、NotebookLMがオススメ
チャット形式で質問をして回答を得るということであれば、ChatGPTなどでも実現できるようにも思えますが、NotebookLMが勝るポイントは少なくありません。
例えば引用元の表示です。画像で例に挙げていた電力需給などが代表的ですが、法律による影響を大きく受けるトピックでは、ChatGPTだと質問に対する回答はもらえるものの、その回答がいつのタイミングの法律に準拠した回答なのか?がはっきりとは分かりません。
その点NotebookLMでは、情報の引用元を明示してくれるので、根拠となる法律など、背景の情報も含めて理解がしやすくなります。
何かを調べようとする際、基礎知識があまりない中で、インターネットの海にある膨大な情報に向き合っても、そもそも「分からないことが分からない」という状態に陥り、リサーチの効率や精度があまり高まらないことは多いです。
しかし、調べたいトピックに関わるキーワードでヒットしたサイトを読み込ませることで、理解の浅い状態でも段階を追って知識を習得できるのがNotebookLMの強みだと感じています。
ざっくりとした全体像の把握ではなく、専門的なトピックのキャッチアップにおいて、NotebookLMは極めて有用と言えるでしょう。その際たる例が「論文」です。
論文のように、情報の正確性は担保できていても読み解くのが難しく、大量のドキュメントを相手にする必要がある場合は、人力よりもAIに任せた方が有効でしょう。ドキュメントを手軽に参照でき、専門性の高い内容を噛み砕いて理解する際には確実に助けになるはずです。
NotebookLMのプロジェクトでの活用法
グッドパッチでは、クライアントワークのプロジェクトで必要となる基礎知識のキャッチアップや、競合他社のIR資料を使った競合分析、サービスサイトの訴求ポイント比較といった用途で使えそうだとデザイナー間で検討していました。ここでは、実際にプロジェクト現場で取り入れられている、NotebookLMの2つの活用法を紹介します。
あるデザイナーは、PerplexityなどのAI検索ツールと組み合わせてNotebookLMを使っています。
まず、AI検索ツールでドメインのテーマに関する論文やレポートを調べます。その中から、自分に必要そうな論文とレポートを選び、NotebookLMにアップロードしてプロジェクトに特化したNotebookLMを作ります。AI検索ツールを使う際に、タイトルだけでなく、要約生成や該当のURLも含んだテーブルで出力をしてもらうことで、より効率的に取り組むことができるでしょう。
ドメイン理解の取っ掛かりを迅速に見つけることは、プロジェクトの初期や立ち上げにおいて重要です。NotebookLMだけでなく、他のAIツールと組み合わせて活用することで、10分程度でチャットボットが作れ、NotebookLMが提示する想定質問や知りたい内容を入力するだけで、すばやくドメインを理解することができます。
また、NotebookLMは、個人だけではなく、チームの共通アセットとしても活用できます。
カスタマイズしたNotebookLMは、メールアドレスを通じてプロジェクトメンバーに共有をすることができます。チームとして参考になりそうな回答は、トップにピン留めをしておきます。ピン留めをすることで、メンバーがすぐに情報にアクセスすることができるようになり、ドメインに関する共通認識の醸成を促すことができます。
さらに、ピン留めをされた回答を選択すると、「理解をサポート」「批評」「関連するアイデアを提案」「概要を作成」のオプションが提示されます。新しくプロジェクトに参加したメンバーが、ピン留めされた内容で理解をできなくても、簡単に深堀りをして背景を深く理解することができるでしょう。
この他にも、行政機関やコンサルティングファームが公開する100ページを超えるようなレポートも、YouTubeに公開されているセミナー動画も、NotebookLMにアップロードすると、全体の要約や欲しい観点の情報のまとめを作ることができます。NotebookLMを通すことで、情報を簡単に整理でき、アクセスしやすい状態を作れるのです。
他のAIツールとの違いや使い分け方
チャット形式でリサーチができるというAIツールは、NotebookLM以外にもいくつかあります。ツールごとの性格を見極め、場合によっては使い分けるといいでしょう。ここでは他ツールとの違いを挙げます。
ChatGPTとの違い
NotebookLMと一番違うのは、質問に対する回答結果の引用元を明らかにできないことです。ChatGPTを調査や検索の用途で使用する場合、どのようなデータを参照した回答を表示しているか明らかにならず、いわゆる「ハルシネーション(AIが誤認や論理の矛盾を含む事象や、事実とは異なる情報を作り出してしまう現象)」が発生してしまうケースもあります。
調査や情報の検索に用いる場合は、ChatGPTよりもPerplexityやNotebookLMのように、引用元を明らかにできるツールの方が適している場合が多いです。
Perplexityとの違い
PerplexityもNotebookLMと同様にWeb上から情報を検索し、ソースを明らかにした状態で質問ができ、回答結果の内容の引用元をたどることができます。
NotebookLMとの違いは「ソースを指定できるかどうか」という点です。Perplexityは、NotebookLMのように定めた範囲から質問に対する回答を提示するのではなく、質問内容に合わせてPerplexity側で必要だと判断した情報を自らWeb検索しにいきます。
ソースを集める手間が省ける一方、Web上の情報を基にするため、回答に対する信頼性はPerplexityの方が若干下がるともいえます。そのため、NotebookLMよりも広い情報に対して知識を得るために使う場合はPerplexityを、より具体的なトピックに対する、深い知識を得る必要があるときはNotebookLMを用いるのが良いでしょう。
LLMの弱点を補う、専門性の高いリサーチの強い味方
グッドパッチのデザイナーは、プロジェクトにおいて、クライアントと対等な目線で議論ができるよう、入念なデスクトップリサーチをすることがほとんどです。NotebookLMはその助けになるツールとして注目しています。
ハルシネーションの問題もそうですが、深層学習モデルを用いたAI(LLM含む)の弱点として、推論の根拠が示されないため、正確性が担保しづらいという課題があります。その点、NotebookLMはソースを限定する仕組みによって正確性を担保しやすくなっており、業務利用に向くAIツールと言えるでしょう。
また、企業、大学、組織向けにコラボレーションや生産性を高める機能が強化された「NotebookLM Business」のリリースも予定されています。現状のNotebookLMは、入力したデータがAIモデルの学習に利用されるなどのセキュリティ的な懸念もあるため、NotebookLM Businessではセキュリティ性の向上も期待できるのではないでしょうか。
NotebookLMはすでにプロジェクトでの即戦力にもなり、さらなる機能アップデートも予定されています。皆さんもぜひ活用を検討してみてください。
グッドパッチでは、国内の生成AIサービス開発をリードするAlgomaticと共同で、サービス開発の支援を提供するAIソリューションを展開しています。
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