「デザインの力を証明する」ために、1年間講演で伝え続けたUXデザインの価値
グッドパッチでUXデザイナーをしている秋野(ちょこ)です。早いものでもう12月。今年もあっという間でしたね。
いつものようにUXデザイナーやマネージャーとして忙しく(?)働いていた2024年でしたが、今年は例年と少し違って、取材を受けることや社外で講演する機会が多い1年でした。リサーチャーやデザイナーを相手にすることもあれば、ビジネスパーソン向けに話すことも。1年にこれだけ多く大勢の方にお話しする機会をいただくのは初めての経験でした。
毎回、講演のテーマや聴衆は変わるものの、私が繰り返し伝えてきたメッセージはあまり変わりません。「デザイナーがどうビジネスと向き合うべきか?」そして「ビジネスパーソンはがデザインをどう捉えるべきか?」ということです。
グッドパッチでは「デザインの力を証明する」というミッションを掲げていますが、昨今は特に「ビジネスへ寄与するデザイン」が求められる機会が増えているように感じます。
グッドパッチには行動指針の一つに「Good Design Equals Good Business(良いデザインを良いビジネスにする)」というものがあります。デザインとビジネスを二項対立の関係と捉えるのではなく、互いに補完し合う両輪として考える必要がある──今回の記事では、私なりに講演や取材で伝えてきたことと、その経験から得たことを紹介します。
目次
リサーチは設計が「9割」と伝える理由──ビジネスとのつながりを忘れない
取材や講演でお話ししたのは大きく2つのテーマで、1つはグッドパッチのUXデザイン組織で始めた「リサーチ道場」という取り組みです。
もう1つのテーマは後述しますが、どちらも共通して、意義や目的……つまり、それらをなぜやるかということを重点的にお伝えしました。
リサーチ道場にまつわる講演や取材では、「リサーチは設計が9割」であると言いました。実際に、リサーチ道場で使っている「リサーチスキルマップ」も他項目と比較して、設計を重点的にサポートできるようになっています。
リサーチの核心は「設計」だと考えているのは、設計こそがビジネスとの結節点であるためです。リサーチは単なる情報収集ではなく、「その先にどんな意思決定をしたいのか」「どんな施策やアクションにつなげるのか」を明確にすることが成功のカギです。
適切に設計されないリサーチは、ただのデータ収集と言っても過言ではなく、その先の行動に結びつきません。貴重な時間や労力、そして話を聞かせてくれたユーザーの信頼をムダにすることになります。
さらに、リサーチの先にある意思決定は、ビジネスの成長を促進させるものでなければいけません。
「ユーザーを理解したい」「ユーザーに良いと言われるデザインにしたい」といった目的だけでリサーチやデザインに投資を求めても、「ビジネス上のメリットはあるの?」と至極真っ当な疑問を投げかけられるばかりなく、「デザイナーがビジネスに興味がない」という誤解を生んでしまいます。
多くのデザイナーが集まる場で話をするときは、「ビジネスにどんな好影響があるか、ビジネスとデザインがどう関係するかを構造的に語れるように」ということを、具体例をもってお伝えしました。
これには、本当に多くのデザイナーの方から共感をいただき「デザイナーはビジネスに興味ない説」を心の底から否定できました。
私たちデザイナーは「デザインしたい生き物」だと思われていることが多いです。確かにそういう一面もありますが、誰のためにもならないデザインをして喜んでいるデザイナーは多くありません。
ビジネスを成長させるという話が主になると、「デザインは目的ではなく手段だ」という人もいますが、それも少し違うような気もしています。
「ユーザーにとって良いデザインを実現する」ということを目標に置くこと自体は悪いことではありませんし、デザイナーであれば誰しも目指すべきだと考えます。その上で、その先にある「良いビジネス」を目的を目指して、私たちは今日も少しでもデザインが良くなるように走り続けているのです。
UXデザイナーの本当の仕事は、ユーザー軸で「意思決定」ができるようにすること
今年、印象的だったのはビジネスパーソン向けにデザインの話をすることが激増したことです。特に講演時間が最も長かった「Web担当者フォーラム ミーティング2024秋」では、こんな話をしました。
「UXデザイナーは『ペルソナやカスタマージャーニーマップをつくる人』ではありません。結果的に類似したものをつくることがほとんどですが、それらは次のアクションにつなげ、事業成長とユーザーニーズを組み立てるためのツールに過ぎません。私たちはペルソナやカスタマージャーニーマップを『使って』質の高い意思決定を促進するのが仕事です」
このイベントの来場者はマーケターが多く、「ペルソナ」や「カスタマージャーニーマップ」など、UXデザインのアプローチが注目されていることから講演に呼んでいただきました。
昨今、ユーザーの嗜好は多様性を極め、製品はコモディティ化し続けています。皆が同じ持つことがよしとされていた時代は終わり、マスマーケティングだけではものが売れなくなりました。プロダクトアウトでモノを作っても、選んでもらわなければ売れない。何かしらの形で競合優位性を作る必要があり、UX(デザイン)が注目されてきたというわけです。
ビジネスパーソンに向けた話でも、先ほどの話と趣旨は似ており、「デザイナーの仕事は意思決定を促進すること」というメッセージを中心に据えています。これこそがビジネスとデザインをつなぐキーワードであると考えているためです。
ビジネスにおける「意思決定」の形は変化しています。かつては「KKD(勘・経験・度胸)」という言葉に代表されるように、意思決定はリーダーや権力者が行うもので、独断や偏見による決定もよしとされてきた面があります。
ところが、インターネットの普及や技術の進化、世相の変化により、意思決定にかかる負荷は格段に高まりました。誰もが多くの情報が触れられるようになって判断に必要な要素が増えたほか、多様性を尊重する傾向が高まり、リーダーの意思決定に異を唱えることも求められるようになっています。
意思決定には情報収集、選択肢の評価、結果の予測といった複雑なプロセスによって成り立つものです。時間もエネルギーもかかりますし、特に選択肢が多い場合や不確実性が高い場合には、負担が増大します。「この決定が本当に正しいのか」「どう意思決定をするのがより良いのか」──グッドパッチにご相談いただく案件も、そういった悩みが隠れていることがほとんどです。
こうした悩みを解消する一つの方法が「デザイン思考」という方法論だと考えます。デザイン思考を用いるときに重要なのは、ユーザーニーズを的確に捉え、ユーザーのポジティブで自律的な行動を促進させる手段を仮説として定義し、その仮説を限りなく確度が高い状態に磨き上げることです。
「ユーザー」という軸を持つことでビジネスを成長させる意思決定を行えるようにする……これこそがデザイナー、特にUXデザイナーの仕事の本質だと考えますが、それが達成されない、つまりビジネスの意思決定の判断材料とできないことが続いた場合、その組織はユーザーに問うことをやめ、デザイン思考を用いたプロセスを否定するようになってしまう。これがさまざまな企業で起こった悲劇なのでしょう。
AIによる「デザイナー不要論」に物申すための戦いは続く
この1年、デザイナーの価値について各所でお話ししてきましたが、今は生成AIの登場という形で、デザイナーの価値が見直されるタイミングが来ています。
グラフィックデザイン自体が自動生成されるというのもそうですし、そもそも、Webサイトやアプリ、サービスというものはユーザーが目的を達成するための手段であり、AIエージェントに目的を伝えるだけで、何でもできるようになる(=不要になる)とも言われています。
では、デザイナーは不要になるのでしょうか? 私は「ビジネスに寄与できるデザイン」という観点では、しばらくはAIが代替できるわけではないと考えています。
私たちデザイナーは、誰かに何かを言われた通りに生成しているわけではありません。どのような手段を用いればビジネスにとって、ユーザーにとってより良いコミュニケーションになるか、適切なファクトをユーザーから引き出し、思考し、表現しています。
こうした営みは安易にデータベース化されるわけでもなければ、確たる正解があるわけでもありません。AIに全てを任せるようになるには、まだリスクが高い領域でしょう。
逆に言えば、デザイナーは定義された最大公約数的な無難な選択ではなく、「もっとこうしたらいいんじゃないか」という視点を止めず、提案し続ける存在でなければいけません。
実際、グッドパッチが手掛けるプロジェクトの現場では、デザイナーはビジネスへの寄与を考えに考え抜いています。そういう泥臭さ、ある種の人間臭さが、人間の心を惹きつけて「つい買ってしまう」「涙や大声が出る」という行動につながるのだと思います。
デザイナー不要論に物申すためにも、デザイナーはもっとビジネスを理解する必要があり、ビジネスパーソンにもデザインの力を知ってもらわなくてはいけません。この1年の講演で手応えを感じる部分もありましたが、世間全体で言えばまだまだで、一人ひとりがデザインの価値を発信し続ける必要があるはず。ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させるため、デザイナーの皆さんと来年も一緒に頑張っていきたいです。
お知らせ:2024年アドベントカレンダー開催中🎄
この記事はGoodpatch Advent Calendar 2024 Day8の記事です。今年も12月25日までさまざまな記事を公開していきますので、お楽しみに!
デザイナーが中心となって展開する Goodpatch Design Advent Calendar 2024もありますので、併せてご覧ください!