「UXデザイナー×2=PdM?」異なる専門性の掛け合わせで描いたプロダクト戦略【Design Cats in Goodpatch_Vol.03】
UIデザイナー、UXデザイナー、エンジニア、デザインストラテジスト──グッドパッチのクライアントワークでは、さまざまな専門性を持ったデザイナーがチームとなって協力し、顧客の課題を解決していきます。
時に手分けして、時に膝を突き合わせて。デザイナー同士がどのようにコラボレーションをして仕事を進めているのか、「Design Cats in Goodpatch」と題し、インタビューを通じてそのリアルに迫っていきます。
第3回のテーマは「UXデザイナー」と「UXデザイナー」。グッドパッチでは他職種との協働と同様に、UXデザイナー複数名が1つのプロジェクトに配属されることがあります。
今回は、昨今話題のAI業界におけるプロダクト戦略立案のプロジェクトで協働していたUXデザイナーの石田と山根に、プロジェクト内での働き方を聞いてみました。Cats(キャッツ)とは、ジャズを愛するミュージシャンへの愛称として使われるスラング。偶発性を楽しみながら、共にデザインに向き合う様子を感じてもらえれば幸いです。
目次
変化の激しいAI業界、経営方針につながるプロダクト戦略に挑む
──お二人が関わったプロジェクトは、どのようなものだったのでしょうか?
石田:
今回はAIスタートアップのストックマーク様とのプロジェクトで、AIを活用したプロダクトの戦略策定を支援しました。クライアント起点の戦略にユーザー視点と客観的な市場性の観点を取り入れることでプロダクトの成功確度を高めたい、という要望から始まったものです。
クライアントにとって新たなプロダクトは、今後のAI市場における自社の存在感やポジションを印象付けるという点で重要視しており、経営の方針を示すという観点でも大きな意味を持つものでした。
山根:
プロジェクトの難度も高かったですね。期間の短さもありましたが、AI市場は競合も含めて、プレイヤー各社の投資額が大きく、AI技術自体の進化も凄まじいです。変化の激しい環境下で、プロダクトを事業としてもユーザー体験としても成功させるために、精度の高い仮説を立てて提案をするというのは、UXデザイナーとして挑戦しがいのある仕事でした。
同じプロジェクトにUXデザイナーが2人。分担と連携は?
──難度の高いプロジェクトだったということですが、複数のUXデザイナーがいるチームでどんな体制で進めたのでしょうか。
山根:
プロジェクト完遂に必要な要素を「プロダクト戦略」と「コア体験」に分け、それぞれの担当を決めて進めました。石田さんは事業に関わるプロダクト戦略、私はユーザーのコア体験、そして具体的なデザインの部分を、同じくチームに加わっていたUIデザイナーが担当と、大きく役割を分けていましたね。
──なるほど。同じプロジェクトに複数のUXデザイナーがアサインされることはよくあることなのでしょうか。
山根:
プロジェクトやメンバーの特性に応じてチームが組成されるので一概には言えませんが、ときどきあるケースという感覚です。
今回のプロジェクトでは、石田さんが市場調査や競合の分析、直近のAIを含むLLMやRDFなどの市場などの動向をリサーチしながら「事業」としてのプロダクト戦略を検討する一方で、私がペルソナやカスタマージャーニーといった手法を用いて「体験」としてのプロダクトを模索して両面から攻めるという形になりました。
最終的には、プロダクト戦略を含めた中長期的な見通しやその中でのユーザーの体験価値を、中長期ビジョンのプロトタイプ(※)としてクライアントに提案しました。
※数年後のサービスのユースケースやUIを可視化することで、将来像の共通認識化を促す手法
(参考事例)CLINICS|Work|Goodpatch グッドパッチ
石田:
山根さんと組むのは今回で2回目でした。それもあって、お互いの得意領域が分かっていたからか、担当分野はすんなりと決まりましたよね。
AIを含めた学習データやプロダクトの戦略はもともと私の得意分野だったし、ユーザー体験を解きほぐしてインサイトを見つけたり、戦略を具体的な体験に落とし込んだりするのは山根さんの得意分野だったので、それぞれの得意領域が本当にうまく噛み合っていたと思います。
──役割分担がはっきりしていると、連携も取りやすそうですね。
山根:
認識齟齬はほとんどなかったですね。グッドパッチでは何かあればすぐにチーム内で相談するようにしていますし、アウトプットも毎日共有していたので、お互いが何をしているかを把握しながらプロジェクトを進められていたと思います。
石田:
クライアントとも週3回以上は話していました。毎日話してるな……という時期もあったと思います。この点については、クライアントもグッドパッチも情報共有することがそれぞれ会社の文化として根付いていたこともあり、プロジェクト開始の段階から話し合いや共有のタイミングについて合意しておけたことが成功要因として大きかったと思います。
山根:
今回のプロジェクトでは、1つのプロダクトを「事業」としての側面と「ユーザー体験」としての側面から検討していく以上、片方がアップデートされたら、合わせてもう片方もアップデートしていく必要がありました。クライアントとグッドパッチ間のコミュニケーションはもちろん、UXデザイナーの間でも、定期的にコミュニケーションをとって視点を同期することが重要だったと思います。
事業とプロダクトを結ぶストーリー、社員全員が同じ未来が見えるように
──プロダクト戦略を提案する上で気をつけていたことはありますか?
石田:
今回のプロジェクトでは「以前も同じように戦略を考えたことがあったが、社内の理解が追いつかず、浸透させられなかった」という課題を聞いていました。
クライアントは50〜100人規模の会社だったのですが、この規模になると社長の考えを社員が同じように理解することが難しくなり、企業としてのビジョンやコアを共通言語で語ることができなくなる、という状態に陥ることはよくあることなんです。ですので、私たちもそれを踏まえて「社内に浸透させる」ところまでを目標とし、構想としてできあがったものはしっかりと視覚化して理解しやすくしようと決めていました。
──絵に描いた餅にならないように、ということですね。プロジェクトを進めていく中で印象に残っている出来事はありますか?
山根:
プロジェクトの2カ月目に実施したワークですね。事業戦略の方向性が固まり始めていて、そのタイミングで抽象度の高い事業戦略を具体的なサービスに落とし込むためのワークを、クライアントも巻き込んで実施しました。
もちろん「クライアント企業の社員が、ビジョンについて主体的に考える」という状況を作る意図もありましたが、私たち自身がクライアントの現場感を理解できた、という点でも大きな意味があったと思います。
石田:
現場のさまざまなポジションの人を巻き込んでアイディエーションしていくうちに現場社員の主体性が高まってくるということもあるのですが、それ以上にこちらも「クライアント社員が何に、なぜ悩んでいるのか」を的確に理解できた実感がありました。
対話の中で認識を揃えたり、ユーザーのイメージを一緒に市場から作り込んで言語化できたことが効果的だったと思います。それ以外にも、サービスアイデアを画面デザインに落とし込んでビジュアル化できたことも良かったと思います。言葉を交わすことも大切ですが、視認可能な形に落とし込むビジョンプロトタイプも、アイデアをイメージしてもらう手法として有効なのだと改めて感じました。
山根:
その後はワーク中に出てきた材料を体験価値のサイクルとして整理したり、検討中のプロダクトによる業務フローの変化をbefore/afterとしてまとめたりしていたのですが、その過程でも認識が揃っていく感覚はありました。
前述の通り、プロダクト戦略を全社に浸透させることも大切なミッションだったので、最終的には、プロダクト戦略を事業者の方に届ける「事業視点の資料」と、従業員の方々に届ける「ユーザー視点の資料」の2種類に分けて作成しました。特にユーザー視点の資料では、想定ユーザーである上司と部下の利用シーンを順に追いながら、そこで使われる画面のイメージも挿入して、プロダクトが提供する価値を体感できる内容にしました。
石田:
ワークを基にした資料作成はクライアントからの反応も良かったです。ワーク中の発散で出てきたアイデアがしっかりと収束されてソリューションの仮説に結びついていたところや、抽象的なものが徐々に形になっていく実感を持てたところなどを評価いただきました。クライアントの現場社員に実際に参加してもらえたこともあり、クライアントも納得感のある内容に仕上げることができました。
プロダクト戦略とコア体験の融合──1人では難しい役割も2人なら
──最後にこのプロジェクトを振り返ってみての感想をお願いします。
山根:
事業視点とユーザー視点の両面で整合性をとりつつ、プロダクトの構想を練る、というのはPdM(プロダクトマネージャー)がその責を負うことが多いですが、1人でやるにはかなり難しい内容だと思います。
しかし、UXデザイナーが2人で役割分担して取り組めば、ビジネスとプロダクト、それぞれの視点から深く切り込み、得られた知見を融合することで、戦略からプロダクトの機能開発まで一貫した動きがスムーズにできる。これは今回のプロジェクトを通して私が再認識したことであり、個人的にもとても面白い経験でした。
石田:
確かにAIなど、ビジネス環境の変化が激しい領域では有効でしょうね。私は同じUXデザイナーでも、それぞれが「マーケティング」や「エンジニアリング」といった一般的なプロダクトUXとは違ったスキルセットの強みを持ち込めることが印象的でした。
今回は単にUXデザイナーとしてユーザー視点のアイデアを提供するのではなく、マーケティングやエンジニアリング的な知見があってこその気付きや着想から生まれたものもあり、UXデザイナーとしての活躍の仕方の幅広さも実感できました。
同じ職種でも、思いもよらないコラボレーションがある
UXデザイナーとUXデザイナー。同じ職種だからといって役割が被ることはなく、むしろそれぞれの経験や強みを生かした役割分担を行い、視点を共有しながら仮説を磨き上げることで1人では成し得ない幅広い視野を持った、より良い提案ができるようになる──UXデザイナーという肩書きにとらわれない化学反応の可能性が感じられるインタビューでした。
グッドパッチでは異なる職種間はもちろん、同じ職種同士でもお互いの経験や長所を生かしながら協働しています。グッドパッチで働くことに少しでも興味が湧いた方はぜひ以下のリンクからどうぞ。
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