ストックマーク株式会社
- Client
- ストックマーク株式会社
- Expertise
- Business/Strategy Design
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Overview
ChatGPTの登場によりAI活用の可能性が大きく広がる一方で、ストックマークは多機能化する既存サービスの価値の再定義や社内ビジョンの共有など、新たな課題に直面していました。グッドパッチは市場調査とビジョンプロトタイプ作成を通じて、これらの課題を解決し、ストックマークの未来を描くための支援をしました。
Client
ストックマーク株式会社
Stockmark Inc.
ストックマーク株式会社(以下、ストックマーク)は自然言語処理に特化したAIスタートアップです。2016年の設立以来、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するSaaSを提供してきました。代表的なプロダクトである「Anews(エーニュース)」は、AIが膨大なテキストデータベースからニュース、論文、特許、社内ドキュメントなどを検索・要約・推薦することで、ユーザーが必要な情報を瞬時に見つけ出すのをサポートします。また、「Astrategy(エーストラテジー)」は、最新の事業環境をAIが可視化し、話題の企業や事例を瞬時に把握することで、市場調査をサポートします。
Summary
ご支援前の課題
- 既存サービスが多機能化し、プロダクトの方針検討が必要になった
-
市場変化や技術進化に伴い事業戦略を再構築する必要性を感じていた
-
組織の急成長に伴い人員が増え、ビジョンの共通認識に課題を感じていた
グッドパッチの対応とご支援後の成果
- UXリサーチやAI市場ニーズの調査結果を分析しプロダクト戦略を策定
- プロダクトのビジョンプロトタイプを短期間で作成
- 社内コミュニケーションや販売戦略に使えるドキュメントを作成
プロジェクトの成果
- 将来の技術進化も踏まえたビジョンプロトタイプが完成
- 目標到達までの「戦略ルート図」が社内コミュニケーションパスとして機能
依頼背景
AIの技術進化は急速です。ストックマークはLLM(大規模言語モデル)やナレッジグラフなどデータ学習を得意とする企業であり、「Anews」という情報収集AIのプロダクトを主軸に急成長してきました。
このプロジェクトはプロダクトの再構築と方針検討が必要になったことをきっかけにスタートしました。 例えば、Anewsはリリース当初はニュースの収集・要約・推薦が主な用途でしたが、その後、論文・特許、社内ドキュメントなど、取り扱えるデータ領域が大幅に拡大。ニュースという領域を超えて、製品の価値をシンプルに伝えることが難しくなっていたといいます。
また、これまでは技術への強いこだわりから「ビジョンドリブン」な開発になりがちでしたが、今後はより確実かつ安定的な成長を図るためにも市場のニーズを重視した「データドリブン」「マーケットイン」の開発体制へ転換したいとの思いがあったそうです。もちろん、ストックマークでもUXリサーチは入念にやってきましたが、自分たちが手掛けたアイデアは、分析にバイアスが掛かってしまっているのではないかという懸念があったと、CMOの田中和生氏は言います。
加えて、ChatGPTとの差別化や自社プロダクトの優位性を明確にする必要性も出てきました。そもそも話題のChatGPTですらまだ活用が模索されている中で「Anewsは何が違うのか」を端的に言えなければ、クライアントには響きません。一般にSaaSは「一言で価値を説明できること」が求められますが、「Anews」は技術の進化を経て複雑な説明を要するようになっていたのです。
さらに経営陣は社員数が20〜30人規模から100人を超えるまでに成長する中で、経営陣のビジョンや戦略が、社員全体に伝わりきらない課題も感じていました。ストックマークは「価値創造の仕組みを再発明し、人類を前進させる」というミッションを掲げていますが、極言すればどんな仕事も人類を前進する貢献にはなります。事業初期フェーズの阿吽の呼吸が成り立ちにくくなる中で、それぞれが思い思いのアプローチでミッションに臨めば、組織としてのベクトルが分散してしまうため、既存事業を強化していくフェーズになると一定の方向付けが必要になります。自分たちがどんなアプローチで目標に向かっていくか、シンプルなキーワードで説明する必要がありました。
また、2022年から世間を賑わすChatGPTに代表される、生成AIの台頭は、ストックマークにとってプラスとマイナスの両方の影響をもたらしました。プラス面としては、AIに対する社会の理解が進んだことで、顧客への説明が容易になったことでした。これまでは「AIとは何か」「大規模言語モデルとは」「その技術がどんなメリットをもたらすか」などの前段階を丁寧に説明し、理解の土台ができた上で初めてAnewsの提案ができましたが、ChatGPT台頭以降は前段階がほぼ不要になりました。
「戦略ルート図」とビジョンプロトタイプ
こうした状況を受け、ストックマークはプロダクトの価値再整理と中長期戦略の再構築を急ぐことに。第三者目線での客観的な分析を要したことから、UI/UXデザインやブランディングに強みを持つ複数のデザインファームに提案を要請しました。
社内では「外部に頼んで本当に良いアウトプットが出てくるのか」と不安視する声もあったと言います。しかし、グッドパッチにはUXデザイナーの石田健二をはじめ、LLM(大規模言語モデル)・データ領域への深い理解があり、また戦略からビジョンプロトタイプまで一気通貫で落とし込める体制やUXリサーチ能力、ビジョンプロトタイプを作れるUIデザイン能力がありました。
グッドパッチは2023年にプロジェクトのパートナーとして選定されると、まず徹底的な情報収集と現状分析から取り組みました。ストックマークから提供されたこれまでのUXリサーチの膨大なドキュメントを詳しく調べ、これまでのリサーチや計画、そして同社がどのようにプロジェクトを進めてきたかを分析したのです。
それまでストックマークが行ってきたUXリサーチは、主に「顧客ユーザーが何を欲しているか」という視点に立って行われてきました。そこでグッドパッチはスコープを広げ、国内外のビジネスシーン/ビジネスパーソンが業務を遂行する上でどのような課題を感じているか、それを解決するにはストックマークのどの既存技術が使えるか、さらにまだ実現してはいないが、今後開発される可能性のある領域まで含めて、AIプロダクトの可能性を模索した事業戦略を検討していったのです。
AIは「新しい手法」なので、まずビジネスの現場で何が求められているかという「仮説」を打ち立てます。いろいろな業界の職場に、それぞれの課題や困りごとがあります。それらをリサーチする中で「これが解消されれば、多くの業界や職場の助けとなる」というものを抽出し、その中から「AI技術で解消され得るもの」をピックアップしてマッピングしていきました。
このような徹底的な情報収集と分析、そして両社の密な連携により、AI技術がどのように活用され、どのような働き方や課題が存在するのか、さらに理想的な働き方を実現するために何が求められているのかを深く掘り下げることができました。ビジョンを実現するために、複数のルートオプションが考えられましたが、市場性、競合優位性、実現性などを加味した結果、最も達成確度が高いルートを選定でき、最初の成果物として「戦略ルート図」を完成させました。
次の成果物としてビジョンをUIに落とし込んだプロトタイプ(ビジョンプロトタイプ)を作成しました。
事業の方向性を考える、プロダクトのロードマップを作る、どんな施策を行うか決めるなど、ビジネスの現場にはさまざまな「未来を決める」機会があります。
一方、不確実性が高まっているこの時代では、一つひとつの意思決定が極端に難しくなっており、大人数での合意形成や、修正の効きにくい開発の判断などに消極的になってしまい、事業の推進力が弱まってしまうというケースがあります。グッドパッチではこうしたケースに陥らないよう「ビジョンプロトタイプ」という方法での支援を重視しているのです。
例えば、AIエージェントがユーザーの指示に従って自動でドキュメントを作成したり、必要な情報を瞬時に検索・要約したりする様子を、インタラクティブなデモを通じて体験できるものでした。これにより、ストックマーク社内でイメージ共有が促進され、プロジェクト関係者間での認識のズレが解消し、具体的な議論を深めることができました。
両社のチームは週3回×2時間以上の議論を積み重ね、連絡は常時取り合い、疑問点や課題が生じたらすぐに議論して、その場で結論を出すようにしていました。これにより、従来のクライアントワークでありがちな「持ち帰って検討」というタイムロスを最小限に抑え、プロジェクトをスピーディーに進めることができたのです。
クライアントの声
今回は難度の高いプロジェクトなので、絶対に丸投げはできない、私たち自身も深くコミットする必要があることは最初から感じていました。いくつかのデザインファームに相談しましたが、グッドパッチに提出いただいた提案書のフレームワークが、僕のプロトコルとぴたりと合っていました。
やや抽象的になりますが「これを解決するなら、まずはこの問題を解かなければならない」という考え方が、気持ちいいくらい合致していたのです。ほかには戦略策定からビジョンプロトタイプ作成まで、一気通貫でサポートいただける体制がすごく魅力でした。
グッドパッチの石田さん、山根さん、金谷さんとの協働は刺激的でした。彼らのプロフェッショナルな姿勢やアウトプットの質の高さは、私たちの基準値を引き上げ、「このレベルでなければいけない」という意識をチーム全体に浸透させてくれたと思います。
また、プロジェクトを通じて得られた成果物は、社内コミュニケーションを大きく変えました。特に「戦略ルート図」「ビジョンプロトタイプ」は視覚的な表現が分かりやすく、経営陣から現場メンバーまで全員が同じ目線で議論できる材料になっています。
ただ、シンプルになったがゆえに「本当にこれでいいのか?」という不安の声も挙がりました。以前は日進月歩の生成AI領域の複雑性や業務効率化型SaaSではなく、価値創出型SaaSとしての特性もあり、専門用語の多い複雑な戦略だったため、大枠として納得感があったのかもしれません。本当に必要な要素だけを抽出し、明確な戦略を立てたことで、逆にシンプル過ぎて戸惑うメンバーもいました。
それでも、組織が成長するほど、戦略はシンプルであるべきだと私は信じています。今回作っていただいたコンセプトのコア部分を反映したプロダクトが実現するのは、もう少し先になりそうです。しかし、「戦略ルート図」で描いた価値を着実に積み上げながら、コンセプトに至るまでのメッセージは、向こう3年間は変わらずに使えそうです。それくらい骨太で的確な指針が出来上がりました。
プロジェクトを通じて、私たちは「勝ちやすいゲームを選ぶ」ことの重要性を再認識しました。グッドパッチの客観的な視点とデータに基づいた分析は、私たちが進むべき道を明確にし、自信を持って進むための後押しとなっています。
ストックマーク株式会社 CMO 田中和生さん
Credit
プロダクトデザイナー:石田 健二
UXデザイナー:山根 圭太
ソフトウェアデザイナー:金谷 薫
アカウントマネージャー:片岡圭史