プロダクトの非連続成長「ステップチェンジ」のためにPdMがやるべきこと
サービスやプロダクトが右肩上がりに成長することに対して責任を持つことが、プロダクトマネージャー(PdM)の役割の一つです。
しかし、国内外の著名なサービスに目を向けると、リリースから単に右肩上がりを続けてきただけではなく、非連続的な急成長、いわゆる「ステップチェンジ」を迎えていることが分かります。
非連続成長というと、外的要因や運に左右される印象が強いかもしれませんが、ステップチェンジの可能性を探り、狙うことも不可能ではありません。
この記事では、ステップチェンジの概念を解説し、成功事例を紹介しながら、自社プロダクトでも試してみるべき打ち手について考えてみます。
目次
なぜ「ステップチェンジ」が必要なのか?
ステップチェンジは、プロダクトやプロセスにおける急激かつ劇的な変化を指します。
単なる改良や機能追加ではなく、既存の枠を超えて、市場やユーザーの期待を一新させるような変革を意味しており、ビジネスにおける競合優位性を獲得し、長期的な成長を実現するために重要な戦略といえます。
プロダクトマネジメントの文脈では、2016年にTim Fiskさんの「Moving from Continuous Improvement to Step Change Improvement in Product Development」という記事で、ステップチェンジの重要性が書かれています。競争の激しい市場で持続的に成長を遂げるためには、「継続的な改善」だけでは不十分であり、より「劇的な改善」が必要であると述べています。
直近ではプロダクトマネージャーカンファレンス2023で、Linked InのPdMである曽根原さんが「シリコンバレーのプロダクトマネージャー達に見る、 覚悟を決めたPMは何が違うのか?」というタイトルで登壇された講演で、ステップチェンジに挑むことを勧めています。
シリコンバレーの優秀なPdMたちは、「現在の取り組みが成長に繋がっているのか、さらに大きな成長を実現するにはどうすべきか」といった議論を頻繁に行うと語っています。
さらに、ステップチェンジの具体例として、Amazon.comのワンクリックオーダー機能が挙げられました。この機能は、導入から1年で売上の5%、3,000億円のインパクトを生み出した、まさにステップチェンジを実現した事例になります。
ステップチェンジの代表的な3つの事例
世の中には、上記のワンクリックオーダー機能以外にもステップチェンジを起こした実例がいくつもあります。ここでは、著名なサービスにおける実例を3つ紹介します。
Instagramの「ストーリー機能」
今や知らない人がいないと言っても過言ではないSNS「Instagram」ですが、リリース初期は、「クオリティの高い写真」を投稿しなければいけないというプレッシャーを感じているユーザーが多かったそうです。
そんな中、一部のユーザーが「Snapchat」のQRコードを貼って投稿していました。開発者たちは予想もしていなかったユースケースですが、ユーザー調査を重ねると「友達にありのままの自分の生活を見せたい」というニーズがあることが分かりました。
こうしてクオリティにこだわらず気軽に投稿できる「ストーリー機能」が生まれたのです。
ストーリー機能が生まれる前から多くのユーザーを抱えていたInstagramでしたが、本機能の導入により、ユーザーエンゲージメントは飛躍的に伸びました。ユーザーは日常的にコンテンツをシェアし、より頻繁にアプリを使用するようになり、広告収益の増加にもつながったと言います。
参照記事:インスタグラム創業者が語る「最高のプロダクト」の作り方
LINEの「スタンプ機能」
月間アクティブユーザー数が1億に届こうとしている「LINE」。
今や日本人のほとんどが利用していると言っても過言ではないほどのサービスですが、リリース当初は文字を送れるだけのシンプルなメッセージングアプリに過ぎませんでした。それでも、リリースから半年で1,000万ダウンロードを突破するほど爆発的に普及しました。
次に大きなステップチェンジを起こしたのが「スタンプ機能」です。開発当初、女子高生には非常に評判が良かったものの、他のユーザーにはあまり受け入れられなかったと言います。それでも一部の層には深く刺さり、開発者たちが使ってみても面白いと感じたため、リリースまで実現できたそうです。
スタンプ機能の導入により、LINEは競合他社との差別化を実現しました。ユーザーはオリジナリティのあるコミュニケーションを楽しむことができ、LINEスタンプのクリエイターは500万人を超えています。スタンプの販売は新たな収益源となり、LINEのビジネスモデルを強化しました。
参照記事:どのようにしてLINEは生まれたのか――世界規模で広がる日本発アプリを生み出したチーム
ビズリーチの「ダイレクトリクルーティング機能」
ビズリーチは、企業と求職者をつなぐ人材プラットフォームとして、長年にわたり多くの企業に採用支援を行ってきました。しかし、日本でも転職や中途採用が当たり前の時代になり、従来の人材紹介や求人広告だけでは、最適な人材を獲得することが難しいという課題がありました。
海外に目を向けると「LinkedIn」などのサービスは、企業と個人が直接やりとりをするのが当たり前だったものの、国内では絶対に成功しないと言われていたそうです。
ビズリーチは、従来の採用手法ではビジネス的に限界が来るといち早く見極め、今では一般的な「ダイレクトリクルーティング機能」の機能開発を進めることができました。
ダイレクトリクルーティング機能の導入により、企業はより短期間で適切な人材を見つけることができ、採用プロセス全体の効率が大幅に向上しました。これによって、ビズリーチは市場での競争優位性を高め、顧客からの支持を獲得したのです。
参照記事:【直撃】ビズリーチはいかにして転職市場の「常識」を塗り替えたのか
ステップチェンジを意図的に起こすための3つのヒント
これらの事例を見ていくと、ステップチェンジを促進し、可能性を高めるための施策や戦略があることが見えてきます。具体的には、以下のようなポイントがありそうです。
ユーザーの変わった使い方を分析する
Instagramのストーリー機能は、開発者たちが想定していなかった使われ方が発端で生まれました。「ユーザーがプロダクトをどうハックしているか」を調査し、どのようなインサイトが眠っているのか分析してみるといいでしょう。
調査の一例を挙げてみます。定量データから、特定の指標において異常に数値が高いユーザー(いわゆる、エクストリームユーザー)を特定。そのユーザーに対してインタビューを行い、1日の行動の中でどういった目的やタイミングでそのプロダクトを使っているのかを調査します。
こういったインタビューを通して、開発者たちが想定していなかった提供価値が見つかり、その価値を増幅させるようなイメージでステップチェンジを起こせるかもしれません。
「広さ」よりも「深く」刺さるかを検証する
LINEのスタンプ機能は、最初は広く受け入れられていたわけではありませんが、特定の層には深く刺さりました。検討中の機能が多くのユーザーに80点と評価されるよりも、少数派であっても100点、120点と評価されるユーザーがいる機会を逃さないことが大切です。
例えば、アンケート調査で0〜10のNPSを調査する際には、「9」を評価してくれたユーザーではなく、「10」と評価してくれた人に着目することも一つの方法です。満点をつけてくれるほど大きな価値を提供できているので、アンケート内容から、どのような価値に共感してくれているのかを分析してみるといいでしょう。
海外の先進事例を参考にする
ビズリーチのダイレクトリクルーティング機能は、当初「日本では無理だろう」と言われていたものの、市場の動向をいち早く見極め、海外のサービスを参考にしていました。
他国のトレンドが日本に入ってくる可能性は低くありません。海外のプロダクトが成功しているポイントを取り入れ、自社にどう適用できるかを考えることも重要な戦略です。
転職市場の例だと、今後も国内の転職はより盛んになることが予想されますが、他の先進国と比べて転職市場が盛り上がる伸びしろがさらにあると予想されます。
アメリカのダイレクトリクルーティング機能を提供しているプロダクトを調査・分析し、メジャーになっている機能を輸入したり、最適なUIを参考にしたりできるかもしれません。
一緒にステップチェンジに挑戦しませんか?
これらの事例を見て分かるように、ステップチェンジを起こすためには、ユーザーニーズを深く理解し、競合との差別化を図りながら、イノベーションを追求することが重要です。しかし、日々の業務に追われて中長期的な成長戦略を考える余裕がないという方も多いのではないでしょうか。
グッドパッチでは、さまざまなプロダクトグロースの経験を生かし、プロダクトのステップチェンジに向けて支援を行っています。少しでも興味のある方は、気軽に以下のバナーからお問い合わせください。