パッケージデザインから見る、日本と米国の違い
私はワシントン州シアトル出身で、現在はデジタルプロダクトの体験をデザインしています。アプリケーションやウェブサイトをデザインする職種に就いてからは、常にオンライン上でデザインに関する最新の情報やベストプラクティスをキャッチアップする日々。またその多くが、欧米のデジタルデザインをリードするデザイナーたちにより書かれたものであることは確かです。
私が日本に約2年間住んで気づいたのは、日本のデジタルプロダクトデザインはUXデザインという文脈に敏感になりはじめてまだ日が浅いにも関わらず、アナログプロダクトに関しては既に、どれも素晴らしいUXデザインがされているのです。
多くの日本のアナログプロダクトは思いやりやこだわりからできています。こうした思いやりやおもてなしという文化は、昔から日本に根付いている文化でもあります。外国であればチップを払わなくてはできないような体験が、日本では話し言葉一つからパッケージ包装まで、隅々へと行き届いているのです。
この記事では、日本のアナログプロダクトに込められているちょっとした思いやりやおもてなしをご紹介します。UX領域においてもよく知られているデザインプラクティスを交えてご紹介できればと思います。
本記事は英語で執筆された記事を意訳したものです。元記事はこちらをご覧ください。
目次
エラーを防ぐためのデザイン
マクドナルド
外国人が日本のマクドナルドで買い物する際には、間違いなくそのパッケージングの量に驚くでしょう。私もそのうちの一人です。しかし、日本に住みはじめてから数年経った今では、日本の消費者が買い物をする際に何を望んでいるのかもある程度理解できるようになり、パッケージが何枚も重なっている理由もわかるようになりました。マクドナルドのテイクアウトのパッケージは、ユーザーのエラーを防ぐためのパッケージングの良い例でしょう。
例えば、あなたがハンバーガー、ポテト、ドリンクを買ったとしましょう。スタッフは暖かいフードと冷たいドリンクを別々の紙袋に入れてくれます。また、ドリンクは揺れてこぼれないようにカップホルダーがついている場合もあるでしょう。これは、スターバックスで飲み物を注文した際にも同じです。これら全てはさらに別の大きいプラスチックバッグに入って渡されます。持ちやすくするためでもあり、雨に濡れても大丈夫にするためでもあるでしょう。
ユーザーのニーズとペインポイントを悟る
雪見だいふく
雪見だいふくは、日本在住の方なら一度はコンビニなどで見たことがある商品でしょう。この中にはスティックが入っているので、手を汚さずに食べることができます。もちろんアメリカにも「もちアイス」というのはありますが、こうしたスティックがないために、食べる人は手を粉まみれにしながら食べざるを得ないのです。
このスティックは、日本の和菓子についてくる和菓子切をイメージしたものでしょう。雪見だいふくの創造者は、「柔らかいお菓子には食べやすいように抓みを」ということを、和菓子の伝統に習い、こうしたデザインにしたのでしょう。
焼きそば
焼きそばは、スープなしで食べるカップヌードルです。お湯を入れて数分経った後には、お湯を全て捨てなくてはいけません。インスタントヌードルでお湯を出す際のペインポイントは、麺がお湯と一緒に流れ出てしまうこと。一平ちゃんは賢いソリューションでこの課題を解決しました。一平ちゃんのパッケージの端には、お湯を出しやすくするために複数の穴が開けられているのです。
シリアル
アメリカでシリアルを購入する際には、ペインポイントが大きく2つあります。1つ目は、購入したシリアルがすぐにしなしなになってしまうことです。なぜなら、アメリカのシリアルは通常大きなボックスに詰められていて、ボックスの蓋には空気を塞ぐ機能がないからです。もう一つのペインポイントは、大きいサイズしか売っていないということです。シリアルを毎日食べない人からすると、邪魔で仕方ないでしょう。
もちろんタッパーに移したり、クリップを使うなどといったソリューションもありますが、日本のシリアルは賢くこれらの課題を解決しています。日本のシリアルは約240g/8.5ozサイズのものが多く、ジップロック付きの袋に入っているのが通常です。シリアルだけでなく、多くの日本のパッケージフードのサイズや包装の仕方には、「食品をフレッシュに保つための工夫」がされています。
良いアフォーダンスと明確なシグニファイア
お弁当
私はランチの際にはよく行列のできるデリの店でお弁当を購入します。この店はすごく小さいのですが、回転率はかなり良いのです。もちろん、オーダーのプロセスが整っていることと機敏なスタッフがいることは内いくつかの要因ではありますが、私はお弁当ボックスのフォークを置くための凹みにもその秘密があることを発見しました。
こうした小さな工夫は、消費者にとってはどうってことないかもしれません。しかし、この凹みは確かにスタッフがフォークを置きやすくしているのです。スタッフにとっては、ランチピークの時間帯に一人当たりのお弁当を準備する時間はわずか数秒。輪ゴムの先からフォークが逃げるといったような小さなミスを防ぐには、この凹みが欠かせません。結果、この小さな凹みはオペレーションコストと顧客が待つ時間両方を削減していると言えます。
過度なデザインよりも節度のあるデザイン
お菓子
ミンティアのケースを振ると、一粒のミンティアがぴったりおさまるサイズのトレーにミンティアが顔を出します。これは他の人にミンティアをあげる際にも役に立つパッケージデザインです。
また、Meltykissのチョコレートのケースは、押せば開く優れたデザイン。箱を開ければチョコレートが一粒スライドして出てきます。押入れた部分を元に戻せば、蓋が閉まります。一粒一粒が一口サイズで、開けやすい金色の紙に包まれていています。
実を言うと、多くの日本のお菓子は一つひとつが包まれた状態で包装してあるのです。例えば、オレオ。アメリカでは1lb/453gといった大きいサイズが通常の販売サイズですが、日本ではハーフサイズのものが包まれたプラスチックが1つのボックスに入って売られています。これもまた、食べ物をフレッシュに保つための工夫でしょう。
このようにクッキーやアイス、ビールでさえ小売されているのです。これらの単品商品はまとめ買いをするよりも値段が高いわけではありません。したがって、消費者は好きな量を自由に選択できるのです。これは、アメリカでの買い物ではほぼあり得ない選択肢です。まとめて売られているものほど顕著に値段が安く、消費者は必要としている量よりも多く買うように誘導される場合が多いのです。
まとめ
日本を訪れる多くの観光客は、日本の食べ物は美味しいけど量が少ないというコメントをします。ハーゲンダッツも「レアな味が多いけど、サイズが小さい」と感じる人も多いはずです。アメリカではファミリーでシェアできるようなビッグサイズが普通ですから、当然のことでしょう。
これらの事象から、日本のプロダクトの価値は、量や値段よりも一つひとつのクオリティや表現の仕方に依存していると言えます。その結果、消費者は適切な量を、最適なクオリティで楽しむことができるのです。こうしたアナログプロダクトにされている工夫が、今後どれだけオンラインに適応できるかという部分も考えていきたいですね。