こんにちは。引き続きサービスデザイナーの齋藤とUXデザイナーの野田です。先日、大阪で開催されましたGame Creators Conference 2018 にて「非ゲーム領域のUXデザイン ~愛されるプロダクトを生み出すための4つの要素~」というテーマで講演させていただきました。オーディエンスはゲーム業界の方だったということもあり、ゲームの作り方と対比して聴いていただきたいなという気持ちでお話しさせていただいた内容ですが、今回のブログではゲーム業界でない方にも是非読んでいただけたら嬉しいです。

前編では、「愛されるプロダクト」を生む必要がある背景をお話してきました。後編では、愛されるプロダクトを作る組織が特に持つべき4つの要素と、Goodpatchで大切にしているMLP(Minimum Lovable Product)という考え方についてご紹介します。

チームで共創し、複雑な課題に立ち向かう

いきなりですが、プロジェクトの成功率にもっとも寄与すると考えているのがこの「共創(コラボレーション)」です。「コミュニケーションの量と質」と言い換えても良いと思います。

大前提として、前編でも述べたように「複雑な世界に対応したプロダクトやサービスを生み出す」ことが、とても難しいためです。アプリを一つ作るとしても、認知・習慣化などの脳の仕組み、スマートフォンを持つ人体の構造、美観、色彩、フォント、OSの仕組み、各種ガイドライン、プログラミング、サーバー、ビジネスモデル、アクセス解析、広告、マーケティング、バイラル、法律…など様々な要素が関連してきます。これらを全て一人で完璧なソリューションを作り出すことはほぼ不可能と言えるので、必然的に複数の専門家が共創することが必要となります。多様なチームメンバーが最大限の力を発揮してプロジェクトに望むこと、これは他の全ての要素に掛け算として効いてくるため、もっとも影響度が高い要素だと言えるでしょう。

さらに、Google, IDEO, MITで行われていた研究では、クリエイティブな(複雑な課題に対してアプローチする)仕事に対して良い成績を残す要因を研究した結果、ほぼ唯一判明したものは「チームに良い共創関係があった」というようなものでした。Goodpatchにおいても、成功と言えるプロジェクトは社内やクライアントとの関係性において「良い共創関係」が存在していたと、自信を持って言えると考えています。

そのため、Goodpatchはクライアント様からデザイン業務を委託されるプロジェクトを行う際に「クライアントと請負業者」という関係性はなるべく作らないようにコミュニケーションを行います。おたがいに丸投げや責任の押し付けをするのではなく、同じ夢をみるパートナーとして対等にお付き合いします。このように、プロジェクトに関わるメンバー全てに共創の意識を求め、チームを形成していきます。

良い共創関係を構築するために必要な条件

1、多くの人間が知恵と力を出せば必ず素晴らしいものが生まれると信じること

まず大前提として、「多くの人間が知恵と力を出せば必ず素晴らしいものが生まれると信じる」ということが挙げられます。Goodpatchでは「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」というスローガンが掲げられています。いくつかあるスローガンの中で、もっとも浸透しているのがこの「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」言葉ではないかと感じています。「Googleが言っているから」「IDEOが言っているから」というレベルでも良いので、まずは信じてみましょう。全てはそこから始まります。


こう言った考えを持っているので、Goodpatchでのプロジェクト開始時にはクライアントと一緒に「キックオフワークショップ」を行います。僕らにとってチームはプロジェクト毎にゼロからできるものなので、チームビルディングは可能な限り素早く行う必要があります。アイスブレイクを兼ねたワークショップやプロジェクトのビジョン・共通の夢を見られるようなワークショップをすることで、「チームでゴールを達成する」という価値観をチームの中で作ることが非常に重要です。

2、積極的に助けを求めること、誰かを助けること

チームをうまく機能させるためには、「助けを求めても良い空気」を形成することが必須です。「こんなこと聞いても大丈夫かな」「話しかけて迷惑じゃないかな」ということを考えていると、あっという間に時間は過ぎてしまい、生産的ではありません。特に「リーダー的な存在の人が積極的に助けを求める」ことで、積極的にそのような意識をチームに浸透させていきましょう。

IDEOやMITの研究でも、良い成果を出すチームは、「リーダーが頂点のピラミッド」や「調整役の誰かがハブになる関係」に依存しすぎず、全員が誰かとコラボレーションしていることが重要であると言っています、信じましょう(※一つ目の要素を参照)。そして、チームメンバーが「他人に甘えずに自分で成長すること」も信じましょう。

3、役割にとらわれずに全員が当事者として主体的に関わること

これも当然ですが「自分はデザイナーだから…」「エンジニアだから…」と、つい壁を作ってしまうことはないでしょうか。見方によってはプロフェッショナリズムとも言えますが、こう言った思考の裏には「だから自分には関係ない」というマインドが隠れていることもあり、コラボレーションしようとする空気の阻害要因にもなり得ます。デザインの領域であっても、エンジニアリングからの視点や考え方を提供するような「職種をまたぐ発言こそが価値の高いコラボレーションである」と認識する必要があります。IDEOでも「個人の能力よりも、人望や頼みやすさが有効な助力者と評価される要因であった。」と結論づけているので「専門性を言い訳」にしない、そんな態度が大切です。

Goodpatchではこの効果を信じているので、プロジェクトの最初からエンジニアをアサインして、企画フェーズから関わってもらうようにしています。エンジニア観点からのアイディアやモックアップの制作、序盤においても欠かすことのできない戦力となっています。

4、「心理的安全性」が保たれていること

「心理的安全性」とは、失敗や問題点についても気兼ねなく話すことができる関係のことを言います。自分の悩みや弱みを晒しても大丈夫だと思える関係とも言えるかもしれません。この章でお話ししていることの全ての要素に関連する重要なワードです。

心理的安全性を持てるようになるために「こうしたら良い」という具体的なソリューションはなく、「日常のコミュニケーションや振る舞いが大切」だと考えているので、Goodpatchでは

  • チームメンバーはなるべく近くでリアルタイムに作業を行う
  • Slackなどでのオープンなコミュニケーションを奨励する(クローズな会話はある程度制限する)
  • いろんな人と積極的にランチをする
  • 「コーヒータイム」など、雑談のできる時間を意識的に作る

という活動を良いチームほど自然にしていますし、PM的な役割を果たすメンバーは意識して環境を用意していきます。

心理的安全性については定量化しにくい要素なので、はじめはシンプルに「コミュニケーションの総量がプロジェクト成功の成否を決める」と言い換えて、とにかくコミュニケーションの量を増やすことを目標に取り組んでみるのが良いのではないでしょうか。

コンセプトとMLP

共創の次は、コンセプトです。愛されるプロダクトを世に生み出すためには、ユーザーの感情を揺さぶらねばならないという話を前編でもしました。ここでは、Goodpatchでコンセプトをどう作っているのか?また、それがプロダクトとどう関わるのか?という話をします。

企業の思想、マーケット状況、顧客の課題からコンセプトを作る

コンセプトは、プロジェクトのあらゆる意思決定の際の判断基準となるだけでなく、後のサービス名やロゴ、情報設計の設計思想まで活かされる非常に重要な要素となります。Goodpatchでは主に、ユーザーの課題とクライアントの想いの双方を踏まえて、コンセプトを作るようにしています。

クライアントの想いを私たちが理解する手法の一つとして、例えばエグゼクティブインタビューと言われる手法があります。企業の経営層の方に1時間程度のお時間をいただき、「作りたいサービスの未来」や「会社の5年後10年後の未来」についてインタビューをします。時に現場レベルの人が聞いたことも無い話が出たりしますし、経営層ならではの視座の高い話が聞けるので、サービスのコンセプトを考える際に非常に役に立ちます。さらに、こうしたインタビューを行うと、その後の経営層のコミットメントにも大きな違いが出てきます。Goodpatch では経営層の方にもデザインを理解していただくことがプロジェクトにとっても、クライアント企業の未来にも重要だと考えているので、この点でも欠かせないプロセスだと言えます。

ユーザーに「好き!」と言われるコンセプト

例えばグノシーであれば「1日の初めに自分の嗜好に合った最新のニュースを適度な量送ってくる」、マネーフォワードであれば「面倒なオンラインバンキングへのログインなしに、様々な銀行やクレジットカードの情報を管理できる」という点が「ああ、好き!」となるポイントです。これらは、そもそもの会社のビジョンを体現しているコンセプトとしてわかりやすいケースと言えます。優れたコンセプトは、それを聞いてすぐに「あー、これ好き!これを待ってた!」という反応をもたらします。他と違うそこにしかないコンセプトに共感するからこそ、数あるサービスの中からそのサービスを選んでくれるわけです。

さらに、このような良いコンセプトにはMLP(Minimum Lovable Product)と呼べる要素が含まれていると僕らは考えています。

MVPからMLPへ

MLPの説明に入る前に、これまで重要視されてきたMVP(Minimum Viable Product)に触れたいと思います。リーンスタートアップでは、不確実性の高い現代の製品開発において、アイデアは仮説にすぎず、MVPを満たすレベルのプロダクトをなるべく早く作り上げ、市場やユーザーに届けることが大切であるとされています。この手法によって、仮説検証のスピードや量は圧倒的に増加しましたが、その「効率」に目を奪われて本質的な価値が見えにくくなる状況も見受けられるようになりました。そして、リーンであること(効率)を重視した結果、そのプロダクトは「本当に愛されているのか?」「本質的なニーズを解決しているのか?」という観点が希薄になってしまっています。このフェーズできちんとMLPを意識することによって、取り組むべき問いを見失わないようにすることができます。

MLPと呼べるものは「一部のユーザーにものすごく好かれる」という特徴を持ちますが、裏を返すと「他のユーザーからは嫌われたり」「バカにされたり」する場合もあります。しかし、イノベーティブだと言われたアイデアほど、多くの人に受け入れられなかったアイデアばかりだったりします。奇抜なアイデアを出せば良いというわけではなく、一部の人にしか愛されないアイデアにこそ、「イノベーションの種が眠っているかもしれない!」とまず信じることが、MLPへの第一歩です。

では、なぜわざわざMVPではなく、MLPにまで高める必要があるのでしょうか?

「私はこれを愛している」
「超好き」
「好きすぎてつらい」
「これじゃないと絶対いやだ!」

そう言われるくらいのプロダクトやサービスを作らないと、わざわざお金を払ってもらえない時代が到来してしまっていると前編で述べました。まさにそこに理由があります。スピーディに仮説を検証するだけでなく、ユーザーの目に初めて触れるその時からユーザーに感動を与えるプロダクトを出さなければ、選ばれない時代になってきてしまっているからです。MVPでは、学びを最小限のコストで得ることが重要視されていた一方で、MLPにおいては、自分たちが思い描いている体験が「ユーザーに共感を得られるのか?」「それを体現したプロダクトは愛されるのか?」ということを意識し続ける必要があります。

MLPの例として、SONYのウォークマンが挙げられます。再生専用のポータブルデバイスというアイディアは社内で「録音機能がないと売れない!」などと大反対だったアイデアだったものの、思いを曲げずにリリースした結果大ヒット商品となり、外でも音楽を聞くライフスタイルを確立しポータブル音楽視聴の先駆者となりました。

また、ダイソンの扇風機もMLPを満たしている例だと言えます。「赤ちゃんのいるお母さん」というかなり限定されたユーザーにとって、羽が露出していないことによる「赤ちゃんが怪我をしない安全性」「赤ちゃんの眠りを妨げない静音性」を兼ね備えたプロダクトとなりました。さらに後継のシリーズでは、「空気が綺麗になる清浄機能」や、「触っても火傷しない暖房機能」を追加し、そのコンセプトはさらに強化されました。発売から9年ほど立ちますが、羽なしの扇風機という市場を形成し拡大し続けています。「うちにはダイソンじゃなきゃダメ!」というお母さんはかなり存在しているのではないでしょうか。

別の角度からの参考として、Pixarの例があります。Pixarには創業者のジョン・ラセターを中心にブレイントラストという組織があります。ブレイントラストは制作チームから独立して客観性を持った存在として、制作過程のストーリーを評価して行きます。その際、「観客にそのストーリーは共感されるものなのだろうか?」という観点を重視します。これはある種のMLP的な価値観と呼べるのではないでしょうか。このような苦労があって初めてトイ・ストーリーのような大ヒットが世に放たれているわけです。

リアルなユーザーを観察することで、課題を発見する

Goodpatchが関わるプロジェクトの多くは0→1のデザインですが、私達がプロジェクトの相談を頂いてからまずすることは、ユーザーインタビューです。私達がそれを行うかというとクライアントの感じている顧客の課題とリアルな顧客の課題が必ずしも一致しているとは限らないからです。むしろ一致していないことの方が多いです。

観察からいわゆる「ターゲットペルソナ」を策定するのですが、その際サービス提供者にとって都合の良い架空のペルソナにするのではなく、リアルな声に基いてターゲットペルソナを策定します。自己満足ではなく、真に顧客の課題を解決するサービスを生み出すためには、このユーザーを集団としてではなく、個の「リアル」を観察することで初めて「共感」が出来るのです。

観察した結果を、「可視化すること」も大切です。今述べたペルソナもそうです。他には、詳細に課題を洗い出すためにカスタマージャーニーマップを引いたりもします。これによって、サービスに関わる顧客の行動、課題や思考、タッチポイントを洗い出し、観察の結果を可視化します。

ペルソナやカスタマージャーニーマップの他にも手法は様々ありますが、それらは、「顧客の真の課題はどこにあるのか」を明らかにするために行うのです。

これまで0→1のデザインにある程度フォーカスしてお話ししましたが、リリース後の継続的改善をする際に関しても同様です。Google Analyticsで出てくるのはユーザーの行動の結果ですが、そこで「ユーザーがどう感じているのか」はその数字やダッシュボードからは見えません。それを明らかにするために、リリース後もリアルなユーザーを観察しつづけます。GoodpatchのプロダクトのProttのチームも週1でユーザーテストを必ずしていますし、それもこれも改善のための「課題」の仮説を発見するために行います。そしてその仮説を検証するために行うのが、次にお話しする「プロトタイピング」です。

高速プロトタイピングで、仮説をスピーディに検証する

「観察」した結果浮かび上がった課題はあくまで仮説でしかありません。それを学びや自信、確信に変えるためには実験する場が必要です。プロトタイピングにGoodpatchが重きを置く理由はそこにあります。

プロトタイピングのゴールは、ユーザーが「好き」と感じる、つまりユーザーに「愛される」アイデアにたどり着くことです。ここで重要なマインドセットとして、「失敗への許容」があります。リリース時の成功確度を高めるために、リリース前のプロトタイプでスピーディに、なおかつ十分に失敗することが重要です。実際にユーザーにプロトタイプを届け、ユーザーテストを行い、マイナスな意見を突きつけられるのはなかなかつらいものがありますが、それも私達はクライアントと一緒に行います。

リリースしてからも同様で、リリース時のプロダクトのコンセプトとユーザー、サービスが成長した後のそれとでは、徐々に描く世界が変わってくるはずです。大きく舵を切ることをピボットともよく言いますが、その意思決定の礎も顧客への実験の繰り返しから生まれてきます。「今使っている顧客は誰なのか?」を観察し、「その人には何が響くのか?」を実験するマインドをインストールすることもGoodpatchの仕事です。

では、このプロトタイピングのプロセスがあると何が良いのかというと、なんと言っても検証スピードです。例えば、これまで製品開発に1年かけ、マーケットに出して初めて1検証サイクルが回っていました。一方、昨今のマーケットはデジタルが中心で、デジタルのプロトタイプツールが幅広く人々の手に取られるようになり、プロトタイプを作成する難易度がガクッと下がりました。極端な例で言えば、僕らも使っているデザインスプリントという、Google Venturesが生み出した手法を使えば、1週間で仮説検証サイクルを回すこともできます。これはデザイン思考をさらに高速化したメソッドと言えるものです。

余談ですが、「プロトタイプ文化は日本人と相性が良いのかもしれない」と今年のSXSWに参加した時にアメリカのデザインファームのUXデザイナーと話していて感じました。彼らはDesign thinking発祥の地で生活しているだけあって、抽象的なことについて考えるのが得意です。一方日本人は実際に手を動かして作るクラフト精神に強みがあると感じました。プロトタイピング文化が根付いている理由は、秋葉原のような街でプロトタイプする部品が手軽に揃うことにあるのではないかと思っています。安く作っては壊すマインドが根付いてる日本人は、手を動かすスピードでは他国を圧倒できるのかもしれません。特にデジタルの業界では様々なプロトタイピングツールが出現しています。環境が整ってきているからこそ、仮説をすぐに形にし、テストを繰り返すプロトタイピング思考が重要になって来たのではないでしょうか。

最後に

「愛されるプロダクトを生み出す4つの要素」として特に重要な要素をピックアップしました。
共創・コンセプト・観察・プロトタイピングの4つの要素です。

まず大前提としてチームが持つべきマインドが、共創する姿勢でした。
コミュニケーションの総量がプロジェクトの成否を決める、と言っても過言では無いと思います。

  • 積極的に助けを求めること
  • 役割にとらわれずに全員が当事者として主体的に関わること
  • 心理的安全性(失敗や問題点を気兼ねなく話すことができる関係)

の3つの要素を備え共創出来るチームをデザインをすることが、第一歩です。

次に、コンセプトです。コンセプトは、あらゆる場面での意思決定の判断基準となる土台となる重要なものです。また、コンセプトにはユーザーが「好き!」と思える、MLPの観点が重要です。MLPは必ずしも全員に好かれるアイデアではないかもしれません。重要なのは、特定のユーザーにものすごく好かれることです。MLPについて今回は紹介に留めていますが、フォローアップの記事を書きたいと思います。

観察は、ユーザーの課題発見、コンセプト作り、プロダクトをブラッシュアップするまでのどのプロセスにおいても重要です。「ユーザーは何を欲しがっているのか」を徹底的に観察しなければなりません。一個人としてのユーザーの気持ちに共感できるまで観察し、想像することが、何よりも重要です。

また、最後がプロトタイピングです。プロトタイプを高速で作り、リリース前に失敗する機会をできるだけ多く設け、ユーザーが「好き!」と感じる要素、つまりMLPを探っていくためのプロトタイピングを目指しましょう。

以上の4つの要素の中に、皆さんの組織が愛されるプロダクトを生むための鍵となる要素が一つでもあれば幸いです。