こんにちは。グッドパッチでソフトウェアデザイナーとして活動しているumeshitaです。

グッドパッチは、スタートアップ企業からエンタープライズ企業まで、さまざまな企業の新規事業立ち上げにデザインパートナーとして伴走支援しています。

先日、とあるエンタープライズ企業の新規事業案件(ソフトウェア)を担当し、無事リリースを迎えることができました。

グッドパッチへの依頼は増えているものの、新規事業立ち上げにデザイナーの力を借りる、つまり「新規事業立ち上げにおいて、デザイナーがどのように関わり、どんな価値を発揮するのか」という点について、イメージできていない人も少なくないでしょう。

そこで今回は、本案件で私が得た学びをベースに、デザイナーの新規事業立ち上げへの関わり方をご紹介しようと思います。新規事業に携わっている方や、今後携わりたい方にとって参考になれば幸いです。

トレードオフになっているユーザー課題を軸に、競合との差別化ポイントを作る

新規事業を立ち上げる際、耳にタコができるほど言われるであろう「それってあの(競合)サービスと何が違うの?」

全く新たな市場を創出する、といった場合は、競合との差別化、つまり独自価値や機能が不要なこともありますが、多くの場合は競合(になりそうな)サービスがあり、差別化する方法に悩むことがほとんどです。

私が担当したプロジェクトも例に漏れず、既存市場にさまざまなサービスがあふれており、顧客がそのサービスを選ぶ・代替する理由としての独自価値を構築する必要がありました。

差別化の話をするときに、有名なのが「バリュープロポジション」という考え方です。これは「自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が望む独自価値を作る」というものですが、特に「競合他社が提供できない」状態を設計することが難しくなっていると痛感しました。

例えば、何か新たな機能を作ったところで今の時代、簡単に模倣されてしまいます。ユーザーシェアが上位の競合サービスが、似た機能を追加するなどの「同質化戦略」を展開したら、あえて顧客が自分たちのサービスを選ぶ(代替する)必要がなくなってしまうでしょう。

新規事業担当者であれば、誰しも頭を悩ませたこともある難題だと思いますが、私はこのプロジェクトを通じて、同僚から「競合が『独自価値を提供する代わりにトレードオフせざるを得なかったユーザー課題』を解消する形で、事業の独自価値を構築する」というアプローチを学びました。

例えばSNSの場合、匿名で利用できるXなどでは「ユーザーが自由な意見を投稿しやすい」という価値を提供する代わりに、荒らしや有害な発言が行われやすいというトレードオフせざるを得ないユーザー課題が発生し得ると考えられます。対して、実名制を採用しているFacebookなどは、それらの課題を一定解消しているサービスだと言えるでしょう。

ユーザーの体験価値や課題にスポットが当たるならば、デザイナーの出番です。実際に本プロジェクトでは、競合サービスの分析やユーザーインタビューを実施する中で、競合がトレードオフせざるを得ないユーザー課題が明らかになったため、それらを解消する形でサービスコンセプトおよび独自価値・機能を構築。結果、競合からの模倣困難性を高める強度の高いサービスになったと考えます。

気を抜くと要件が膨らみがちな「プロトタイプ開発」に対する心構え

新規事業を立ち上げる際は、投資のリスクを抑え、成功確度を高めるためにも「プロトタイプ」の考え方が重要になってきます。機能を作り込んでリリースするのではなく、早い段階で価値の確からしさを検証しておくためです。

新規事業におけるプロトタイプとして代表的なのがMVP(=Minimum Viable Product:実用最小限の製品)です。仮説に基づいた最小限の機能を低コスト・短期間で実装し、ユーザーからフィードバックを得ることで、低リスクかつ早い段階での修正・改良を可能にします。

この新規事業でも、MVPを作る方向でプロジェクトが進み、サービスに搭載予定の機能を洗い出した上で、開発優先度を決定していく流れでMVPの要件を定義したのですが、要件を絞りきれていない点を同僚のデザイナーから指摘されました。

その際に言われたのは、「作ることは負債を持つことと同じである」ということ。プロトタイプといえども、一度開発した機能はいわゆる「サンクコスト」になり、消すことが難しくなってしまうためです。

そもそも、提供価値の仮説がユーザーにフィットしなければ、以降、何を作っても全てムダになってしまいます。作った機能は単なるムダな投資になるだけでなく、今後の意思決定を歪ませる「ガン」にもなり得る──この視点は欠けていました。

MVPには価値検証のために必要最低限の状態で機能を搭載し、ユーザーフィットが確認できた上で充足させていく、という新規事業でのサービス開発の鉄則を学びました。

こうした学びを踏まえ、開発優先度決めの手法として「狩野モデル」を採用し、いわゆる「魅力的品質」に該当する機能(本案件の場合は、独自価値に紐づく機能)は、価値検証のために必要最低限の状態を定義してリリース。「当たり前品質」「一元的品質」に該当する機能は、開発工数と相談しながらできる限りリリースする、という方向性で優先度を定義していきました。

プロトタイプについても、徹底的にユーザーが感じる価値を基に議論をしていく。そうすることで初めて事業が成功する土台に立てると言えるでしょう。

サービスの循環・発展に寄与するユーザー行動を見極め、行動をしやすい環境を整える

価値検証やプロトタイプといったカベを乗り越え、事業(サービス)をリリースしても、ユーザーが期待通りに価値を感じて動いてくれるかは分かりません。継続して使ってもらえるサービスにならず、クローズしてしまうケースも少なくありません。

例えば、BtoCサービスなどの場合、とあるユーザーの行動が引き金となって他のユーザーの行動に繋がる……などの循環が生まれることで、ユーザーがより価値を感じられるサービスがよくあります。

今回支援した新規事業もそのような類のサービスだったのですが、同僚にUIを見せたところ「ユーザーに推奨したい、サービスの循環に寄与する行動を行いにくいと感じる」と率直な感想をいただきました。

プロジェクトでは、「フォッグの消費者行動モデル」などのフレームワークを用いて、ユーザーに推奨したい行動が生じ得やすいように体験を整理していたのですが、UIとして体験を具現化する際に不和が生じてしまっていたのです。

例えば、SNSなどで投稿に対するリアクションという行動を行ってほしい場合、「Instagramのストーリーズ的にユーザーアイコンを能動的にタップしなければ、投稿にたどり着けない設計」よりも、「Xのようなタイムライン的に、受動的に投稿に出会える設計」の方がリアクションという行動に結びつきやすいでしょう。

このように、サービスの循環やサービスの重要KPIに寄与するユーザー行動を見極め、サービスとしてその行動を行いやすい環境になっているかという点は、フレームワークなどでまとめて満足するのではなく、終始考え続けなければならないのです。

合わせて「このサービスって、触っていて楽しいんだっけ?」といったプリミティブな視点も常に持つことも大切です。ビジネスサイドの視点で考えていると失われがちな感覚だと痛感しました。

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いかがでしたか? 読者の皆さまにとって、新規事業立ち上げにおけるデザイナーの関わりがイメージできる記事になっていればうれしいです。

グッドパッチは、デザインの力で事業成長を生み出す共創型パートナーとして、新規事業特化型のプロダクト開発伴走支援サービスを提供しており、新規事業に特化したチームも組成しています。

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