UIデザイナー、UXデザイナー、エンジニア、デザインストラテジスト──グッドパッチのクライアントワークでは、さまざまな専門性を持ったデザイナーがチームとなって協力し、顧客の課題を解決していきます。

時に手分けして、時に膝を突き合わせて。彼らがどのようにコラボレーションをして仕事を進めているのか、「Design Cats in Goodpatch」と題し、インタビューを通じてそのリアルに迫っていきます。

第2回となる今回のテーマは「UXデザイナー」と「エンジニア」。主にプロジェクトにおける担当フェーズが異なることから、直接の接点を持たないことも多いですが、両者が協働し、体験設計と実装が噛み合うことで生まれる価値は計り知れません。

今回は、テクニカルプロトタイプ(実際に機能する試作品)を用いた価値検証を例に、UXデザイナーの秋野とエンジニアの中田、藤井の3名にプロジェクト内での動き方を聞きました。Cats(キャッツ)とは、ジャズを愛するミュージシャンへの愛称として使われるスラング。偶発性を楽しみながら、共にデザインに向き合う様子を感じてもらえれば幸いです。

話し手:(左から)UXデザイナー 秋野、エンジニア 藤井、エンジニア 中田

たったの3ヶ月でテクニカルプロトタイプ検証。スタートダッシュを決める秘訣とは?

──今回お聞きするプロジェクトは、テクニカルプロトタイプを用いた価値検証とのことですが、どのような案件だったのでしょうか。

秋野(UXデザイナー):
今回のプロジェクトは抽象的な価値検証を終えた新規サービス案を、具体的な仕様に落とし込み、テクニカルプロトタイプを通してユーザーの生活になじむかどうかを検証してほしいという依頼から始まりました。

3ヶ月という期間中に、サービスの仕様を決めて検証項目をまとめ、テクニカルプロトタイプを実装し、1週間の検証期間を経て分析結果をまとめ、サービスのあり方を決めるというプロジェクトでした。

──概要を聞くだけでも、かなり盛りだくさんな印象を受けましたが、一般的に3ヶ月で完了できる内容なのでしょうか?

秋野(UXデザイナー):
「普通にやると終わらないな」という印象はありましたね(笑)。そこでまずはUXデザイナー、UIデザイナー、エンジニアの各職種が進められる部分を一斉にスタートしました。

UXデザイナーとしては最初の2週間で検証設計を固め、検証のキモとなる部分とそうでないものを明確にしていきました。最終的にプロトタイプを実装してくれるのはエンジニアなので、検証の優先度や範囲はエンジニアともよく相談しながら決めていました。

秋野 比彩美(あきの ひさみ)/UXデザイナー:
ヤフーでUIデザイナーとしてキャリアをスタートし、トップページやバーティカルメディアの事業を経験した後、UXデザイナーとして大手通信企業のグループ会社でUXデザイナー兼組織マネージャーとして、クオリティー管理、UXデザイナーの採用と育成に取り組む。
グッドパッチでは、UXデザイナーとしてクライアントワークに従事。インサイトリサーチ、ユーザーリサーチの案件に関わり、現在は大手メーカーのグループ会社のプロダクト開発事業に携わっている。

中田(エンジニア):
エンジニア側も、デザイナーが考えた与件ができるのを待つ、いわゆるウォーターフォール型の工程でスケジュールを組むと、実装期間が1ヶ月未満という非現実的な状況だったので、できる範囲から先に進めていこうと話していました。

今回はクライアント側に明確な「こういうことがやりたい」というアイデアリストがあったので、それをユースケースに落とし込んで、UXデザイナーとどれが検証として重要なのかを一緒に探っていきました。検証の優先度が決まっていくことで、ユースケースの中で機能まで実装する必要がある項目と、そうでない項目を整理できました。

──なるほど、検証の焦点を定めることでプロトタイプの優先度やスコープも決まっていったのですね。同時並行で進める際に支障はなかったんですか?

中田(エンジニア):
そうですね、むしろ重要な検証ポイントを捉えつつ現実的に実装可能な範囲を話しながら定められたこと、それをクライアントと合意できたことで、チームとして協力して進んでいける結束力みたいなものが高まった気がします。

「未知の体験を作り上げる」UXデザイナーの想像力とエンジニアの実装力

──そこから、テクニカルプロトタイプの仕様を詰めて実装していくフェーズに入ると思うのですが、どのような役割分担で進められたのでしょうか?

中田(エンジニア):
UXデザイナーとクライアントで「誰が、何を、どうできる」のが理想の状態なのかを定めてもらい、その状態を実現するために「どういう情報を取得して、何を、どう表示するか」をエンジニア側で検討し、実装していました。

秋野(UXデザイナー):
この時点では「この検証をするためには、この要件を決めないといけない」というものが見えていたのですが、その“要件”を具体的に詰める必要がありました。

例えば、あるユーザーの状態の変化を検知し、別のユーザーに通知する機能について、ユーザーがどのような状況に置かれることを「状態の変化」だと定義・判断するのか、また別のユーザーがその情報をどのように受け取るのが理想的なのかなど、一つずつ想像力を働かせてクライアントと決めていきました。

そうして先に決まった要件から、順次エンジニアに共有し、1週間ごとのスプリントを3回行うことで、要件定義と実装を並行して進めました。

──それはだいぶ慌ただしい状況ですよね。毎週新しい要件をUXデザイナーから共有される中で、エンジニア側で実装のスピードを上げるために工夫していたことはありますか?

藤井(エンジニア):
今回の検証は、数年後に実現する未来を見据えたものだったので、今はまだ存在しない環境を前提とした検証項目もありました。そこで、実装のスピードアップと実在しない環境の擬似再現を両立する“オズの魔法使い”と呼ばれる手法でプロトタイプの一部を作りました。

──オズの魔法使い、ですか?

藤井(エンジニア):
“オズの魔法使い”とは、ユーザーの操作に合わせて人が裏で操作し、あたかもシステムが動いてるように見せて検証する手法です。この手法によって、プロトタイプの開発作業を省いて制作時間とコストを削減できるだけでなく、環境的な実現可能性が担保されていない機能に関しても、擬似的にリアルなユーザー体験を作って検証できました。

藤井 陽介(ふじい ようすけ)/エンジニア:
東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修士課程を修了後、2021年Goodpatchに新卒入社。主にiOSエンジニアとしてクライアントワークに従事しながら、副業で在学中立ち上げに関わったオンライン劇場ZAのWebフロントエンドやサーバーサイドの実装も行う。また社内では、教育系インターンの経験を生かしエンジニアリング研修の設計・運営を担当。コンピュータ科学の経験と、デザインへの理解をもとに、「いいデザイン」を素早く動くものにするのが得意。

中田(エンジニア):
検証項目によってはシステム的な処理が必要になる部分もあったので、検証におけるユーザー体験を中心に、実装が必要な部分と擬似的に表現すればいいところをハイブリッドで作っていくことが今回の挑戦でしたね。

創造性を引き出し合うデザイナーとエンジニアの協働で、早く、品質の高いプロトタイプが実現

──「スピード感」という点以外に、エンジニアがプロジェクトの最初から携わり、デザイナーと協働することのメリットはどんなところにありましたか?

秋野(UXデザイナー):
アプリの心地良いインタラクションをエンジニアが“よしなに”作ってくれたことでしょうか。その細かな配慮によって、ノイズのない検証に繋がったと思います。

今回の検証では、10組程度のご家族に約1週間テクニカルプロトタイプを利用いただきました。その中で実際に「使うことができる」アプリとして体験してもらえたことで、サービスに対する自然な反応を観測できて、手応えのある示唆を得られました。

中田(エンジニア):
確かにインタラクションなどの細かな仕様はあまり決めずに任せてもらえたので、エンジニアの裁量で“よしなに”実装できましたね。

ここに関しては、どのフェーズからエンジニアがプロジェクトに入れるかが重要だと思っています。既に仕様が固まって、後は作るだけというフェーズでプロジェクトに入ると、今回のように適切なインタラクションを提案して実装するようなことはできないですね。

藤井(エンジニア):
仕様を決めた後の段階でエンジニアが入ると、“よしなに”やるというよりは、決められた仕様に破綻がないかを点検するモードになってしまう気がします。一方で、今回のように仕様を決める前からプロジェクトに入っていると、対等な立場でよりプロダクトに向けて提案しやすいですね。

──なるほど、エンジニアが早期にプロジェクトに参加することはプロジェクトのスピードアップだけでなく、アウトプットの品質を上げることにも寄与していそうですね。

UXデザインの観点を持つエンジニアと働くことで、デザイナーとしても、理想の体験設計により集中できた側面もあるのでしょうか。

秋野(UXデザイナー):
そう思います。エンジニアがユーザーへの価値提供の文脈を理解してクリエイティビティを発揮できたからこそ、限られた期間で最大限理想に近い実装ができたんだと思っています。

例えば検証設計についてクライアントとUXデザイナーの私が激論を交わしてているのを見ているからこそ、言語に落とし込めないような部分まで汲み取って作ってくれる。だから任せられる。そんな好循環が生まれていたのでしょうね。

また、プロジェクト開始直後では先方のアイデアリストをユースケースに落とし込む部分をエンジニアに任せられたことで、UXデザイナーは検証設計に集中できていました。

中田(エンジニア):
単に決まった仕様を作る役割ではなく、プロジェクトの根幹から議論に関わっていけるのはグッドパッチならではのエンジニアのあり方だと思います。こういった関わり方をすると、作っているプロダクトに対する愛情が何倍にも増しますね。

中田 満(なかだ みつる)/エンジニア:
ソフトウェアエンジニア。iPhone 3GS当時からiPhone App開発を手がける。電子辞書、電子書籍、クラウドストレージ・クライアントなど、UIデザインとインタラクションにこだわった多数のiOS・macOS Appの開発に携わる。2020年より、株式会社グッドパッチ所属。主にヘルスケア領域サービスのiOS App開発に従事。最近はvisionOS App開発に挑戦している。

──最後に、このプロジェクト全体を振り返っての感想をお願いします。

中田(エンジニア):
限られた期間内で、最大限できることを試行錯誤しながらすり合わせていくプロセスは、今後のプロジェクトでも転用していきたいなと思えるものでした。また、実装範囲を取捨選択しながらも、プロトタイプのバックエンドまで設計したりと、エンジニアとしても挑戦しがいのある取り組みでした。

藤井(エンジニア):
検証目的だからこそ、本番用の実装にはない検証のための機能を作るのが面白かったですね。その機能の一例でも在りますが、システムになりすまして裏で操作すること(オズの魔法使い)も個人的に楽しかったです。

秋野(UXデザイナー):
自分たちで議論したものが作られて、実際に動いているのを見るのは何度経験しても感動的ですね。それがユーザーの手に渡って使われて、その反応をお聞きして、そこから示唆を得てプロダクトの方向性を定めていく。プロセスも成果も、UXデザイナーとしての一つの理想的なプロジェクトだったかもしれません。

UXデザイナーとエンジニア、双方の創造性が発揮されるプロセスで、短期間に品質の高いプロトタイプが作られ、それによってサービス開発を前進させる示唆が得られる──Goodpatchならではのコラボレーションの一端が垣間見えたインタビューでした。

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