こんにちは。グッドパッチでデザインストラテジスト兼ワークショップデザイナーとして活動している田中拓也です。

一月往ぬる、二月逃げる、三月去る……多くの会社で年度末を迎えるこの時期、「時間が足りない!」「役割や人手が不足している!」などの悲鳴を上げたくなる人も少なくないはず。

人がリソースや足りていることがむしろ珍しい昨今、「人を増やそう!予算もつけよう」と採用活動に精を出すのが、一般的でよくある光景だと思います。

確かに、事業を成長させるには適切な人材が不可欠。しかし、一方でこんな話も聞きませんか?「急に人や拠点を増やした結果、組織がうまく回らなくなってしまった」。

急激に人を増やしても組織がスムーズに機能し、事業が成長する──そんな理想のシナリオを描いた企業を私は見たことがありません。逆に何かしらかの歪みが生じ、メンバーが疲弊してしまうケースがよく見られます。

1+1+1=? メンバーを増やしても、生産性が上がらない「不のスパイラル」の正体

もちろん経営者や人事、事業部の上司たちは、無闇にメンバーを増やすことは当然ないと考えるでしょう。必要性に基づいて増員することが肝要です。しかし、現実には人を増やしても、作業スピードが上がらないというジレンマに陥る現場は多いです。

人を増やしたのに、一向に仕事が終わる気配はない。それどころか状況が悪化している。1+1+1=3、またはそれ以上の成果を期待しているのに、生産性が3を下回ってしまっているというわけです。

最悪の場合、仕事がうまく進まないことで、現場からは新メンバーに「事業へのコミットメントが低い」との非難が出ることも。こうした「不幸な」アンマッチすら起こりかねません。なぜ、こんなことが起きてしまうのでしょうか。

「働きアリの法則」などが有名ですが、組織全体の人数が増えることで起こりがちな課題として、仕事を手抜きする人が出てきたり(もちろん良い手抜きもあるかもですが)、コミュニケーションコストが上昇したりして、生産性が落ちることも起こりやすくなります。

また、こんな例もあります。「重いテーブルをある場所に運んで欲しい」とメンバーに頼みたいあなた。まずは2人のメンバーに依頼しました。そのとき運ぶ2人は、しっかりと力を込めて協力します。

そこで「人が増えれば、もっと楽になるのでは」と運ぶ人数を増やすことにしました。しかし、3人、4人、5人とメンバーが増えるにつれ、楽になるどころか負荷が均等でなくなり、誰かが力を入れないと進まないという現象が生じ始めます。

メンバーの頭の中では、「誰かが持ってくれるだろう」という期待が広がり、全力を尽くしてくれなくなったためです。これを社会心理学の観点から見ると、人が増えるほど、一人あたりの仕事量が減少してしまう「リンゲルマン効果」と呼ばれています。この効果が、生産性向上を期待しての増員に対する課題となっているのです。

リンゲルマン効果

こうした研究結果からも分かるように、何の対策もなしに人を増やしても、生産性が上がるどころか、かえって、メンバーそれぞれのやる気やマインドが減衰してしまうというわけです。

チームメンバーの関係性とコミュニケーションが、生産性を高めるカギになる

では、反対に1+1+1+1が5にも6にもなるような、生産性の高いチームや組織を作るにはどうすればよいのでしょうか。

前回の記事で「組織の成功循環モデル」の話をしましたが、ここでもメンバーの「関係性」と「コミュニケーション」がキーになってきます。

そもそもチームメンバーが「1+1=2」以上に力を発揮する状態とは、メンバーがお互いをサポートし合い、共通のビジョンに向かって協力する。そんな相乗効果を生んでいる状態でしょう。

しかし、彼らの関係性が悪ければ、各メンバーは自分の役割で閉じてしまい、協力のスペースが狭まります。この状態が続くと、個々人のパフォーマンスも低下し、1が0.5になるような状態が生まれてしまいます。反対にメンバー間に信頼と理解があれば、チームの成果も飛躍的に向上するというわけです。

良い関係性を築くためには、良いコミュニケーションが欠かせません。お互いの考えや感情を共有し、意見交換することで、メンバー同士の理解が深まります。効果的なコミュニケーションがあれば、チーム全体が一体となり、より良いアイディアも生まれやすくなるはず。

チームの力を最大限に引き出し、生産性を高めるには、メンバー相互の信頼とコミュニケーションが不可欠。互いが得意なことを生かし合い、弱みを補い合えるような関係性が、持続可能な成功をもたらすのです。

チームの結束力を高める「チームコーチ」という新たなアプローチ

では、メンバー同士いきなり「仲良くなれ」と言われて実現するかといえば難しいでしょう。そこで、チームの状態をよりよくするコンサルとも言える「チームコーチ」を使うという方法があります。

チームコーチ(システムコーチング®)とは、チームや組織などの関係性を対象として、その関係性そのものにアプローチをするコーチです。第三者としてチームや組織に客観的に接し、現状を把握し、そのチームや組織が持つ潜在的な可能性を探り、自律的に変化・成長できるように支援する。そんな役割を担います。

システムコーチング

一応、チームのリーダーがコーチのように振る舞うことも可能だと思われますが、リーダーという役割の影響で「チームを導いてほしい」という期待をメンバーから抱かれがちで、自身の感情や思いを伝えるのが難しいという状況が生じやすいため、あまりオススメしていません。

あくまで第三者であるコーチの存在が、メンバーの心理的安全性を高め、思いを自由に表現できるようサポートできると考えています。

メンバー同士の関係性を深め、チームの結束を高めるアプローチはいろいろありますが、この記事では一例として、チームの「ハイドリーム・ロードリーム」を共有するという方法をご紹介します。

最初に各メンバーがこのプロジェクトを進める(チームで働く)上での「最高の夢:ハイドリーム」「最悪の夢:ロードリーム」を発話することから始まります。このプロセスでは、個々の思いや感情に焦点を当て、チーム全体で感じていることを共有します。これにより、メンバー同士の理解が深まり、信頼感が生まれます。

ハイドリーム・ロードリーム

次に、チームで「最高の夢の状態を実現するためには、どうすると実現できるのか?」といった対話が繰り広げられます。各メンバーが自らの視点やアイディアを出し合い、協力して目標に向かって進むための戦略を練ります。このプロセスによって、チーム全体が共有するビジョンを構築し、統一感が醸成されるのです。

第三者のチームコーチが介入することで、メンバー個々の意見の偏りが解消され、客観的な視点からアドバイスが得られるメリットがあります。意見のバランスを整え、全体の方向性を明確にすることで、効率的なチームビルディングが可能になります。

その後、チームで「行動指針」を作り、定例や朝会などで見返すことが重要です。こういった関係性に着目し、チーム文化を醸成していくことで、持続可能な成功を築くことができるでしょう。

この新たなアプローチを通じて、チームメンバーはお互いの夢や目標を理解し、協力して成長するプロセスを経験しています。組織全体が一丸となり、夢を実現するための道のりがより明確になっていることを実感しています。

いかがでしょうか。次回は「メンバーの関係性を強くする傾聴スキルとはなにか?」という別のアプローチをテーマにお話ししたいと思います。お楽しみに!