グッドパッチのUXデザインチームで始めた「リサーチ道場」とは?【RESEARCH Conference 2024】
こんにちは。グッドパッチのUXデザイナーをしている秋野(ちょこ)です。
デザインやマーケティングにおいて「ユーザーリサーチ」は、課題の定義や価値仮説を構築する上で最も重要なプロセスです。
しかし、リサーチというのは「これさえ行えば大丈夫」という完璧な正解や方法論がないこともあり、スキルアップの方法が確立しておらず「深いリサーチができているか自信がない」と悩む方は少なくありません。
それはグッドパッチにいるデザイナーも同じ。そこでUXデザインチームでは、独自のスキルマップを設け、スキル向上に向けたフィードバックを行う「リサーチ道場」という取り組みを始めました。
2024年5月に実施されたリサーチをテーマとしたカンファレンス「RESEARCH Conference 2024」にて、このリサーチ道場に関する一連の取り組みと、グッドパッチがUXデザインと向き合う上で大切にしている考え方をご紹介しました。
本記事では、講演内容をダイジェストで振り返りつつ、会場の皆さんから「詳細が気になる!」とお声掛けいただいたスキルマップの詳細をもう少しだけご紹介します。当日のプレゼン資料はこちらをご覧ください。
目次
自分のリサーチを振り返り、フィードバックをもらえる「道場」
リサーチ道場は、UXデザイナーがリサーチのスキルを高めるためにUXデザインチームで実施している組織施策の1つです。
なぜ「道場」という名前にしたかというと、私が前職で出会ったリサーチの師匠の師匠に「リサーチの上達に必要なのはセンスやコミュ力ではない、鍛錬の積み重ねである」と教えていただいたことに由来しています。
この道場では、「技」「己」「他者」といった多角的な方面からリサーチに向き合うことで、自発的にスキルを高められる状態を目指しています。己に向き合いながら鍛錬を重ね、時に師範に教えを乞う……まさに道場そのものだと思いませんか?
道場には、スキルを上げたいデザイナーとそれを見守る師範がいます。リサーチについて内省する機会やフィードバックをもらう取り組みなので、ゴリゴリとスキルを高めたい人はもちろん、さまざまなリサーチを経験してきた人も客観的に振り返ることで、さらなるスキルアップができるようになっています。
また、フィードバックの観点が統一されるため、アドバイスもしやすくなるので、シニアデザイナーが育成を求められる場面でも活用できるのです。
リサーチ道場では、大きく分けて3つの「知る」という行動をベースにスキルを鍛錬していきます。それぞれの取り組みの詳細をご紹介しましょう。
リサーチ道場の極意①:スキルマップで「技」を知る
まずはどんな観点でスキルを磨けばいいか、すべての人が共通の軸を持てるように「スキルマップ」を作りました。これは、リサーチの前に、やり方や気をつけておくべきポイントをセルフチェックをする際に使ってもらいます。
スキルマップは4つの項目から構成されています。これは「HCD-net」による人間中心設計専門家の認定の際に活用するコンピタンスがベースです。コンピタンスでは4つ目は「モデル化」となっていますが、リサーチ結果はあえてモデリングしない方がいい場合があるので「可視化」に変更しました。
そこから一つひとつスキルに、3〜5個の中分類の項目を設定し、中項目に対してそれぞれ4段階でレベル設定をしました。レベルの目安は以下のような形です。
レベル1:やり方を知っている
レベル2:UXデザイナーならではの調査ができる
レベル3:人の手本になる調査ができる
レベル4:新たな調査や深いインサイトを導く
このレベルに合わせて、何ができているかとそのレベルに到達できてるかといった観点をそれぞれ言語化しています。
リサーチの最重要項目:設計における「課題(目的)設定」
リサーチカンファレンスでは、個人的に「調査の中でもココができれば、あとは何とかなる」といっても過言ではないくらいに重要視している『設計』を例に取り上げました。
「課題(目的)設定」では、レベル1からレベル4までを以下のように定義しています。
レベル1:既知、未知の情報を整理した上で、調査によって何を明らかにすべきが言語化できる
レベル2:課題仮説や調査目標が未知、既知の情報とどう関係しているか仮説までのロジックが整理・構造化されている
レベル3:案件(プロジェクト)としての目的・ゴールを予測した上で、調査から得られる示唆の仮説を立てられている
レベル4:課題仮説や調査目標が明らかになった結果、どんなアウトプットをして、どのように次のステップにつながるか整理できている
分かりやすくするため、「月額有料会員サービスにおける、無料体験期間の利用者の実態把握」といった調査をする場合を例に考えてみましょう。
「初回無料期間の7日間で、ユーザーがどんな行動をしているか行動の背景にある感情を明らかにする」といった目的だと、レベル1の「何を明らかにすべきかが言語化できている」状態です。
レベル4の「課題仮説や調査目標が明らかになった結果、どんなアウトプットをして、どのように次のステップにつながるか整理できている」状態まで到達するには、行動とその背景にある感情を明らかにした上で、「有料会員に移行してもらうために、どんな施策が検討できそうか」を事前に仮説を立てておくと、より深い調査につながるでしょう。
また、「有料会員」「無料会員」といった表現は、非常に多くのユーザーを総称したものなので、その中にどんなセグメントが存在しているかは、調査前に仮説を立てておき、その仮説の枠を超えるユーザーが存在するかまで明らかにしておけると、さらにシャープな示唆を導くことができます。
講演の中で「調査は設計が9割と言っても過言ではない」と表したのは、調査前に調査をしなくても「分かること」を洗い出し切って、その整理ができた状態で調査に望むことが重要だからです。
グッドパッチならではのスキル「言語化・可視化」
ちなみに講演の後、「スキルマップにおいて、グッドパッチのクライアントワークならではの工夫はあるのか?」という質問をいただいたので、リサーチカンファレンスで紹介できなかった項目について、少しだけ紹介します。
グッドパッチのクライアントワークでは「共創」という考え方を大事にしています。UXデザインフェーズでは特に、デザイナーのアウトプットにレビューをいただくのではなく、作成過程そのものをクライアントと共に実施します。
とはいえ、完成したアウトプットやそのプロセスを、チーム外のメンバーや上司に説明することも重要です。そこでカギになるのが「言語化・可視化」です。
リサーチをしたものの、分析結果をホワイトボードツールなどに雑多に置いておくだけでは、せっかく得られたインサイトをリサーチに関わったメンバー以外に理解してもらうことはできません。
リサーチの経緯を知らない人にも分かりやすく説明し、リサーチ結果やその先の施策に理解と共感を得ることは、リサーチの活動を続けていく上でとても重要です。
講演でも触れたように、リサーチ結果をまとめる際、ペルソナやカスタマージャーニーマップといった、典型的なモデル化の手法を使わない場合もあります。リサーチの目的に応じて適切なまとめ方を考え、端的に言語化し、直感的な図解で可視化するようにしています。
「探索的なリサーチ」と「検証的なリサーチ」では言語化・可視化の手段が変わるので、あえて分け、探索の項目は以下のようにレベルを設定をしています。
レベル1:それぞれのフレームワークのメリデメ、活用ポイントを理解し適切な手法を選択できる
レベル2:ペルソナ、カスタマージャーニーマップなどのモデル化のためのフレームワークを調査結果に応じてカスタマイズできる
レベル3:調査目標に応じて、新たなモデリングの考え方を創作できる
レベル4:調査結果を初めて聞く他者でも、短い時間で端的にユーザー理解が深まる分量、内容に整理し要点をまとめることができる
ペルソナや個表を作成する際、どんな項目にすればリサーチに関わっていない方々もユーザーを解像度高くイメージできるか、新たなモデル化の手法を創作でき、それをエグゼクティブレベルの方々に分かりやすく説明できるようになったら「師範」級である、というのが私の考え方です。
リサーチ道場の極意②:フィードバックで「己」を知る
話を戻しましょう。上記のような内容を自分自身ができているのか、フィードバックをしてもらうことで自分の状態と向き合う、つまり「己」を知ることが次の鍛錬のステップです。ここでもスキルマップを活用していきます。
リサーチ道場では、プロジェクトでリサーチを実施したら、
・調査設計書
・インタビューガイド
・インタビューの録画や分析で使用したホワイトボードツールのキャプチャ
などの資料を提出してもらいます。その後、師範となるフィードバック担当から、ドキュメントでは分からない意図や背景のヒアリングを実施し、各スキル項目がどのレベルまで達成できているかを判断し、可視化します。
もちろん、レベルの認定だけでなく、先ほどのように「次のアクションも意識できている」など、どのような観点までができているかという点までを一覧で可視化します。
レベルの認定は高みを目指してもらうための目安であり、次にどこを強化したいかを意識するための1つの指針にすぎません。
大事なのは「何をもってレベル2であるのか」という理由なので、具体的なアドバイスを添えてフィードバックを行います。
これは価値検証を目的としたリサーチ案件を提出してもらったときのフィードバックの一部です。実際はもう少し長いフィードバックを、4つの大項目ごとにGoodとMoreで具体的に記載します。
フィードバックは対面で伝えるので、伝えた内容を基に、次のチャレンジポイントをどこに設定するかを会話して、宣言してもらうところまでサポートし、しっかりとした内省と次の挑戦につながるようにしています。
リサーチ道場の極意③:アウトプットで「他者」を知る
リサーチ道場から少し話が逸れますが、グッドパッチでは、他のメンバーが担当しているプロジェクトでリサーチを実施する場合、対象条件に当てはまれば、記録係として参加し、他のメンバーがどんなリサーチをしているのかをリアルタイムで見学することができます。
このときも単に見学するだけでなく、スキルマップの観点を意識しながら参加すれば「こういう聞き方ができると、こんな深掘りにつながるのか」と、スキルマップだけでは理解しきれなかった深掘りの実態を知ることができます。
「『なんで』と聞かないほうがよい」というのは有名な話ですが、代わりにどんな聞き方をすればいいのかといった引き出しを増やすこともできます。気付きを共有し合うことで、自分では認識してなかったクセに向き合うことができることもあるでしょう。
動画やドキュメントを後から見るのも、もちろん勉強になりますが、緊張感のある現場に入ると集中力がグッと高まるので、得られる学びが全然違うな、というのが実体験です。
また、リサーチで使う設計書や調査レポートなどは、社内のナレッジデータベースに溜まる仕組みになっており、他メンバーの中間成果物を参照して「他者を知る」こともできるようになっています。
他メンバーのアウトプットはその場(ケース)の最適解なので、あくまで参考として、自分が担当するプロジェクトでリサーチに取り組む場合には、プロジェクトに適したカスタマイズが必要になります。それでも、具体例を知っておくことで「ここまで設計を作りこむと、いいアウトプットにつながるんだ」という実感を得ることができます。
自分以外が実施するリサーチに同席できるのも、他者のアウトプットを参考として見ることができるのも、在籍しているUXデザイナーがたくさんいるからこそできる良さだと思っています。
個性豊かなUXデザイナーたちが、楽しく成長するための場所に
UXデザイナーがたくさんいる、とお話ししましたが、実際のところ、グッドパッチのUXデザインチームに所属しているUXデザイナーは30名ほどで、新卒と中途入社社員は1:3程度の割合です。私はそのUXデザインチームの統括マネージャーを担当しています。
中途メンバーはITコンサルタントやプロダクトマネージャー、広告代理店の営業など、いわゆる有形のデザインに直接関わってこなかったメンバーも多く在籍しています。新卒メンバーも美大や芸術系だけではなく、マーケティングや建築、人間工学など専攻していた分野は多岐にわたります。
バックグラウンドが違えば得意分野も異なり、リサーチを体系的に学んできた人もいれば、「自己流でやってきたので、グッドパッチでもっと体系的に学びたい」と考えるメンバーもいます。
得意領域や価値観が多様であることは、それぞれの成長の刺激になるため、組織風土として個性を大事にしていますが、一方でさまざまな企業のプロジェクトに携わる以上、仕事のクオリティを支える仕組みも必要です。
リサーチは教科書として必ず通る共通の手本や考え方はあるものの、プロジェクトで実践する場合は、各メンバーが基本形を発展させて、それぞれの案件に最適なやり方を模索していくことになります。
そのため、応用を含めた手法が体系的になっていないと「組織規模が大きくなるにつれて、ナレッジや応用の方法が各個人へ行き渡らないのではないか」という課題感が出てきました。
逆に仕組みを整えておけば、今後組織が拡大しても、多様なスキルを持った人がそれぞれのレベルに合わせて成長して、組織としての成長にもつながるはず──そう考えてリサーチ道場を始めました。
「グッドパッチで、個性あふれるメンバーとリサーチのレベルアップを目指したい!」「リサーチや、そこから得られた示唆を活用した価値あるサービスづくりに興味がある!」という方は、ぜひ気軽にお声掛けください。
また、講演を聞いた方からは「自社でも同様の取り組みをしたい」といった声も聞かれました。自社でリサーチ道場のようなスキルアップの取り組みをやってみたいが、何から始めればよいか悩んでいる……といった方はこちらからご相談ください!