こんにちは。グッドパッチでプロダクトマネージャー(以下、PdM)をしている大本です。

グッドパッチではこれまで、多数の企業とともに新規事業のMVP/ベータ版開発の伴走支援やコーチング支援を行ってきました。今回は、新規事業プロジェクトに伴走していく中で発見した、事業立ち上げ初期にフォーカスすべき取り組みや、そのポイントについてお話しします。

新規事業に関わる、こんな方におすすめです。

  • 新規事業開発部に配属されたけど、何から手をつけたらいいか分からない
  • 新規事業のアイデアがあり、ベータ版開発に向けてどのようなプロセスを経ればいいのか分からない
  • 新規事業への投資を継続してもらうためのロジックがうまく立てられない

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新規事業の立ち上げが停滞するのは、「顧客の課題」に向き合っていないから

ビジネス環境が目まぐるしく変化する昨今、新規事業立ち上げの難度も高まっていると言えるでしょう。DXを背景に異業種の参入も珍しくなくなり、事業選択の幅も広がりました。

しかし、だからこそ「どれも良いように見えて候補を絞りにくい」「他社が先に似たようなアイデアに手をつけていた」といった失敗例も増えています。次に挙げるような状況に陥ったことはありませんか?

  • 「自社が持っているリソースや技術をどう応用すればいいか?」と思考をスタートするが、良い事業アイデアがなかなか思い浮かばない
  • 市場調査から見込みのあるジャンルを見つけようとするも、決定打が見つからずプロジェクトが停滞してしまう
  • 事業アイデアはあるものの「自社がやる理由」が明確になっておらず、決めきれない
  • 競合環境が激しい市場で、差別化できないプロダクトを作ってしまう
  • アイデアを検証せずに事業計画や要件定義を進めてしまい、作ったものの使われない(売れない)サービスができてしまう

気付いたら「発足から半年経ったのに、これといって成果と言えるものがない(泣)」なんてことになった経験がある方もいるかもしれません。

新規事業の立ち上げ時にプロジェクトが停滞するのは、多くの場合「顧客」の顔が具体的に想像できていないことが原因です。特に簡易的なヒアリングや、アンケートによる市場調査などを行っている企業に多いかもしれません。

そのようなクライアントには、決まって「目線を『事業』から『顧客』に移しましょう」とアドバイスします。新規事業立ち上げにおいて成功確度を高め、自信を持って事業を前に進めていくには、よりダイレクトに顧客に向き合い、アイデアを深く検証していくことが必要だからです。

顧客の課題と事業アイデアの確からしさが向上すると、競合環境や自社がやる理由なども明確になり、資金調達や体制構築のロジックも強固になっていきます。新規事業の担当者がまず取り組むべきは「事業の開発」ではなく、「顧客の開発」なのです。

顧客開発とは、仮説検証を繰り返し「顧客がお金を払う状態」を作り出すこと

「顧客開発」というと耳慣れない言葉ですが、以下の2つを指します。

  • 顧客が抱えている課題の特定
  • プロダクトのコアとなる価値の磨きこみ

要するに「顧客は何を課題に思っていて、どのような成果を提供できれば、お金を払いたいと思うのか?」という問いに答えを出し続け、ひたすら仮説検証を繰り返していく作業です。

グッドパッチでは、新規事業立ち上げプロジェクトで伴走支援を行う際は「顧客開発」を重視して支援を行っています。どのような素晴らしい機能や技術を備えたサービス(プロダクト)でも、顧客がお金を出してくれなければビジネスになりません。

新規事業の開発や成長は、以下のようなフェーズに分けることができ、成功のカギとしてよく「Product Market Fit(以下、PMF)」が挙げられます。これは前述した「顧客開発」が完了している状態であり、事業グロースに向けた土台が整っている状況を指します。

新規事業開発のフェーズ

新規事業開発・成長のフェーズ

新規事業立ち上げ時は、まずはPMFを目指して顧客課題と価値に集中することが重要です。事業拡大を目指した取り組みや市場へのアプローチ方法を検討するのは、PMFを達成してからで十分。顧客を無視したアイデアをいくら巡らせても、スタートラインにすら立てていないのです。

「顧客開発」は具体的に何をすればいいのか?

では、顧客を開発するために何をすればいいのか。先ほど顧客開発は「顧客が抱えている課題の特定」と「プロダクトのコアとなる価値の磨きこみ」の2つを行うとしましたが、それぞれ「ユーザーインタビュー」と「プロトタイピング」が主な手法となります。

ユーザーインタビュー

ユーザーインタビューは「顧客の理解を深め、価値を検証するためのインタビュー形式の調査」です。顧客が普段過ごしている生活を聞き、彼らが抱えている課題の重さを知り、自分たちが考えているサービスのアイデアが受け入れられる確からしさを検証します。

大切なのは、ユーザー(候補)の人に会って直接話を聞くことです。人づてに聞いた話や定量的なアンケート調査の結果などだけを聞いて、ユーザーを知った気になるのが最も危険です。

事業を考えていると、ついつい自分たちにとって都合の良いペルソナ(ユーザー像)を仕立ててしまいがちですし、何よりユーザーの潜在的なニーズに気付けません。ユーザーインタビューについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

プロトタイピング

プロトタイプとは、ユーザーヒアリング時や社内の議論時に用いる、プロダクトの価値を仮説ベースで表現したものです。

新規事業立ち上げもそうですが、不確実性の高いプロジェクトにおいて、的確にユーザーのニーズを探り当てるには、プロトタイプによる検証が大きな価値を発揮します。

ユーザーにとって価値のあるものかどうか、ユーザーに届けるまでは証明しきれないため、開発を始める前にプロトタイプを作り、機能や操作性、デザインに加えてアイデアの価値を検証する必要があるのです。

ユーザーにプロダクトのコンセプトや利用イメージを体験を通じて伝えてフィードバックをもらい、よりユーザーにとって価値のある形へとブラッシュアップをしていきます。

例えば、アイデアのシナリオを口頭で再現し、価値を体験してもらったり、デザインツールの「Figma」などを使って、Webサイトやアプリの一連の体験を開発期間なしで再現したりするなど、多様な手法が存在します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

価値の検証ができていないまま、開発会社に発注するための要件定義書を作り込むのは、よほどの確証がない限りは、はっきり言って時間のムダです。

ユーザーインタビューとプロトタイピング、この両者を高速に交互に行き来して仮説検証を行うことで、顧客の課題とプロダクトの価値を磨き上げていくのです。

価値の検証のポイントは「一連の体験を具体的に再現」すること

価値を検証する際に注意したいのは、自分たちが考えている価値を証明したいがために、近視眼的な検証に陥りがちということです。NG例としては、以下のような検証が挙げられます。

  • 「何を課題に思っていますか?」を聞き続ける
  • コンセプトの言葉だけ作って、顧客に「欲しいと思いますか?」と聞く
  • メイン機能の画面だけ作って、「どう思いますか?」と聞く

このような検証は、一見ポジティブな反応が得られることがありますが、具体的な体験がないまま顧客の評価を受けても、企業側も顧客側も想像の範囲でアイデアを評価してしまうため、「ヒアリング結果を信じて作ってみたが売れない」「計画通りに顧客獲得ができない」などの壁に当たり、せっかくの事業計画が頓挫してしまいます。

具体例として、フードデリバリーサービスの検証を例に考えてみます。サービス立ち上げのフェーズで、以下のようなユーザーヒアリングを行っていないでしょうか?

よくある検証失敗の例

しかし、実際にお金を払いたくなる価値があるかどうか、検証するべき体験は以下の図のような流れです。「飲食店を選ぶ」「メニューを選ぶ」といった、一つひとつの要素を切り取ってユーザーに問うだけでは不十分で、サービスの利用開始から終了まで、一連のストーリーに価値を感じるかを問わなければなりません。

フードデリバリーサービスの一連の体験

こうした作業を経て、コアとなる価値がシャープになり、顧客から需要があることが証明できれば、この後のプロダクト開発や事業開発が圧倒的に進めやすくなります。

  • 顧客がお金を払ってでも解決したい「課題」と課題が解決された状態を特定すること
  • 成果の状態に導く一連の体験を具体的に再現して、顧客に実際に触ってもらうこと

の2つを意識して、仮説検証を進めていきましょう。

仮説検証を繰り返す「顧客開発」で、プロダクトの価値を磨き込もう!

立ち上げ期に顧客開発を繰り返すことは、地道な作業にはなりますが、粘り強く、小さな成功体験を積み重ねていくことで事業の成功確率を高めていくことができます。

社内のメンバーだけで突破するのが難しい場合、共に仮説検証に向き合える外部パートナーを活用するのも効果的です。

グッドパッチでは、新規事業の立ち上げやPMFに向けたプロダクト開発について、伴走支援やコーチング支援をご提供しています。新規事業開発にお悩みの際は、新規事業推進のための8つの視点をまとめた「デザイン会社からみた新規事業の『転び方』と『走り方』」の資料をぜひダウンロードください。