デジタルプロダクトを提供する企業にとって、いかにユーザーに確実に長くプロダクトを利用してもらうかはビジネスの根幹に関わるテーマでしょう。そのためには、プロダクト内のユーザー体験(UX)を適切に理解し、フリクション(摩擦)や課題を発見し、プロダクト改善を継続的に行う必要があります。

このユーザー体験上の摩擦や課題を把握するための方法として挙げられるのが、いわゆる定性調査の「ユーザーインタビュー」と定量調査の「データアナリティクス」の2つです。

今回はデータアナリティクスの中でも、プロダクト内の行動データを測定し、適切な意思決定に導く、いわゆる「プロダクトアナリティクス」に必要となるステップを紹介します。

プロダクトアナリティクスとは

プロダクトアナリティクスは、プロダクト内で蓄積されるユーザーの行動データを収集し、利用パターンを取得して見える化する役割を指します。

プロダクト内の行動データや使用状況のデータは、ユーザーの思考がダイレクトに表れるという意味で、ユーザーアンケートやプロダクトテストよりも信頼性が高い傾向にあります。

ここで取得・収集される行動データは、プロダクト体験の改善の方向性を示し、ユーザーエンゲージメントを高め、ビジネス成長を促進させる手段の意思決定までの重要なファクトとなります。

プロダクトアナリティクスの全体像

プロダクトアナリティクスの目的

プロダクトアナリティクスでは、仮説を立て、有用なエンゲージメントを測定するために、例えば、月間アクティブユーザー(MAU) による定着率、日別アクティブユーザー(DAU) による定着率、長期にわたる収益率による粘着性、特定のコホート、およびそれらとビジネス指標との関連性などの測定基準を解き明かします。

こうした施策によって、プロダクトマネージャー、プロダクトマーケティングマネジャー、UXデザイナーなどは、課題や機会を観察し、計画を作成し、変更を展開し、成果を測定し、プロダクトグロースのヒントや示唆を得ることができます。

ユーザーインサイトと収益性

これまでプロダクト戦略は、機能が予定通りにリリースされているかどうかで評価されていました。プロダクトアナリティクスにより、プロダクトやUXのチームは、ユーザーエンゲージメントの有効性(プロダクト価値の向上)や、投資収益率(事業収益の向上)をよりよく理解することができます。

アプリ内イベントの追跡から取得されたデータは、プロダクトのどの部分が、どのくらいの頻度で、誰によって使用されているか、また最も重要な成果につながるプロダクト体験の経路がどれかを、プロダクトチームやGTM担当チームが知るのに役立ちます。

プロダクトアナリティクスは誰が担うべきか

プロダクトアナリティクスを「データ分析」と捉えるとエンジニアが担当するイメージが強いかもしれませんが、プロダクトのグロースに直結する分析なので、さまざまな役割の人が行うべきでしょう。

【担当の例】

  • プロダクトマネージャー
  • プロダクトマーケティングマネージャー
  • UXデザイナー
  • エンジニア
  • マーケター

役割によって重要なデータは異なるため、さまざまな立場の人がアクセスできるよう、担当別・目的別に必要なデータをレポート化し、ダッシュボードとして設定するのがおすすめです。

大切なのは、いつでもリアルタイムにデータを見ることができ、データからインサイトの発見や課題の発見を行い、意思決定に必要なファクトを集められる状態やプロセスを作ることです。

担当領域ごとに目的を果たすための環境や基盤を用意し、ユーザーの利用状況を正しく把握して、プロダクト体験の改善・コミュニケーション改善・新規ユーザー獲得・コンバージョン改善・リテンションの発生要因・効果的なキャンペーン施策などにつなげるのです。

プロダクトアナリティクスのステップ

ここからは、プロダクトアナリティクスを実践していく方法について、6つのステップに分けて解説していきます。

STEP1:目的の明確化

プロダクトアナリティクスを始めるにあたり、最初に手をつけるべきは「何を明確にするための分析か?分析結果から何を得たいのか?」を明確にすることです。この目的やゴールが明確にならないまま分析を進めても、遠回りになったり、無駄な時間を使ってしまうことになります。

特にデジタルプロダクトであれば「NSM(North Star Metrics)」といった、事業の成長と顧客価値の最大化を図る指標や、NSMを構成するKPIなど、プロダクトグロースに向けたメトリクスの設定が重要になりますが、プロダクトアナリティクスにおいても、これらのメトリクスの変動やインパクトにつながる行動データを把握し、改善箇所の特定やインサイトの発見につなげることを目的にするケースが挙げられます。

NSMとメトリクスツリー

STEP2:分析プロセスを考える

分析の目的を定めたら、次は分析のプロセス(進め方)の計画を立てます。分析プロセスについては以下の7つの項目に沿って方法を検討します。

  • 分析方法を決める(xx年とyy年のaa数値を比較)
  • 収集するデータを決める(プロダクトの機能bの利用数と離脱数)
  • データの収集方法を決める(SQLでデータを取得)
  • 対応方法を決める(自身で対応するorエンジニアに依頼する)
  • 評価の軸を決める(アクティブ率の上昇or下降トレンド数値)
  • 達成軸を決める(傾向値からアクティブ率が上下トレンドの要因仮説を発見)

手間に見えますが、しっかりと手順を明確にすることでムダな思考時間が削減され、結果としてスムーズに進めることが可能になります。

STEP3:データを集める

プロセスが決まったらデータを集めましょう。データの収集方法については企業ごとにさまざま。自社の環境などに応じてデータの収集方法を事前に定めることが重要です。以下に収集例を記載します。

  • Google Analyticsからイベントをトラッキングする
  • DB(BigQueryなど)にアクセスしSQLなどで抽出する
  • 特定のツールを活用し収集する
  • アンケートを収集する

STEP4:データをビジュアライズする

「データビジュアライゼーション」は、文字と数字で表されるデータを、チャートを用いて表現することです。その目的は、コミュニケーション(情報伝達・対話)の円滑化にあります。

データビジュアライゼーションは、データから読み取れる事実・発見をいかに理解しやすい形式で相手に伝えるかが重要であり、ここで「相手」と表現している中には「自分自身」も含まれます。データと自分自身がコミュニケーションしながら、思考や探索をストレス無く瞬間的に実行するために、データを適した形式でビジュアル化することは、プロダクトアナリティクスでは重要な要素となります。

データビジュアライゼーション例

STEP5:分析の実行

必要なデータを取得し、分析に必要なビジュアライズ化を実行して初めて分析を開始します。

分析の手法はさまざまなものが存在しますが、手法の理解や引き出しを増やしておくことで、データを見たときに「何を把握できそうか」という切り口が多く見えるようになります。

目的 手法
データの差を統計的に比較する ・カイ二乗検定
・t検定
・分散分析
複数データを要約する ・因子分析
データを分類する ・クラスター分析
・潜在クラス分析
データから予測する ・コンジョイント分析
・線形回帰分析

分析を行う際の注意点としては、客観的に判断することです。人間ですから、どうしても自身の都合の良い数値となるような分析を行いたくなりますが、分析の目的は、あくまで結果から次のアクションに繋げることにあります。仮に悪い結果であったとしても、それはそれで発見です。客観性を持って分析にあたるようにしましょう。

STEP6:分析から仮説を立てる

分析を行ったら最初に設定した目的に対して、解を作る必要があります。分析結果を目的に対して応える形に言語化し、それを次のアクションへの意思決定へとつなげていきます。プロダクトの改善や成長を主目的とするなら、以下の例が挙げられます。

  • 数値の変遷から最も摩擦になっているプロダクト体験はどこか?
  • オンボーディング中の離脱箇所は、プロダクトのどこで発生しているか?
  • プロダクト体験の変化は、エンゲージメントやコンバージョンにどのように影響するか?
  • 特定のユーザー行動の背景にあるインサイトは何か?

プロダクト内の行動データ分析から、どのような影響が発生しているのか?行動の背景にあるインサイトや価値、摩擦は何か?について仮説を立てることで、取るべき行動や改善の意思決定に大きな洞察を与えることができます。

データから仮説を導き出し、アクションに繋げる

プロダクトアナリティクスの重要性

プロダクトマネージャー、プロダクトマーケティングマネジャー、UXデザイナーなどにとって、プロダクトアナリティクスは、プロダクトロードマップを構築し、本質的なユーザー体験価値と継続的な改善を促進し、グロースサイクルを回す重要なファクトとなります。

特に昨今のSaaSプロダクトでは、長期的なユーザー価値の提供が前提となっており、イベント、エンゲージメント、ジャーニーなど、より多くの情報や文脈に沿ったインタラクションが意思決定の鍵となります。

有意義なインサイトへの転換は、マルチアプリポートフォリオ(特にプラットフォームやデバイス全体)において特に重要な意味を持ちます。このポートフォリオでは、さまざまなプロダクトデータの追跡と相関関係によって、プロダクト戦略と成長を促進する設計、機能、実験が決まります。

企業は現在、顧客向けに作成したソフトウェアだけでなく、従業員向けのアプリケーションでもプロダクトアナリティクスのメリットを享受しています。プロダクトチーム全体でユーザー体験を最適化するための最良の方法を見出すには、堅牢なアナリティクスが不可欠なのです。

「Product Growth Partnerships」について

グッドパッチでは、プロダクトグロースに向けた支援として、「プロダクトマネジメント」と「プロダクトマーケティング」の両軸でソリューション「Product Growth Partnerships」を提供しています。

成果を最大化させるツールとして、今回の記事でご紹介したプロダクトアナリティクスのプロセス設計やビジュアライズなどの支援を行っております。自社でうまくアナリティクスが活用しきれていない、などの課題を感じている方は、こちらからぜひお問い合わせください!