グッドパッチと電通では、2020年10月より協業プロジェクト「X Design Partner」を提供しています。X Design Partnerとは、デジタル領域での新事業/プロダクトにおける、サービスデザイン・UI/UX開発と、タグライン/キャッチコピー開発およびサービスローンチ後のマーケティングコミュニケーション戦略までを一貫して検討・開発するサービスです。

2021年11月、電通とGoodpatchでは「事業の成長を停滞させるよくある落とし穴」をテーマに、事業・サービス開発によくある課題とアプローチについてお話しました。本記事では、ウェビナーの内容をお届けします。

経営や事業開発において高まるデザインの重要性

グッドパッチ 藤原:
近年さまざまな場面で、経営や事業開発においてデザインが重要であるということが意識されてきています。例えば、グローバルマーケットでのデザイン会社買収の活発化や、2018年の経済産業省特許庁による「デザイン経営」宣言の発表といった出来事がありました。「デザイン経営」宣言では、事業の戦略フェーズからデザイナーを関与させることや、経営陣にデザイン責任者を置くことが推奨されています。また、デザインに投資している企業が4倍の利益を上げているというデータも紹介されています。

同じく2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表しました。そこでベンダー企業において求められる人材として掲げられたのが、ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UXを設計し、要求としてまとめあげる人材。DXは単なるデジタル化ではなく、ユーザー体験にまで踏み込んだデザインによって初めて効果が出る取り組みだという考え方がスタンダードになってきていると感じています。

さらに、Experience Design services =UXデザインの領域は、デジタルエージェンシー市場の中でも最も成長率が高いと言われています。

サービス開発と広告/グロースにおける3つの分断

デザインに注目が集まる一方で、多くの企業では依然としてサービス開発と広告/グロースが別々で検討されているのが現状です。より良いユーザー体験をデザインするには、あらゆるタッチポイントを一気通貫で設計することが重要です。そのため、サービス開発と広告/グロースが別々で検討されていることは企業にとって大きな課題となる可能性があると思います。

ここからは、サービス開発と広告/グロースが別々に検討されていることによって起きている3つの分断についてお話していこうと思います。

まずは、ターゲット/ペルソナの分断です。サービス開発を担当する部門とマーケティングを担当する部門が分かれている組織では、サービス開発時に設計したペルソナがいるにもかかわらず、広告活動時には別のペルソナを設計してしまうというケースもあります。

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次に、コアバリューとメッセージの分断です。サービスのコアバリューと発信するメッセージが一致していないと、メッセージを見たユーザーがサービスに対して期待する価値を、サービス側では提供できず、結果的にユーザーがなかなか定着しないという問題に陥ることもあります。

最後は、投資計画の分断です。サービス開発予算と広告予算が分かれているために、サービス開発の時点では広告投資の設計を見据えることができないというケースは多いのではないでしょうか。これによって、最適な投資計画が設計できないまま事業が進んでしまうことがあると思います。

落とし穴に対する X Design Partner のアプローチ

こういった分断による落とし穴に陥らないための検討・設計の進め方をお話したいと思います。X Design Partner では、グッドパッチと電通が両社の強みを生かし、プロダクトの改善や迅速なグロースを進めていきます。ここからは各フェーズごとに具体的なアプローチを見ていきましょう。

まずグッドパッチで行うのは、ユーザーリサーチです。ユーザーインタビューや観察などを通して、インサイトを得ます。これを踏まえてペルソナを可視化し、事業を推進するチームメンバーとの共通認識を作ります。

グッドパッチがユーザーリサーチを進めている間、電通側ではマーケットリサーチを進めていただきます。独自のデータ基盤を用いて、人の意識や行動を読み解き、ユーザーリサーチと掛け合わせて活用します。必要に応じて、カスタマージャーニーマップの作成やマーケットボリュームの可視化も行います。

次に、リサーチのアウトプットをもとにサービスのコンセプトを設定したあと、グッドパッチが取り組むのはプロトタイプ検証です。素早く制作したプロトタイプを実際のユーザーに使ってみてもらうことで、サービスのコンセプトが受け入れられるのかや、届けたい価値が提供できるのかなどを検証します。

グッドパッチがプロトタイプ検証を進めている間、電通側ではメッセージやイメージボードを作成していただきます。そうすることで共同で設定したサービスコンセプトをいかに表現して届けるのかや、サービスの世界観が伝わるのかなどを同時に検証することができると思います。

最後に、サービスコンセプトを体現する体験を定義できたら、グッドパッチでは体験をソフトウェアに落とし込むためにUIデザインや開発を進めます。

グッドパッチが事業やサービスの開発を進めている間、電通側はサービスの達成すべきビジネス結果を踏まえてコミュニケーション戦略を検討し、施策イメージを膨らませながら具体的な計画を立ていきます。これらのプロセスをグッドパッチと電通が一気通貫で連携しながら進めることで、相乗効果が期待できると考えています。

事業の成長を停滞させるよくある落とし穴

フェーズ1:ユーザーリサーチとマーケットリサーチ

グッドパッチ 藤原:
ここからは、各フェーズにおいて事業を停滞させるよくある落とし穴についてお話しながら、まずはフェーズ1のユーザーリサーチからサービスコンセプトの策定におけるよくある落とし穴について教えてください。

グッドパッチ 米田:
このフェーズでは大きく2つの落とし穴があります。1つ目は、ターゲットユーザーが広すぎることです。ユーザーリサーチを進める中で、さまざまな属性のユーザーがいることが分かり、属性がそれぞれに異なるペルソナをたくさん作ってしまったという例を見かけます。ペルソナを作る目的は、事業推進に関わるチームメンバーでどのような人に向けてサービスを作るのかという共通認識を持ち、メンバーが同じ方向を向いてサービスを作ることです。ペルソナを作るにあたって大事なポイントは、属性ではなく、価値観や考え方を示すことです。これを念頭においてターゲットに最も典型的な価値観や考え方を考えていくと、ペルソナを作りすぎてしまうという落とし穴を避けられるのではないでしょうか。

グッドパッチUXデザイナー 米田

2つ目の落とし穴は、サービスを一言で言い表せないことです。サービスコンセプトを言葉にできないままプロトタイプ検証に進んでしまうと、この落とし穴に陥りやすいと思います。サービスのコンセプトやペルソナは、バウンダリーオブジェクトと言い、異なる人同士やグループ同士が共通認識を持つために作るものです。例えばグッドパッチのクライアントワークにおいては、グッドパッチとクライアント様の間やクライアント様の部署間で共通認識を作ることを大切にしています。これはより良いサービスを作るために行うのですが、その背景として組織を固めることや、コミュニケーションを円滑にするという目的もあるんです。こういった目的を理解してペルソナやコンセプトを作っていくことで落とし穴を避けることができるのではないでしょうか。

電通 濱:
ユーザーリサーチの落とし穴「ターゲットユーザーが広すぎる」、「サービスを一言で言い表せない」と、マーケットリサーチの落とし穴「競合と差別化されないポイントを訴求している」は紐づいていますよね。グッドパッチと電通が各々のプロセスでの落とし穴を挙げたにもかかわらず、ほぼ同じような内容になったということは、やはり協力してサービスを作っていくべきなんだろうなと感じました。

今まで協力できなかった理由は、クライアントの縦割り組織体制にあると考えています。グッドパッチへは開発部やデザイン部から発注が行きますが、我々にはマーケティング部や広告宣伝部から発注が来ます。グッドパッチと電通が一気通貫で事業やサービスの開発を行い、クライアント組織内でハブになることで、そういった縦割り組織体制の橋渡しもできるのではないかと思いました。

グッドパッチ 藤原:
ありがとうございます。先ほどの落とし穴「ターゲットユーザーが広すぎる」、「サービスを一言で言い表せない」とマーケットリサーチの落とし穴は紐づいているというお話がありましたが、マーケットリサーチによくある落とし穴について詳しく教えてください。

電通 濱:
リサーチをかける上で起こりがちなのは、競合と差別化されていないポイントばかりを調査項目に入れ込んでしまうことです。例えばテレビCMであれば広告は15秒程度ですよね。限られた時間で何を伝えるのか、訴求ポイントを取捨選択しなければなりません。取捨選択の結果選ばれたキーコンセプトやキーメッセージが競合と差別化されていないことは、広告にとって致命的です。コミュニケーション戦略を鑑みた事前のリサーチ設計が肝だと思います。

フェーズ2:プロトタイピング検証とメッセージ/イメージボード

グッドパッチ藤原:
それでは、次のサービスコンセプトの決定からMLPの定義までのフェーズでよくある落とし穴について、サービス開発の文脈で教えていただきたいと思います。

グッドパッチ 北村:
このフェーズでは、よくある落とし穴を2つ挙げたいと思います。1つ目は、リリース版に機能を盛り込みすぎてしまうことです。原因としては、ターゲットが広すぎることや、リリース版が完成品だと思い込んでいることがあると思います。この落とし穴を避けるためには、ターゲットユーザーを絞ることと、リリース版はあくまでスタートであるという意識が大切です。MLPはユーザーに愛されるための最小限のサービスという意味ですが、何を持って最小限とするのかはしっかり議論すべき点ですね。例えば、UXピラミッドに当てはめて機能をマッピングしてみて、最小限のラインを探ってみるといいかもしれません。リリース版には当たり前品質に当てはまる機能だけを盛り込むのではなく、魅力品質に当てはまる機能も盛り込みます。

2つ目は、プロトタイピングフェーズがウォーターフォール型で進んでしまうことです。既に要件が確定していて、今後変更する可能性が低いなら、ウォーターフォール型でも問題ないと思います。しかし、作っては壊すを繰り返す仮説検証のプロセスは、ウォーターフォール型と相性がよくないと感じています。ウォーターフォール型で進んでしまう原因としては、社内でアジャイル的な進め方をした経験がないことや、リリースまでの間にユーザーと共にプロトタイプを検証するフローが業務の中にないことがあります。そんな場合には、我々がデザインシンキング的アプローチでお手伝いできればと思います。

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ウォーターフォール型を抜け出すためには、まずはアルファ版、ベータ版を作ってみて、それを限定的なユーザーに使ってもらうという進め方が良いと思います。得られたユーザーの反応をサービスに反映しようと思うと、サービスのコンセプトやターゲットに立ち返ることになります。このフェーズだとまだコンセプトなどを再検討できるタイミングですよね。このようなタイミングをなるべく早く作ることが大切です。

グッドパッチUXデザイナー 北村

グッドパッチ 藤原:
素早く失敗できるっていうのはチャンスがありますよね。では次に、メッセージ策定フェーズでよくある落とし穴について教えてください。

電通 濱:
なんでもかんでも訴求してしまうことです。プロトタイプに機能を盛り込みすぎてしまうというお話に似ていますが、広告においても取捨選択は必須です。さらに、変にアクセントをつけようとして犬やタレントを出演させたために、結局なんのサービスかわからないCMになってしまうこともありますね。

X Design Partner の進め方では、プロトタイピング検証とメッセージ/イメージボード作成を同時期に行います。しかしそうでない場合には、プロトタイピング検証からメッセージ/イメージボード作成までに1〜2年空いてしまうこともあるんです。このことは、開発チームとマーケティングチームは同じ事業やサービスを開発しているはずなのに、開発時に大切にしていたコアバリューと広告時のキャッチコピーが異なるという問題に発展しかねません。広告とは、完成したサービスをマーケティングチームがいきなり見て、作るものではないんですよ。結局のところ、デザインとマーケティング戦略が連携していないと、作ったものが世に出るときに全然魅力的に出ていかないということになります。

フェーズ3:事業/サービスの段階とコミュニケーション戦略

グッドパッチ 藤原:
それでは、最後のフェーズである開発フェーズによくある落とし穴について教えてください。

グッドパッチ 北村:
思ったより工数がかかり、リリース時期に間に合わないことです。初期の工数見積もりの時点で余裕をもったスケジュールを立てることができれば理想ですが、リリース直前の時期に間に合わないと気づいてしまった場合には、予算を使って人員を追加するか、リリース時期を遅らせるか、要件を削ることになります。要件を削ることになれば、本当に必要な機能は何であるかを再検討していきます。要件定義した頃から時間が経ち、世の中の状況が変わっているかもしれないので、改めて本当に必要な機能を再検討することが大切です。

電通 濱:
コミュニケーション戦略の観点では2つよくある落とし穴が挙げられます。1つ目は、開発からグロースにかけてKPIがズレていくことです。KGIはもちろん売り上げなのですが、「こういう機能が使われたらOK」などのKPIを開発の時点で設定しているはずです。しかし、リリースした瞬間に売り上げに結びつかないといけないという考えから、売り上げに直結する機能ばかりを盛り込んでしまう。こうしてペルソナも関係なくなり、差別化される要素もなくなってしまうというのはもったいないと思います。

リリース後に効果検証して欲しいと言われることがありますが、そもそもサービス側で分析するためのデータを取れる設定になっていない場合があります。リリース後に売り上げが伸び悩んでも、その要因を探り当てることができないという状況に陥りかねないので、効果検証やデータの持ち方についても、開発チームとマーケティングチームが一緒に考えるべきところです。

2つ目は、初動のレビューが悪すぎることです。開発チームとは別のところで、突然リリース日が決まるということはよくある話だと思います。レビューが悪くならないためには、開発チームがリリースに関して主導権を握っておいて、サービスに盛り込むべき機能を担保することが大事です。

グッドパッチ 藤原:
ありがとうございます。最後に言い残したことはありますか?

電通 濱:
サービス/事業開発と広告/グロースを連携して進めることが重要だということが伝われば嬉しいです。一緒に進めることを考えれば考えるほど、別々で進められてきた意味がわからなくなってきたと思います。

グッドパッチ 藤原:
どうしたら落とし穴に陥らないかを整理していくと、両社が密に連携すれば多くのことが解決するという気づきがありましたね。

X Design Partner の具体的なプロジェクト内容

グッドパッチ 藤原:
それでは最後に、今後サービスや事業開発を具体的にどうしていこうか悩まれている方に向けて、X Design Partnerでの具体的な進め方のパターンを2通りご紹介します。

1つ目は、新規事業に投資して開発を進めるために必要なサービスデザインのアイデアから、実際のプロダクトのイメージや広告のイメージ、事業計画までの検討を行う場合です。2〜3ヶ月の間チームを組んで、リサーチからターゲット設定、アイディエーションを行いながらプロダクトのコンセプトを策定します。それからコンセプトに基づいたプロトタイプの開発やコミュニケーション戦略の検討、市場ニーズと事業計画の検討までを実施するパターンです。

もう1つは、サービスのアイデアが概ね確定しているパターンです。事業として進めることが決定している状態でUI/UXデザインや開発を行うと同時に、広告やグロース戦略、事業計画の策定を進め、ローンチ後のスムーズなグロースを目指します。このパターンはボリュームがあるので、約6ヶ月から想定しています。チームを組んだらリサーチからターゲット設定、アイディエーションを行い、プロダクトコンセプトを策定します。ここまでは先程のパターンと同じなんですが、それに加えてプロトタイピングから実際に開発までを行ったり、広告のコミュニケーション戦略や投資の計画まで作成します。

紹介した2つのパターン以外でも、柔軟にプロジェクト設計を行っていきますので、少しでも興味を持っていただけた方はご相談いただければと思います。

以上、「事業の成長を停滞させるよくある落とし穴とは?」イベントレポートをお届けしました!

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