はじめに

新規事業で新しいサービスを世に届ける場合、さまざまなアイデアを考え、実際に作り数ヶ月から1年以上かかる場合も多くあります。
その間、実際のターゲットになりえるであろうユーザーにインタビューやプロトタイプを触ってもらい改善を繰り返しサービスの提供価値を磨くことはできますが、本当に使うか?購入するか?という真意はインタビュイー本人もわかっていないことが多くあります。

ユーザーは本当に身銭(お金だけでなく情報や労力なども含む)を切ってまでそのサービスを使いたいと思うか?購入するか?という部分を検証する方法としてプレトタイプという手法があります。

今回は、Goodpatch社内のサブプロジェクトでそのプレトタイプについて実践してみた内容と結果をご紹介します。

プレトタイプとは

プレトタイプのプレには、「〜より前に」という意味と「プリテンド」=ふりをする、という意味が込められており、プロトタイプを作ってしまうと予算と期間がかかってしまうので、その前にプレトタイプを実施しアイデアの確かさを検証しようという考え方です。

プレトタイプでは、サービスを作る前段階のアイデアの状態でサービスがあるかのように装い顧客またはユーザーとなる人がサービスを使うかを検証することができるため、新規事業での不確実性を少しでも下げることができる手法です。

プレトタイプには、8つの型があると言われています。

プレトタイプの8つの型
型名 概要
メカニカル・ターク型 対象となる技術が高価だったり、複雑だったり未完成だったりする際に、その技術で行うはずの機能を人間が密かに行う。サービス利用者に気づかれないように行うことで、このサービスがどのくらいニーズがあるのかを試す。
ピノキオ型 想定しているデバイスの寸法に合わせたモックアップを作り、機能がない状態で数週間本物であるかのように扱い、自分が実際に使いたいと思うかどうか検証する。
ニセの玄関型 どれだけの人に興味を持ってもらえるかを調べる手段として、玄関口を用意し、その製品やサービスが実在するふりをする。どのくらいの人が玄関をノックするか・興味を示すかを試す。
ファサード型 ニセの玄関型のように購入ボタンを設置したウェブページを用意し、ほしいと思って購入ボタンをクリックする人がどのくらい現れるかを検証する。「ニセの玄関型」よりも深く、お客候補が購入したいとノックしてきたときに、誰かが変わりに応答したり、目当てのものを実際に提供することもあり、より多くの情報を得る機会になる。
YouTube型 まだ製品化されていないアイデアや、広く入手できない製品を、ターゲット市場に実感してもらえるような映像を作りどれくらい関心を示してもらえるか試す。
一夜限り型 特定の場所でブースなどを設け期間限定、数時間など意思決定するに十分なデータが集まるまでに比較的短い期間に、実験を行う。
潜入者型 小ロットで作った製品を、同じような製品を扱う他人の販売環境にしのばせ、身銭を切って購入してくれるくらい関心をもつ人がいるかどうかを試す。
ラベル張り替え型 別のラベルを貼り、もとの商品とは異なるものであるように見せかけ、人々が関心をもつかどうかを試す。

※参照:「Google×スタンフォード NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術」

実施したプレトタイプのプロセス

今回のプレトタイプでは、素早くアイデアを形にするフレームワークであるデザインスプリントをベースとして、理解→発散→決定のプロセスでアイデアを詳細化し、手にとって触れるプロトタイプを作成し検証するのではなく、プレトタイプにおけるニセの玄関型となるLPと広告の制作を行い、サービスがすでにある状態を装い検証を実施しました。
実施にあたっては弊社内のビジュアルデザインチームであるTOROメンバーにも協力してもらいコンセプト段階のものをスピーディーにビジュアル化、単純にビジュアル化するだけではなく、2つのセグメントを設けそれぞれにあったビジュアル表現を用い何か差異が生まれるかという観点でも検証を行いました。

pretotype_process

今回は上記の理解〜決定の中で考えたSNSに関わるtoCアプリのアイデアでプレトタイプを実践しました。

プレトタイプ実践準備

プレトタイプ全体設計

今回のニセの玄関型を行うにあたって、ユーザーの接点としては、インスタグラム広告からLP(Notion→Wraptas)そこからダウンロードボタンタップでアンケート回答を実施としました。

身銭を切る部分は、ダウンロードボタンタップでダウンロードしようとする手間とアンケートに回答する手間と定義しています。

pretotype_flow

さらに、検証の中で一部CTAを有料ボタンとして検証し「お金を払うか?」という観点でも検証も実施しました。

pretotype_money

ユーザーセグメント設計

今回のユーザーセグメントとしては、18歳から22歳前後の女性に設定し、更にそこからユーザーの興味で「コスメや美容などの興味が強いガーリーセグメント」と「アニメや音楽などの興味が強いカルチャーセグメント」に分けそれぞれにあったビジュアル表現をデザインしました。
ユーザーセグメントを分けて検証することで今回のサービスが同じ年代の中でもよりどういったユーザーに刺さるかを明らかにする狙いがあります。

pretotype_target

LP制作

検証のための工数を削減するため、今回はNotionと、NotionをベースとしてWebサイトを作成できるWraptasを使いLPを作成しました。

Notion内でLPコンテンツとなる画像の配置やテキストの構成を行い、Wraptas側で簡単なCSSの調整やサイトアクセスの計測を行うためのGoogleTagManagerのタグ追加、A/Bテスト用のGoogleOptimizeのタグを追加しました。

pretotype_wraptas

計測+ダッシュボード設計

今回の検証では下記の観点で計測する必要がありました。

  • LPアクセスの計測:GoogleAnalytics(GTM)
  • Instagram広告の計測:Meta広告マネージャー
  • アンケート回答:アンケートツール

それぞれのダッシュボードを確認し日次、週次でモニタリングする事もできますが、できるだけモニタリングの手間を削減するためにデータポータルを使ってモニタリング用のダッシュボードを作成しました。
※直接データ取得できないツールはスプレッドシートを経由し連携しました。

pretotype_monitoring

プレトタイプ結果

今回は約一ヶ月の期間で広告費用約6万円で実施し、全体を通して以下の結果となりました。
広告CTRは高くないもののLP訪問後のファネルとしては、興味を持って行動を示してくれたユーザーが多くいました。

pretotype_result

全体結果を踏まえ各ファンネル(広告→LP→アンケート)で結果を細かく振り返っていきたいと思います。

1. 広告の結果

広告はユーザーセグメントに合わせて2種類のビジュアルを用意し、以下の観点で比較できる形で配信しました。

pretotype_visual

  • 比較観点
    • ユーザーセグメントで比較
    • ユーザーセグメント×ビジュアルイメージの違いで比較
    • 静止画vs動画で比較

ユーザーセグメントで比較

コスメや美容などの興味が強いガーリーセグメントとアニメや音楽などの興味が強いカルチャーセグメントに分け広告を配信し、考えたアイデアがよりどのセグメントに刺さるアイデアか検証しました。

pretotype_segment

  • 結果:カルチャーセグメントの方がパフォーマンスがいい
    考えたアイデアが女性18歳〜22歳の中でもカルチャーへの興味が強いセグメントの方がよりコアユーザーになる可能性が高いことがわかりました。

ユーザーセグメント×ビジュアルイメージの違いで比較

それぞれのセグメントでピンクとグリーンのビジュアルイメージを作成し配信し、ビジュアルイメージがセグメントに対して意図したとおりに機能しているか検証しました。

pretotype_ad

  • 結果:カルチャー/ピンクの組み合わせが一番パフォーマンスいい。または、セグメントに関わらず全体的にピンクのパフォーマンスがいい
    仮説としては、ガーリーセグメントにはピンク、カルチャーセグメントにはグリーンがパフォーマンスが良いと予想したが、結果としてはピンクのパフォーマンスがよくセグメントにあったビジュアル表現というよりもインスタグラムというプラットフォームにあったビジュアル表現など別の起因もあると考えられます。

静止画vs動画で比較

静止画と動画のストーリーズ広告を配信し、静止画動画でCTR、CPCがどう変わるかを検証しました。

pretotype_movie

  • 結果:静止画の方がパフォーマンスがいい
    ストーリーズという特性上数秒で自分に関わる情報か否かの判断ができる必要があり、動画の再生率を見ても開始3秒の再生閲覧率7.24%と3秒未満でかなりのユーザーが離脱していることがわかりました。
    プレトタイプの学びではないですが、ストーリーズ広告において何かしらアクションを取らせたい場合は静止画で端的に情報を伝えることが不可欠と言えるようです。

2. LPの結果

LPも広告同様ユーザーセグメントに対し2種類のビジュアルを用意し広告に合う形で組み合わせ、以下の観点で比較できる形で検証を行いました。

pretotype_lp

  • 比較観点
    • ユーザーセグメントで比較
    • ユーザーセグメント×ビジュアルイメージの違いで比較
    • 無料 vs 有料で比較
    • ユーザーセグメント×無料・有料で比較

ユーザーセグメントで比較

コスメや美容などの興味が強いガーリーセグメントとアニメや音楽などの興味が強いカルチャーセグメントでどうコンバーションへ影響するか比較しました。

pretotype_lp_segment

  • 結果:広告と同じくカルチャーの方がパフォーマンスいい
    考えたアイデアがよりカルチャーセグメントに刺さっていることがわかりました。

ユーザーセグメント×ビジュアルイメージの違いで比較

各ユーザーセグメントとビジュアルイメージの違いでのコンバージョンへの影響を比較しました。

pretotype_lp_segment_result

  • 結果:カルチャー/グリーンが一番パフォーマンスよく、ガーリー/グリーンが一番悪い
    ピンクはユーザーセグメントに関わらず同等のパフォーマンス(カルチャーセグメントのサービスフィットが高いため同等の結果になっているとも考えられます)
    広告上ではピンクのビジュアルイメージが共通してCTRが高かったですが、LP上ではカルチャーセグメントはグリーン、ガーリーセグメントはピンクとなっておりセグメントと合わせたビジュアルイメージの方がコンバージョンが高い傾向が出ており、ユーザーセグメントに合わせたビジュアル設計の重要性が高いと考えられます。

無料 vs 有料で比較

CTAが無料と有料でどのような影響ができるか比較しました。

pretotype_lp_120

  • 結果:当たり前だが、無料の方がパフォーマンスがいい
    有料でも20%あるので課金してでもDLしてくれる価値がある程度あることがわかりました。
    ※AppStore側でより詳しい情報を見たいというユーザーは一定数いる可能性はあり

ユーザーセグメント×無料・有料で比較

各ユーザーセグメントごとで無料、有料でコンバージョンがどのように変わるか比較しました。

pretotype_lp_120_segument

  • 結果:ガーリーセグメントは無料、有料共に同じパフォーマンス、カルチャーセグメントは有料のパフォーマンスが極端に悪い
    セグメントごとで傾向差が現れており、無料利用でユーザー獲得を増やすならカルチャーセグメントへ訴求し、有料利用で利益上げるならガーリーセグメントへ訴求するとサービス成長に繋げられる可能性があるということがわかりました。

3. アンケートの結果

LPでのダウンロードボタンタップ後のアンケート回答結果です。

  • 回答数:143件(内:ピンクLP 65件 / グリーンLP 78件)
  • 回答結果抜粋
  • 広告タップの理由
    70%のユーザーがアプリで出来ることが魅力的と答えておりアイデアの機能的な側面が刺さっていることがわかりました。
  • pretotype_questionビジュアルイメージごとのまとめ
    ピンクLPからの流入ユーザーは「デザインが良かった」の選択割合がグリーンLPからの流入より多い傾向、グリーンLPからの流入ユーザーは「出来ることが魅力的(機能面)」の選択割合がピンクLPからの流入よりも多い傾向があり、細かく流入セグメントまでは見れていないのですがビジュアルイメージでの違いでの傾向差もありました。
    pretotype_question_sammry
  • 自由記述でのコメント
    アンケート内で自由記述(任意)に関しても、手間がかかるにも関わらずサービスやデザインに対する前向きなコメントをいただくことができました。(143件中15名)
    一方でプレトタイプのためダウンロードできなかったことへのコメントも1件頂きました。
  • 好きなものの情報を追いきれないところがあるので、それの集約に役立つかなと思った

  • 色味などを自分で選べたら良いと思う。今のデザインはかなり女性向けに見えたが、実際にカフェやフェスなどのジャンルなら男性にも需要があると思う。

  • 実際にアプリを見ていないのでなんともいえないのですが、サイトにも「現在サービス検討中です」と分かりやすく主張できるとよいのかなと思いました…!「アプリダウンロード」というボタンを押してこのアンケート画面にとぶと「あれ??アプリまだないの??」となってしまいそうなので…😭

  • サービス開発への協力意向
    今回のアンケートの最後にサービス開発への協力意向の項目を設けました。
    「協力したい22名」、「できれば協力したい52名」の方がアイデア段階であるサービスの協力者となってくれる可能性があり、ユーザー参加型でサービスを構築していくこともプレトタイプの実施の一つの可能性だと言うことがわかりました。
    pretotype_question_ partner

プレトタイプを実施してわかったこと

今回のプレトタイプの実施を通して、プレトタイプでは大きく4つの観点でのメリットがあることがわかりました。

  1. どれくらいのニーズがあるかわかる

    ユーザーセグメントの市場規模×CVRで、コアユーザーのボリュームを出すことができアイデア段階での獲得ユーザーの目星を定量的に把握することができます。もちろんコアユーザー以外のユーザーも見込めるのでこの数字を基準としてサービス利用が見込める市場規模に対して人数を算出する足がかりとしても使えます。

  2. より刺さるユーザーセグメントを見つけることができる

    女性20代×興味でユーザーセグメントごとに検証することでアイデアがより刺さるユーザーセグメント(コアユーザー)を仮説ではなく実数値から明らかにすることができます。
    今回でいうとアニメや漫画などに興味が強いユーザーにより刺さっていたということがわかりました。

  3. ユーザーセグメントごとの特性を明らかにできる

    4roomsではカルチャーセグメントがよりアイデアに刺さっていたが課金して使う率が少なく、サービスの利用率を上げるユーザーセグメントとしてアプローチできる可能性がありました。
    一方、ガーリーセグメントは有料課金率がカルチャーセグメントよりパフォーマンスよく課金転換しやすいユーザーセグメントである可能性がわかりました。
    また、セグメントごとのビジュアルイメージの検証もできるため、初期デザインの方向性を定量的に定めることもできます。

  4. アイデア初期に協力者を獲得できる

    今回のプレトタイプ内のアンケートでは、今後のサービス開発に「協力したい22名」、「できれば協力したい52名」の方の協力を得られる可能性がありました。
    サービスのアイデア段階からニーズを持っているユーザープールを獲得することができ、アイデアのコンセプト検証、デザインプロトタイプ検証などサービス開発を行う各フェーズでより熱の高いユーザーからのフェードバックを得る機会を創出できる可能性があることがわかりました。
    これも素早く市場に出してみるプレトタイプならではのメリットといえます。

まとめ

今回はプレトタイプの中でもニセの玄関型というさもサービスがあるかのような設計でアイデアの検証を行ってみました。
先にまとめたプレトタイプの有用性がある一方で、ニセの玄関型ではユーザーの興味を知ることに留まってしまい、アイデアを磨く際の方向を見出すことはできても、尖らせ方や磨き方の学びは少なかった様に思います。
また、興味を持ってくれたユーザーを少なからず騙してしまっている部分もあります。

プレトタイプの理想としては、単にニセの玄関型でユーザーの反応を見るだけでなく、ファサード型のようにその先に擬似的な体験を用意しておくことで実際に疑似体験してみてどうだったかを検証することができます。それらによりサービスを出す前にいわゆる累積的UXまでの検証を行うことができ、よりサービス改善の学びに変えることができます。さらにユーザーを騙さず擬似的にでも体験してもらえるプロセスを構築できる可能性があるとも思っています。

Goodpatchでは、クライアントの新規事業創出に関わることも多く、より確度の高いアイデアやユーザーにとって本当に必要なサービス構築を模索しながらも実施しています。
その中ではデザインスプリントや今回のプレトタイプなどの手法も有効ではあるので興味がある方はぜひお問い合わせ頂きより詳しくお話できればと思っています。

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