2022年3月24日に、オンラインウェビナー「ベンチャービルディングとは?〜Goodpatch グローバルベンチャーデザインが切り開く日本企業の未来〜」を開催し、グッドパッチ 取締役執行役員の實方(じつかた)ボリスが登壇しました。

ウェビナー当日はベンチャービルディングについてやGoodpatchの取り組み、日本企業の海外展開における新たなアプローチの重要性についてご紹介。本記事では各登壇者による講演とパネルディスカッションの様子をお届けします。

登壇者紹介(敬称略)

實方 ボリス(株式会社グッドパッチ 取締役執行役員)
グッドパッチの取締役執行役員として、ヨーロッパでの事業を含め、ベンチャービルディングの実践を含むグッドパッチのグローバル戦略及び事業を統括。日本企業やグローバル企業に対するベンチャー構築の実績を持つ。
Linkedin:https://www.linkedin.com/in/borisjitsukata

クリスティアン・ゴイエッケ(ブランド&デザインストラテジスト)
現在ベルリンを拠点に活動するブランドとデザインストラテジスト。日本で7年間、日産自動車などでグローバルな企画・調査に携わり、2016年からヨーロッパとアジアでのブランドコンサルティングにフォーカス。 企業がいかにして変革し、創造的になり、オーディエンスをよりワクワクさせることができるかを見極めることに専念している。
Linkedin:https://www.linkedin.com/in/geuecke/

渡邊 忠(日本特殊陶業株式会社ベンチャーラボ イノベーションマネージャー)
ドイツ・デュッセルドルフを拠点とするNGKベンチャーラボのイノベーションマネージャーであり、ベンチャー・ビルディングの初期段階を監督。NGKのグローバルのベンチャービルディング活動を紹介することを楽しみにしている。

セッションレポート

ベンチャービルディングとは

實方ボリス(以下、ボリス):ベンチャービルディングは、大胆で危険な旅という意味の “Venture” と、作る・立ち上げるという意味の “Building” が組み合わさっています。リスクを最小限に抑えて大胆な旅を管理して、最終的に新規事業を立ち上げることこそが、ベンチャービルディングの手法なのです。

ベンチャービルディングがなぜ日本の企業に必要なのかというと、縮小する日本市場の中で、海外市場を見なければいけなくなったからです。一方で、日本の企業はまず国内市場に集中する傾向にあるため、新しい市場への参入やデジタル化への対応が遅れています。そのギャップを埋めるのが、ベンチャービルディングの大きな役割だと思っています。ベンチャービルディングは、企業がイノベーティブになるための有効な手法の1つなのです。

グローバルで見ると日本企業の競争力は下がっていて、その理由は2つ考えられます。1つは、急速に変化するデジタルビジネスモデルを革新する必要性に対し、それを構築する能力に課題があること。もう一つは、グローバリゼーションです。多くの企業が、日本以外の市場へ展開できるものを作ることに苦戦しています。この課題に対する対応策として、コーポレートベンチャービルディングはとても有効です。

ベンチャービルディングが進化するまでの4つの過程

ボリス:ベンチャービルディングがどのように進化してきたのか見ていきましょう。まずは、インキュベーター/アクセラレーターとして、シリコンバレーのIdeaLabY Combinatorがあげられます。彼らのアプローチは、ハリウッドスタジオの手法に似ています。

ハリウッドでは照明や音響などのインフラを共有化して同時多発的に映画の制作を行うように、スタートアップスタジオでも同じようにバックエンドやフロントエンド、資本などの共有インフラを構築して同時多発的にスタートアップのアイディアを売っています。

IdeaLabやY Combinatorが行っているオリジナルのアプローチをより大きなスケールで用いられているのが、betaworksRAINMAKINGROCKET INTERNETなどの企業やベンチャービルダーです。その後、ベンチャーキャピタルやスタートアップスタジオ、コーポレートベンチャービルダー(CVB)のように、広がりを見せています。

クリスティアン・ゴイエッケ(以下、クリスティアン):マトリクスから、それぞれのアプローチ方法がどのように違うのか見ていきましょう。

コーポレートベンチャービルダーでは、スタート地点のアイディアの創出からベンチャーをリードするところまでカバーできるので、企業としてはコアコンピテンシー、すなわち企業の強みとなる共有サービスやメソドロジー(方法論)、タレントを揃えることができます。アクセラレーター/インキュベーターやベンチャーキャピタルは他と比べると、資本金探しがメインになっていることがわかります。

ボリス:ベンチャーキャピタルは日本で非常に受け入れられていますが、ベンチャーキャピタルを運営する企業がベンチャー企業の方向性を決められない点はデメリットだと思います。また、時間やお金の投資に対して所有権がほとんどないことも不利に働いている点の一つです。アクセラレーター/インキュベーターはメソドロジーに沿ってベンチャーを立ち上げる能力があるので、ベンチャーキャピタルよりもコントロール性は高いですが、コーポレートベンチャービルダーに比べると低いです。

また、M&AやR&Dのアプローチ方法と比較して見ることもできます。M&Aは買収後は比較的コントロールできますが、自社で受け入れるまで時間とお金がかかります。R&Dは新しいことを考案する一つの手法として有効ですが、時間とお金がかかり、マーケットのニーズから離れている場合も多いです。コーポレートベンチャービルダーはR&Dのライトバージョンですが、R&Dがプロダクト中心の設計なのに対し、コーポレートベンチャービルダーは常にユーザー中心の設計です。

クリスチャン:コーポレートベンチャービルディングにデメリットはありますか?

ボリス:「成功するビジネスを行おうとしていることを明確にする必要がある」ということです。企業内で、成功するビジネスを行うためには失敗は避けられないものの、失敗は良いことだという習慣がまだないので、チャレンジする必要があります。

Goodpatch グローバルベンチャーデザインで大切にしていること

ボリス:グッドパッチは元々デザインの会社としてスタートしましが、近年はデザインの担当する範囲がビジネスまで広がり、コーポレートベンチャービルディングの手法を用いた「Goodpatch グローバルベンチャーデザイン」の提供を本格的に開始しています。

Goodpatch グローバルベンチャーデザインの詳細については、下記をご覧ください。

・グッドパッチ、「Goodpatch グローバルベンチャーデザイン」を本格提供開始https://goodpatch.com/news/global-venture-design

・パートナーの新規事業を共に創る、Goodpatch グローバルベンチャーデザイン始動
https://goodpatch.com/blog/goodpatch-global-venture-design.


プロセスは主に発掘・構築・スケールの3つのフェーズに分けられます。発掘のフェーズでは、「ラフなアイディアは何か」「解決すべき問題は何か」を把握して、3ヶ月以内にプロトタイプを作り出します。構築のフェーズでは、プロトタイプの反復・テストを繰り返して、最終的に市場化することを目指します。プロダクトとマーケットをフィットさせることがメインのこのアプローチは、一般的に
MLPと呼ばれています。そして最後にスケールして、ビジネスとして立ち上げることを大事にしているのです。

特に、最初の発掘のステップは非常に重要です。ラフなアイディアからプロトタイプを作成し、次のフェーズでたとえ中止の判断が出たとしても、次回のプロジェクトで活かせるので、その決断にも価値があると思っています。

発掘のフェーズではユーザーやデザイン領域を知るだけでなく、解決すべき問題を明確にする必要があります。また、構築のフェーズでは一歩下がったり、振り出しにもどって課題を設定してから、ソリューションを掘り出すことが重要です。スケールのフェーズではマーケティングや営業活動が重要になり、組織構造も明確になっていきます。

チームビルディングについてお話しすると、それぞれのフェーズで重要なメンバーは異なります。コーポレートベンチャービルダーを用いることで、マネジメントやデザイン、開発に関わるメンバーをアウトソース化することができます。

ベンチャーはユーザーの視点からビジネスモデルを考えなければならないと考えていますが、グッドパッチのコーポレートベンチャービルディングでは環境も大切です。サーキュラーエコノミーの観点から、環境やコミュニティにどのような影響を与えるのかを考えながらベンチャーを立ち上げるのが重要なのです。

否認された事業アイデアも無駄にはならない

ウェビナー後半では、NGKベンチャーラボのイノベーションマネージャーである渡邊さんに、NGKのグローバルのベンチャービルディング活動についてご紹介いただきました。

渡邊 忠(以下、渡邊):日本特殊陶業は創立86年のセラミックがメインの会社で、海外に39拠点を持つグローバルな企業です。歴史がある分、自動車部品サプライヤーとして名前を知られていますが、それ以上に社名やブランド、活動を広げられないというジレンマに悩まされています。

自動車の内燃向けの製品が主力で、売り上げの80%以上を占めているため、EV(電気自動車)化にて不要になる部品の主要サプライヤーで我が社があげられるような厳しい状況にあります。

2030年までに従来の業域から脱却して、内燃機関に関わらない事業を設立することが急務となっているため、現在私が所属している「ベンチャーラボ」という組織がグローバルに発足しました。イノベーションが活発なエリアに拠点を置くことになり、ドイツのラーティンゲンではヨーロッパ、アフリカの拠点の役割を果たし、他にも東京やシリコンバレーにもヘッドを置き、現地に密着して新規事業の探索をスピーディに行っています。

ただ、小規模の独立拠点はスピードを出すリソースがないため、マーケットリサーチをして終わりになっていたところがたくさんありました。何が足りないのか考えたところ、「スタートアップや通信医療とのネットワーク不足」「エンドユーザーとのつながり不足」「トレンド知見不足」「UXや財務アナリストなどのスペシャリスト不足」などが明らかに。この不足しているものを獲得していくことになりました。

実際に自社だけでやろうとすると、ネットワークや知見が足りずターゲットにリーチができなかったり、社内調整に時間がかかったり、起業ノウハウが足りなかったりするため、ベンチャービルディングの力を借りることになったのです。頑張れば社内でも進められたかもしれないですが、大事なのはスピード感だったので、全般的なカバー+高速回転を狙って実施しました。

 

最初の1か月間は、ビジョンやKPI、クライテリアについて議論したり、社外エキスパートとのインタビューを実施したり、プライオリティ付けをしたりして、ビジネスモデルを検討するに値する市場かどうかの検討をやり切りました。その結果、最終的には13の魅力的な事業領域を見つけることができたのです。

その次の3ヶ月は、事業検証に値するかを検証するため、仮説を立てて検証をしてブラッシュアップする一連の流れを行い、ビジネスの予測の仮説を立てて事業検証の主要仮説として提案していきました。

最初のアイディア募集で60ほどの事業ヒントが出てきて、13領域に絞られ、そこから最終的には3つの事業アイデアが出てきました。1つはすでに事業承認されているので、4月からスタートを切る予定です。1つはシナジーが薄いという理由で、もう1つは4〜5年かかりそうという理由で否認されましたが、知見をフィードバックして追加アイデアを加え、3ヶ月ほどで再度事業提案を予定しているので、チャレンジは無駄にならないと思っています。

ベンチャービルディングがもたらす価値

渡邊:最後に簡単にまとめさせていただくと、我々ベンチャーラボは本体から離れた組織でスピードが重要なため、ひとつの手段としてベンチャービルディングのパートナーと手組することにしました。

手組みの際には、自分たちに欠けてるものを分析し、何をパートナーに期待するのかを明示すること。また、プロジェクトで得た知見は必ず次の回転にフィードバックしていくことがとても重要です。ベンチャービルディングにご興味のある方は、今回お話しした内容をもとにぜひ事業をスケールさせていってください。

関連リンク

Goodpatch グローバルベンチャーデザイン サービスページ
アプローチやケーススタディを掲載しています。
https://global.goodpatch.com/offerings/venture-design

サービスに興味のある方は、こちらよりボリスとカジュアル面談でお話ししましょう!

採用情報
また本サービスを拡大させていくために、一緒に働いてもらえる仲間も募集しています。国内外の企業のグローバル化やデジタル化の支援に興味がある方、下記の求人ページよりご応募お待ちしております。

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また上記に該当する職種がない場合は、オープンポジションよりお気軽にご連絡ください。