あなたの大好きなプロダクトを滅ぼす「もっとも危険なモノ」とは?
この記事ではプロダクトを作っているプロにとって恐ろしい話をしますが、みなさん、心の準備はできていますか?
タイトルのとおり、今日のテーマはみなさんの大切なプロダクトを殺す、かなり危険なものです。しかし、タイトルの謎を解く前にみなさんにお尋ねします。
プロダクトにとってもっとも危機なモノは何だと思いますか?
- 予算の不足
- 時間の不足
- 人材の不足
いま、頭の中では上記のようなリソースをめぐる「足りない」状況が浮かんでいるかもしれませんね。
たしかに、納期に追われたり締め切りやリソース不足によって、プロダクトづくりが難しくなることはよくあります。ただ、人やお金、時間が十分でなくても、世界を変える革新的なプロダクトを生み出した「ガレージ開発」のようなスタートアップが少なくありません。また、大企業で何万人のスタッフや何千万円の予算をかかえていても、与えられたリソースに満足しているプロダクトマネージャーを見たことはありません。
では、プロダクトにもっとも危険なものとはなんでしょうか?
それは「自信」です!
「自信っていいものじゃないの!?」と思うかもしれませんね。
そもそも自信がない人は自分のアイデアを実現しようとしないし、革新的なプロダクトで世界を変えたフェイスブックのザッカーバーグ氏やアップルのスティーブ・ジョブス氏などは自信満々の人たちだし・・・確かに有名な起業家からは、自信満々のプロダクト作りのスーパーヒーローのイメージが思い浮かぶでしょう。
目次
起業家の夢と「幻のアイデア」神話
ボロボロのジーパンやセーターを着ている若い男たち。彼女にふられて失意の中、思いついた一つの素晴らしいアイデアに夢中になり、両親のガレージでプロダクトを作った。そしてそれが大当たり、いつしか経営者として大企業を成長させていた・・・映画ではよく見られる「一夜にして成功を手に入れたスーパー起業家」のストーリーですね。
自分のアイデアで世界を変えようと精一杯頑張っているプロダクト作りのプロ(皆さんのことです!)にとっては夢のような話ですよね。しかし、これは所詮、夢ものがたりにすぎません!
だいたい、映画は「つまらない」ところをカットし、「面白い」ところしか語らないものです。スーパー起業家の話では、「幻のアイデア」を生み出すヒーローたちの苦労と成功した後にお金や人間関係をめぐる問題は、「面白い」ところとしてたっぷり描かれる一方、アイデアからビジネス成功までの話は「つまらない」から早送りされることが多いです。
しかし、リーンスタートアップ方式を生み出したエリックリース氏が言う通り、現実では映画でカットされる「つまらない」ところがプロダクト作りにおいてもっとも重要な期間です。ただのアイデアを実際のプロダクトやサービス、むしろ持続可能なビジネスに成長させる実作業期間だからです。
もちろん、フェイスブック社やアップル社のような何千億円のビジネスは、映画で描かれているように簡単に作れないということは、プロダクト開発に日々携わっているみなさんこそよくご存知でしょう。一夜での成功というよりも、何年間もコツコツとプロダクトを開発してきたからこその結果であるのは当然です。
ただ「一夜での成功」以外にももう一つ、起業家の夢の話には危険な落とし穴が隠されています。それは、「幻のアイデア」の神話です。
もちろん、アイデアは重要です。アイデアがなければ、何も始まりません。ただ、素晴らしいアイデアさえあれば絶対成功するとは限りません。
統計を見てみましょう。新しいプロダクトやサービスの9割が失敗する。言い換えると、自分のアイデアを実現としようとする人が10人いたら、そのアイデアを持続性のあるビジネスにできるのはたった1人しかいないということです。
いま、「結局、他の9人のアイデアはそれほど素晴らしくなかったってことなのでは?」と思っているみなさんは、危険です!
危険な考え方|「自分がユーザーだから」
幻のアイデア神話の中でも特に危険な考え方を1つご紹介しましょう。それは、「自分の問題を解決するために作ったのだからユーザーを理解する必要はない。自分がユーザーだから。」という考え方です。
たしかに大成功した会社の中には、起業者自身がぶつかった課題を解決しようとしたから生まれたという例が少なくありません。
ステファン・ウォズニアックがコンピューターを欲しがっていたからアップルが生まれました。
ラリーページとセルゲイブリンはウェブで情報を見つけられなかったのでグーグルを立ち上げました。
サビール・バティアとジャック・スミスは職場でメールを配信できなかったため、ホットメールを作りました。
ただ、ここにも自信の落とし穴がいくつか見え隠れしています。
まず、自分がある問題を抱えているとしても、自分以外の人も同じ問題を抱えているとは限りません。そして、もし他の人も同じ問題を抱えていたとしても、その人たちがどのくらいいるか(市場規模)を確認しないといけません。ターゲットになれそうな人が少なく、市場がニッチすぎると、ソリューションへ投資してもそこから持続性のあるビジネスが成長させられないのです。
市場規模とともに競争の現状も徹底的にリサーチすべきです。自分では、問題を抱えていてソリューションがないと思い込んでも、実は他の人がその問題をすでに解決していたというケースが意外と多いからです。
ターゲット市場規模や競争の現状を把握し、持続性のあるビジネスを作れそうに見えてきたら、「よし!安心してプロダクトを作れるぞ!」と思った方、大間違いです。
ここまではニーズの確認だけです。
ここからは上記に説明した通り、ユーザーの声を丁寧に取り入れながら「作る・測る・学ぶ」というサイクルを回して仮説を一つずつ確認するプロセスに従うべきです。あなたが、ユーザーと同じ問題を抱えていても、イメージしているソリューションが最適であるとは限らないのです。「もとは自分の悩みを解決しようとしているのだから、最適なソリューションを一番わかっているのはオレだ」という風に考えがちですが、最終的にお金を払ってプロダクトを使うのはあなたではなく、ユーザーであるため、彼らのニーズに合わせたソリューションを生み出すべきなのです。
それに、自分で作ったソリューションを客観的に判断することは非常に難しいです。ほぼ無理といっても言い過ぎではないでしょう。素晴らしいプロダクトを生み出すためには、作り手のバイアスがない評価が必要不可欠です。そのため、作るプロセスに関わっていないユーザーの声(または行為)を常に参考にするべきです。ちなみに、「プロダクト開発の議論において社内テストにはあまり頼らないほうがいい」と一般的に言われるのもこれと同じ理由によるものです。
あなたのプロダクトはこの様なパターンに当てはまっていませんか?
自らのアイデアに溺れないためにプロダクト作りのプロが考えるべきこととは
「幻のアイデア」の落とし穴の危険を理解するために、まずは、成功したプロダクト(ビジネス)の特徴をもう一度考えましょう。
当たり前のことを言ってしまって申し訳ありませんが、成功したプロダクトのもっとも重要な特徴はユーザー(お客様)がいることです。ユーザーがいないと、お金が入ってこなくてそもそもビジネスにならいからです。
では、ユーザーを集められるプロダクトはどのようなものでしょうか?
以前の記事で説明したように、ユーザーに愛されるためには、プロダクトがユーザーが抱えている問題を解決する、ニーズに応えるものであるべきです。
「当然だよ。私のアイデアはユーザーのニーズに応え、多くの人をハッピーにするから、心配いらない」と思ったみなさんに質問です・・・
好きな人にプレゼントを渡したことはありますか?
何週間もかけていろんなお店やウェブストアで探し、やっとのことで完璧な、完璧すぎるプレゼントを見つけた。「これよりいいプレゼントがない!」と自信満々で家族や恋人へプレゼントをあげたのに、「んー。ありがとうね。ちなみに、何これ?」と明らかに反応がイマイチ。プレゼントが気に入らなかったり返事に困っている相手の様子に心が折れた・・・という経験をした方も多いのではないでしょうか。
自分が「絶対にいける!」と思ったとしても、相手がそう思うとは限らないということです。
プロダクト作りも一緒です。
自分のアイデアがどんなに素晴らしいと思っても、他の人も同じように思えなければ成功はできません。そして残念ながら、実際のところみんなに素晴らしいアイデアと受け取られるケースは非常に少ないのです。モダンメッセージ社のCTOに勤めているダニエル・ミラー氏はこう語ります。
「あなたがどれほど賢く経験豊富であっても、またそのアイデアがどんなにスマートでしっかりと考え抜かれたものであっても、ユーザーと接触して生き残れない場合がほとんどです。」
そしてミラー氏の経験を裏付ける統計が存在します。シリコンバレーのスタートアップの調査レポートによると、スタートアップが失敗するもっとも多くの原因(42-52%)は「誰もいらないものを作ってしまったこと」だったのです。
もちろん、失敗したスタートアップだってわざと誰も必要としないものを作ろうとしたわけではないでしょう。自分のアイデアが多くの人をハッピーにすると心から信じて、プロダクトやサービスを一生懸命考えて作ったに違いありません。
リーンスタートアップ方式を生み出したエリック・リース氏は、まさに同じ壁に何度もぶつかりました。彼はパートナーと一緒に立ち上げた最初のスタートアップが失敗した後、新しいチームで10代向けのアバターを利用したインスタントメッセージングサービスを作ろうとしました。ユーザーたちのニーズや状況、市場の現状などをまとめた上でビジネスプランを練り、そのニーズに応える具体的なソリューションをプランニングしました。リース氏たちのアイデアはチームや投資家の心を揺さぶり、支援を受けられるようになりました。ところが、半年かけて25,000行のコードを書き開発したプロダクトをユーザーに使ってもらおうとしたところ、誰も(ユーザーテストでお金をもらっても!)プロダクトを試そうしなかったというのです。
その原因とは?
ユーザーのニーズや悩みは、自分が思い込んだことと全く違ったのです。
結果的に、半年の仕事を丸ごと捨てるしかありませんでした。
「ユーザーが私たちのビジネスプランを読んで、その通り動いてくれれば最高ですが、残念ながら、そんなことはほとんどありません。」と、リース氏はプロダクト作りのプロがよく経験するフラストレーションをまとめています。
この話には「幻のアイデア」の神話の悪影響が現れています。素晴らしいアイデアさえあれば必ず成功すると。最終的にプロダクトを使ってほしいユーザーへの理解や共感よりも一人のアイデアを成功のキーにすることによって、自分の限定的な知識や経験に自信(!)を持たされ、ユーザー不在の空間でプロダクトを作るプロセスが進んでしまいます。
もしユーザーやそのユーザーが価値を感じているソリューションをよく理解しているのであれば、自信をもってどんどんそのソリューションを作って良いでしょう。
でも、よく考えてみてください。特にデジタル領域でプロダクトを作っている私たちの環境には、確実に分かっているものというのは非常に少ないでしょう。めまぐるしく変化する環境で、かつ熾烈な競争にさらされる中、最適なソリューションはもちろん、ユーザーのニーズや要求もはっきりと見えていない場合がほとんどではないでしょうか。
このような環境で、
- 知識より疑問
- 決定より仮説
- 自信より謙虚
を意識するほうが成功と繋がるでしょう。
プロダクト作りを成功へと導く謙虚なプロセスとは
これまでお話してきたことは、実際のプロダクト開発のプロセスに大きな影響を与えます。
まずは、自身のアイデアやユーザーと市場に関する知識に自信過剰なプロセスを考えてみましょう。
このプロセスの目的は、「プロダクトをできるだけ効率よく完成させること」です。自分なりに重要だと思う機能をまとめた後に、それらの機能をデザイナーにデザインしてもらいます。デザインが確定したら、エンジニアに実装してもらうという直線的な流れが多いです。
多分みなさんは自分のアイデアを実現することよりも、社長や役員など(自信満々の)プロダクトオーナーのアイデアを実現することの方が多いでしょう。
- 上司:「最近流行っているゆるキャラ可愛いよね。うちのプロダクトにもゆるキャラをどっかに追加しようよ!」
- エンジニア:「このナビゲーションバーからぶら下がっているキャラクターは何?・・・必要?」
この様なトップダウンのアイデアに頭を抱えることはあっても、基本的に企画から完成までプロセスが邪魔されることは少ないでしょう。
でも、プロダクトオーナーが描いたビジョンが完璧に実現した暁には、リリースしたプロダクトを使ったユーザーから大喜びの声が届く・・・というようなハッピーエンドが待っている確率は非常に小さいのです。
現実は厳しいです。たくさんのコストや時間をかけたあげくに、思ったほどユーザーが飛びつかない、予定した料金を払ってくれない、「このキャラクターって意味不明」とネガティブなフィードバックばかりが届くという残念な結果になるでしょう。自信満々だったのに・・・
では、過剰な自信のない、謙虚なプロセスとはどういうものでしょうか?
確実にわかっていることはない、という前提で、最初はリサーチからスタートします。リサーチはネットで記事2,3本を読むという意味ではありません。オフィスから出てユーザーになりそうな人たちと積極的に話しましょう。ちなみに、この時点では、自分のプロダクトアイデアについての話ではなく、ユーザーのニーズや抱えている問題、そしてその問題を解決するために現在使っているソリューションについてヒアリングします。
頭の中に、ターゲットユーザーについての知識やイメージがあると思うので、それを「うちのターゲットユーザーは問題Aを抱えている」、「目的Bを目指している」、「タスクCをこなしたい」など、様々な「仮説」として書き出してもいいでしょう。ただ、あくまでも確認すべき仮説にすぎません!
ユーザーについて、また彼らが抱えている課題をより深く理解できたら、解決したい課題を一つに絞ってソリューションを考えましょう。従来の自信満々のプロセスでは、ここからは自分が正しいと考えるソリューションをどんどん作り上げていきましたが、謙虚なのプロセスでは違います。ユーザーの問題(ニーズや悩み)と同じようにソリューションのアイデアも「確定」ではなく、あくまでも「確認すべき仮説」として考えるのです。そのため、プロトタイプやランディングページなどできるだけ簡単な安い方法で作り、様々なソリューション案やデザインをテストしないとけません。「作る・測る・学ぶ」というサイクルを繰り返すことによって、だんだんユーザーにとって最適なソリューションに近づいていきます。
ユーザーに愛されるプロダクトのためのプロセスを詳しく知りたい方は、こちらに詳しくまとめています!
プロダクト作りのプロにとって、上記のプロセスは非常に辛いものです。アイデアフェーズからユーザーの声を拾うことで、自分の素晴らしい(と思った)アイデアが、残念ながらそれほど優れていないということがすぐにわかってしまうからです。自分の仮説を確認すればするほど、自分の主観と客観が違うということを何度も経験してしまうでしょう。
自信喪失してしまいそう・・・?
それは違います!
リーソスや時間をかけて心を込めて作ったものがダメだと最後の最後までわからないことよりも、より安くより早く失敗を繰り返し、ユーザーについて学びながら最後に成功するものを作ったほうが、プロダクト作りのプロとして自信になるはずです。
すべてはユーザーを喜ばせるために
全ての「知識」を「仮説」に考えなおす。
ユーザーと切れ目なくコミュニケーションをとる。
自分のアイデアを最初から現実にぶつけ、何回も失敗を繰り返す。
それは非常に大変な作業です。
ただ、「ユーザーに愛される革新的なプロダクトを生み出したい」と願うプロダクト作りのプロにとって、やり甲斐のある作業には違いありません!
家族や恋人にプレゼントすることと一緒です。目的は、自分が完璧だと思っているプレゼントを見つけることではなく相手を喜ばせることであり、相手にとっての完璧なプレゼントを見つけなくてはいけません。そのために、相手を徹底的に知るべきです。「何が欲しいの」と聞くという方法以外にも、ショッピングする時に彼が何を手にとっているかを(怪しくなく!)観察したり、日常会話から相手が最近興味を持っていることについてヒントをピックアップしたりすることも、素晴らしいサプライズにつながるでしょう。
ユーザーを最終的に喜ばせることも同じです。ユーザーを徹底的に知ろうとするマインドセットとプロセスが必要です。「幻のアイデア」への過剰な自信を捨ててユーザーのニーズに耳を傾け、本当の価値を生み出しましょう。
(今回の記事はリーンスタートアップのエリック・リースさんのさまざまな書籍やスピーチにインスパイアーされました。ぜひみなさん、エリック氏のコンテンツも参考にしてください!)