「ユーザーインタビューをする際に、被験者に対して『それはなぜですか?』という質問をしてはいけない」

UXデザインやユーザーリサーチに携わったことがある方は、このようなナレッジを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

ユーザーリサーチについて書かれた文献の中でも、インタビュー中に「なぜ?」と質問するのはタブーであると書かれていることがあります。しかし、そもそも「なぜ?」とユーザーに聞いてはいけない理由は何なのかについて、いまいち腑に落ちない方も多いと思います。本ブログではこの点を深掘りしながら、ユーザーインタビューにおける「なぜ?」という質問の扱い方について見ていきます。

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「なぜ?」を聞いてはいけない理由を探る

例えば「ユーザビリティエンジニアリング/橋本徹也 著」では以下のように書かれています。

「なぜ○○しないのですか?はインタビューの禁句です。この問いかけはユーザに”分析”を依頼していることになるからです。

 あなたが「なぜ?」を聞くとユーザは「うーん」といいながら下を向くことが多いはずです。それは考えて(=分析して)いるからです。

一方、あなたが「その時のこと」を聞くとユーザは「えーと」といいながら上を向くことが多いはずです。それは考えて(=思い出して)いるからです

 インタビューとはユーザから答えを教えてもらう場ではありません。答えを導き出すのは、あなたの役目です。

ユーザに聞かなくても、ユーザの体験を把握すれば「なぜ?」は自然と理解できるようになります。」(P42)

インタビューの被験者にはあくまでも行動・思考・感情などを聞くだけに留め、それらを被験者に分析させるようなことはしてはいけない、ということが書かれています。

この考えを理解するために、少し脱線してみようと思います。

ユーザはつい自分の行動を正当化してしまう

実験心理学者のペター・ヨハンソン等の行った実験によると、人間は自分の発言をついつい知らない間に正当化してしまうことが明らかになっています。

この実験では、実験の実施者が被験者に対して、被験者の恋愛対象となる性別の2名の写真を見せてどちらをより魅力的と感じるか選んでもらいます。そして、魅力的と選んだ方の人物の写真を被験者に手渡し、なぜその人を魅力的と思ったかを説明してもらいます。ただし、実は実験実施者はマジシャンで、被験者が気づかない間に魅力的じゃないと答えた方の写真と差し替えて被験者に渡します。それでも被験者は気がつかず、見せてもらった方の写真を見ながらなぜ魅力的かと思ったかを語ります。極端なケースだと「私がこの人を選んだのはブロンドヘアーだからです」と言っていても、本当に選んだ女性の髪がブルネットヘアーだったりすることもあるそうです。

参考:我々は自分の行動理由を本当に分かっているのか(Ted Talk)

たしかに、このような咄嗟の判断や行動についてははっきりとした理由がないことが多く、それに対して「なぜ?」と聞くのは良くないような気がします。一方で、ユーザーインタビューの中で被験者の行動・思考・感情などを把握しようと思うと、ついつい「なぜ?」と質問したくなってしまいます。

ここでさらに脱線して、様々なリサーチ手法におけるユーザーインタビューの位置付けについても整理してみたいと思います。

デザインプロセス上の各種リサーチ手法におけるインタビューの位置付け

Goodpatchにおいては次のようなデザインプロセスを取ることが多いです。
(デザインプロセスに沿って実践的なナレッジを紹介しているこちらの記事もよければご覧ください!)

このようなプロセスにおいてリサーチは以下の2種類に分類されます。

  • Problemフェーズで行う「探索型リサーチ」
    • ユーザーとその行動や文脈及び環境を理解してどのような価値を提供できるのかを調べるためのリサーチ
  • Developmentフェーズで行う「検証型リサーチ」
    • プロダクトやサービスがある程度の形になったタイミングでそれらをユーザーが使えるか調べるためのリサーチ

Problemフェーズ、Developmentフェーズのどちらでもインタビューを行うことはありますが、今回は特にじっくりとデプスインタビューを行う場合が多いProblemフェーズに絞ってお話します。

優れた体験のプロダクト/サービスを提供するにはプロダクト/サービスをデザインする際にユーザーにどのような行動・思考・感情が喚起されることが理想なのかを最初に定義します。一般的にUXデザインと呼ばれている部分です。Problemフェーズでは、その理想を定義するための礎として、まずは現状のユーザーの「行動・思考・感情」を理解するためのリサーチです。

しかし一方で、Problemフェーズで実施できるリサーチ手法がインタビューだけかというとそんなことはなく、例えば被験者のありのままの行動を観察する行動観察といった手法も存在します。

先ほどの「ユーザーは自分の行動を正当化してしまう」という人間の習性を鑑みると、ユーザーが無意識に真実ではない回答をする可能性のあるインタビューよりも行動観察のように、ユーザーの自然な環境においてユーザーの実際の行動を観察した際に得た情報の方が真実に近いのではないかと思えてきます。

であれば「全ての調査を行動観察にしたらいいじゃないか」とかと思いますが、そうもいかない理由がいくつかあります。

代表的な例:

  1. 予算や工数の問題
    • 行動観察を精緻に実施しようと思うと、被験者の生活環境にある程度の期間滞在するなど、他のリサーチ手法と比較して費用や時間がかかる場合が多い
  2. 行動観察だけでは行動の背景(ユーザの頭の中)が理解しきれない場合がある
    • 行動観察だけでは把握しきれない行動の理由や背景などをインタビューで取得する場合がある

このようにその時々の調査の目的や制約によって、ユーザーインタビューはおそらく最も頻繁に取り入れられるリサーチ手法となっています。

インタビューの役割に応じた「なぜ」の考え方

さて、脱線しましたが、上記のような背景からユーザーリサーチにおいて採用されやすいユーザーインタビューという手法には、以下の2種類の目的があると言えます。

  1. クイックな調査、又は今はない状態に関する調査において、可能な範囲で対象の環境を脳内再現させた上で、その環境におけるユーザーの行動・思考・感情を知るためのインタビュー
  2. 行動観察や量的調査を行って得られた情報の理由や背景を補足調査するためのインタビュー

冒頭で紹介した教本などにおいて「なぜ?を聞いてはいけない」と言及されているのは、上記でいう1のインタビューのケースであると思われます。

一方で、2の場合はそもそも理由や背景を聞くためにインタビューしているため「あのとき○○してましたが、なぜそうしたんですか?」と聞かざるを得ないのではないかと思います。ただその場合であっても「あのとき○○していたのはどのような理由があるのですか?」や「あのとき○○してた時に考えてたこと教えてもらえますか?」などのバリエーションを交えながら、被験者のありのままを聞き出す工夫をする必要があると思います。

「なぜ」を聞く上での大事なこと2つのポイント

では、上記の1のケースにおいて、本当に「なぜ?」を聞くべきではないのでしょうか。

個人的には「なぜ?」と聞きたくなったら聞く、ただしその発言を分析で使うかどうかは別途判断するのがベストであると思っています。

インタビューは宝探しのような行為で、思いもよらなかったところにヒントが転がっていたりするものだと思います。これまでの経験からも、下手に色々と先入観を持たない方が良いインタビューができたと思うことが多く、宝を探すために様々なところをつついてみながら被験者の反応を引き出すのが良いと考えています。そして、なるべくたくさんのヒントをユーザーインタビューの中で集めた上でそれをどう分析するかはインタビューの次のステップまで考えないようにしています。

そんな宝探しをする上で「なぜ?」を扱う際、注意するポイントが2つあります。

  • 「なぜ?」の回答に被験者の分析や意見が入っているかを見極める
  • 「なぜ?」の粒度を調整する

「なぜ?」の回答に被験者の分析や意見が入っているかを見極める

「なぜ?」と聞きたくなってしまうことは大いにあります。その際は、ひとまず聞いてみて相手の返答を待ちましょう。相手が自己分析している様子であったり、返答が事実でなく意見になっているようであれば、分析のフェーズでその発言を除外することも検討しましょう。

「なぜ?」の粒度を調整する

また「なぜ?」の粒度を被験者が回答しやすいサイズにしてあげることが重要だと思います。抽象的な事柄に対して「なぜ?」と問われると回答が難しい一方で、具体的な事柄については回答がしやすいなど、同じ「なぜ?」でも被験者やケースによって回答しやすいサイズがあるはずです。インタビュー中で、ちょうど良い「なぜ?」のサイズを探りながら対話を続けていくのが良いのではないかと思います。

まとめ

本ブログでは、(すこし寄り道をしながら)ユーザーインタビュー時に「なぜ?」を聞いちゃいけないの?という問題について考えてきました。

この問題に対する絶対的な正解はないと思いますが、「なぜ?」に対する回答に分析や意見が混じっていないかを見極めるという点と、なぜの粒度をインタビュー中に調整するという2箇所に気をつけながら、柔軟にユーザーインタビューを実施していけると良いのではないかと思っています。


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