アイメイクブランド「ラブ・ライナー」やミネラルコスメブランド「タイムシークレット」を展開するmsh株式会社とグッドパッチは、デザイン共創によって新たなコスメブランド「Ctrlx(コントロールバイ)」を立ち上げました。

「Ctrlx」の第1弾は、悩みや色味に合わせてパーソナライズドされたアイバームとコンシーラーのセット。msh公式オンラインストアをはじめ、楽天市場やAmazon、全国のバラエティショップで販売予定です。

今回は、mshの中西さん、篠田さんをお迎えし、「Ctrlx」の開発背景やデザインアプローチについてお話を伺いました。

これまで主にデジタルプロダクト/サービスのデザインを手掛けてきたグッドパッチが、なぜコスメブランドの立ち上げに至ったのか。そして、どのようなアプローチでmshとコラボレーションをしたのか。そのプロセスをもとに「Ctrlx」商品開発の歩みをお届けします。

話し手:
msh株式会社 執行役員 商品部部長 中西さん
msh株式会社 商品部 企画課 マネージャー 篠田さん
Goodpatch デザインディレクター/UXデザイナー 江原
Goodpatch シニアデザインディレクター/デザインストラテジスト 酒井
Goodpatch BXデザイナー/コピーライター 豊田

なぜ、グッドパッチがコスメ開発に至ったのか

──はじめに、msh株式会社について教えてください。

msh中西:
mshは「make someone happy」の頭文字で、主に化粧品の企画・販売を行っています。市場のシェアで1、2位を争う人気のアイライナーを取り扱うアイメイクブランドの「ラブ・ライナー」やベースメイク、スキンケアを扱うミネラルコスメのブランド「タイムシークレット」などを展開しています。

「ヒトにも地球にもhappyなモノ・コト・トキを」を企業理念に、コスメに限らずいつでも世の中に新しいもの、面白いものを出していきたいと考えている会社です。

msh中西さん

中西達哉:msh 執行役員 商品部部長
アパレルメーカー数社において、ストアマネージャーとして店舗運営全般からVMDまでを担当する。その後、化粧品メーカーへ入社。商品の企画から開発業務、生産管理や物流業務まで幅広く経験し、2018年よりmshに入社。商品部の責任者として、商品を企画するところから店舗まで送り届けるまで全ての工程に関わっている。

──今回の「Ctrlx(コントロールバイ)」立ち上げのきっかけは何だったのでしょうか?

msh中西:
もともとmshの出資元にあたる方が酒井さんと知り合いで、その方を介して紹介いただきました。世の中に新しいアイデアを提供したいと考える中で、今までになかったような商品として「Ctrlx(コントロールバイ)」をご提案いただき、一緒に作ろうと決めました。

Goodpatch 酒井:
実は、mshさんからは具体的にこういうテーマでグッドパッチと一緒に仕事したいと言われていたわけではなかったのですが、せっかくいただいたご縁なので、どんな形ならご一緒できそうか検討してみることにしました。

ご紹介いただいた知人にも少し相談しながら、新商品開発をテーマに有志メンバーを募ってアイディエーションし、いくつかの商品企画案をお持ちしたのが今回の取り組みの始まりです。

Goodpatch 酒井

酒井亮輔:Goodpatch シニアデザインディレクター/デザインストラテジスト
慶應義塾大学法学部卒業後、アップルジャパンを経て、アクセンチュア、KPMGヘルスケアジャパンでコンサルティング業務に従事。2021年グッドパッチに入社し、デザインストラテジストとして新規事業やブランディング、DX/CX関連のプロジェクトを手掛けながら、ビジネスコンサルティングの経験を生かしてM&Aやパートナーシップ提携を推進する役割も担う。「Studio Q」の立ち上げに携わり、現在、シニアデザインディレクターを務める。

──商品アイデアの提案を受け、お二方の第一印象はどんなものだったでしょうか?

msh篠田:
商品企画で一歩飛躍したアイデアにたどりつくことは、実現可能性やコストなどの視点から、どうしてもアイデアに制約がかかってしまうことが少なくありません。今回皆さんに提案いただけたことで、「普通に考えたらこんな悩みってあるよね」と楽しみながらも発見が見え、ユーザー側の目線で本当に欲しいものを考えていただけるなと思いました。

msh篠田さん

篠田亜矢子:msh 商品部 企画課 マネージャー
マーケティングリサーチ会社や広告代理店でのマーケティングプランナーを経て、化粧品メーカーへ入社。商品企画としてさまざまなブランドを立ち上げる。その後、2021年msh株式会社に入社し、商品企画のマネージャーとして企画メンバーをサポートする一方、新ブランドの立ち上げも行う。

──グッドパッチのメンバーに質問です。なぜ、コスメというソフトウェアの枠組みを飛び出したものづくりに至ったのでしょうか?

Goodpatch 酒井:
もともと新卒でアップルに勤めていたこともあり、ユーザーの手に直接届き、毎日使われるものを生み出すメーカーへの愛着を持ち続けていました。今回、ゼロベースでものづくりに関わるチャンスをいただけたため、チャレンジしようと考えたのが大きな理由です。

Goodpatch 江原:
いつかコスメの仕事をしたいと思い、社内のサークル制度を活用してスキンケアサークルを立ち上げていました。個人的にずっとコスメが好きで、ファンである自分がユーザーと作り手の目線を往復しながら企画・開発に挑戦してみたいと思いました。

──今回の開発プロジェクトには、どのようなメンバーが関わっていたのでしょうか?

msh篠田:
立ち上げ時、mshからは中西と篠田、企画課の渡邊が参加していました。プロジェクトが進むにつれて開発部や広報部などが加わり、現在では社内の20人以上のメンバーが携わっています。グッドパッチの皆さんには、企画の部分をお願いしました。

Goodpatch 江原:
グッドパッチからは、私が立ち上げたスキンケアサークルに声をかけてメンバーを募りました。さらにサークル外からも、UXデザイナーやビジュアルデザイナー、コピーライターなど、本当に商品化できるか分からない曖昧さをはらんだ状態でも、この取り組みの面白さに賛同し、粘り強く熱量を保って継続できる人が集まったと思います。

Goodpatch 酒井:
今回の取り組みは、グッドパッチとしてはアイディエーションをして終わり、コンセプトづくりをして終わり、という形ではなく、mshさんと一緒にブランドを築き上げていきたいと考え、メンバーとも協議した結果、レベニューシェアの契約形態をとりました。その結果、お互いのコミットメントが高まり、中長期的なパートナーとしてご一緒できていると思います。

Goodpatch 江原

江原美佳:Goodpatch デザインディレクター/UXデザイナー
慶應義塾大学経済学部 武山政直研究室でサービスデザインを学んだのち、新卒で株式会社電通に入社。内閣府をはじめとしたパブリックセクターから国民に発信するコミュニケーションデザインのプロデュースに従事。その後、フリーランスとしてギルド型デザイナー組織でのアシスタントや事業会社での体験設計・UIデザイン業務を約1年間務めたのち、グッドパッチに入社。大手化粧品会社のCXデザイン、コスメブランド開発、アプリリニューアルなどのUXデザインとプロジェクトマネジメントを担当。

ユーザー目線を深く追求した企画プロセス

──今回開発したコスメと、その特長を教えてください。

msh篠田:
ブランド名は「Ctrlx(コントロールバイ)」といい、自分の目元悩みやパーソナルカラーに合わせてコンシーラーとアイバームを選んで、コンパクトにセットする商品です。例えば目元のクマにも青、茶、黒などの種類や原因があります。また、肌の色味にもタイプがあることから、それぞれの悩みや肌の色味に対応した成分やカラーを選ぶことで、自分なりにカスタムできるアイデアが生まれました。

Goodpatch 江原:
組み合わせによって年齢や性別を問わず、誰にとってもベストな目元悩みケアを叶えられる点が大きな特長です。「目元悩みの原因に合わせてケアする」と「クマをメイクでカバーする」という2つの視点からアプローチを考え、商品を展開しています。さらに自分のタイプが楽しく簡単に分かる体験になるように、ブランドサイトでの診断コンテンツを開発しました。

──なぜ「目元ケア」に特化した商品を提案したのでしょうか?

Goodpatch 江原:
初期のアイディエーションでは、カテゴリにこだわらず幅広いジャンルで企画しました。

そのひとつとして、mshの「ラブ・ライナー」は人気で認知度も高く、目元まわりの領域がカテゴリとして強いことから、「メイクアップに加えてケアする文脈の商品があると良いのでは?」という着想を基に、目元ケアも提案しました。これまでたくさんの人の目元の可愛さを支えてきたmshだからこそ取り組めると考えたんです。

──次に、商品設計のプロセスを教えてください。どのようなアプローチで商品が完成したのでしょうか?

Goodpatch 江原:
目元ケアに絞られたタイミングで、さっそくOEM先にサンプルのご提案をお願いすることになりました。実際に他社商品を集め、質感などのタッチアップも行いましたね。

それと並行して、グッドパッチ社内にアンケートを取り、ユーザーの悩みを詳しく知るためのインタビューを実施しました。その結果を基に、ユーザーの美容におけるインサイトを探るワークショップも行っています。それらを経て、ユーザーニーズに根ざした色味やテクスチャなどの具体的な部分を、mshさんの知見を生かして調整していただきました。

msh中西:
mshでは商品企画の段階で企画担当がターゲットを設定し、ペルソナやそのユーザーがよく使う商品などの行動データからライフスタイルを推察する形での仮説を立てています。

今回の「Ctrlx」もターゲットをまず決めるという点では同様のプロセスでしたが、グッドパッチの皆さんにはユーザーの行動だけでなく、その裏側にある感情やモチベーションについても掘り下げてもらうことができました。msh社内にはなかったアプローチのおかげで、ユニークな商品になったなと思います。

今回のプロジェクトにおける商品開発フロー

ユーザーニーズを突き詰めた商品企画のプロセスで誕生した新ブランド

──商品企画のプロセスを通じて、どのような気付きがありましたか。

Goodpatch 江原:
インタビューでは目元のクマに関して悩みが大きい人に話を聞き、大きく「悩みの深さ」と「効果実感」の2点について探索し、「クマなんて消えない」とケアを諦めていたり「コンシーラーは難しくて手が出しづらい」と敬遠したりしているという気付きを得ました。

また企画段階で実施したワークショップでは、「ユーザーが本当に達成したいことは何か?」を突き詰め、ユーザーのペインとニーズに対する共感をより高めていきました。その結果、目元ケアに対して試行錯誤をしているものの正解が見つからず、自信を失いそうなユーザーに対して届けたいという思いに至りましたね。

msh中西:
ワークショップは僕個人としても大変楽しい体験でした。ときに雑談を挟みながらも、参加しているメンバー全員がワクワクしながら妄想をしている。本来、商品企画ってこんな高揚感があったよなとハッとさせられました。また同様の機会を作って、そのときにはmshの商品企画のメンバーにもぜひ参加してもらいたいと思っています。

msh篠田:
サンプルを試供した際、グッドパッチの男性メンバーがコンシーラーで「こんなに印象が変わるのか!」と驚いている姿をみて、男性にも使ってほしいという話になりましたよね。以前は「ラブ・ライナー」ブランドの商品にするか考えていましたが、男性が手に取りづらくなることを踏まえ、新しいブランドを立ち上げることになりました。

Goodpatch 豊田:
今回のブランドがシェアコスメ的な存在として、女性だけでなく誰もが使える世界観を目指すことが決まったため、ターゲットユーザーのニーズを満たしつつ、パートナーにもおすすめできるような商品として、その後のネーミングやブランド体験設計につながっていったことを覚えています。

Goodpatch 豊田

豊田圭美:Goodpatch BXデザイナー/コピーライター
Webメディアの編集者を経て、外資系化粧品会社のブランドチームに所属。商品キャッチコピーをはじめキャンペーンのプランニング・展開、オウンドメディア運営、親店舗のオープニング等を担当。2022年、グッドパッチに入社。サービスや組織のコア価値の言語化やブランド開発・リブランディングプロジェクトにおけるコンセプトメイキング、コピーライティングの開発に携わる。

──ブランド名「Ctrlx(コントロールバイ)」に込められた意味は何でしょうか。またmshの皆さんはコンセプトの提案を聞き、どのような思いで決断を下したのでしょうか?

Goodpatch 豊田:
商品の特性がある程度固まってきたタイミングでコンセプトメイキングに着手し、最終的に3方向のアイデアが残りました。そこでメンバーが最もしっくりきたのが現在の「Ctrlx」でした。

Ctrlxという名前は、パソコンのキーボード上のコントロールキーを意識しています。ショートカットキーのように、目元ケア選びや悩みに費やす時間を最低限に留めてほしい、という思いを込めました。xはバイと読むのですが、パーソナライズで選んでいく商品の掛け合わせを表現しています。

msh篠田:
企画プロセスでブランド名の決定は苦戦することが多いですが、今回は「これだ!」とすぐに決まりました。コスメとパソコンのキーボードの掛け合わせは意外性もあり、着眼点が面白かったです。キーワードと特長もリンクしていて分かりやすく、男性も抵抗なく使えるブランドの世界観としてしっくりきました。

Goodpatch 豊田:
商品名などの細かい部分も、ショートカットキーのコンセプトに合わせました。コンシーラーの2種はイエベ・ブルベにあわせて「+Y(プラスワイ)」「+B(プラスビー)」、アイバームは悩みを取り除くという観点で「Del(デリート)」を掛け合わせています。

Goodpatch 江原:
処方にも、特長としてショートカットキーの要素を忍ばせています。パソコンやスマートフォンなど、デジタルデバイスを使用する人にとって優しい設計は何か考え「ブルーライトカット」や「UVカット」によってCtrlxの世界観がより具体的に想起できる体験を目指しています。

──これまでのプロセスにおいて、最も苦労した点は何でしたか。

msh中西:
目元ケアとコンシーラーは、通常は「スキンケア」と「メイクアップ」の2つのカテゴリに分かれている商品です。面白いと思う一方で、msh社内では「売り方の見当がつかない」「未知数で難しいのでは」という声も実際にありました。

ですが、もともとmshは世の中に新しいもの、面白いものを出していきたいと考えている会社です。本当に面白いものを追求し、実現していこうというモチベーションによって現在に至っています。

msh篠田:
msh社内への働きかけは、グッドパッチの皆さんの力が大きかったと思います。様々な視点で前のめりに提案をいただけることで「ちゃんと考えているんだ」と理解できたからこそ、モチベーションの醸成にもつながりました。

msh中西:
開発プロセスで難航したのは容器選びでした。コンシーラーとアイバームをカスタマイズするユニークな体験を実現する上で、2種類のリフィルをセットするためにぴったりなものが見つかりづらかったですね。

Goodpatch 江原:
メンバー総出でバラエティショップをめぐり、容器の形状や色味を探すリサーチを実施したこともありましたよね。

最終的な形状に収まるまで、ユーザーの課題を商品のスタイルに落とし込んでいくことや、新たなターゲットを獲得していくという事業課題とブランドを紐付けていくプロセスはチャレンジングでした。私たちにとっては、新鮮な発見が多かったです。

デザインプロセスで領域を越境する

──今回のグッドパッチのアプローチで、印象に残っていることがあれば教えてください。

msh中西:
mshでは、もともと基幹ブランドを中心にそこから派生する商品の展開はできていました。しかし、完全な新しいものはなかなか作れなかったんです。

もちろん社内で考えてはいますし、それなりに面白いものは出てきていたけれど、圧倒的な面白さや斬新さをもった新たな発想はなかなか生まれませんでした。考えるメンバーも担当ブランドを抱えているので、マンパワー的にも不足していたんですよね。

そこで第三者としてグッドパッチの皆さんに入ってもらい、ワークショップなど、ユーザーのインサイトを深掘りするプロセスを重ねながらコンセプトを磨き、デザイナーの視点を入れて新たなブランドの立ち上げに至りました。作り手の目線で作られた商品が多い業界で、これまでにないアプローチではないでしょうか。

──最後に、今後についての意気込みを教えてください。

msh中西:
Ctrlxがどれくらい成功できるかを見守りつつ、また一緒に新しい商品を企画したいですね。次回はmshの企画担当も交え、ユーザーのニーズを突き詰めていくプロセスを楽しみながら実現していく体験を共有できたら面白いなと思っています。

msh篠田:
メンバー全員が時間と熱量をかけたからこそ、ブランドを作り上げて終わりではなく、Ctrlxの幅を広げて成長させていけたらと考えています。

Goodpatch 酒井:
店頭に並んでユーザーが手に取るところを見られるのがとても楽しみです。今回の商品を成功させ、さらに第2弾、第3弾のラインナップを広げCtrlxのブランドを一緒に育てていきたいと思っています。また、mshさんとの共創事例を起爆剤に、コスメ領域だけではなく、その他の領域でもチャレンジしていきたいですね。

Goodpatch 江原:
最後まで私たちを信じ、リスクを背負いながらもこのようなチャンスを作ってくださったmshさんに恩返しがしたい。まずは売上という形でお返しできれば、グッドパッチのコアバリューの一つでもある「Good Design Equals Good Business(良いデザインを良いビジネスにする)」が実現できるのではとワクワクしています。

Goodpatch 豊田:
メンバーの思いを体現したブランドがユーザーになじみ、雑談の種になったり、SNSで感想をシェアしたりする様子を想像することが最大のモチベーションでした。この先、どんな印象を持ってもらえるか楽しみです。

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6月公開予定の第2弾の座談会記事では、商品やクリエイティブのデザイン共創プロセスについて詳しく触れていきます。

グッドパッチは、生活者の日々を彩るサービスの新規立ち上げをはじめ、リリース後の各種分析や検証を通じ、プロダクトのグロースフェーズのサポートも行っています。ご依頼内容が固まっていない状態でも構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。

「Ctrlx(コントロールバイ)」について

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