TBS新規事業Catariは愛から生まれた。サービスに息を吹き込むまでの軌跡
Catari(カタリ)はTBSテレビ(以下TBS)の新規事業として2018年9月にリリースされた公式Webメディアです。TBSテレビで放送された“使える話”や“こぼれ話”を記事として発信し、みんなで語り合う場を提供しています。
Goodpatchは、Catariのサービス立ち上げからビジュアルアイデンティティの構築、開発まで並走。サービスコンセプトに基づいてこだわり抜いたアウトプット、立ち上げからリリースまで半年で完遂したスピード感、ステークホルダーを巻き込んだチームビルディングが高く評価され、2018年度のGoodpatch全社総会ではベストプロジェクト賞を受賞しました。今回はCatariのプロダクトオーナーであるTBSテレビ 中森卓也さんと、Goodpatch UXデザイナー野田、UIデザイナー米永、フロントエンドエンジニアの宮坂に、Catariが生まれるまでのプロセスやチームの関係性について伺いました。
目次
多くのステークホルダーとワンチームになる
中森さん:
我々テレビ局には「番組放送後のユーザーの動きに関与できていない」という課題がありました。SNSやインターネットなどチャネルがあふれる今、テレビ局とユーザーが長期的な関わりを保つために、エンゲージメント高く参加できるユーザー参加型のメディアを立ち上げることになりました。これがCatariを立ち上げた経緯です。TBSの新規事業として、複数の部署と連携しスタートしました。
大規模なプロジェクトでは、ステークホルダーマネジメントがとても重要なポイントです。CatariのプロジェクトにおいてはTBS社内の複数部署という多くのステークホルダーがおり、年齢層も幅広く、僕以外はWebに特化している部署の方もいない状態でした。でも、Goodpatchさんのプロセスには、ステークホルダーを巻き込んだワークショップや、コアメンバーへのインタビューが取り入れられていたので、プロジェクトの初期段階から、チーム全員が想いを一つにできたと思います。
野田:
今回はメディアの立ち上げからリリースまでを約半年間で行うスケジュールだったので、スピードと合意形成の質が重要だと考えました。そこでプロジェクト進行には都度ワークショップ形式を取り入れ、ステークホルダー全員で進めるところは一緒に進めて議論を重ね、その場でネクストアクションまで決めきることを意識しました。
中森さんがおっしゃったように、Catariは複数部署の方々が関わってくれていた新規事業です。専門領域もそれぞれ異なっていたので、色んな意見を一気に抽出したかったという狙いもありました。皆さん熱量が本当に高かったので進めやすかったです。
中森さん:
結果的にTBS社内でコアとなるチームができた、という点も大きかったですね。
— ユーザーテストから見つかった、ユーザーインサイトについて教えてください。
野田:
当初は「リアルタイムのライブ感」などのアイデアをユーザーに対して検証したものの、ありきたりなメディアになってしまいそうだな、と懸念がありました。そこで改めて、ユーザーテストやインタビュー結果を持ち寄り中森さんと議論する中で、エンタメ系メディアがもっともユーザーの行動を喚起するポイントは共感であるとユーザーインサイトを定義しました。
ユーザーインサイトの定義と同時進行で、Catariのコンセプトを決めるワークショップを実施しました。中森さんやコアメンバーの方々と一緒にテレビ業界とインターネットそれぞれの強み、弱みを発散し、強みをヒントに「◯◯なメディア」と語尾につくコンセプトのアイデアを出しました。ワークショップで発散したアイデアをGoodpatchのメンバーでまとめ、出来上がったコンセプトが「気づけば夢中で盛り上がる、みんなのお茶の間メディア」でした。ステークホルダー全員の前でコンセプトを発表したのですが、すごく緊張して、スライドを操作する手が震えていたことを覚えています。
中森さん:
サービスコンセプトを聞いて「みんなが言いたいことをまとめてくれた」と思いました。TBS社内だけで考えることもできましたが、どうしても視点が社内寄りになりすぎてしまうんですよね。ちゃんとユーザーに言葉を届けるために、フラットな視点が欲しかった。サービスコンセプトは新規事業の根幹だからこそ、Goodpatchさんに託したかったんです。
サービスを人として捉え、特徴から世界観を作る
野田:
中森さんはサービスコンセプトのほかにも、ビジュアルアイデンティティ(以下、VI)やロゴも僕たちに任せてくれましたよね。
中森さん:
僕はロゴについても当初、TBS社内にいるデザイナーに作ってもらおうと考えていました。でも、UIデザイナーの米永さんに「メディア全体の世界観を統一するためには、ロゴはとても重要な要素です」と言われて、その通りだなと腑に落ちたんです。それで米永さんにロゴまでお願いしようと決めました。
米永:
私はロゴ、ビジュアルアイデンティティ、UIデザインを担当しました。デザイナーがデザインする対象はWebページだけではなく、その周りにある世界観です。ロゴだけを他のデザイナーさんに作ってもらい、それを当てはめるだけではユーザーの心を揺さぶるサービスは作れません。Catariをもっと良くするために、サービスコンセプトの「気づけば夢中で盛り上がる、みんなのお茶の間メディア」を具体的にするとどんなイメージなのか?ということからチーム全員で考え、世界観を作ろうと思ったんです。
米永:
デザインの方向性を決める際にも、ワークショップ形式を取り入れました。ステークホルダー全員に「サービスコンセプトを表現するために、Catariが世の中からどんな風に見られたいか」について発散してもらったところ、小さな表現の違いはあっても、みんな根底では同じものを描いていることが伝わってきたんです。なので私は、全員に共通するイメージをより細かく言語化して、ビジュアルにしていきました。
ワークショップで盛り上がった「OOより△△」というワークがあります。このワークは実在するものを比較することでイメージを具体化し、微妙なニュアンスまで掴むために行いました。Catariは「一人よりみんな」「バーより居酒屋」「InstagramよりTwitter」などの特徴が出ましたね。
— ビジュアルにするまでのプロセスについて、具体的に教えてください。
米永:
「Catariってどんな人だろう?」という点から考えました。かわいらしくて、ハキハキした女性像が浮かびあがってきたので、そんな女性が身に纒う世界観を具現化していき、色と形に落とし込みました。常に意識したことは、サービスコンセプトとVIがひとつのストーリーとして繋がっているかどうかです。いくつかのパターンを中森さんに提案したのですが、私自身も一番気に入っていたものが選ばれました。
中森さん:
ポップで明るくて、Catariらしい世界観がそれぞれの色や形に意味も込められていて腑に落ちるアウトプットでした。サービスコンセプトの「気付けば夢中で盛り上がる、みんなのお茶の間メディア」を表現していますよね。
エンジニアの提案は愛着心から生まれた
— 今回はフロントエンド開発までGoodpatchが担当させていただきました。中森さんがエンジニアリングにおいて期待していたことを教えてください。
中森さん:
GoodpatchさんはUI/UXデザインのプロフェッショナルだからこそ、ベースの期待値はとても高かったです。特にユーザーの目に触れるフロントエンドでは、サクサク、ヌルヌル動いて、気持ちよく操作できるものが当然出てくるだろう!と大きな期待を寄せていました(笑)。実際はアウトプットがとても速くて、品質も素晴らしかったので、期待以上でした。
宮坂:
それを聞いて安心しました。先ほど米永が「デザインするのはWebページだけじゃない」と話していましたが、エンジニアリングにおいても同じことを意識していました。Catariがビジネスとして成長を続け、ネイティブアプリ化や機能追加があったとしても、一貫性や保守性を担保できる設計が必要だと考えたんです。
サービスコンセプトを決める上流からこのプロジェクトに参加していたから、思い入れも強くて。世界観などの「Catariらしさ」を守るための工夫として、以下のふたつを提案しました。
- Atomic Designを取り入れたコンポーネントの整理
- デザインのコアバリューを含めたデザインシステムの構築
野田:
このプロジェクトでは、チーム内で「これは聞いてなかった」ということや、開発側とデザイン側で剥離がないように、コンセプト決めワークショップなど上流からエンジニアに参加してもらっていました。
宮坂:
どんなに細かいことでも開発メンバーまで共有してくれていたので、私が手を動かす前のフェーズでも、当事者意識を持てていたと思います。その結果、デザインシステムを思い立って提案したのですが、迷惑じゃなかったでしょうか。
中森さん:
デザインシステムの件は、最初聞いたときは「ここまでやってくれるの!?」とビックリしました。僕たちとしてはありがたいですし、とても助かっています。
米永:
Catariへの愛着心から、ついやりたくなるんですよね。
中森さん:
本当に助かってます。野田さんのチームリードや、社内外との連携の賜物ですね。
UXデザイナーはチームが活躍する土壌を作る
— 中森さんがGoodpatchメンバーと働いてみた率直な印象を伺ってもよろしいですか。
中森さん:
率直に、やっぱり優秀な方々だと感じました。特に、クライアントである僕たちと同じくらいの熱量でCatariに向き合って頂けました。「パートナー」と呼ぶからには、対等なレベルでサービスのことを話せたり、時にはクライアントを上回る熱量があってこそだと思うのですが、Goodpatchの皆さんはスムーズに僕たちを引っ張ってくれました。野田さんの年齢でここまでチームをリードできること、米永さんと宮坂さんのようにスピード感とクオリティを両方持っていることも、なかなかないと思うんです。僕自身も悔しいくらい優秀でした。期待値を上回ってくれたので、お願いしてよかったです。
野田:
僕はGoodpatchに新卒で入社して今2年目なのですが、初めて中森さんに年齢を言ったときすごく驚かれてましたよね。でも、僕自身はスムーズに進められた実感よりも、プロダクトオーナーの中森さんに早く追いつこうという気持ちでいっぱいだったので、意外でした。
中森さん:
もちろん最初は認識のずれが何度かあったものの、後半はものすごいスピード感で追いついてきてプロジェクトをリードしてくれていました。その瞬発力を新卒2年目にして持っている点が、優秀だと思った理由です。
中森さん:
チームで協力する中でも、皆さんそれぞれ専門領域への自覚を持って取り組んでいたことも良かったですね。
野田:
米永がデザイン、宮坂が開発に責任を持つ中、僕は最終的なアウトプットにはタッチしていないんです。UXデザイナー兼プロジェクトマネージャーである僕のアウトプットはサービスコンセプトやユーザーインサイトなど、ユーザーの目には触れない中間成果物なんですよね。だからこそ、自分がモチベーション高く働けることよりも、デザイナーとエンジニアが強みを発揮できて、モチベーション高く働ける環境づくりに注力しました。
米永:
デザイナーの私を尊重してくれるし、信頼して全部任せてくれていましたね。でも完全に任せっぱなしでもなく、信頼されていることを感じられたから、ほどよい関係値でのびのびできたと思います。私を信じて任せてくれた中森さんはじめ、チームメンバーにはとても感謝しています。
中森さん:
野田さん、もう上司みたいですね。僕らの見えないところでそんなに色々やってくれていたとは、心に染みます(笑)。
サービスとチームへの愛がプロジェクトを支えた
— 最後に、プロジェクトを振り返ってよかったことをそれぞれお願いします。
米永:
私は、Catariの立ち上げを通して今持てる自分のスキルを惜しみなく出せたと思っています。そうした環境を作ってくれた中森さん、Goodpatchのメンバーがとてもよかったです。
宮坂:
つくることに集中できる環境があったことは大きかったです。フロントエンド開発より手前の要件定義や情報設計、デザインでスケジュールが守られていて、合意が取れていたから、開発はとても進めやすかったです。そのおかげで開発開始後も手戻りがとても少なかったんですよ。
野田:
僕がCatariのプロジェクトを振り返って良かったと思うことは、当たり前ではありますが一見難しいと思われるスケジュール通りにリリースできたこと。その時点で出せるベストをやり尽くして、妥協を一切しなかったことです。これは、すべてPOである中森さんの決定力のおかげだと思います。その場で「こうします」と絶対に決めてくれるし、持ち帰ったりもほとんどなかったですよね。スピード感がとてもありがたかったです。
中森さん:
僕も野田さんと同じく、ちゃんとリリースできたことです。新規事業は形にならないと次も見えてこないので、当初のスケジュール通りにCatariを形にして、世に出せたことがまず良かったです。ステークホルダーも多く大規模なプロジェクトなので、普通のやり方で進めていたら、まだリリースできていなかったと思います。
これからは、Catariを「真のユーザー参加型のサービス」にしていきたいです。運用の課題など、ユーザー参加型のサービスにするためにできることを一つずつやっていこうと考えています。プロジェクトは区切りを迎えましたが、Goodpatchさんはこれからも僕たちのパートナーとして、どうやってCatariをより良いサービスにしていくのか一緒に考えていけたら嬉しいです。
今回は、新規事業立ち上げのパートナーとしての取り組みをご紹介しました。Catariというサービスにコンセプトが誕生し、息が吹き込まれるまでの舞台裏では、ステークホルダーとの強固なチームビルディングが行われていました。サービスだけではなくチームにも愛を持って向き合ったことが、Catariプロジェクトチームの特徴と言えるのではないでしょうか。
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