GoodpatchのUIデザインチームは、デジタル上の接点のみならず、ユーザーの目に触れるすべての部分のアウトプットに責任を持つデザイナー集団です。ものごとの形を整えわかりやすくするための情報設計と、思わず使いたくなる情緒的なビジュアル表現のどちらも大切にしています。

さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが所属していますが、実はWebデザイン出身のメンバーも多く在籍しており、Webデザインで培った多彩なデジタル表現を活かして活躍しています。

実際にWebデザインの領域からUIデザイン未経験でGoodpatchに入社し、UIデザイナーとして活躍する二人に、これまでのキャリアの変遷と、やりがいについて聞いてみました。

Yuehsheng Han(ハン・ユエセン)/Design Division UIデザイナー
Web制作会社で4年半ほどWebデザイナー、グラフィックデザイナー、パッケージデザイナー、イラストレーターなどを経験後、Goodpatchにジョイン。UIデザイナーとしてフードテック系サービスや飲料メーカーなどのクライアントワークに携わっている。 

金渕 良太(かなぶち りょうた)/Design Division UIデザイナー
Web制作プロダクションにてWebディレクター、Webデザイナー、UXデザイナーなど多様な経験を重ねた後、Goodpatchにジョイン。クライアントワークのほか、ワークショップやデザイン研修など、自社サービスの開発、提供なども担当している。

WebデザイナーからUIデザイナーにチャレンジした理由

――最初に前職でのお仕事について教えてください。

Han:
Web制作会社で、サイトの企画制作に加え、グラフィックやパッケージ、イラストレーションなど、依頼を受けたものを幅広く手掛けていました。案件ではWebディレクターが主導となる形が多く、デザイナーがクライアントとの交渉や提案に携わる機会は少なかったです。案件の掛け持ちが基本だったので、役割分担が明確にされていたのだと思います。

金渕:
Web制作プロダクションでさまざまな職種を経験しました。最初はコーディングの知識もあるWebデザイナーとして、Hanさんと同じくディレクターが制作したワイヤーにそってスタイリングをしていました。クライアントの意向が見えず、コミュニケーション齟齬を感じる状況に次第に違和感がつのり、上司に伝えたところWebディレクターも任せてもらえるようになり、さらにクライアントへの企画・提案などの領域にも見様見真似で挑戦してきました。 

――転職を考えた理由を伺えますか。

Han:
Webデザイナーとしてのキャリアを重ねるにつれ、自分の成長が停滞する焦りを感じました。また、視覚的に良いとされるデザインを磨き続けるキャリアを選択する人もいますが、私個人としては、上流に携わってみたいという気持ちのほうが大きくなっていたんです。

同時に、自分のアウトプットへの反応を知る機会が少ないこともあって、本当に良いものを提供できているのだろうか?という疑問が生じました。たとえクライアントの反応は良かったとしても、実際に触れるユーザーがどう感じているのかが継続的に検証できないため、見えない部分の設計も学びたいという思いも芽生え、ステップアップ出来る機会を探し始めました。

金渕:
自分でやりたい!と手を挙げればなんでも挑戦できる環境は非常に良かったのですが、その状況に甘えてしまいそうだとも思っていました。それに先頭を切る立場だったため、周囲から学ぶことができない焦燥感もありました。専門性の高い人たちに囲まれて知識を吸収したい、切磋琢磨したいという気持ちも募っていました。

――Goodpatch以外にも選択肢はありましたか。

金渕:
僕はGoodpatchと同時に事業会社からも内定を頂いて、最後まで迷いました。最終的にGoodpatchに決めたのは、クライアントワークを通じていろいろな職種、業種に触れられると考えたからです。いつか自分が本当に心に決めたサービスをつくりたい、育てたいという目標があったので、多様な経験が積める道が自分には合っていると思い、選びました。

Han:
私も、事業会社から頂いた内定と最後まで迷いました。ただやはり最後に決め手として考えたのは、ひとつのサービスに限定した環境から始めると、伸ばせるスキルが偏ってしまったり、自分がある程度慣れた時にまた停滞を感じたりするのではないかということです。

現時点の自分が、最も成長・挑戦できる環境を考えた結果、Goodpatchを選びました。実際に入社してみて、案件ごとにまったく違う経験ができることに魅力を感じています。もちろん難しさもありますが、苦労も含めて、今のうちに経験できることを思う存分吸収することが、自分の成長に直結すると思っています。

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WebデザインとUIデザインの違い

 ――Webデザイナーから未経験でUIデザイナーに転身して、どのような違いを感じていますか。

Han:
実はクライアントからもWebデザインとUIデザインの違いを聞かれることが多いです。私も転職前は、はっきりとした区別がついていませんでした。Goodpatchに入社し、社内のUIデザイナーたちと接する中で、Webデザインはブラウザー上に存在するデザイン、UIデザインはソフトウェアのルールに沿ったコンテンツ設計と捉えるようになりました。また、案件にもよりますが、ユーザーが使う期間の長さにも違いがあります。Webサイトはその時のトレンドなどによってたびたびリニューアルされる傾向にあり、ユーザーが使う期間が比較的短いことが多いです。一方で、ソフトウェアやモバイルアプリは、Webサイトと比較して長くユーザーに使われ続ける傾向にあると考えています。

金渕:
僕は正直、まったく違いを感じていなくて。前職でWebデザイナーを名乗っていたときから、サービスのダッシュボードなどの長く使われるUIデザインを請け負っていたからかもしれません。ただ、かつて僕が手掛けていたUIデザインと、いまGoodpatchの看板を背負って追求しているものはレベルが段違い。まず、社内で得られる知識の豊富さや精度の高さが圧倒的に違います。ほかにも前職との違いで言えば、情報の整理を徹底的にやる点。ソフトウェアが長く使えるものになるか、道具としてしっかり成立するものになるかどうかは、ユーザーの目に見えるデザインの手前でおこなう情報設計が大きく影響していると感じます。

取り組む産業や課題はさまざま。UIデザイナーは、Webやアプリの戦略から表層まで、ユーザーの目に触れるアウトプットすべてに責任を持ちます。

Han:
Goodpatchの面白いところは、同じUIデザイナーでも得意とすることや、やりたいこと、研究していることが人それぞれで、違いを持ち寄ることでケミストリーが生まれます。一方で共通しているのは、良いプロダクト・サービスをつくり出すためには手段を問わず、できることを常に追求し続ける姿勢なのかなと。

金渕:
クライアントやユーザーに価値を提供するための手段や領域を問わないからこそ、UIデザイナーだけれどUXデザイナーと一緒に提案する人もいるし、その逆もあります。そうした観点からも、前職のWebデザイナーとの違いはそれほど意識することがなく、自分のこれまでのキャリアも大切にしながら、自分にとってのUIデザインを体現していこうという気持ちで働くことができています。

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――似た部分もあるのですね。特にWebデザインの経験が活きていると感じるのはどんな時ですか。

Han:
アイデアをすぐ形にして、ユーザーやクライアントの反応を見るアプローチが取れるのは、前職の経験が大きいです。先ほど金渕からも話したように、UIデザイナーはサービスやプロダクトの情報・構造設計に向き合う役割がありますが、それを検証するためにもまずは目に見えるものを作ってユーザーやクライアントに見せてみる、といったことに抵抗がないのは、Webデザイナーのキャリアが長かったからだと感じます。

金渕:
そうですね。まずはアウトプットして、目に見える、手で触れられるプロトタイプでクライアントやユーザーの反応をはかることを大切にするGoodpatchのカルチャーにも通じる印象です。

――仕事の楽しさを感じるのはどんなときですか。

金渕:
クライアントワークの枠組みの中であれば、なんでもできるところです。依頼されたものをその通りに作るのではなく、クライアントやユーザーが抱えている課題に切り込んで「もっとこうしましょう」とWhyから提案することができます。もちろん自分の意思と実力次第ですが、何をやるのか決まった状態で関わるのではなく、より上流から関わることができるのがGoodpatchでUIデザイナーとして働く醍醐味です。

Han:
そうですね、Goodpatchにジョインするまでは受け取った要件や依頼を形にする役割でしたが、今は「そもそも課題は何か?」「何でこれをやるんだっけ?」「ゴールは何だっけ?」と本質を考える時間が多くなりました。

デザインストラテジストからデザイナー、エンジニアまで、チームのみんなで課題を再定義するのも面白いですし、もともとの課題にそった案を提出しながら、「他にこういったアプローチもありえますよ」と別案を提示するのも面白いですね。前職までの働き方と比較しても、クライアントが私たちのことを「発注先」ではなく、サービスやプロダクトを一緒につくっていくプロフェッショナルとしてリスペクトしてくださっている、対等な関係が基本なので、提案もしやすいと感じています。

金渕:
事業をドライブさせるビジネスパートナーとして信頼されているのが伝わってくるんですよね。だからこそこちらも真剣で、クライアントやユーザーにとって良いサービス・プロダクトにならないと思ったら忖度なく異をとなえます。お互いに熱くなって議論をぶつけ合うことも。根底では、良いサービス・プロダクトを作りたい、世の中をより良くしたいという気持ちでつながっているから、燃え尽きるまで議論したあと「じゃあ、こうしようぜ」と意見がひとつになり、最後には肩を組んで笑い合うことができる。そんな関係です。

UIデザイン未経験のメンバーを支える仕組み

――サービスやモバイルアプリのUIデザインを入社してから学ぶにあたって、どんなサポートがありましたか

Han:
私のときは、新卒向けの研修をアレンジしてくれたほか、わからないことがあればすぐ相談できる環境が整っていました。UIデザイナーのお悩みを解決する「ちょっときいてー」という文字どおりの取り組みもあります(笑)。

特に不安が大きかったのは、前職ではあまりしてこなかったクライアントへの接し方でしたが、先輩方にロールプレイングにつきあってもらう中で自信がつきました。UIデザインのプロフェッショナルとして、クライアントやチームとどのように向き合うか、どのように振る舞うかは、自分で試行錯誤しつつ、適宜声をかけてもらいサポートしてもらいました。

金渕:
実は、Goodpatchという環境で自分の今までの経験やスキルが通用するのかという不安もありながら入社したため、最初のうちは細かいことまで本当になんでも相談していました。マネージャーとの1on1もそうですし、UIデザイナーの先輩に、案件とは別にスキルアップに向けた課題を出してもらい、フィードバックをもらうといったこともしていました。

デザインへのフィードバックの様子。現在はマネージャーを務めフィードバックを行う栃尾も、WebデザインからUIデザインへとキャリアチェンジを経験した一人。

Han:
Goodpatchはチームで高め合うカルチャーがあるので、一人で抱え込んでプレッシャーに押しつぶされるようなことはなかったですね。

金渕:
そうそう。同じ案件を担当している別の職種同士でフィードバックを出し合うなど、構造的にチームを強くするアプローチから多くを学びました。僕は、プロダクトをより良いものにするためにできることはなんでも吸収したいので、デザインストラテジストのメンバーの意見も参考にしていました。デザインストラテジストは前職でコンサルタントをしていたメンバーもいて、ビジネス観点での視座を得られることがデザイナーとしての強さにもつながると思っています。

Han:
ほかにも、社内で進行している他の案件のナレッジをシェアする取り組みが月に何度もあったり、社内ポータルで検索すればデザイン関連の記事がたくさんヒットします。仕事に関係するイベントや講習、書籍代は基本的に会社が負担してくれるので、成長を後押しする環境だなと日々仕事している中で思います。

――今後UIデザインに興味のあるWebデザイナーが入社する場合はどうなるのでしょうか? 

Han:
そういった方向けの研修プログラムが新たに開発されました。UIデザインについて研修でインプットしながら、並行してプロジェクトも担当することで、アウトプットを通して学ぶことができます。

UIデザインに関して疑問や不安があるときは、クオリティマネージャーと相談しながら品質を高めていきます。

金渕:
Goodpatchでは社内でさまざまな研修が行われていますが、どれも一方的に詰め込む形式ではなく、参加者の意見や反応を吸収しながら一緒に学び、成長し、良い体験につなげていくのが特徴です。

だから、ここが不安、もっとこうすると良さそう、など、意見をどんどんあげてもらえたらと思います。自ら声をあげ、行動していく方が、成長機会を最大化できますしね。ほかの環境を知っている人ならではの視点を期待されていると思いますし、ぜひ実際に活かしていただけたら嬉しいです。

拡張していくデザインの定義

――GoodpatchのUIデザイナーにチャレンジされてから、デザインの定義はどのように変化しましたか。 

Han:
物事をトータルで考えるようになりました。昔はデザインというと、見た目を美しくすることだけを考えていましたが、いまは目に見えないプロダクトの存在意義や全体設計、仕組み、体験にも思いを巡らせるようになりました。デザインという言葉の使い方が変わりましたね。

金渕:
僕も同じで、デザインという言葉の使い方が変わりました。もともとデザインの意味は設計ですが、本来の意味で使うようになったと感じます。

Han:
だからといって表層のデザインを軽んじているわけではなくて。逆にそこもおろそかにせず、内側から本質的なデザインを追求し、表層につなげていくことが大切だという意識も強くあります。

金渕:
そうですね。Goodpatchはコンサルっぽいとか、プロダクトのデザインだとクラフト感を追求できないという印象をもたれることもありますが、ディテールへの追求心も強いんです。

Han:
同じUIデザイナーでも、人によってはグラフィックデザインを得意とする人もいますしね。そういう方たちが社員総会で素敵なデザインワークを発表したり、副業で請け負ったり、デザインを楽しんでいる感じもGoodpatchらしさだなと感じます。 

――「デザインの力を証明する」をミッションとするGoodpatchですが、お二人にとってデザインとは。

Han:
デザインとは「優しさ」でしょうか。なにかを良くしたい、それによって人を幸せにしたいという行為だと考えているので、その根底にあるのは「優しさ」ではないかとGoodpatchに入社してから強く感じるようになりました。

金渕:
Hanさんの考え方にすごく共感します。付け加えるならば「優しさ」には2種類あると思うんです。目に見えるものと、目に見えないもの。たとえば人に親切な行為をするのは目に見えますが、椅子の座りやすさって見えませんよね。道具として、当たり前に座りやすさが織り込まれている。その見えない部分も「優しさ」であり、デザインだと思っています。

Han:
わかります。「このアプリ、気づかないうちに開いてしまう」とか、「このサービス、ずっと使っちゃう」が生まれるのは、そこには「継続的に見てもらえる仕組み設計」と「ノンストレスで使ってもらえる優しさ」があり、デザインがあるから。 

金渕:
「優しさ」の正解って、クライアントも、ましてやUIデザイナーも持っていないんですよね。ユーザーに聞かないとわからないし、使ってもらわないとわからない。前職ではクライアントと直接やりとりすることを求めていましたが、クライアントのほうを向いて「これでいいですか?」とデザインしても意味がないと気付きました。クライアントと肩を並べ、世の中を優しくするための選択肢を一緒に増やしていきたいと、Goodpatchに入ってから思うようになりました。 

――デザインの力を証明した先に、どのような世界を描いていますか。

Han
「優しさ」を追求していった先に広がるのは、「もやもや」や「不快」がない世界だと思っています。気づくと使っているアプリやサービスのように、違和感がなく、自然な状態でいられる世界。 

金渕:
同時にそれは、選択肢がある世界だと思います。自分が好きなもの、自分にとって違和感がなく、自然体で使えるものを誰もが選択できる世界。そうした世の中の選択肢を増やすことができたら、すごく嬉しいなと思っています。 

Han:
使わせるのではなく、自然に選んでもらえるものを届けたいです。いま、みんながそれぞれ選んで使っているパソコンやスマホと同じように。もっともっと良いものをデザインで届けて、世の中、または社会の人々に使ってほしいですね。 

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[取材・執筆] 北野 早苗 [編集] 松島 さおり、栃尾 行美、杉本 花織 [写真] 杉本 花織