従業員の管理から人材育成へ 人事評価システムを超える体験設計に挑んだ、新SaaS「Cateras」開発プロジェクト
人事評価制度の構築とクラウド化で評価業務のDXを支援してきた「あしたのチーム」。主に中小企業に向けて、AIを活用した人事制度の構築や評価業務のクラウド化、評価制度の運用支援を行うコンサルティングやクラウドシステムなどを組み合わせた事業を行ってきました。
そんな同社が2024年4月に提供を開始したのが、人事評価制度構築やクラウド化だけでなく、従業員一人ひとりの主体的なキャリアの形成をサポートする“パフォーマンスデザイン”に舵を切った新サービス「Cateras(カテラス)」です。
グッドパッチは、Caterasの立ち上げにデザインパートナーとして伴走しました。プロジェクトでは、Caterasのコンセプト設計およびブランディング、そして人事評価機能を持つプロダクト「Cateras人事評価」の開発という両面から支援。
今回のインタビューは、Cateras人事評価の開発にスポットを当ててお届け。なぜ、パフォーマンスデザインサービスの提供に至ったのか? 人事関連サービスならではの開発の難しさとは──2社のメンバーが1つのチームとなってプロジェクトを進めた、SaaSのサービスデザインの開発秘話に迫ります。
<話し手>
株式会社あしたのチーム プロダクトマネージャー 檜谷さん
株式会社あしたのチーム UIデザイナー 戸田さん
株式会社あしたのチーム UXデザイナー 吉田さん
Goodpatch UXデザイナー 天野
Goodpatch UIデザイナー 金渕
目次
社内にデザイナーがほぼいない 戦略から相談できるデザイン会社を探していた
──まずは改めて、今回「Cateras」がどんなサービスなのかを教えてください。
あしたのチーム 檜谷さん:
「人事評価」を軸に、組織の成果を最大化するパフォーマンスデザインプラットフォームです。コンサルティングサービスの「あしたのチーム」、SaaSのクラウドサービスの「あしたのクラウド」と同様に目標設定や評価ができるほか、人事の担当者が効率良く人事評価の運用が行えるようにしています。
Caterasは、その先にある「パフォーマンスデザイン」と呼ばれる領域を見据えています。人材やタレント(能力)のデータベース化だけではなく、成長やパフォーマンスの向上、ひいては組織の成長にコミットできるようなプロダクトを目指しています。

檜谷淳史さん:株式会社あしたのチーム プロダクトマネージャー
──ありがとうございます。今回のプロジェクトである「Cateras人事評価」を開発することになった背景は、どのようなものだったのでしょうか?
あしたのチーム 檜谷さん:
ビジネス的な狙いとしては、コンサルティングサービスなしでSaaSプロダクト単体で売れるような事業が求められていたというのが大きいですね。これまでも続けてきた「人事評価」のノウハウを軸にして、さらに新しい領域に挑戦できるような事業を作りたかったのです。
しかし、構想はあったものの「どんなふうに何を作っていくのか、誰のために何をするか」が決まってなかったというのが課題でして。当時のメンバーたちだけで走り出すのは危険だなと判断しました。
──なぜ、グッドパッチに白羽の矢が立ったのでしょうか?
あしたのチーム 檜谷さん:
SaaSプロダクトの成功のカギは「ユーザーが使い続けてくれること」だと考えています。そうなると「体験が良くて使いやすい、デザインが良くて見た目もいい」というサービスにしたいと考えていましたが、社内にデザイナーは戸田1人しかいない状況で。さすがに戸田と2人で進めるのは厳しいので、外部パートナーが必要だという話になりました。
構想を形にするところから入っていただきたかったので、デザイン系のコンサルティングができる企業何社かにお声がけしましたが、1プロダクトを超えて、事業自体の戦略まで共に考えていただけるのはグッドパッチさんしかいなかったんです。
機能の検討に入る前に「誰にどんな価値を届けたいか」から問い直す
──Cateras人事評価の開発プロジェクトは、どのように進んでいったのでしょう。
Goodpatch 天野:
プロジェクトは2022年の春ごろに始まり、プロダクトの開発が本格化するとともに、私たちがメンバーにジョインしたのは秋頃でした。最初はあしたのチームの皆さんと何度もディスカッションを重ねましたね。
新しいプロダクトで目指したいのはどういう状態か、そもそも人事評価って何のためにあるのか、人材が成長するとはどういうことか、それは何によってもたらされるのか、個人の成長と組織の成長をつなげるものは──。問いを繰り返して、プロダクトで実現したいことについて認識合わせをしていったという感じです。

天野麻由:Goodpatch UXデザイナー
Goodpatch 金渕:
先ほどもお話にあったように、新しいプロダクトで「誰にどんな価値を届けたいか」という点が固まりきっていない段階だったので、まずは下地を整えるための議論を重ねつつ、あしたのチームさんが人事評価について持っているノウハウや考え方のキャッチアップを進めていました。
あしたのチーム 檜谷さん:
このプロジェクトが始まるまでは、社内で議論していたのは「他社がまだやってないからここはチャンスがありそう」「こういったサービスが提供できると売れそう」という話がほとんどで。このあたりは本当にうちの悪いとこだったと思うんですけど、何を目指すか、つまりWhyやWhatが固まりきっていないまま、Howに走り出す、具体的には要件を整理しないまま実装に入ろうとしていたくらいでした。
でも、みんなで議論をして、ワークショップをして「何のためにこれを作るのか」が見えてきたことで、Cateras人事評価を今の形にしていくための根幹が定まっていったのだと思います。プロダクトのビジョンやコアバリューも決まっていきました。
Goodpatch 天野:
そうですね。プロダクトの“よりどころ”ができた印象です。私たちもそのフェーズを通して、人事評価に対しての理解が深まり、キャッチアップできたと思います。そこから、ユーザーシナリオやカスタマージャーニーの作成へと進んでいきました。ユーザーの行動や気持ちを考えるにも、人事評価システムならではの専門的な知識が必要な部分が多く、理想の状態としてシナリオを言語化するのは、正直に言えば、思った以上に時間がかかりました。
あしたのチーム 檜谷さん:
作ったシナリオをさまざまな人に見ていただき、フィードバックを踏まえてブラッシュアップしていきましたね。
新しいプロダクトについて、必要な機能などを議論することはありましたが、各機能がどうつながっていくのかという観点は抜けていたように思います。「誰がどういうシーンでどういう成果を得たいか」というシナリオがあることで、目的達成のために各機能がどういった役割を果たすのか、1つの業務としてどのようにつながっていくのかということが言語化され、関係者間で共通認識が固まったのはよかったです。
人事、マネージャー、メンバー。目指したのは、全ての人が価値を感じられるプロダクト
──人事評価システムはすでにさまざまなものが世に出ています。議論を経てコアバリューが定まったということですが、今回開発した「Cateras人事評価」はどのような特徴を持ったプロダクトになっているのでしょうか。
あしたのチーム 檜谷さん:
企業向けの製品にありがちな話かと思いますが、「売れる」ということを意識するあまりに、いわゆる「購買意思決定者」にとって印象や都合の良いプロダクトになってしまうということがあるんですね。Cateras人事評価の場合は、グッドパッチの皆さん含め、プロジェクトチーム全員が利用者、つまり社員にとって使いやすい、使いたくなるというUXを考えて開発しているというのは明確な強みだと考えています。
──Cateras人事評価で言えば、購買を決める「人事」だけでなく、社員にとってもメリットがあるというプロダクトに仕上がっていることですね。
あしたのチーム 吉田さん:
現場で使ってもらう体験の良さにフォーカスするというのは、体験設計の初期から決めていたことで、自分もとても大事にしていた部分です。やはり、被評価者にあたる社員の皆さんが、目標設定や評価を前向きに捉えて臨んでもらえることが最も大切ですから。すぐに実現できることではないと思いますが、皆が本気で向き合って考え続けていますね。
Goodpatch 天野:
人事評価システムは、人事の方(管理者)、現場の評価者(マネージャー)、被評価者(メンバー)と異なる立場のユーザーがいます。「〇〇という価値を届けたいから、こういう体験設計にする」という方向性はユーザーの属性でそれぞれ異なるので、機能や画面を検討する際は、整理して混ざらないように気をつけていました。
Goodpatch 金渕:
そうですね。異なる立場のユーザーが使えて、各社さまざまな評価の仕組みを包含でき、それでいて扱う情報はセンシティブであるというところが特に難しく、複雑になりがちです。そこをなるべく分かりやすく、それこそこれまでExcelなどを使って人事評価を行っていた企業の方も安心して使っていただけるようなプロダクトになったと思っています。
あしたのチーム 檜谷さん:
Cateras人事評価は競合がある中で後発のプロダクトになると思いますし、何ならエンジニアの人数やリソースでも大きな企業に負けている部分も正直あると思います。しかし、それが逆に強みになるのかもしれないと思っています。数より質にフォーカスできるというか。
──どういうことでしょう?
あしたのチーム 吉田さん:
リソースが少ないからそういう戦術になるという面もありますが、いろんな機能を盛り盛りにするのではなく、本当にお客さまに喜んでもらえるであろう要素を厳選して追加することになります。プロダクトの作り手側はいろんな価値を届けたくなるもので、結果として煩雑なものが出来上がってしまいやすい。
この機能を提供することで、お客さまはどういうアウトカムを得られるのか、といったところを議論しながら、スコープも判断して……という点をきっちり行っているので、皆さんに価値を感じてもらいやすいプロダクトになっているという自負があります。
シビアな情報設計が求められる、人事評価システムならではの難しさとは?
──誰でも使いやすく、価値を感じてもらいやすい人事評価システム。言葉にすると簡単ですが、実現するには難しい点も多いのではないでしょうか。開発にあたって、苦労したポイントはありますか?
あしたのチーム 吉田さん:
大変だった点は本当にたくさんあるのですが……「人事評価システム」というプロダクトにおいては、情報を閲覧する権限の問題は分かりやすいかもしれませんね。評価を含む人事情報というのは、公開範囲に気をつけないとさまざまなトラブルにつながります。
同じページを開いたとしても、管理者が見たときとマネージャーが見たとき、メンバーレイヤーの社員が見たときで表示する情報が変わるということも少なくありません。私はAさんの給与を見られない、でも天野さんはAさんの給与を見られるというように。そういった権限周りの制御は、細かくて複雑なものになりやすいですね。

吉田 航さん:株式会社あしたのチーム UXデザイナー
Goodpatch 金渕:
権限を考える必要があるのは、情報の閲覧だけではありません。オブジェクトを作成したり、編集したり削除したりといった「操作」に関する権限もあります。この役職の人はこういう権限で……というふうに単純な表にできるような話であればいいのですが、期中で新しい組織ができるとか、人の出入りがあるとか、さまざまな条件で分岐せざるを得ないものも多く、情報設計という点で非常に難しかったですね。
Goodpatch 天野:
せっかくプロダクトや各機能で実現したい価値があっても、企業で適切な運用ができるための基盤がない状態だと、それらの価値を届けることができません。特に権限管理は後から根幹の仕組みを大きく変えることが難しいため、設計をていねいに進める必要がありました。
──なるほど。運用まで考えたものにする必要があるというのは、業務システム全体で言えることだと思いますが、人事に関するものだと一層シビアになるわけですか。
あしたのチーム 檜谷さん:
そうですね。こうした情報設計は、人事評価システムにおいては「骨組み」のようなものです。ユーザーからは見えにくいですが、プロダクトの使いやすさや設計思想に響く重要な要素と言えますね。
価値検討から実装までをスムーズに エンジニアとデザイナーのコミュニケーションも倍増
──プロダクトの基礎の部分から着々と作っていったというわけですね。仕様が決まってくれば、エンジニアも巻き込んで実装も始まることになると思いますが、実装については苦労した点などはあったのでしょうか。
あしたのチーム 檜谷さん:
今回のプロジェクトでテーマにしていたのが、実装フェーズでどのようにデザイナーを入れていくか、デザイナーの知見をどう生かすのかということでした。
──何か課題があったんですか?
あしたのチーム 戸田さん:
機能や画面がFIXし、これから実装という段階でエンジニアに仕様を説明をすると、鋭い質問が入って議論になったり、手戻りが発生したりして、スムーズに進まないことが多くて。ただ、このプロジェクトでは先にユーザーストーリーの背景をエンジニアに共有していたことで、一定の共通認識があったのでよかったです。「誰にどういう価値を届けるのか」という前段のところからしっかりと伝えていくことが大事だなと。

戸田 拓真さん:株式会社あしたのチーム UIデザイナー
Goodpatch 金渕:
そうですね。最初は実装に入るタイミングだけでエンジニアにレビューをもらっていたんですけど、そこで持っていった仕様がNGになると、翌週のエンジニアのタスクがなくなってしまいます。
それは大きな損失なので「さらに手前の段階でもエンジニアにレビューしてもらいましょう」と。今はさらにその手前……実現したい価値がある程度ソリューションのパターンに落とせたぐらいのタイミングで相談をして、徐々に仕様を固めていくプロセスに進んでいます。全員が「そもそも」から考えて、議論をし、納得した状態が作れています。
──なるほど。エンジニアとデザイナーのチームワークが洗練されてきているんですね。
あしたのチーム 檜谷さん:
さまざまな試行錯誤を経て、デザイナーが実装フェーズにどう関わるのがよいかが見えてきました。プロダクトの価値を検討し、その価値をどう実装していくかというプロセスが整ってきたと思っています。最初こそ、文化の違いなどで驚いた点もあったと思いますが、金渕さんもすっかりエンジニアチームの一員みたいになじんでいますもんね。
あしたのチーム 吉田さん:
1つのチームとして動いているなと感じます。私なんて、あしたのチームに転職するときにカジュアル面談にグッドパッチの方が同席していて、驚いたのを覚えてますよ(笑)。
──そんなことがあったんですか!? それは確かにびっくりしますよね。
あしたのチーム 檜谷さん:
一緒に働いているチームメンバーですから、プロダクトの開発状況やチームの雰囲気を知っていただく上で必要だと思いまして。実際に吉田のオンボーディングについても、グッドパッチのデザイナーの方に担ってもらった部分も多いです。
プロジェクトを通じてデザインの重要性を認識、ゆくゆくはCDOの設置も視野に
──今回のプロジェクトで、グッドパッチのメンバーと働いた印象やデザイン会社について印象が変わった点があったら教えていただきたいです。
あしたのチーム 檜谷さん:
目的は十分達成できたかなと思っています。社長の土屋さんが「クライアントワークなめんなよ」という内容をnoteで書かれていたのですが、「本当にそうだな」と思いました。いわゆる「デザイン会社」ではなくて、チームの一員になってくれたっていうところで本当に印象が変わりました。クライアントワークの域を超えているなと。
あしたのチーム 吉田さん:
デザイン会社のデザイナーと言うと「何か情報を受けて、それを作って納品する」というようなイメージがあったんですけど、檜谷さんの言うとおり、私が入社したときからすでにチームメンバーみたいな感じで動いていただいてました。プロダクトに対して誠実であるという点もそうですね。「クライアントが言うからやる」ではなく、ユーザーのためには何が必要かという目線で議論していただけたなと。意見がぶつかることもありましたが、それも含めて誠実さを感じました。
あしたのチーム 戸田さん:
チームの一員という意味では「積極性」がすごかったなと思っています。チームを引っ張る勢いで、皆さんどんどんプロジェクトを進めてくださったなと。
あとはデザインのアウトプットのクオリティが本当に高いというのは、ずっと感じていました。とにかく視野が広くて深い。自分はUIデザイナーなので、UIに関する気付きが多いのですが、引き出しの多さはもちろん、ユースケースを踏まえて実装のことも考えていたり、経営的な視点で意見をいただいたこともありました。広く、深く考え、なぜそうなったのかという理由までを言語化するのが、非常にうまくて、皆が納得できる説明やアウトプットを出していただけたと思います。一緒に働いていて学びが多かったですし、楽しかったですね。
あしたのチーム 檜谷さん:
ウチみたいなケースの企業って結構多いと思うんです。もともとデザイナーが少なかったり、先行するプロダクトを持っているけど「デザイナー採用ができない」という感じの。戸田の話にもあったように、デザインのノウハウがあってプロジェクトをリードしてくれる。思考やプロセスをインストールし、文化も作ってくれて、しっかりアウトプットも出してもらえました。こんなにありがたいことはありません。
──今、文化というお話が出ましたが、どのような文化が生まれたのでしょう?
あしたのチーム 檜谷さん:
代表の赤羽も話していましたが、デザインの重要性を認識したのは大きな変化ですね。「ゆくゆくはCDO(最高デザイン責任者)のようなポジションも作りたい」と。今回のプロジェクトを通じて、会社としてデザインの文化を持つきっかけになったと感じています。CSなど、他部署とのコミュニケーションでデザイナーが活躍する場面も増えてきていますし。
あしたのチーム 吉田さん:
私がプロジェクトの途中からジョインしたときには「すでに文化がある」と感じてたんです。先ほど話題にあがったエンジニアメンバーとのコミュニケーションもそうですが、まさにグッドパッチのデザイナーの皆さんがデザインの文化を作って、業務プロセスのベースを作ってくださっていたんじゃないかなと。私が途中からスムーズにプロジェクトに参加できたのも、文化が徐々に醸成されはじめていたからだと思っています。
──ありがとうございました。最後にこのプロジェクトやCaterasの今後の展望について教えてください。
あしたのチーム 戸田さん:
お客さんにとっての成果にコミットし続けたいですね。そうでないと、会社としてもサービスの提供者としてもプロダクトを開発する意義が薄れてしまうので。プロダクトの成長はもちろん、それが提供できるようにデザイン組織を強く、大きくしていきたいです。
あしたのチーム 檜谷さん:
Caterasは目下、人事評価のシステムを作っていますが、現場に価値を感じていただけるように成長支援のサービスに腰を据えて展開していきたいなと考えています。
一方でコンサルティングのサービスも大切にしたいですね。プロダクトだけできる部分って限られていて、組織として本当に成果を出すには、それを支える制度や文化も必要です。コンサルタントがいて、SaaSもある。この強みを生かして現場の成長支援をCaterasで実現していきたいです。