ジェネレーティブAI技術の進歩などによって、デザインに活用できるAIツールが次々と誕生しています。AIを業務に組み込むことで、今後デザイナーの働き方も大きく変わっていくでしょう。

そこで本記事では、さまざまなAIツールの中からデザイン業務に活用できそうなものをピックアップし、ワークフローのシーン別にご紹介します。主要なツールについては使ってみた感想(レビュー)も記載したので、デザイナー観点でAI活用をどう感じたかをお伝えできれば嬉しいです。

はじめに:AIデザインツールの原理

そもそもデザインに使えるAIツールとはなんでしょうか?AIの分野で重要な役割を果たす3つのキーワードについて、簡単に解説します。

ニューラルネットワーク

クリエイティブな仕事をサポートまたは代替してくれるAI技術は、数十年にわたる技術開発の上に成り立っています。その基本的な仕組みの1つとして挙げられるのがニューラルネットワークです。

ニューラルネットワークとは、人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)を模した人工ニューロンの集合体で構成される機械学習のアルゴリズムの一種です。

10年ほど前、ニューラルネットワークのアルゴリズムに画像と関連するラベルを与えることで、初めて見る画像にも高い精度でラベルを付けられるようになり、これがAI技術の大きな進歩になりました。例えば、Appleの写真アプリやGoogleフォトが写真を自動で分類できるのは、この技術などが原理となっています。

ジェネレーティブモデル

ジェネレーティブモデルとは、一連のデータセットから学習を行い、統計的に元のデータに適合する新しいデータを生成できるAIモデルです。要するに、大量のデータを用意しなくとも「自ら」学習して、オリジナルに近いコンテンツを作れるということです。

先述したニューラルネットワークの技術に、ジェネレーティブモデルを組み合わせることでできたのが、画像生成AIツールです。画像生成AIは、膨大な量の画像データからパターンを抽出し学習することで、ユーザーが入力したテキストを基に新たな画像を生成します。

こうした技術の組み合わせは、画像生成だけでなく、文書生成、翻訳、要約、質問応答などの目的にも使われています。これらはまとめてジェネレーティブAIと呼ばれ、その商業的な可能性がIT業界を沸かせています。

大規模言語モデル(LLM)

大規模言語モデル(Large Language Model)とは、大量のテキストデータを学習することで、テキスト分類や情報抽出、文書作成、翻訳、質問応答、感情分析などの様々なタスクに応用される自然言語処理のモデルです。

昨今話題のGPT-3.5など、自然言語生成のためのジェネレーティブモデルを指して「大規模言語モデル」ということもあります。

シーン別、デザインに使えるAIツール

私たちGoodpatchのデザイナーは、リサーチやアイディエーション、ユーザーインタビュー、プロトタイピング……など多くのフローを経てモノを作るのですが、各々のシーンで使えそうなものを選定してみました。制作の初期から完成までの時系列に沿ってご紹介していきます。

1. デスクトップリサーチ・アイディエーション

ChatGPT(AIチャットツール)

https://openai.com/blog/chatgpt

質問回答、文章校正、要約など様々なタスクを行えるAIチャットツールです。広く浅く調べたいデスクトップリサーチや、素朴な疑問を投げかけてインスピレーションを得ることに利用できそうです。UXデザイナーがアンケートの標準的な質問を作るのに役立てている事例も目にしました。

ChatGPTの使用例(スクリーンショット)

レビュー
今回は上の画像にあるように、アプリのユースケース一覧を洗い出してもらいました。もちろん、得た回答を鵜呑みにせず、個別に判断する必要はありますが、汎用的なアイディアが大量に必要な際は非常に便利だと思います。プロダクト自体、使い方がとてもシンプルで、AIがまるで話しているかのように感じるUIが体験として面白いです。

他にも、AIチャットツールには以下のようなものなどがあります。

  • Bard:Googleが開発・提供しており、今後日本でもGoogle検索内で使えるようになる予定
  • Bing Chat:Microsoftが開発し、自社の検索エンジン「Bing」に搭載しているAIチャット

 

Miro AI(オンラインホワイトボードのAI機能)

https://help.miro.com/hc/en-us/articles/10180187913746-Introducing-Miro-AI

オンラインホワイトボードツールの「Miro」もAI機能をリリースしました。Miro AIは、付箋の自動生成や要約、テキストからの画像生成やシーケンス図の生成、またマインドマップでのアイディア出しなど、ボード上のあらゆるオブジェクトに対して使用できます。

Miro AIの使用例(スクリーンショット)

現時点でまだMiro AIのベータ版にアクセスできないため、公式サイトに記載されているAI機能をご紹介します。
ボード上で付箋を1つ選択し、「Add similar sticky notes(似た付箋を追加する)」という機能を使うと、関連するキーワードが書かれた付箋が10枚作成されます。アイディエーションの際、1つのアイディアをさらに広げるためにこの機能を活用できそうだと思いました。

他にもボード上での作業をアシストするAIツールには、以下のようなものなどがあります。

  • Strap AI:オンラインホワイトボード「Strap」もAI機能をリリースしています
  • Whimsical AI:マインドマップツール「Whimsical」もAI機能をリリースしています

2. ユーザーインタビュー

Whisper(音声認識・文字起こしツール)

https://replicate.com/openai/whisper

スマートフォンなどでも簡単に使えるようになっている音声認識AIは、今後ますます精度が上がっていくと予想されます。Whisperは、ChatGPTなどを開発しているOpen AIによる高精度な音声認識モデルです。Webから集めた68万時間もの多言語音声データを学習し、99言語を認識できると言われています。

Whisperの使用例(スクリーンショット)

レビュー
手元で録音した50秒ほどのファイルを読み込ませてみましたが、正しく書き出せなかった単語は2語だけで、他は完璧な日本語で書き起こされました。固有名詞もしっかりと英語表記されるなど認識精度が高く、インタビュー等の音声を書き起こす際には非常に便利だと思いました。(※利用の際にはプライバシー保護の注意が必要です)

他にも音声認識・書き起こしツールには以下のようなものがあります。

  • Reazon Speech:Whisperに匹敵するほどの認識精度と言われている、日本語音声認識モデル
  • Notta:対面対話・音声ファイル・オンライン会議などを録音し、書き起こしてくれるツール

3. ドキュメント作成・コンテンツ作成

Notion AI(ライティングアシストAIツール)

https://www.notion.so/ja-jp/product/ai

多機能ドキュメントツールの「Notion」も、AI技術を使った機能拡張に力を入れています。現段階で使えるNotion AIの機能は、以下のものを中心に提供されています。

  1. コンテンツの要約
  2. アイデアのブレーンストーミング
  3. 文書ドラフトの作成
  4. スペルと文法の修正
  5. コンテンツの翻訳

Notion AIの使用例(スクリーンショット)

レビュー
Notionでのドキュメント作成中に、メニューからAI機能を呼び出して文章の自動生成や校正を行うことができます。回答を表形式でリクエストすると、Notionのデータベースとして答えが生成され非常に便利です。仕様書などのドキュメント作成に活用できそうだと思いました。

 

Catchy(ライティングアシストAIツール)

https://lp.ai-copywriter.jp/

広告、資料、メールなどに使える文章を提案してくれるAIツールです。キャッチコピーや記事作成だけでなく、YouTubeの企画や会社名のアイディア、小説のプロットなども提案してます。また、画像生成AIツールで作りたいイメージを言葉で伝えると、どんなプロンプトを入力すればいいかを教えてくれる、といった機能もあります。

Catchyの使用例(スクリーンショット)

レビュー
今回は画像生成ツールのプロンプトをリッチにして出力してくれる機能と、単語から漫画のプロットを作ってくれる機能を試してみました。プロット作成機能は、UXデザインでユーザーストーリーを書く際などにも応用できそうだと思いました。本当にいろいろな機能があり、遊び心があって面白いです。

他にもライティングやコンテンツ生成をアシストするAIツールには以下のようなものなどがあります。

  • Easy-Peasy.AI:メールやブログ記事、SNS投稿文などを作成できる
  • ChatGPT:ChatGPTも文書作成を得意としている

 

Gamma(プレゼン資料作成AIツール)

https://gamma.app/

Gammaは、テーマや内容をテキストで指定することで、プレゼンテーションスライドやドキュメント、Webページを作成するAIツールです。生成したコンテンツの編集をアシストしてくれるAI機能も充実しています。

Gammaの使用例(スクリーンショット)

レビュー
上の画像のように「ユーザー中心デザインの製品開発」というテーマでスライドを作ってもらいました。お題をチャットに書き込むと、まずスライドの骨子となる箇条書きが生成され、その文章を基にスライドが組まれます。テーマを変更したり、内容をAIアシスタントと一緒に編集することも簡単にできました。

他にもスライド作成に使えるAIツールには以下のようなものなどがあります。

  • GPT for Slides:Googleスライドに拡張して使うことができるAIツール
  • Microsoft Copilot:Microsoft 365に統合されるAIで、ExcelデータからPowerpointを作成することなどもできると言われています

4. UIデザイン・プロトタイプ作成

Magician(デザインアシストAIツール)

https://magician.design/

Figmaのプラグインとして使えるAIツールです。UIデザインでアイコンやコピー、画像などを挿入したい際に、内容をテキストで指示するとAIがアイディアを提案してくれます。開発元である米Diagramは、AutomatorというFigmaのプラグインなど、デザインを自動化しアシストする様々なツールを提供している注目企業です。

Magicianの使用例(スクリーンショット)

レビュー
上の画像にあるように、スニーカーショップのLPのデザインをアシストしてもらいました。「スニーカーが魅力的に並べられているショップ」の画像や、「シンプルなスニーカーブランド名」のアイディアをデザインに反映しました。クイックにモックアップを作りたい際、仮の画像やテキストを用意するのにとても役立ちそうです。

 

Uizard(UIデザインツールのAI機能)

https://uizard.io/

2018年創業のデンマークの会社Uizardが作っているUIデザインツールです。代表的なAI機能として、手書きのワイヤーフレームやスクリーンショットを取り込むと、自動で編集可能なデータに変換してくれます。近日、テキストで作りたいものを指示するとUIモックアップを自動生成してくれるUizard Autodesignerという新機能がリリース予定だそうです。

Uizardの使用例(スクリーンショット)

レビュー
取り込んだスクリーンショットが数秒でテキストやベクターデータに変換されました。さらに、1枚の画像からトンマナを読み取ってスタイルセットを書き出してくれたり、テキストの編集を自動でアシストしてくれるなど、便利な機能がたくさんあります。現在Uizardはノンデザイナー向けに作られていますが、プロ向けのツールもあればいいなと思いました。

他にもAIによるデザインアシストを搭載したツールには以下のようなものなどがあります。現在Wait Listで待機中のものが多く、使えるようになるのが楽しみです。

  • Genius:上記のDiagramによるFigmaのプラグインで「AIコンパニオン」がUIデザインを手伝ってくれる
  • Galileo:プロンプトからUIを生成するツールで、既存のデザインを読み込ませそれに沿ったデザインを生成することも可能だそう
  • STUDIO:ノーコードWebデザインツールのSTUDIOも、AI拡張デザインツールとして進化する予定
  • Visily:AIのアシストによって、ノンデザイナーでもアプリやWebサイトのワイヤーフレームを作成できるツール

5. 画像/動画 作成・編集

Midjourney(AIアートジェネレーター)

https://www.midjourney.com/home/?callbackUrl=%2Fapp%2F

テキストのプロンプトによって画像を生成する、高精度のAIアートジェネレーターです。AIサーバーとの通信にDiscordボットを使用しているため、Discord内で利用します。画像生成AIの中でも特にアート性が高く、理想型に磨いていくことができると言われています。

Midjourneyの使用例(スクリーンショット)

レビュー
MidjourneyのDismordチャンネルには、世界中のユーザーが作った画像がリアルタイムで流れていて、自分もそこに投稿する形になります。かっこいい画像を見つけたらプロンプトの一部を真似するといったことができるので、他のユーザーに影響されながらイメージをブラッシュアップしていけるかもしれません。

他にも画像生成・編集AIツールには以下のようなものなどがあります。

  • Dream Studio(Stable Diffusion):20億枚以上の画像でトレーニングされた画像生成AIツール
  • Adobe Firefly:Adobeが発表した画像生成AIで、Adobe Creative Cloud内で今後使えるようになる予定
  • AI Picasso:日本の企業が作っているスマホ向けのAIお絵描きアプリで、プロンプトを日本語で指定できる
  • Stable Diffusion Reimage:画像をアップロードすることで、似たイメージを無限に生成できる

 

Runway(画像/動画 生成・編集AIツール)

https://runwayml.com/

様々なAI機能を備えた複合的な編集ソフトです。Stable DiffusionをStability.AIと共同開発した企業、Runwayが開発しています。特に動画編集の機能に優れており、物体を検出して削除・編集したり、シーンを認識して自然な形にカットできるなど、素早く動画編集を行うことができます。テキストから動画を生成できる機能もリリースされました。

Runwayの使用例(スクリーンショット)

レビュー
動画内の人物が変換できるか試すために、黒髪の女性の動画と小さな女の子の画像をアップロードしてみました。顔の角度や表情など不自然なところは残ったものの、服装や背景まで取り込んだ画像のトーンに変換することができました。精度が上がれば、撮影なしでもオリジナルの動画素材を用意することができそうだと感じました。

他にも動画生成・編集AIツールには以下のようなものなどがあります。

  • Make-A-Video:Metaが開発するAIツールで、テキストから動画を生成できる
  • Imagen Video:Googleが開発するAIツールで、こちらも自然言語から動画を生成できる

6. ポスター・パンフレット・バナー等のグラフィック作成

Microsoft Designer(ビジュアルコンテンツ作成AIツール)

https://designer.microsoft.com/

Microsoftが提供するデザインAIツールです。テキスト形式でプロンプトを入力すると、画像やキャッチフレーズなどがレイアウトされ、デザインが生成されます。任意の画像を取り込んで自分の好きなイメージを指定することもできます。また、作成したデザインをその場ですぐ編集することが可能です。

Microsoft Designerの使用例(スクリーンショット)

レビュー
ラーメン店のポスターを制作してみました。グラフィックとしてのかっこよさやレイアウトの複雑さはMidjourneyなど他のAIツールに劣る印象ですが、画像選定などは期待通りに行ってくれました。シンプルなデザインにしたい場合のパターン出しに役立ちそうです。

他にもグラフィック作成等に役立つAIツールには以下のようなものなどがあります。

  • Stockimg.ai:ブックカバーやポスター、ロゴやイラストなど、ブランドのビジュアルコンテンツを生成できる
  • Typeface:元Adobeのアベイ・パラスニス氏が立ち上げたTypefaceが開発するコンテンツ生成AIツール
  • Looka:ブランド名や好みのスタイルと色を選択するとブランドロゴを自動生成してくれる

さいごに

以上、デザインに使えるAIツールをワークフローのシーン別に紹介しました。毎日のように革命的なツールが登場するこの頃ですが、常に新しいものを試しながら、よりクリエイティブなAIの活用方法を探っていきたいと思います。次の記事もお楽しみに!

Goodpatchは、新たなサービス創出を目指すパートナー企業とともに、AI技術を活用したサービス作りに取り組んでいきたいと考えています。AIを使った新規事業を検討していたり、自社事業にAIを取り入れたいと考えている企業様に、デザインの力で並走できれば幸いです。

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