SDGsやカーボンニュートラル(脱炭素社会)、アップサイクルなど、企業において、地球環境のことを考え、持続可能な社会の実現に繋がる仕組みを設計することの重要性は高まっています。
モノを生み出し、利用し、破棄され、再利用されるまでの流れの中で、環境への負荷を最小限に抑えるような活動は至るところで耳にするようになり、実際にそれらに取り組む企業やサービスは増えてきました。
環境問題について考えるべきなのは、私たちデザイナーも同じこと。グッドパッチでも、従来の「人間中心のサービス・プロダクト設計」から視座を上げ、地球環境と共存し、持続可能な仕組みを設計する「Planet-Centric Design」の考え方を取り入れていくことが大切だと考えています。
こうした考えのもと、グッドパッチでは有志のデザイナーが集まり、サステナビリティに関する考え方や具体的な事例などを調査し、課題を探索したり、サービスの企画アイディアの検討をしています。
リサーチを実施して感じたのは、地球環境に配慮したサステナブルなサービスやプロダクトはあるものの、こと日本の消費者の生活においては、まだ幅広い層に浸透していないということです。
そこで地球環境への配慮を、企業が外向けに広告をするための「道具(エゴ)」ではなく、消費者も巻き込んだムーブメントにしていくために、デザイナー視点でサービスをどうすべきかを考えてみました。
皆さんが作り手として、またはサービスを享受する1ユーザーとしてのふるまいを考えるきっかけになるとうれしいです。
サステナブルなサービスをユーザーへ届けるために重視すべき「3つの観点」
どうすれば、サステナブルなサービス(プロダクト)が適切な形でユーザーに届き、浸透していくのか。サービスデザインの観点で考えると、ユーザー体験の流れに合わせ、自然な形でユーザーが地球環境について考えられるような設計が必要になります。
サステナブル領域について、それぞれのタッチポイントにおいて重視すべき点は以下のようになると考えています。それぞれを事例を交えつつ紹介していきましょう。
- サービス利用前:ユーザーの生活ニーズに寄り添い、サービスを利用してみたいと思うきっかけを作る
- サービス利用中:サステナビリティへの関心を自然に高められるような入り口を作る
- サービス継続中:サステナブルな行動が自然と日々の生活に浸透する仕組みを作る
利用する前段階で大切なのは「ユーザーの生活習慣を大きく変えずに利用し始められるサービスであること」です。
地球環境への配慮のためといっても、急に新しい習慣を行うよう言われても長続きしない人がほとんどでしょうし、習慣を変えることになれば、利用開始までのハードルが非常に高くなります。
また、ユーザーにとって分かりやすい機能的価値を伝えることも大切です。例えば、環境に配慮すべき理由や、配慮の欠けた行動による不安を煽るようなストーリーを伝えることは、ユーザーのリテラシーがそれほど高くない場合、説教のように感じてしまうでしょう。
そこで、環境に配慮していることを前面に押し出すのではなく、ユーザーが抱えている不便さ・不安をサービスによって解消できたり、より楽しく快適な生活を送れるような直接的なメリットを伝えたりすることで、利用してもらいやすくなります。
具体例として、自宅から洋服の修繕を手軽に依頼できるサービスである「Sojo」が挙げられます。
Sojoは現在ロンドンの都市部にて展開しており、洋服の修繕をしたいユーザーと仕立て屋さんとをマッチングし、ユーザーの自宅から受取→返却までをスムーズに行う仕組みを提供しているサービスです。自宅から一歩も出ずに、アプリから手軽に服のお直しを依頼できる言わば、仕立て屋とユーザーをつなぐ「UberEats」のようなものです。洋服を修繕し長く着続けることを気軽にできるようサポートすることで、廃棄を減らし、持続可能な消費を促進する役割を果たしています。
このような工夫がされたサービスは、消費者に生活習慣の矯正をさせることなく、環境に優しい行動を自然と促すことができるようになります。
ユーザーがサステナブルな観点を意識してものを選ぶことは、環境問題に取り組む上で非常に重要です。そのため、サービスの使い始めのフェーズでは、ユーザーがこれまで認知していなかった「サステナブルな判断基準」を持てるよう設計することが大切です。
例えば「Google Flight」のように、航空便を選ぶ際に「CO2の排出量を抑えた手段はどれか」という基準を伝えることで、ユーザーにCO2の排出量で移動手段を選ぶ、という新たな気付きを与えられます。
また「Staze」というサービスは「宿泊施設がどのくらい環境に配慮した活動をしているか」という基準で宿泊施設を選ぶという新しい体験を提供しています。このようにユーザーがこれまで意識していなかった観点でモノを選ぶ体験を提供し続けることで、サステナブルなライフスタイルを意識し、実践するきっかけになるかもしれません。
以上のような設計は、ユーザーにサステナビリティの重要性を自然に理解させることができるだけでなく、ユーザーは環境に配慮した選択を意識できるようになるため、サステナブルな生活を送るための第一歩になるでしょう。
どのサービスにおいても「ユーザーに使い続けてもらう」という観点は大事です。特にサステナビリティに関わるプロダクトでは、長期的にユーザーの行動を変えていくことが大切になってきます。そのために、サービスとしていかにユーザーの気持ちを焚き付けられるかという点が肝になります。
日常生活の行動がポイントとなるサステナブルなサービスの事例として、「JouleBug」が挙げられます。このサービスでは、家庭内でのエネルギー使用料削減や自転車や公共交通機関の利用など、環境にやさしい行動をすることでポイントを獲得できます。
自分の普段の行動がポイントとして還元されるため、無意識のうちにサステナブルな行動が身につき、他のユーザーとポイントを競い合うことで、より良い行動を促す仕組みがあります。最初はポイントを獲得するために始めたかもしれませんが、徐々に「どのような行動がよりサステナブルか」を意識する生活に変わっていくことができる良いサービスデザインと言えるでしょう。
JouleBugのような成功体験を通じて仲間と達成感を得られる体験などがあると、ユーザーは自然にモチベーションを高めながらサービスを使い続けることができ、気付いたら環境に貢献している、という状態を作ることができます。
「サステナビリティ」は環境への配慮だけでは成立しない
今回は、サステナブルなサービスやプロダクトをユーザーに届ける上で重要になるであろうデザイン観点の話をしました。
利用前後の体験にサステナブルな視点を持った工夫を施すことで、サービスやプロダクトが人々の生活にとってより身近なものになり、地球環境のことを考える機会もより身近なものになると信じています。
ここまでは「サステナビリティ」という言葉を環境の持続可能性の視点で話してきましたが、実際はそれだけではなく、ビジネスや組織の視点でのサステナビリティも重要です。
原材料やその加工方法に対する過度な環境への配慮によって、労働者や見えないステークホルダーに負荷をかけてしまうような仕組みは、真の意味でサステナブルとは言えません。ビジネスや組織の仕組みの面でも、持続可能性を意識して設計することが必要です。
「環境を大切にしなければいけない」ことは、ほとんどの人は理解しているはず。しかし価格や利便性など、さまざまな要素があって、実際にサービスやプロダクトという形で普及させづらいということが、サステナビリティの難しいポイントです。
しかし、そういったロジックだけでは解決が難しい領域こそ、デザイナーの出番だと考えています。デザイナーとして地球環境のためにできることは何があるのか、皆さんと一緒に考えたいですし、一緒にサステナブルなサービスやプロダクトを作っていければと思っています。ご興味のある方はこちらから、お気軽にお声掛けいただけるとうれしいです。