グッドパッチは、2020年10月、社会課題に取り組む挑戦者たちにデザインの力を届けるためにSDGs促進を志す企業・団体・NPO法人へデザインの無償支援を行う取り組みを発表。その後、社会課題の解決にビジネスとして持続的に取り組むことを目指す姿勢や、日本のみならず世界に貢献する強い志があることから、フードロス削減に貢献するクラダシへの支援を決定し、2021年3月から共同プロジェクトをスタートさせました。
今回のプロジェクトでは、BX(ブランドエクスペリエンス)デザイン領域からクラダシの価値の言語化をサポートし、最終的にはそれらを可視化したブランドブックを作成。
「自分たちだけでは気づけなかったサービスの価値を言語化することで、事業のスピードが加速した」と語る株式会社クラダシ代表取締役社長 関藤竜也さんと、グッドパッチ代表 土屋、プロジェクトを担当したデザインストラテジスト長友に、共同プロジェクトの経緯やデザインの力がどのようにSDGsなどの社会課題解決に関われるのかをお聞きしました。
目次
デザインを通じて社会の役に立つ。デザイナー個人としても企業としても求められる課題
—今回グッドパッチが、SDGs促進を志す企業・団体へデザインを無償支援すると決めた背景を教えてください。
グッドパッチ 土屋:
実は、SDGsがここまで大きく話題になる前の2018年に、全社員に向けて「これからSDGsが社会においてとても重要になる」と話をしているんです。
初めは「土屋がまた何かよくわからないことを言っている」という感じだったんですけど(笑)、そこからデザイナーたちが自主的にSDGsのことを調べて、社内のドキュメントツールに発信しだすことが起こっていきました。
デザイナーの性質なのかもしれませんが、ただ資本主義的にお金を儲けることよりも、デザインを通して誰かの役に立ちたい、社会の役に立ちたいという欲が強い人材が多いのだと感じましたね。
その時はすでに上場を目指していたので、利益を出すだけの企業ではいけない、社会の中でより大きな責任を果たすにはどうすれば良いのかと考え、一度、無償支援をやってみようとなったんです。
参考リリース:社会課題に取り組む挑戦者たちにデザインの力を。SDGs促進を志す企業・団体・NPO法人へグッドパッチがデザインを無償支援
—「SDGs」という言葉が社会課題として認識されたからというよりも、社内での共感や取り組みがあった先にプロジェクトが始まっていったんですね。
グッドパッチ 土屋:
もちろんグッドパッチがデザインを無償支援することは、社会に対して大きな意味合いをもちますが、それよりも社内により多くの共感を作っていくことが重要だと考えました。ただ働いて給与をもらうだけの仕事ではなく、仕事を通じて社会へ貢献してるということを、しっかり感じてもらう一つの取り組みです。
社会問題に対して僕たちが直接的な事業をやるわけではありませんが、デザインを通じて社会問題にチャレンジしている団体や企業の皆さんをサポートすることは、グッドパッチのメンバーにとってとてもいい刺激になるなと考えていました。
未来予測が的中したクラダシとSDGs
—クラダシは2014年に創業されました。当時はまだ「SDGs」という言葉もなかったと思うのですが、なぜフードロス削減事業を始められたのでしょうか。
クラダシ 関藤さん:
私は、1995年の阪神淡路大震災で被災しています。その時に、個人ができる限界を痛感しました。ですが、商社で働く中で次第に、ビジネスの力を使って社会の役に立つようなことがしたいと思うようになったんです。一人の力では大きなアクションを起こすことは難しいけれど、ビジネスの力を使えばできることがあるはずだと感じました。
さらに、1998年から2000年にかけて中国に駐在していたときに、コンテナ単位で食品が廃棄されるのを目の当たりにしたことも大きな衝撃でした。その時に、これは必ず大きな社会問題になると思ったんです。
それがちょうど2000年ごろ。その後2015年にかけてMDGs(ミレニアム開発目標)が始まりました。私は、その先2015年~2030年にMDGsの進化版「〇DGs」が来ると考えたんです。必ず社会風潮が強まってくるはずだから、ソーシャルビジネスを展開するにあたりその前に創業しようと思いました。
グッドパッチ 土屋:
ご自身の原体験もありながら、かなり戦略的に領域を攻めていかれたんですね。
クラダシ 関藤さん:
そうですね。賞味期限の切迫や業界の商慣習などが理由の余剰在庫は、安売りするしか方法はありませんでした。それではブランドイメージと市場価格が棄損されてしまうので廃棄せざるを得ない。これがフードロスです。
この問題を解決する為に、クラダシは新しい流通の仕組みを1.5次流通と提唱しています。
今まで存在しない新しい価値創造を提案する訳ですから、私たちのサービスをより分かりやすくインパクトのある伝え方を考える必要があると思っていました。その時にちょうどグッドパッチのデザイン無償支援のことを知り、応募したんです。
—グッドパッチ社内では、クラダシのどういう点に共感があったのでしょうか。
グッドパッチ 土屋:
書類選考を突破した15の団体・企業の面談には、僕だけではなく、社内メンバー全員がZoomで同席できるような形をとっていました。ただ単に社会問題に挑戦してるだけでなく、クラダシさんからは、より社会に影響力を与えるような会社にしていく覚悟を感じられたことが、社内の共感を集めた一つの要因だったと思います。
グッドパッチ 長友:
選考の時にクラダシさんの取締役 河村さんと人事・事業開発部 部長 徳山さんが「ノーベル平和賞を取りたい」と言ったんです。半ば冗談で言ってるのかなと思いましたが、どうやら本気で言っている。しかも自分たちの名誉のために取りたいのではなく、ノーベル平和賞を取れば、ビジネスという枠の中で社会課題を解決していくことが可能なんだというエビデンスになれるはずだと、真剣に訴えていて。これには衝撃を受けました。
実際に事業として取り組んでいるフードロス問題は、誰しもが社会で生きていれば必ず当事者になるものです。そういう意味でも、どんどん人を巻き込んでいく潜在力があったのだと思います。
プロジェクトメンバーによるキックオフミーティングの様子
サービスの価値の言語化で周囲をさらに巻き込み、事業が加速する
—クラダシとグッドパッチの共同プロジェクトで印象的だったことはなんでしょうか。
クラダシ 関藤さん:
フードロスに限らず、あらゆるロスが解決されたように感じます。サービスの価値が言語化されることによって、社内外でのコミュニケーションロスが解消され、よりシンプルに伝えたいことが伝えられるようになりました。シンプルにわかりやすく共感を得ることができるようなったことで、人を巻き込む力が増したと思います。それを3ヶ月でやってのけるスピード感にも圧倒されました。
プロジェクト概要をまとめた図
—プロジェクトを進める中で、印象的だったエピソードはありますか。
グッドパッチ 長友:
「トレードオフをトレードオフのまま受け入れない」というマインドセットが深く根付いていることが印象的でした。
例えばフードロス問題が引き起こされる原因の一つとして、食品メーカーがブランドイメージや正規価格を守るために食品を廃棄するというものがあります。要は、品質に何ら問題のない商品を通常よりも安く販売するとイメージが崩れるから仕方なく捨てる、という「ブランドイメージとフードロス解消」がトレードオフとして存在していたわけなんですね。
そんな中、クラダシさんのプラットフォームは品質に問題がないのに廃棄されそうになっている食品を適切に販売することでSDGs目標達成にも貢献でき、結果的にブランドイメージや社会的価値が向上するという仕組みを築いているんです。まさにこのトレードオフを解消しているんです。
クラダシさんのビジネスに埋め込まれている、トレードオフをトレードオフのままにしておくという時代は古いという価値観は、グッドパッチが大切にしている価値観ととてもよく似ているなと感じました。僕たちも「AかBを選ぶ」のではなく「AでもBでもない、ふたつが両立するCをどれだけ作り出せるか」という問いといつも向き合っています。土屋もよく言っているんです。「二項対立を見たら前提を疑え」と。
—その価値をアウトプットにしていく過程の工夫や苦労は?
グッドパッチ 長友:
二項対立が両立するためには、今の商習慣や業界のルールそのものを変えにいかないといけません。クラダシさんは、業界が持つ根本的な歪みに気がついて、その仕組みそのものを変えにいこうとしています。そのすごさを、消費者とサプライヤーと世の中の三方にどのように伝えるのかということは常に考えてました。
社会課題をビジネスの力で解決することの意義にたどり着けたアウトプット
—自社の強みは自分たちだけでは気がつけないことも多いと思いますが、今回のプロジェクトを通して、自社の新たな価値や強みの発見はありましたか。
クラダシ 関藤さん:
クラダシさんの成長サイクルという図をプロジェクトの中で作ったのですが、その図ひとつで事業についてすべて表現できた時にはパズルのピースがバチっとハマった感じがありました。
グッドパッチ 長友:
この図を作って発見したのは、クラダシさんにとっての成長というのは、線形ではなく、循環モデルである必要があることです。成長の循環モデルは非常にユニークなものなので、そのことにみんなで気づけたことは大きかったです。
クラダシさんの事業の特徴として、プラットフォーム、お客さん、サプライヤーの構図にさらに、社会の成長サイクルが存在していることが挙げられます。社会に対して、フードロスを減らすとか、CO₂の量を減らすというベクトルがありつつ、社会が良くなれば良くなるほど、社会貢献意識の高い人たちが増え、そうすることでクラダシの会員やパートナー企業がさらに増えていく。ちゃんと社会から受け取るものがあるというのがこの図です。
クラダシ 関藤さん:
まさに「私の頭の中をそのまま図式化してくれた!」という思いでした。社会課題の解決をビジネスとして行う意義が整理されたと思います。
社会課題の解決にデザインの力は本当に有用なのか
—今回のプロジェクトを通して、実際に社会課題を解決するために、デザインの力はどのような点で有用だと感じられましたか。
クラダシ 関藤さん:
まず何より、思いを形にできることです。ブランドブックもそうですし、先ほどの循環モデルの図式もですが、自分たちの頭の中にあるぼんやりとしたイメージを目に見える形で具現化する力は本当に凄かったですね。
そうやってぼんやりしたものを形にすることで、結果的に事業スピードが上がるはずです。シンプルに整備され、削ぎ落とされたものの持つ力はとても強いので、クラダシのサービスをそのレベルにまで言語化していただけたことはとても大きなことでした。
グッドパッチ 長友:
社会課題の解決のためには、消費者をはじめとしたステークホルダーを「仲間」として巻き込んでいく必要があります。個人の消費と、世の中の役に立つことの両方を自分の喜びだと感じてもらうユーザー体験を作っていく部分で、デザイナーができることはたくさんあると感じました。いかにユーザーの行動を社会にとって良い方向に変えていけるのかという問いに対し知恵を絞ることで、デザインの力が社会課題を解決する後押しになるんです。
グッドパッチ 土屋:
今の時代は、資本主義の中でただお金を儲けるという思想で事業を拡大成長させていくことの限界がすでに見え始めています。社会課題の解決にしっかりと照準を合わせにいくことがこれからのデザイナーやデザインの役割において重要なことです。
お金を儲けるということは、得をしてる人がいる一方で不利益を被っている人がいるということでもあります。その現実にしっかりと目を向けることが、デザイナーに限らずビジネスマンにとって必要な視座なのではないでしょうか。
その上でデザイナーは、SDGsなどの社会課題に取り組むビジネスが世の中にきちんと共感されるようなアウトプットを作ることが理想だと考えています。