より多くの才能の受け皿に。スタジオディテイルズとグッドパッチが目指す未来
2021年12月22日、グッドパッチは、株式会社スタジオディテイルズ(以下、「ディテイルズ」)の株式を100%取得し、完全子会社化することを決定しました。
「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンのもと「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ事業活動を行うグッドパッチと、企業のブランディングや商品開発などのクリエイティブ部門と、Webシステムやアプリ開発などの実装・開発部門を両軸として、名古屋地域でのナショナルブランド企業へ顧客基盤を拡大し続けているディテイルズ。
なぜ両社は手を結ぶことになったのか。その経緯と見つめる未来について、ディテイルズの代表取締役 海部洋さん、服部友厚さん、そしてグッドパッチ代表・土屋に語ってもらいました。
目次
地元商店の仕事から一つひとつ積み上げてきた確かな実績
海部:僕と服部は高校の同級生なんです。高校卒業後は、服部は東京の大学に進学し、僕は地元(の名古屋)で音楽活動の傍ら、独学でウェブサイトなどの制作をフリーランスとして請け負って生活していました。
そうしているうちに、お取引させてもらっていた会社さんから、入社のお誘いをいただきました。その相談を服部にしたところ、服部から「一緒に会社をやろう」と言われて。それで、ディテイルズを創業しました。
服部:当時僕はサラリーマンだったんです。実家が家具屋だったので、父からシンガポールのソファメーカーに修行してこいって言われて。まずは日本法人に入ったのですが、めちゃくちゃ成績が良くて(笑)。「シンガポール本社に来い」って言われちゃったんですね。
でも英語も喋れないし、このままサラリーマンを続けるのもな……と考えていて。そんな時に、海部から相談を受けて、だったら一緒に会社をやりたいと思いました。
ちょうどその頃、とある社長から100万円を貰ったんです。「これからインターネットの時代が必ずくるから、勉強しておけ」って。それで、家庭教師を雇ってエンジニアリングの勉強をして。そういう背景もあって、デザインが得意な海部とならやれると思ったんです。海部と一緒に静的ページを3000ページつくりました。
海部:デザイン業界で創業するって言うと、代理店からのスピンアウトか、ある程度クライアントが付いている状態でするのがスタンダード。ですが、僕らの場合は本当に何もないところからのスタートで。最初は、地元の「〇〇屋さん」みたいな小さな規模のお客様が大半でした。仕事も資金もない中で、やれることを増やしていかなきゃいけないし、期待を超えていかなきゃいけない。本当に一歩一歩、階段を登ってきた感覚です。
なんとか最初の2年を生き延びて、初めて上場企業の仕事を引き受けることになったのが最初の転換点でした。すごく張り切って仕事をしましたし、提案の中でも自分たちができることをとにかくアピールして。そこから、雪だるま式にその企業からの依頼が増えていきましたね。
それまでとはレイヤーが全然違う仕事だったので、仕事の内容も質も一気にジャンプした感覚でした。ディレクションの仕方だったり、ロジカルに考えて作ること、「なぜ」を追求する姿勢などは、そのときに徹底的に学びました。
服部:中で働く人の意識の高さ、会社の文化のすごさが別格でしたね。グループ会社の仕事を任せてもらえるようになりましたが、やはりそれぞれの会社ごとに役割が異なるので、それぞれの企業価値ってなんだろうと掘り下げ、そこをきちんと打ち出せるように意識するようになりました。深さが生まれたタイミングだったと思います。
それからは仕事が仕事を呼ぶ状態になり、ありがたいことに今に至っています。
大切なのは完璧なスキルや出来栄えだけじゃなく「やり切った」かどうか
海部:仕事を受ける上で大切にしているのは、自分たちが価値提供できるかどうか。僕たちが単なる「リソース」になってしまうような仕事はお引き受けしないですね。お客様のバリューが上がれば、僕たちの価値も自ずと上がるので、そこは譲れないポイントです。
服部:正直、人をリソースとして見てたら、みんな辞めちゃいますよね。「明日の朝までにこれをやってください」みたいなことが平気で行われていたことはやっぱりおかしいんですよ。だから今、マーケットにデザイン人材がいない状況が生まれているんだと思うんですよね。
グッドパッチも然り、僕たちも独立したデザインカンパニーとしてやってきて、デザイナーやデザイン人材が下請け的になってしまう構造を変えていかないと、デザイン業界に未来はないと思っています。
海部:お客様との間を取り持つパートナー企業と一緒にお取り組みするケースもまれにありますが、条件はとにかくお客様と直接会話ができて、直接プレゼンができて、直接ヒアリングができるかどうか。
お客様が持っている課題をどう分解して、どうデザインに落とし込むかってすごく大事なことなので、そこを第三者に任せることは絶対にできないです。
土屋:その考え方は完全にグッドパッチと同じですね。
海部:ディテイルズは売上至上主義じゃないんです。価値を提供した先に売上があるわけで、売上は先にこない。
服部:だからこそ、手を抜くことに関しては結構厳しくしますね。「やり切ったかどうか」は常にメンバーに問うています。当然、技術や経験で足りない部分は出てきますが、自分の中で「やり切った」と思うものを出してほしいと思っています。
「これでいいや」で終わってしまうと、デザインの仕事ってあんまり面白くない気がして。なぜデザイナーになったのか——例えば絵を書くことが好きで、それを喜んでくれる人たちがいた経験——そのピュアな経験や想いがすごく大事なはずなのに、仕事になると急にピュアな部分を切り分けてしまいがちです。
でも僕は、ピュアな経験が根底にある方がデザイナーとして伸びると思っているんです。だから、ピュアな気持ちでとことんデザインに向き合えるマインドを大切にしてほしいなと、メンバーに対して思っています。
土屋:こういうふうに、きちんと人を育てることに向き合うデザイン会社ってあまりないんですよね。グッドパッチも人に投資していますが、スキルだけではなく、ちゃんと「人」を育てる意識がディテイルズにはありますよね。
海部:スキルを育てるのももちろん大事なのですが、僕らが大切にしているのはソフトスキル——社会人としてのスキル——を育てることです。最終的には、デザイン業界で自分の力で仕事をもらえるようになってほしいんですよ。社内でもクライアントからも「この人と仕事したい」と思われる人間力が、この世界で食べていくには最も大事だと思っていて。なのでデザイナーやディレクター、エンジニアとしてのスキルセット以前に、人としての価値を磨いてほしいし、そこに向き合いたいと思っています。
服部:新卒の子が入社したときにまず話すことは、最初の2〜3年をかけて人間力をつけていこうという話ですね。ディテイルズでは、若手のうちは特に何度もリテイク(やり直し)をして、質を追求するカルチャーがあります。
はじめはアシスタントとして泥臭いことをやるかもしれないけど、それは必ず自分に跳ね返ってくる。だから、そこからしっかり学んで欲しいと伝えています。専門的なスキル——例えばあるソフトを使えるようになるとか——って、ある程度は経験を積めば身に付けられるんです。でも人間力は必ずしも経験の量に比例しないということを分かってほしいと思っています。
土屋:当然クラフトのディテールやクオリティは重要なんだけど、そこだけじゃなく、人の成長にしっかり向き合えるのはなかなかできないことです。この本質がちゃんと理解できているデザイン会社というのがディテイルズの凄さだと思いますね。
事業成長と組織成長の歩みを合わせる難しさ
海部:とはいえ、組織に対する課題は感じていました。これまでやや強引に領域を広げてきたので、事業成長と組織の強さがなかなか噛み合わなくて。
僕らのアイデンティティはものづくりなんですが、一方でより上流からプロジェクトに入ることが増えていって。事業拡大のスピードと組織が成長していくスピードの歩みを合わせるのが難しいなというのは感じていました。
元々ディテイルズはWebやグラフィックを中心に、デザイン会社としてスタートしたところに、時代の流れがWebからアプリケーションへ移っていくのを感じて、スマートフォンアプリやWebシステム開発に強みを持つX.1と協業をはじめました。
【株式会社キングジム様 テプラPRO”MARK” 向けアプリ Hello】
株式会社キングジム様より発売された、テプラPROシリーズの新製品“MARK”のアプリの企画・デザイン・開発を担当いたしました。
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アプリのダウンロードはこちら
iOShttps://t.co/azxG1Q0GPu
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Androidhttps://t.co/2KQdZlaTHj pic.twitter.com/vzg56HZlCl— STUDIO DETAILS Inc. / スタジオディテイルズ (@studiodetails) October 1, 2020
海部:そうやって領域を横に広げていくと、自ずと「なぜやるのか」というより上流のところの問いを求められるようになるんですよね。いわゆるクリエイティブコンセプトです。そうしていくと、なぜでこのクリエイティブがいるのかという事業コンセプトが必要になって……領域を垂直方向、つまりより上流からの仕事に押し上げつつ、それに応えるために横軸でアセットを広げたり、開発会社と連携したりしてきた感じです。
そんな中で一番難しかったのは、会社の成長と人の育成の相関性を、メンバー一人ひとりにきちんと伝えること。ただクラフトマンシップを追求するだけであれば、その視点は必要ないのですが、会社として次のステップにいくためには、人材の育成ってすごく重要で。僕と服部が考えていることを、メンバーにいかに浸透させるかには苦労しましたね。
本当なら、ビジョン・ミッション・バリューを定義しなきゃいけないことはわかっていたんです。なぜなら僕らが顧客に同じことを提供しているから。ただそこに全く手が回っていなかったのが正直なところで。まさに医者の不養生です。
メンバーは日々顧客の課題に向き合っていて、この規模の会社だと一人ひとりのリソースってすごく大事なので、潤沢な時間を使ってビジョン・ミッション・バリューを考えるのって難度が高い。やるならやるで本気でやらないと、本質から遠ざかってしまいますし。そう考えてはいつも後手に回ってしまっていました。
服部:コーポレートサイトももう7年くらい使っているので、今リニューアルに向けて動いているんです。その中で、ビジョン・ミッション・バリューという言葉かどうかはわからないですが、きちんとディテイルズのカルチャーや思想を打ち出していかないと、次のステージには進めないね、と話しています。
経営の苦労をメンバーに背負わせたくない。だからより可能性のある外部と接続することを決めた
海部:そんな裏側で、3年くらい前から事業継承についてはなんとなく考えていました。服部と僕は年齢が42で、会社は14期目になりますが、やっぱり「このまま自分たちが引っ張っていく形でいいんだっけ?」という思いが芽生えてきたんです。
そのためには中間のレイヤーをもっと作らないとダメだよねとか、いろいろな思いが生まれて。自分たちが一線を退くのか、どこかと協業してさらに会社を大きくするのかという話をし始めました。
そのタイミングでコロナの感染拡大の影響があり、市場が攻めに積極的ではない状況になったりもしましたが、やっぱり次のステージに行きたいという思いが強くなってきて。それで、今年(2021年)の夏あたりに、年内に何かしらの結論を出そうと積極的に動きはじめました。
服部:この話は、10年後に自分たちが同じ仕事を取ってこられるかというところからスタートしているんです。会社に声をかけてもらっていれば、それは可能なんですが、実際、僕たちに対しての依頼が大きかったので、そうなると先々が厳しいなと正直思いました。
10年前に勢いがあったグラフィック系の会社って、今はどこも軒並み縮小しています。新しいものが出てきたときに乗り遅れて、気付いたら2周ぐらい差をつけられている未来は、自分たちにも当てはまると危機感を持っていました。
だからこそ、会社の平均年齢を上げたくなくて。新卒採用をしているのもその理由です。若い人たちが活躍できる状態を作っておかなければいけないということはずっと考えています。
加えて、経営ってやっぱりメンタルが強くないとできないじゃないですか。土屋さんも苦労された時期があったと聞きましたが、例えば動かす金額が数億レベルになってくると、個人でどうにかできるレベルを超えてきますし、そのプレッシャーを背負いきれるメンバーっているのかなと。その苦労をメンバーに背負わせたくないなという気持ちもあったかもしれません。
海部:仕事の再現性を無視した形で拡大してきたので、ディテイルズを成長させていくのって相当難しいし、扱いにくいと思うんです。自分たちで難易度の高い会社にしちゃったんですよ。それを背負うにはよほどの覚悟がないとできない。それが分かっているから、事業継承はできないという結論に達しました。
グッドパッチは、ディテイルズのメンバーが10年後20年後も活躍をしていく姿がイメージできた
土屋:ぶっちゃけ、コンサルファームなどからも声がかかっていましたよね?そんな中でグッドパッチが候補にあがってきて、どう思いましたか。
海部:概論的に考えれば、コンサルファーム+デザイン会社は最高の組み合わせなので、最初はそうした会社を候補に入れていました。ですが国内において、足し算ではなく掛け算でシナジーが生まれた事例をまだ見たことがないんですよね。
まったく異なる、左脳的なカルチャーの環境にうちのメンバーが入っていくとして、いきなり接続なんてできるわけがないよなと思ったんです。カルチャーって、ふたつの会社の間に翻訳者がいて、何年もかけて少しずつできあがっていくものだと思うのですが、多分そこまでメンバーが耐えてはくれないだろうなと。
その点において、グッドパッチは、社内のメンバーたちが10年後20年後も活躍をしていく姿がイメージできた。それはすごく大きなことでしたね。
服部:意外だったのは、土屋さんが僕らのことをすごく評価してくれたことです。それがなかったら交渉決裂していたと思います。正直、条件などは他社の方がよかった。でもやっぱり自分たちの会社を継承してもらう相手は、自分たちをまっとうに評価してくれるところを選びたかったんです。
海部:条件だけでドライに振り切ってしまうこともできたかもしれないけど、僕たちが考えている「会社を次のステップに進める」ことって、今いるメンバーを幸せにできるかどうかなんです。今うちで働いてくれている子たちが「ここにいてよかったな」と思える場所を作っていかないと不義理だと思いましたし、だったら自分たちだけで成長させれば良い、となってしまう。
デザイン会社がデザイン会社をM&Aするってすごくアイコニックじゃないですか。僕が土屋さんの立場だったとしても、普通に考えたら最初のM&Aってこうじゃない気がするんですよ。自分たちと違う領域と接するほうが当たり前というかストレートだし。
その中で土屋さんから「ディテイルズは特別」と言っていただけたことは大きかったですね。根本にあるものづくりへの考え方は、グッドパッチとディテイルズで共通しているので、きっと今いるメンバーがちゃんと活躍できる。グッドパッチとなら、相当なシナジーが生み出せると思い、今回の意思決定に至りました。
基本合意書に書いたディテイルズへの異例の「ラブレター」
土屋:グッドパッチはWebサイト制作だけの仕事はしないのですが、僕がもともとWeb制作出身だったこともあり、常にWebデザイン領域のアワードをウォッチしたりアンテナは張っていて。「スタジオディテイルズ」という会社の存在も気にしていました。当時アワードを獲る会社の多くは東京の会社だった中で、名古屋にあるんだと。そのインパクトは大きかったですね。
それで昨年、海部さんの「僕らは、どうしても“質”を諦められなかった。」というインタビューを読んで、めちゃくちゃ刺さったんです。そこに書かれていることにすごく共感しつつも、クオリティへの「深さ」や「専門性」に対するこだわりへのリスペクトも生まれて。
僕らは再現性を大事にしてやってきたけど、専門性やスペシャリティの深さをやりきっている会社があるんだなと。グッドパッチも全員そこに対するリスペクトを持っているけど、やり切れていない部分もあって、僕らがやりたかったことをやっている会社だと思いました。しかもそこに対して志を持って、社会の公器として何ができるかという目線を持っている。明らかに他のデザイン会社とは一線を画していると感じましたね。
グッドパッチはここ一年、M&A戦略を掲げており、さまざまな提案をもらっていました。でもなかなか「ここだ」と思える候補が見つかりませんでした。そんなあるとき、知人を介した提案があって。M&Aの提案って一番最初は社名を出さずに情報だけが届くのですが、それが名古屋にあるデザイン会社だったんです。「え、名古屋?」と思って、「興味があります」って言ったら、ディテイルズで。もうびっくりしました(笑)
それですぐに面談を設定してもらって、8月の末に初めておふたりとお話をしました。僕自身はディテイルズをリスペクトしていたものの、接点はなくて。でも実際に話してみると「あれ?昔から友人でしたっけ?」と思うくらい、考え方の近さを感じました。
ディテイルズと組むことで、グッドパッチの手掛けるデザインにさらに深さと幅が生まれるはずだと確信して。グッドパッチ内にも、最近ようやくビジュアル領域のチームができましたが、まだまだ希少な存在。ディテイルズの存在は、彼らの起爆剤となって、彼らの本来の可能性やスキルをさらに引き出してくれると思いました。
グッドパッチはソフトウェアのデザインを中心に、戦略やブランド、ビジュアルなど領域を広げてきた会社です。そこにディテイルズが加わることによって「ユーザーの手に渡るところまで作りきる」ことをより重視していけるという期待がありました。
本日スタジオディテイルズのグループ入りを発表させていただきました!まさか初の買収がデザイン会社になるとは思ってませんでしたが、クオリティへの圧倒的なこだわりを持つ尊敬するスタジオディテイルズが仲間になってもらえるのは本当に心強いです!これからがさらに楽しみ! https://t.co/iJpXgOzDhr pic.twitter.com/KUvrfdIG8N
— 土屋尚史 / Goodpatch (@tsuchinao83) December 22, 2021
服部:確かに、土屋さんと話してみて、ものづくりへの情熱が他の領域と同じくらい強いことは感じました。根底にある思いは同じなのに、他の部分、例えば戦略に強いなどといったイメージが強くなりすぎた結果、そこへの深い情熱があるって伝わりにくくなっているのはすごくもったいないことです。
僕らが加わることで、ものづくりに対して熱い情熱をもった人たちの窓口にもなれるのかなと思います。
土屋:頭の中で社内やマーケットの反応もいろいろ考えましたが、ディテイルズと一緒ならとんでもないインパクトが生まれると思ったら、もう行くしかない。うちの役員たちにWebデザイン業界出身者はいないので、最初こそ「ええーー!!」って感じだったとは思います。それでも、もう腹をくくったので、基本合意書にラブレターを書いて提出したんです。普通、基本合意書には条件だけが書いてあるのですが、それだけでは選んでもらえないと思って。
たかが紙切れ1枚かもしれないですが、おふたりへのメッセージや、これからどんな可能性が待っているのか、ディテイルズの社員のみなさんをどのように幸せにできるのかなど、きちんと伝えたほうがいいなと思って、僕自身の手で書きました。M&A経験があるメンバーからは「こんな合意書は見たことがない」と言われましたけどね(笑)
真逆の位置にいる会社が一緒になることで、絶対に生み出せなかった価値が創造できる
海部:僕たちはとにかく「スペシャルなこと」がやれるなら属人的になってもいいという考えでやってきました。でもグッドパッチは完全に逆のことを言ってるわけで。属人性を下げて、再現性を上げる、と。ずっと「そんなん無理だよ」って思ってたんですよね(笑)
ただ、実際に結果を見ると、デザイン会社として国内で初めてIPOをして、売上も右肩上がり。「そんなんできるわけないじゃん」って思っている裏で、すごく羨ましかったんです。もちろん、上場や売上がすべてではありませんが、正直嫉妬していましたね。
外から見たら真逆の位置にいるふたつの会社が一緒になることで、これまでは絶対に生み出せなかった価値が創造できるんじゃないかと感じました。
土屋:本当にそうですね。
海部:おそらく、ディテイルズとグッドパッチそれぞれで、すでにお客様に対して最大限の価値は提供できていると思うんです。それはそれで良いのですが、今ビジネスの世界では、コンサルがクリエイティブカンパニーを買う動きや、経済産業省・特許庁が「デザイン経営」宣言を出すなど、デザインが経営に資する領域の取り合いが起こっている。
そこにリーチしようとしているのがグッドパッチだと思うんです。僕らは、尖ったクリエイティブをフックにして、その領域に入り込んでいっていた。入り口は違うけどやろうとしていることは同じなんです。
それでもデザイン業界の現実を見ると、コンサル業界のほうがまだ先を行っている。ここで頭一歩リードする、ないしはデザイン業界の改革を行うためには、やはりIPOしている事実は大きいと思っています。それだけ多くの人から応援されている状態に、僕らが磨いてきた武器を掛け合わせて生まれるシナジーは、コンサルにとっても脅威になるんじゃないかなと。そうなると、デザイン経営市場をリードする存在として、デザインという領域をさらに拡張していくことができます。
それぞれが垂直に価値を伸ばす以上に、2社が生み出すシナジー効果はインパクトが大きいし、業界を変える力になると思っていますね。
才能を持った人たちに、新たな機会を提供することは、デザイン業界にとって大きな価値になる
土屋:今回の取り組みを通して、パートナーに提案する幅も広がることは間違いないと思っているし、さらにそこで高いクオリティのものが作れることで、より大きな価値を提供できると思いますね。さらに、ディテイルズの関連会社X.1はテクノロジーに強い会社なので、可能性がグッと広がると思っています。
やっぱり、今のデザイン業界の本質課題は、広い意味でデザインを提供できる人材が足りていないことです。そもそもの人が足りないというのもありますが、ポテンシャルや才能をもった人たちを育てて伸ばせる環境が圧倒的に不足していることが業界全体の課題です。
ディテイルズとグッドパッチが手を結ぶことで、より大きな受け皿を作れるというのは、他社ではなかなか提供できない価値だと思います。事業会社ももちろん素晴らしいですが、僕らのようにクライアントワークにプライドを持ち、挑戦者を支援することも、社会的意義があることなので。
服部:今、ディテイルズには「かっこいいものを作れる人」がたくさんいて、バランス型の人材のほうがマイノリティになりやすい現実があります。経営をやっていて一番悲しいのは社員が辞めていくことなのですが、これまではどうしても人材の受け皿を作ることができずにいました。
僕自身、かっこいいものが好きだし、それができる人を評価したい。一方で、誰にも辞めて欲しくないという葛藤がずっとあって。「人が辞めないで済む会社ってどういう会社なんだろう」ということはずっと問い続けてきました。だからこそ今回のお話で、受け皿が広がり、より長く働ける土壌が整ったことはすごく良いことだなと思います。
土屋:ディテイルズだけでも、グッドパッチだけでもダメだったけど、2社が結び付いたからこそ活躍できる才能を持った人たちに、新たな機会提供ができることは、デザイン業界にとってとても大きな価値になると思います。
もちろん、顧客に価値を提供することは大事。でも行き過ぎた顧客中心主義がこの業界を壊した側面もあるので、きちんと人を大切にして育てていく環境を作る。その意味でも今回のM&Aで、デザイン業界に大きな変化を起こしたいと思っています。
グッドパッチは組織崩壊から再構築を経験して、いろんな壁にぶつかりながらも組織と向き合い続けてきました。今ではフルリモートも含めて400名規模のデザイナーが集まり機能している組織に成長しています。今後は「ディテイルズらしさ」を定義して、それに共感する仲間を集めたり、組織づくりのエッセンスを伝えることで、より強い組織にしていけると信じています。
【最後に】
スタジオディテイルズは、社員数30名にも満たない頃から新卒採用を続けています。
キャリア採用だけではなく新卒採用を行うのは、人を育てることに向き合い「組織・チームであることの良さ」を体現していきたいという想いがあるからです。
もちろん入社後は厳しい世界が待っています。それでも上を向いて進もうとする意志と覚悟がある方には、僕らのすべてを惜しみなく与えていきたい。迎合はしない代わりに、技術とスタンスは渡せる。それがスタジオディテイルズです。
ご興味がある方は、ぜひディテイルズのキャリアページをご覧ください。