企業のブランドを形づくるデザインとは。SHIFTBRAIN×Goodpatch レポート
Goodpatchでは、2020年4月にコーポレートサイトのリニューアルを実施しました。
Goodpatch コーポレートサイト|Design to empower💙
サイトリニューアルを記念して、今回のパートナーであるSHIFTBRAIN代表の加藤氏、アートディレクター藤吉氏をゲストに迎え、「企業のブランドを形づくるデザイン」をテーマに開催したトークイベントについてレポート形式でお届けします。
目次
第一部 両社代表対談
第一部では、両者の代表が登壇し、事前にいただいた質問を元にGoodpatchのコーポレートサイトリニューアルの経緯、経営者のプロジェクトへの関わり方、ブランド構築について話しました。
デザイン会社が自社サイトをパートナーに依頼した理由
土屋:今回質問も多かったのが、なぜ、Goodpatchがコーポレートサイトを自社で内製せずSHIFTBRAINにお願いしたのか。
まず、デザイン会社が自分たちでコーポレートサイトを作るのってとても大変なんです。みんなデザイナーゆえに、こだわりもめちゃくちゃ強いので。これ、デザイン会社の人なら共感するんじゃないかなと思います。
Goodpatchも、前回は自分たちでコーポレートサイトを作ったのですが、プロジェクトがなかなか前に進まなくて。ローンチするまでに2年くらいかかっているんです。
加藤:それだけかかって、逆によく完成しましたね(笑)。
土屋:しかも当時は組織崩壊中だったので、プロジェクトは炎上に炎上を重ねまして。本当につらいプロジェクトだったので、自社でコーポレートサイトを作ることがトラウマになっていました。やっぱり自分たちで作ろうとしても、想いが強すぎて客観視できないんです。
加藤:社内のプロジェクトって往々にしてなかなか進みづらいっていうのはありますよね。
SHIFTBRAINはコーポレートサイトは自分たちで作っていますが、スローガンやビジョンといった部分については別の会社さんにお願いしました。土屋さんもおっしゃる通り客観性が持てなくなってしまい、自己満足になりがちなので、どうしても外からの目が必要だと思います。
土屋:そうなんですね。僕も次にコーポレートサイトを作るときには、必ず外部のパートナーにお願いしようと決めていました。
加藤:そこでうちを選んでいただいたのはどういう経緯だったんですか?
土屋:SHIFTBRAINさんの実績やアウトプットを見ていて、クオリティに間違いがないと思っていたからです。僕はもともとWebディレクター出身なので他の制作会社さんの実績は知っていましたが、SHIFTBRAINは明らかにクオリティが高い。社内にもSHIFTBRAINファンがいるわけですよ。
こだわりが強いGoodpatchのメンバーでも納得するクオリティが出せるところといったら、僕の第一想起はSHIFTBRAINしかなかったですね。
(Goodpatch代表 土屋)
土屋:加藤さんはうちから相談が来た時、どんなことを感じたんですか?
加藤:すごく光栄なことだと思いました。デザイン会社として勢いもあって認知度が高いGoodpatchさんの顔となるサイトなので、やりがいは感じましたね。
もちろん最初は、社内から心配する声もあがりました(笑)。デザイン会社がクライアントだと大変なこともありますが、依頼の仕方であったり、「こう言われたらパフォーマンス上がる」という勘所を分かってくれている安心感はありましたね。
(SHIFTBRAIN代表 加藤さん)
成功するプロジェクト=経営者がコミットするプロジェクト
土屋:SHIFTBRAINさんの仕事で、経営者が直接関わってくるケースってどれくらいあるんでしょうか?
加藤:ほとんどだと思います。なのでヒアリングでは、経営者の方の経歴を時間かけて聞いていきます。幼少期に何が好きだったかなど、創業者の好みは当然その会社のスタンスとか生き様に反映されるので。
土屋:結構デザイナーの方って、経営者が関わってくることに対してポジティブに思う人とネガティブに思う人がいると思うんですよね。これに関しては加藤さんのお考えで言うとどうですか?
加藤:僕はやっぱり決裁者なり会社を立ち上げた経営者の方と話した方が良いと思っているので、経営者さんとのミーティングにもメンバー5、6人とかで行って、全員で直接話を聞くっていうのを大事にしてやっています。その間に介入するステップが入れば入るほどねじ曲がったりするので、そういう意味で直接対話していった方が納得感もあって進めやすいのかなとは思っていますよね。
土屋:Goodpatchの場合もやっぱりそうで、成功するプロジェクト=決済者、経営者がしっかりとコミットするプロジェクトなんですよね。決済者がコミットしないプロジェクトって往往にして後でちゃぶ台返しが起こったりとか、いい終わり方をしないケースが多いので、決済者が関わるというのは個人的には必須だと思います。デザイナーサイドの意見としても、経営者が出てくるというのはコミットの現れなので、それをネガティブにとらえないほうがいいとは思っています。
当然ながら、今回のGoodpatchのコーポレートサイトにも僕めちゃくちゃコミットしています。面倒くさかったですよね相当(笑)。
加藤:どうなんですかね、決裁者が出てきてくださると結果的には一番早いんじゃないかとは思います。うちも最初の段階で決済者の関わり方がはっきりしてない案件は受けないなどの対応をしていますね。
ブランド形成と管理の仕組みを作ることが重要
土屋:「組織内にブランドの番人は必要でしょうか?」という質問がありますね。
加藤:難しい。会社の規模感にもよると思いますけど、いたほうがいいとは思います。会社の世界観やブランドを統一できる人を採用して、一任するようなイメージかもしれませんが、それができるケースってほとんどないと思うんですよね。だからブランドガイドラインを作ったりだとか、アートディレクターなど理解のある人たちが集まってチームを組んで、ブランドを管理するんです。
ブランドの番人は、いるに越したことはないけど、管理の仕組みを作ることが最初だと思います。
土屋:Goodpatchのブランドの番人は僕なんです。これは創業以来ずっとそうで、表に出るものには目を通しています。ブランドをどう言語化するかって、会社がどうありたいかの言語化なんです。だから社長が常に気に留めておくべきだし、それが表に対してどう見えているか、どう発信されているかを含めて気を使うべきだと思います。
番人っていうとどうしてもコントロールする役割に聞こえてしまいますが、僕はコントロールっていう言い方は好きじゃない。会社から発せられるメッセージやアウトプットが、誰かのチェックを受けていなくても、自然とGoodpatchらしいことが一番理想的だと思っています。
第二部 両社デザイナー、アートディレクター対談
第二部では両社からプロジェクトを主導したデザイナー、アートディレクターが登壇し、実際のプロジェクトの様子について話しました。
「Goodpatchの新入社員になったつもりで挑んだ」言語化作業
土屋:まず藤吉さんにGoodpatchの仕事が来たときにどう思ったのか聞きたいです。
藤吉:シンプルにプレッシャーでした。なんで僕たちなんだろうかっていう(笑)。ただ、以前他社さんの採用サイトを制作した際、大変だったんですけどすごい楽しかったんですよ。入社した気分になれるというか、その会社の考え方、デザインのプロセスなど深いところまで知った上で作れるので、ちょっとした留学みたいな感じが面白いんです。プレッシャーはありましたが、個人的にはやりたいなと思いましたね。
(SHIFTBRAIN 藤吉さん)
今回のプロジェクトも、僕たちはGoodpatchの新入社員になったつもりで作ろうと思っていました。土屋さんが新入社員にレクチャーする資料を1時間ぐらい聞かせてもらったり、とにかく本当に仮入社したような雰囲気の中、いろいろお話を聞かせていただきました。
最初にこういうふうに役割分担したいんですっていう資料も作ってくださっていたので、順番や進め方の話など、自社と重なる部分と違う部分がはっきりとなったので面白いなと思いました。今回はGoodpatchのことを沢山勉強させてもらった上で挑んだリニューアルだったので、それが特徴のひとつになりますね。
土屋:米ちゃん(Goodpatch 米永)はSHIFTBRAINさんと一緒にやるっていうところで何か不安なことはありましたか?
米永:私自身、前職がSHIFTBRAINさんと業界的に近くてすごく憧れている会社だったんです。事例も参考にさせていただいていました。なので今回SHIFTBRAINさんにお願いする話が出た時にも、表現力やクオリティに関しては全面的に信頼していたので心配していませんでした。逆に私たちがちゃんと伝えたことを言語化しきれるのか、思いを全て伝え切れるのかが不安でした。
(Goodpatch BXデザイナー 米永)
藤吉:普段企業のブランドを作るときは、企業のコアを言語化し、そこからデザインのキーワードを洗い出し、そのキーワードはどういうニュアンスをもっているのかをグラフィックで認識をすり合わせています。ただ、Goodpatchの場合はブランドがすでに言語化されていました。普段はもう少しバリューを掘ってみたり、ミッションを一緒に考えたりしますが、今回はその次の段階のコンセプトやデザインプリンシプルを考えていく作業に時間を使いました。
デザインプリンシプルには、3つのキーワードを設定します。Goodpatchのひとつめは、“PUSH FORWARD”。この“PUSH FORWARD”という言葉自体は、Goodpatchの中にすでに存在していた言葉で、それをお借りしました。社員の皆さんと関わっていくなかで、Goodpatch全体のポジティブな雰囲気をすごく感じていて、そこからさらに前に一歩進むというニュアンスと、デザイン面でもう一歩、今自分たちが生み出せる最高のレベルのものを作ろうという意味も込めています。
ふたつめは、“CLARITY”。今回は、明快なデザインを目指したいなと思っていました。どのくらいクリアなデザインかというと、席でWebサイトを見ている人がいたとして、その後ろの席を通りががった人が見たときに「あ、Goodpatchだ」とわかり、そのページの中身まである程度把握できるようなサイトです。Goodpatchがとても明快でユーザビリティーの高いデザインが得意な会社クリアな会社なので、そういった意味も込めて“CLARITY”という言葉を選びました。
最後は、“LOVABLE”です。Goodpatchは、フラットなカルチャーをとても大事にしていて、新入社員のつもりで関わった僕に対しても、土屋さんも社員さんもすごくフランクに接してくれました。そのフラットさをデザインのディテールやデザインの質感で表現することが大事だと思い、この“LOVABLE”というGoodpatchの造語をお借りました。
このデザインプリンシプルをもとに、各キーワードのニュアンスのすり合せや情報のシェアを行い、最終的にはアイコンの表情やインタラクションに比重を乗せたアウトプットとなりました。
米永:この資料を初めて見たとき、私たちのことをシンプルに的確に言い表せている印象を持ちました。短期間で雰囲気をキャッチアップしていただいてありがたかったですね。コロナ以前からやっていたプロジェクトなので、始まったばかりの頃は社内懇親会のPizzapatchに実際に来ていただいたりしたのもよかったなと思います。
今ある良いところは認めてアップデートする
藤吉:前のサイトも僕は全然嫌いじゃなくて、いいなと思ったところが沢山あったので、それらを10個洗い出して一覧にしました。今回のリニューアルは、今あるいいところを“PUSH FORWARD”していくっていうスタンスだったので、この素敵な部分を全部塗り替えるのはちょっとおかしいなと思っていました。好きな部分はそのまま残したいという点は、みなさんも結構同じように思っていただけましたよね。
土屋:こうゆうリニューアルって、前の否定から入ってしまうケースがあったりしますが、良いところはちゃんと認めて残してあげて、アップデートしましょうっていう提案にすると、決裁者としてもすっと受け入れられますよね。
藤吉:そうですね、実際にハンバーガーやピザなどのエッセンスを残せたので嬉しいです。前のサイトを覚えてらっしゃる方は、遺伝子的に継承されている部分を感じてもらえるのではないかなと思います。
企業の思想を言葉で定義することの難しさ
土屋:プロジェクトのプロセスの中で大変だったことがあればぜひ教えてください。
米永:やっぱり、私たちの言語化フェーズですね。「何を伝えたいのか」「そもそもデザインってなんなのか」を再言語化するフェーズが最も苦しかったです。時間がない中で、土屋さんと時間作りながらああでもないこうでもないってディスカッションして形にしていく作業がすごく大変でした。
コーポレートサイトのトップでも使われている、“Design to empower”というキャッチコピーを作るまでは思い出深いですね。Goodpatchはデザイナーの役割や専門性が広く、全ての社員にデザイナーのマインドがあり、そこに誇りを持っているので、「Goodpatchのデザインとはこういうものです」と言語化することの危うさをすごく感じていました。より多くのメンバーに共感して受け入れてもらえるような言葉に落とし込んでいくために、かなり気を使いながら作っていたっていうのが思い出深いですね。
藤吉:今回のテーマに沿ってお話しをすると、定義した言葉を元にした、具体的なアウトプットのフェーズで更に議論がありました。実際に没になった例を交えながらお話ししたいと思います。
SHIHTBRAIN内では最初から「パッチ・グリッド」を作ろうと話していて、それを前面に押し出したのがB案です。Goodpatchのロゴにも使われている、人と人や色んなものを繋ぐ“Patch”を分解して、色にも意味を与えて再構成する案でした。これを色々と組み替えることで、どんな意味にも変容し、UIにも自由に使え、さらにユーモアやちょっと崩した感じすらも出せるということで、最終的に採用となったA案との2案で提案していました。
(B案の「パッチ・グリッド」)
僕らは当時このB案を、これからのGoodpatchの無限の可能性のちょっとしたトリガーになるんじゃないかという想いもあり推していました。2案のどちらで進めるかというところで、土屋さんがA案を選ばれたのですが、僕ら自身も言葉をかなり勉強して提案したB案だったので、そこの判断が難しいなと感じました。
土屋:社内にはB案もすごくいいという話も出ていました。その上で、創業者である僕がどちらの案がGoodpatchに近いかなと考えた時、Goodpatchって角張っているイメージじゃないなと。もっと丸まって、対外的なコミュニケーションや色々な面で柔らかさを出したいというような思いがありました。また、今回は、ブランドイメージを大きく変えるというよりは、アップデートして前に進めるという話だったので、最終的にA案を選びました。それも、対案のB案があるからこそ選べたところはあると思います。
藤吉:UIも最初は結構尖ったものを与えたいという意思があったのですが、スタンダードな方向性の中での“動きの質感”みたいなところに最終的に着地したのは、そういったプロセスがありましたね。
土屋:藤吉さんには、Goodpatchはユーザーインターフェースの会社から始まっている点は大事にしたいと伝えました。
藤吉:そうですね、いただきました。ですので、シンプルにGoodpatchのルーツである「UIデザイン」というキーワードが、ぱっと見たときに感じられるようにしました。UIの歴史を勉強し直したり、こうゆうのあったよねーみたいなところをシェアさせてもらったりしましたね。
土屋:Goodpatchが大切にしているWhyや本質が、中心のコアにあるものから派生していくみたいな表現が、Webサイトによって再度強調されたと思っています。社内でも「Whyからはじまる」とか「本質とは何か」など、改めてGoodpatchらしさを表現するときの方向性が決まったんじゃないかなと感じています。
<サイトを公開しました>
●Goodpatch コーポレートサイトhttps://t.co/V4N76y0iv5
Goodpatchの信念やスタンスを表現するため、Webサイト全体を「Why」から始まる一連のStoryとして感じられるような構造に統一し、ロゴのモチーフでもある「パッチ」や「円」から派生させたアイコンや図解を制作。 pic.twitter.com/mh1fRndWff
— SHIFTBRAIN Inc. (@SHIFTBRAIN) May 1, 2020
IPOブランディングに受け継がれたコンセプト
土屋:サイトリニューアルで生まれた“Design to empower”というキャッチコピーが上場の時も使われて、目論見書の表紙にもなりましたね。
米永:私たちはデジタルプロダクトを主軸に成長してきたので、そのアイデンティティをとても大切にしています。Goodpatchの提供価値もデジタル領域に強いことがひとつだと思っていて、今回採用された円を起点にどんどん広がりを見せていくデザインは、Goodpatchのアイデンティティともつながってきているのかなって感覚があります。
IPOに向けて作った「ブルーローズ」と呼んでいるシンボルは、SHIFTBRAINさんと作ったコーポレートサイトのデザインとつながっています。
米永:ブルーローズは「夢かなう」という花言葉を持っていて、デザイン会社としてIPOするGoodpatchを象徴するシンボルなのですが、ベースには私たちが大切にしているゴールデンサークル、Whyの図をモチーフにしています。「Whyから考えて本質を見抜く」という私たちのアイデンティティーと、細部からこだわり抜いた設計を組み合わせてブルーローズのビジュアルコンセプトを作りました。
藤吉:すごい、リンクしてる!こんな風に展開してもらえるとは思っていなかったです。こういうコラボレーションが生まれるのは、デザイン会社同士の仕事の醍醐味ですね。
米永:Webサイトを作っていく時に、モチーフひとつをとっても、私たちが愛着をもってKeynoteのプレゼンとか色んなところで使えるようになる展開性があるものがいいですねといった話もしていたので、まさにその様に繋がっていって私たちも嬉しく思います。
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第一部では、両社代表による経営者のプロジェクトへの関わり方、企業のブランドを守る経営者と組織のあり方について、第二部ではコーポレートサイトのリニューアルプロジェクトを主導した両社のメンバーから、プロジェクトの舞台裏についてのお話が繰り広げられました。
今回SHIFTBRAINさんと共創したコーポレートサイトはこちら。ぜひここまでのお話を振り返りながら、ご覧いただけたら嬉しいです!