6月5日は世界環境デー。環境保全に関する関心と理解を深め、積極的な取組みを推進することを目的として1972年に制定されました。
環境問題に関する初めての政府間会議が行われた日でもあり、実は日本が国連に提案して定められた日であることをご存知でしたか?
今年は制定から50年の節目を迎え、「持続可能な開発目標(SDGs)」採択以降、政策だけでなく、ビジネスにおいても環境問題への取組みが急務とされています。

政策やビジネスにおいて、デザインが果たす役割が重要視されている中で、「Planet-centric Design(地球中心デザイン)」の考え方もまた、耳にする機会があるのではないでしょうか。
本記事は、Goodpatch BerlinのデザインストラテジストSamuelによる「What is planet-centric Design ?」の記事を一部意訳し、和訳したものです。
企業として、そして地球に暮らす個人としても避けては通れない地球環境への課題に対して、デザインの役割からも今一度私たち自身が問い直し、未来に向けて考えるきっかけとなれば幸いです。

なぜ、地球中心デザインが重要なのか

過去10年において「人間中心デザイン」が広まり、理解されるようになりました。
それは、製品やサービスを利便性や娯楽への欲求をもとに人々の暮らしに最適化させ、人間の長年の行動自体も変えてしまいました。結果として、私たちはスマートフォンの画面上でスクロールし続けながら買い物をしたり、片手間に動画配信の視聴をしていないでしょうか。しかし、そろそろ次のステップに進む時です。
それは地球中心デザインへ転換するための、ラストコールかもしれません。

地球中心デザインとは、視点の劇的な方向転換です。私たちは、エゴイズムからエコシステムへと変わる必要があります。その基本原理は、私たちがこの地球上で唯一の存在ではないこと、そして地球の資源には限りがあることを認めるものです。
人間は何世紀にもわたってこの限界を押しあげてきました。既定概念を超えて、環境を形成する能力が、私たちを人間らしくしているのです。しかし、私たちがもたらす影響には代償があります。
地球とコミュニティを守るために「将来を見通す力」が今一度必要とされているのです。
そして地球中心デザインは、デザインプロセスの中で私たちの暮らす地球のことを意識させてくれるのではないでしょうか。
私たちGoodpatchも、人々に愛される製品やサービスをデザインすることに努めています。しかし「私たちにとって望ましい未来とは何か」をもう一度自分たちに問いかける必要があるでしょう。またそれが誰に影響を与えるのかを意識することは、私たちのデザインにとって不可欠な要素になっています。

地球中心デザインの4つのムーブメント

こうした中で私たちは、デザインの領域を拡大し、地球の視点を取り入れることを可能にする4つのムーブメントを特定しました。

・From human to planet(人から地球へ)
・From quantity to quality(量から質へ)
・From short- to long-term(短期から長期的な視点へ)
・From market-fit to planet-fit(マーケットフィットからプラネットフィットへ)

地球中心デザインは、反人間的な考え方ではありません。人びとのニーズと地球のニーズを同じレベルに捉えるものです。
言い換えると、”チーム・ヒューマン “と “チーム・ノンヒューマン “が補完しあい、自然・環境などを含めた地球上のあらゆるものと共存していくことです。

人から地球へ

1つ目の動きから見てみましょう。多くのデザイン方法論は、人間を対象としています。ペルソナ、ユーザージャーニー、ステークホルダーマップなどを思い浮かべてみてください。私たちは、人から地球のステークホルダーへ移行する必要があるでしょう。
例えば、「富士山」をステークホルダーとして設定してみるのはどうでしょうか。
また2020年以降、パンデミックの主要なステークホルダーであることは間違いない「コロナウイルス」を入れてもいいかもしれません。

Toledo, Ohio, Just Granted Lake Erie the Same Legal Rights as People

湖をステークホルダーとした例を見てみましょう。
排出された化学物質によって水質汚染が引き起こされたエリー湖では、湖に人間と同じ権利を与えました。これにより、汚染が見つかった時にはエリー湖の「代理人」として住民が訴訟を起こせるようになりました。

量から質へ

成長について考えるとき、私たちはしばしば量的な視点にしか目を向けていないでしょうか。従来のやり方として計測が簡単で、より客観的で科学的だと思われるからです。
しかし、地球中心デザインでは質における成長も評価します。
永続性、強度、信頼、自由、結びつきなどは計測が難しいですが、重要な視点であることに変わりはありません。

例えばベルリンの創作餃子屋、Dings Dums Dumplingsは、小売店や卸売業者で生まれた余剰食品をおいしい餃子に変えることで、新たな価値を見出しました。
クランベリーを添えた山羊のカマンベールチーズ、ココナッツカレーとコリアンダーとチャツネを添えたもの…。
無数の組み合わせから新しい味が生みだされ、毎日決まったメニューがないことは、利用者にとっても常に新しい発見があるでしょう。

短期から長期的な視点へ

常に加速している世界では、長期的な視点で目標を設定することが難しくなっています。すぐに結果が得られるのに、なぜ不確実な未来に投資する必要があるのか、と。
地球中心デザインにおいては、時間をかけて変化する外部性も考慮します。そして反復的なワークを行いながら、ビジョン主導のデザインを強めます。
実現するためのワーク方法として、Vision Cone、スペキュラティブ・デザイン、フューチャーバック思考といった考え方があります。

Vision Coneとは、望ましい未来を設計し、それを実現するために今何をすべきかを時間軸で探る考え方です。
自分たちが実現したい未来をイメージするとき、先の未来をみるほど選択できる機会は広くなります。その機会を元にさまざまなシナリオが考えられ、その複数のシナリオに合わせて解析し、明日からできることは何かを考えます。

マーケットフィットからプラネットフィットへ

サステナビリティは環境や社会だけでなく、ビジネスにとっての持続可能性をも意味します。もし、組織が自分たちのビジネスの拠点としている環境そのものを大切にしないということは、ひいては自分たちのビジネスそのものの失敗につながる原因を自ら作り出していることになります。
すぐには影響はないと思うかもしれませんが、長い目で見れば間違いなくビジネスの失敗につながります。
優れたアイデアも、持続させなければ効果はありません。したがって、マーケットフィットを検討する前に、プラネットフィットを達成する必要があります。

‘Meat Should Cost 3 Times More’: German Grocer Shows Consumers Hidden Environmental Price Of Food

ドイツのとあるスーパーマーケットでの取組みを紹介します。
通常の販売価格の横に、食料生産の環境コストを考慮に入れた「真のコスト」を載せることを実施しています。顧客は通常の販売価格のみを支払うことになりますが、この表示を通じてより多くの情報に基づいた選択をして、フットプリントの意識を高めることができるのではないでしょうか。

私たちからの呼びかけ

地球中心デザインは重要です。一方、それは大規模なものであるため、すぐに取り入れて、実現できるものではないでしょう。日々の仕事や生活の中で意識的に地球中心デザインの視点を取り入れ、具体的な結果を出すためには、周囲の人々を巻き込んでいくことが大切です。

この地球環境や社会の課題は緊急性があり、すぐに動く必要があります。
「やらないより、まずやってみる」という気持ちで、小さなところから始めてみませんか。