スタートアップにとってVision,Mission,Valueは欠かせないものです。まだ見ぬ仲間を探すとき、新たな事業を立ち上げるとき、指標として導く役割を果たします。
Goodpatchは組織とカルチャーの崩壊から再構築を経て、企業の内側にある想いを引き出し、事業やプロダクトに反映するブランドエクスペリエンスデザインで様々なパートナーを支援しています。
2016年創業のスタートアップShippioは、オンライン上で輸出入の発注、管理ができる国際物流サービス(デジタルフォワーディング)を提供しています。今回、Goodpatchは、ShippioのVision,Mission,Value策定までのプロセスに並走。なぜ両社がタッグを組むことになったのか、そしてブランドエクスペリエンスデザインの実践についてプロジェクトメンバーに話を聞きました。
目次
「同級生が起業していた」高校時代からつながるストーリー
Shippio佐藤さん
Shippioは2016年8月に創業しています。当時僕たちはProttを使っていて、そこからGoodpatchのことを知りました。うちの土屋とGoodpatchのコーポレートサイトを見ていたら、いきなり「ふみさんや!」と言ったので驚いて、話を聞いてみると、土屋さんと高校の同級生だったという(笑)。それが一番最初の出会いでした。今回のプロジェクトが始まる、3年前のことです。
Shippio土屋さん
僕が驚いてメッセージを送ったのが2016年。高校時代から繋がっている話なのが面白いですよね。
Goodpatch土屋
ハンドボール部で一緒だったあの土屋隆司が、コロンビア大を卒業して、三井物産の商社マンを経て起業していたと知った時はびっくりしました。
それからも定期的に会って経営の相談には乗っていましたが、2019年にShippioがシリーズAの調達をしたことがきっかけで今回のプロジェクトにつながりました。
またShippioは現在、社員15名のコンパクトな組織で運営されているのだが、今回の調達資金を組織強化にも投資して「勝ちきれるチームづくりを目指す」(佐藤氏)とのこと。
組織に共通言語をもたらし、内側からデザインする
Shippio佐藤さん
2016年の創業から、少しずつ組織が大きくなる中で、僕たちはVision,Missionを考えようとして二回失敗しています。オフサイトミーティングでアイデアのタネが生まれたのに実行できずに終わったり、創業者の熱量が先行した言葉になってしまってメンバーに伝わらなかったり…。スタートアップのアンチパターンを全部通ってきているかもしれません。そんなことがあったので「もう同じ失敗はできない」と思っていました。
Shippio土屋さん
僕がふみさん(Goodpatch土屋)によく相談していたのは「プロダクトのUXを強化したい」ということでした。そのとき、組織が何のために存在していて、何を大切にしているのかを理解できないと、本質的なプロダクトの支援はできない。だからGoodpatchにはインナーブランディングを強化するチームがいる、という話を聞いてとても納得したんです。
Shippio佐藤さん
組織が大きくなってきて、共通言語が必要になってきていたんですよね。そんな時にContractS(旧:Holmes)の笹原さんからGoodpatchさんとのプロジェクトのことを聞いて、お願いすることに決めました。
GoodpatchはContractSのブランドデザインを支援させていただき、インナーに向けたミッションステートメント、プロダクトタグライン、営業ツール、ブランドへの思いを書き込むボードを共創しました。
ファウンダーのコミットが命運を分けるブランドデザイン
Goodpatch土屋
最初に言ったのは「Vision,Missionはファウンダーの言葉から作られるから、二人のコミットが重要です」ということでした。
Shippio佐藤さん
本当にこの言葉の通りで、いい意味で皆さんに追い詰められました(笑)。
Goodpatch米永
今回Shippioさんとご一緒したVision,Mission,Valueの策定って、Goodpatchがやってきたことでもあるんです。Goodpatchは過去に組織とカルチャーが崩壊して、ゼロから再構築して浸透させるまでに約2年もの歳月をかけています。その間の変化や、どれだけパワーを使っていたかを当事者として内側から見ているからこそ「クライアントのインナーブランディングは、簡単にできることではない」と思っていて。
クライアントワークで同じことを成し遂げるためには、佐藤さんと土屋さんのコミットはもちろんですが、私たちがマインド面でどれだけリード・サポートできるかにかかっていると覚悟していました。
Goodpatch毛利
私は、Shippioのビジネス自体も初めて触れる領域だったので、本を読んだりとにかくインプットは心がけました。それにプラスして、ビジョンミッションの策定を3ヶ月でやりきるというプロジェクトだったので、かなり冷や汗をかきました。佐藤さんと土屋さんのお二人がコミットしてくれたからこそ、この期間でやり切ることができたのだと思います。振り返ってみると心地いい3ヶ月でした。
Shippio土屋さん
僕ら以外のメンバーにも皆さんがインタビューをしてくれて、このプロジェクトに参加するきっかけを作ってくれていましたね。
あと、成果物が当初想定していた5倍くらいありました。これまで出会ってきたパートナー企業さんの中でも、一番刺激を受けたチームだったなと思います。
Goodpatch米永
プロジェクトについてまず最初に感じたのが、これまで私たちがクライアントワークで経験してきた中でも、特に世界や地球という広い規模で考える必要がある業界だということです。国際物流ですしね。
なのでこの遠い世界を自分ごと化するために、個人の宅配のサービスではどうか?と置き換えるようにして考えていました。私達がいつも利用する個人宅配のサービスを拡大、抽象化したものがきっと国際物流の世界観なんだろうな、という視点でShippioのビジネスについても捉えられるようになりました。
多角的な視点でブランドのコアを見つけ出す
Goodpatch岩田
Vision,Missionって、誰か一人だけが強い想いで叫んでいても、人は集まってきません。「業界」や「社会」という文脈に置くことで、初めて夢や大義になるものなんです。Shippioの想いを、そうした文脈に乗せていくまでのフェーズは苦労したかなと思います。
今回は、物流業界の負のループを明らかにした上で、そこに対してShippioはどんな存在意義があるのかを佐藤さんや土屋さんと話すことで、少しずつコアが見えてきた印象がありました。
Shippio土屋さん
僕たちそれぞれが頭の中で思い描いていたことを体系化、言語化してもらった感覚です。「そうそう、言いたかったのってこういうこと」と、目から鱗の体験がいくつもありました。
Goodpatch毛利
ブランドのコアとなる要素を抽出していくにあたって、4つの視点でインタビューをしていきました。経営者、メンバー、クライアントに加えて、今回は株主の方にもインタビューを実施しています。
Goodpatch土屋
株主へのインタビューはかなり印象的でしたね。僕も内容を共有してもらいましたが、Shippioへの期待がかなり感じられるような内容でした。
Goodpatch岩田
Shippio社員の方や株主の方にインタビューをしていく中で、それぞれがShippioに強い期待感や責任感を持ってくれていることがどんどん分かってきて。それからは「この共感の輪をどうやって広げていくか」を考えるようになりました。
Shippio佐藤
業界や僕らに期待を寄せてくれている株主の方、サービスを直接使う顧客など、いろんなレイヤーの話を聞いて、大きなマップの中で「なぜ僕らがShippioをやるのか」が、3ヶ月の期間でVision,Missionという形で言語化されたことは圧巻でした。本当に「素晴らしい」の一言に尽きます。
Shippioの強さの源泉、“Anchors”に込めた想い
Goodpatch土屋
今回ShippioのVision,Missionに加えて、判断や行動の指針となる“Anchors”も共創させてもらいました。いわゆる行動指針、コアバリューと呼ばれるものですが、あえて「碇」を意味するAnchorという呼び名にしています。どんな波が押し寄せても進む道しるべとなる碇を築きたかったんです。国際物流のインフラを目指すShippioらしい表現になったなと思っていますが、これについてはどんな感想を持ちましたか?
Shippio佐藤さん
Anchorsはめっちゃいい。「ど真ん中を攻める」など、他ではあまり聞かない言葉だからこそ「Shippioらしさ」が伝わるなと思います。Anchorsからうちのメンバーや経営陣の顔が思い浮かぶような、すごくいいものができました。
Goodpatch米永
嬉しい。私たちの中でもAnchorsはShippioらしくてしっくりくるよね、と話していたんです。
Goodpatch岩田
途中からしれっとスライドに入れるようにしたり(笑)。
Goodpatch米永
3つのAnchorsに、それぞれ役割を持たせています。
「ど真ん中を攻める」は判断するため、
「光をめざしつづける」は続けるため、
「仲間を信じぬく」はチームのため。
1つ目の「ど真ん中を攻める」は株主インタビューでもよく出てきていて、絶対に入れなきゃいけないなと感じていた言葉です。
Shippio佐藤
加えて、Don’t(求めない行動)を入れたことがすごくよかったなと思います。Don’tの部分は組織のステージによって、今後変えていくこともできそうです。
Goodpatch米永
言葉を研ぎ澄ませていく部分に関しては、ContractSさんのプロジェクトでも並走していただいたコピーライターの北野さんに託し、私たちはその手前の「何を伝えるのか」と、「どの視座で言うか」の構造の整理を行いました。
後半からは「面接や会社説明の時にこの意味について聞かれた時、なんて答えますか?どんな言葉で語りますか?」と問いかけ、実用性の観点を入れたことで、ブラッシュアップするスピードが上がりましたよね。
Goodpatch土屋
GoodpatchチームからOne more thingとして提案した、ロゴやビジュアルデザインのアセットについてはいかがですか?
Shippio佐藤さん
もう、刺さりまくりです。いますぐ使いたい。
Shippio土屋さん
「副産物として生まれたんです」という感じで出してきてくれたけど、Shippioの事業をしっかり理解してもらったからこそ、生まれたロゴだと思います。
Goodpatch米永
ビジュアルのコンセプトから事業やビジョンを語れるものにしたかったんです。プロジェクト初期から、業界や社会の文脈とShippioのストーリーをつなぐことはずっと意識していました。
Shippio佐藤さん
ブランドカラーのストーリーも完璧でしたね。
世界で最も透明度の高い海が、大西洋にある。
そこは、偏西風の狭間に位置し船の航行に適した良風が吹きにくい。
追い風も吹かず、速度は落ち、時に身動きが取れなくなることも。
そのため古くから船乗りにとって困難な海域とされている。しかしここは世界で最も海水の透明度が高く、世界最高値の66.5mはこの海域で測定された。
困難な場所にこそ、ロマンがある。
※「物流の透明性」を目指すShippioの思想から、世界一透明度の高い海のストーリーと紐づけた。観測点の66.5mと、青のカラーコード#000665もつながっている。
紡がれるストーリーからにじみ出すブランド
Goodpatch土屋
ブランドモチーフは、Shippioの以前の社名である「サークルイン」が由来しているんですよね。このストーリーもめちゃくちゃエモい。
2016年に2人の創業者によって生まれた小さなスタートアップ。
当時の社名はサークルイン。はじまりは小さな光でも、今では使命の達成に意義と喜びを感じる仲間が集い、
希望の光を大きな輝きへと広げてきた。そしてこれからも、この志の輪は広がりつづける。
正しいことを続けていれば、この輪が消えることはない。
Goodpatch米永
これはShippioの現在のロゴも継承している形なんです。ブランドのコアは企業の内側にあるので、「過去のものを否定して新しく作る」という思想ではないと思っています。だから、過去に生まれたデザインをよりよく、点として存在するストーリーをひとつの線で繋ぐイメージで考えました。
業界においても、これまで既存企業が作り上げてきた偉大な功績に対してリスペクトする姿勢でいたい。というお話もあったので、「継承」が立脚点になっています。
Goodpatch岩田
ブランドモチーフのサークルインが、Anchorsの「ど真ん中を攻める」ともリンクしていると気付いたとき、コーポレートアイデンティティってこういう風に作られていくんだ、と直感しました。
Shippio佐藤さん
この言葉やビジュアルに、2016年からのストーリーが全部込められています。
正直、ここまでエポックメイキングな機会になるとは思ってもみませんでした。
Shippioに「臨時経営企画室」ができたような安心感
Shippio佐藤さん
このチームを一言で表現するなら、Shippioに臨時経営企画室ができたような心持ちでした。僕も土屋もフリートークで発散するタイプなので、それを拾って構造化してまとめてきてくれるチームがあることへの安心感はとても大きかったです。
これまでは自分が話したことを自分で構造化したり、まとめてきたけれど、Goodpatchのメンバーと話すときは「なんでもいいから、思ってること全部話してください」と言ってもらえるので、とっても散らかしやすかった(笑)。
Shippio土屋さん
とてもバランスがいいチームだったと思います。僕らから見えないところできっと大変な思いもしているだろうけど、毛利さんのプロジェクトマネジメントのもと、米永さんと岩田さんがとっても楽しそうに、遊び心たっぷりに泳いでくれていたので、僕らも毎週のミーティングが楽しみでした。「次はどんなスライドが出てくるんだろう?」とワクワクしていました。話を引き出すのも、その場で言語化するのも上手で、ただただプロでした。
Shippio佐藤さん
物流業界って複雑なので、考え続けるのも大変なはずなんです。それでも3ヶ月間キャッチアップし続けて最後までやり抜いた、めげない姿勢と思考の深さがとても印象的でした。会話の中でのメモの量も半端ないし、この中に何かヒントがあるんじゃないか、とひたむきに探し続けていた姿勢に圧倒されました。誰が欠けていてもなし得なかったプロジェクトだと思います。
新しい指針を掲げて見つめる未来
Shippio土屋さん
今回のプロジェクトから、やっと組織化に向けた第一歩を踏み出していけると思います。
さっきも話した通り、僕らは本当に毎週水曜日の定例を楽しみにしていました。自分たちも同じように、社会や業界から「Shippioは次どんなことをしてくれるんだろう?」と思ってもらえる企業になっていきたいです。あとはこれから、コアとなる思想をしっかり浸透させていきたい。
Goodpatch土屋
Vision,Mission,Valueは作ること自体も大切ですが、浸透することが最も重要な価値です。ファウンダーが繰り返し言い続けることはもちろん、社員がそれぞれの言葉で語れるようになったらその組織はとても強くなります。「ファウンダーが言ったから、やる」ではなく、自分で考えて判断して、組織を前に進められる人が増えていき、それがファウンダーの思想と一致している状態が理想形ですよね。
Shippio佐藤さん
ShippioのようにVision.Missionに向かって猛進する国際物流のプレイヤーって日本にはいません。僕らがGoodpatchさんとのプロジェクトにワクワクしていたように、Shippioが社会から応援されるところまでたどり着くための指標が、今回お手伝いいただいたVision,Mission,Anchorsでした。これからは僕らそれぞれの言葉で語れるよう、より頑張っていきたいと思います。
今回のプロジェクトをShippio CEO佐藤さんの視点で振り返ったnoteも公開中!こちらも是非ご覧ください。
国際物流スタートアップが3ヵ月かけてVision/ Mission/ Anchorsを言語化した話
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