Goodpatchは様々なクライアント企業に並走しながら新規事業の立ち上げを共創しています。今回は大企業からスタートアップまで、様々な新規事業立ち上げに携わってきたデザイナー3名がその経験を元に「新規事業立ち上げの際にありがちな課題と向き合い方」についてお話ししたウェビナーの内容をお届けします。

ケーススタディ:飲食通販の新規事業を上司に「売れそう」と報告するためにはどうするべきか?

米田:UXデザイナーの米田です。前職はP&Gでマーケティングリサーチャーとして、リサーチを基にした商品・販売戦略に携わっていました。

今回担当した飲食通販の新規事業立ち上げ支援のプロジェクトでは、多くの企業が陥りやすい失敗の可能性が複数あった案件でした。並走しながら、失敗しないように動いていたので、どんな失敗が起こりやすいのか、またGoodpatchではどのように向き合っているのか、ケーススタディとしてお話しします。

今回Goodpatchへいただいたオーダーは、飲食通販の新規事業の計画を進めている方からでした。計画に関して上司から「顧客の解像度が低い」と指摘を受けたため、自信を持って「売れそう」と報告して承認をもらえるように並走してほしいというものでした。

このご相談内容にどんな課題があるのか、4つのポイントで紹介していきます。

新規事業あるある①社内承認を得るためのプロジェクトになってしまっている

小林:デザインストラテジストの小林です。今回の飲食通販の新規事業立ち上げのケースを米田と一緒に担当しました。僕は元々Goodpatchのセールスを担当しており、2020年にデザインパートナー事業へ異動した後は、事業戦略やコンセプト策定などの支援を中心に担当しています。

今回のように、社内承認を得ることが目的化してしまうことは新規事業立ち上げでものすごく多いケースの1つです。言い換えるならば上司を納得させることが目的化したプロジェクトとも言えるかなと思います。
企業の規模が大きくなればなるほど、上長の許可が出ないと企画を進められないという事情から、社内承認を得ることが目的にすり替わりやすい。僕も元々は大手自動車メーカーにいたので、その事情はすごく理解できます。

ですが、そもそも新規事業とは「誰かの課題や困りごとをクリエイティブに解決して世界を変えていきたい」というビジョンがあって立ち上がるはずなんです。けれどいつの間にか、長い時間をかけて何十枚も社内用の資料をつくったり、いろんなところに根回しをしたり、社内でなんとか承認を取らなければともがいてしまうことがありますよね。中には、社内で承認・納得してもらうために事実を捻じ曲げてしまうケースもあります

例えばリサーチをしていく過程で出てきた結果を見て、最初につくっていた事業構想を変えなければならないと気づく。でも計画を変えてしまうと上司が納得しないからと現実から目を背けてしまったりとか。
プロトタイプをつくって価値検証をするときに、ユーザーには全然刺さっていなくても、社内には「売れそうです」と報告してしまうとか。

悪気はなくとも新規事業を会社の中でやっていく際に社内の力学が働いてしまうのはあるあるの一つじゃないかなと感じます。
大企業の意思決定については酒井さんにお話しいただきたいと思います。

酒井:はい。デザインストラテジストの酒井です。アクセンチュアやKPMGといったコンサルティングファームに勤務していた経験からお話しします。ケースバイケースではあるのですが、規模が大きなクライアント企業は、気づくとユーザー目線だったところが社内目線になってしまうということはありがちでした。新規事業はそもそもやることがチャレンジなことなので、足並みを揃えるためにも、トップダウンで進めるか、現場に権限を委任するパターンのいずれかが理想的かなと思います。

小林:こういうケースにどのように向き合っているのか、Goodpatchの一例を紹介します。僕たちがよくとるアプローチはクライアント企業の上司や決済をする方をリサーチプロセスから巻き込んでしまうという方法です。
上司の方は基本的には二次情報、三次情報を受けとって決裁をすることがほとんどだと思うんですけれど、一次情報に触れてもらいます。自分達の企画がお客さんにどういう感情で受け取られるかっていうのを感じてもらって一緒に意思決定していく。終盤になってからOKかどうか判断するのではなく途中途中で軌道修正できるようにサポートしながら進めるのがGoodpatchがよくとるアプローチです。

新規事業の担当者の方は決裁をする方が一次情報に触れられるよう、逆にご自身が決裁を担当される方は生データなどの一次情報に触れるように動いてみてください。正確なリサーチ結果の元、スピーディーに意思決定をすることができるようになります。

新規事業あるある②モノをつくるという認識

小林:新規事業を企画し始める時ってありとあらゆる制約があると思うんです。例えば自社のアセットを有効活用したいとか、既存事業の売上を伸ばすような仕組みにするとか。
制約があることは当たり前なんですけれども、制約になんとか応えようとしてものづくりを始めるとコンセプト不在のモノやサービスができていく。そうすると誰にも刺さらないモノやサービスになってしまう。その結果売れないサービスになる。
制約の意識は、コンセプト不在でモノづくりを始める点に現れるんです。

モノも含むサービス全体をつくる視点を持つ

僕らデザイナーはモノをつくっているようで実はモノだけはつくっておらず、モノやサービスが生み出す意味を深く考える。誰のどのような課題にどうアプローチするかっていう話が完全にセットになっていて、その時に使ってくれるお客さん・ユーザーの感情がどんな風に変化するのかに注目してつくるってことですね。これがデザイナーの専売特許というか特徴だったりするんです。
Goodpatchが並走するプロジェクトは、制約はその会社のルールとして意識しつつ、企画のストーリーやユーザーの感情についてクライアントと1つのチームとして話し合うところから始まります。
時には、お声がけいただいたタイミングで既に制約が山盛りの企画書が出来ていることもあります。その場合は「制約がある中でどう紐解いていこうか」から一緒に考えていきます。

米田:確かに。サービスドミナントロジック(無形財である事業や有形材である商品・製品をすべて「サービス」として包括的にとらえる視点のことという言葉もありますけど、モノをつくるという考え方だけで新規事業の計画に入ると、視野が狭くなってしまうんですよね。モノも含むサービス全体として捉える視点がポイントかなと思います。

小林:どちらかだけでもだめで、視点を行き来することが多いです。
制約を突破するための視点と、ユーザーの感情を考える視点を行ったり来たりしながら、ちょうど良いポイントを見つけていくことがGoodpatchのデザインストラテジストの役割かなと。

新規事業あるある③企画書に没頭しプロトタイプをつくらない

米田:あるある3つ目は、企画書を含め資料をつくることに時間を割いてしまうケースです。その結果、事業のコンセプトや検証するためのプロトタイプが最終段階になってしまうことは新規事業あるあるだと思います。

Goodpatchでは、つくりながら考えることを大事にしています。

実際に私が支援した食品通販の新規事業立ち上げでは、リサーチを重ねながら同時にコンセプト・プロトタイプを作成しました。この図ではブラッシュアップは2回だけに見えますが、実際には何回もブラッシュアップして、調査に参加していただいている方にはできたものから順に見ていただきました。ユーザーの反応を見たりお話を伺いながら、どんどんプロトタイプを変えていく形で「つくりながら考える」を実践した形です。

体験のバグをなくすためにプロトタイピングを行う

小林:あと、よく誤解されていることの一つに「部分的なプロトタイプしかつくらない」ということがあると思います。例えば、今回の食品のECでよくあるケースだとWebサイトのみをプロトタイピングするというもの。それは完全に間違っていて、プロトタイピングというのは体験の全体を検証することなので一部だけつくってもあまり意味がありません
ECサイトの検証をするならば、ユーザーがWebサイトで商品を検討して、実際に商品を受け取り、使用するまでの一連の体験の流れを満たすプロトタイピングをするのが望ましいです。商品を入れる箱や商品そのもの、同封するフライヤーまで用意すると良いですね。

一昔前だとWebサイトやアプリケーションのシステムにバグがないことがすごく大事でしたが、昨今は体験にバグがないことをすごく求められます。体験の中で不快な点があるサービスは二度と利用されません。

体験のどこにバグが潜んでいるかは検証しないと分からないので、一連の体験をプロトタイピングする価値があります。検証して見つかった課題を潰したり、自社のサービスは一連の体験におけるどの部分の体験価値を最大化するのかということを検討することができます。なので新規事業を立ち上げる時には、一連の体験をプロトタイピングすることがおすすめです。

米田:今回の食品通販の新規事業のケースでは、密着調査の前に実際に調査対象の方へ食品をお送りしました。すると「Webサイトに掲載してあった写真と、自宅で盛り付けた感じが違うので損した気分になっちゃう」というフィードバックをいただきました。このように、Webサイト上のプロトタイプだけではなく、サービスに接する一連の体験を検証することによって、ユーザー体験の課題を発見することができます。

新規事業あるある④リサーチの数を稼ぐことが目的化する

数ではなく洞察を得る。アイディアは求めないことがポイント

米田:「何人にリサーチをしたら良いですか?」という質問をよくいただきます。Goodpatchとしての回答は「人数は関係なく、アクションにつながる洞察を得るまでやる」です。実際に、ケース毎に人数は調整して取り組んでいます。「決まりきった形で何人に調査する」ことが目的になると、価値がないリサーチになってしまいます。

小林:クライアントから「時間はないけど50人くらいインタビューしてください」と言われたら、そこから訂正していくのが僕らの仕事だったりしますね。
もう1つポイントとして主張したいことは、リサーチをする対象者にアイディアを求めないということです。アイディアを考えるのは新規事業担当者やデザイナーの仕事なので、譲らずにやりましょう。例えばユーザーにインタビューをする際「どんなサービスがあったら使いたいと思いますか?」と質問をしても、良い答えが返ってくることはまずないと考えた方が良いです。あくまでインタビューでは対象者の課題や感情などに目を向けるべきです。

リサーチの種類

米田:食品通販の新規事業立ち上げのケースでは①日記調査、②密着調査、③定量調査の順でリサーチを行いました。こちらの表は縦軸が気づきの深さで横軸がボリュームの多さを表しています。
ここでのポイントは広さと深さの両立です。まず①日記調査と②の密着調査は気づきの深さを求めたもので、私たちしか知らない洞察を得ることに注力しました。

①日記調査
米田:日記調査では「どんな生活を送って何に喜び何に困っているのか」を探ります。ユーザーのセグメント(属性)ごとに実施しました。

小林:今回はLINEを使って調査をしました。調査対象者に買い物中や調理中の気持ちを写真と共に共有していただきました。それを1週間続けた結果、月火辺りは調子が良いのに週末になると元気が無くなってきてデリバリーを頼んでいたりと、感情における発見が得られました。
調査結果から「作成するサービスは何曜日がポイントになるのかな?」という視点が生まれたり、深いところから考えたりするきっかけになるのが日記調査です。リサーチ方法は無数にあるのでその事業の形態や段階に合わせることが大事です。

②密着調査
米田:密着調査では更に深く行動や思想などの深層心理を探ります。これは深く狭くやるリサーチです。

③定量調査
米田:最後に、作成したコンセプトに共感する人はどのくらいいるのかを探ります。そのためにクライアントとアイディアをつくり、検証を行いました。定量調査はボリュームが必要なので、100〜1000名を対象に実施することが多いです。

ここまでのまとめ

小林:お話しした内容を4点でまとめます。

  1. 差別化ではなく、長く人に愛される製品をつくることを目標にする。
  2. モノを考えるのではなく、その存在が生み出す意味を考える。
  3. リサーチは広さと深さの両立、そしてリサーチ対象にアイディアを求めない。
  4. 新規事業の立ち上げは、はじめに製品のストーリーについて語り合うこと。

以上を心がけていただきますと、今回ご紹介したありがちな課題を避けることができると思います。

Goodpatchが提供するデザインリサーチについて

米田:今回お話ししたケースのように、Goodpatchでは新規事業立ち上げや既存事業の改善のためにリサーチまでの支援も行っております。

新規事業立案をする際には3つの視点があります。
①ビジネス・市場
②技術・アセット
③人

私は大企業での仕事も経験する中で、ビジネスやアセットの視点にのみ注目し、人の視点が欠けているもったいないケースを多く見てきました。

Goodpatchが提供するのは、多くのケースに欠けがちな「人」を起点にした企画・新規事業・戦略立案のためのリサーチです。

リサーチの実施プロセスは大きく3つの段階に分かれます。
1.リサーチ実施と分析
2.施策の方向性検討
3.アクションへの落とし込み

特に3つ目のアクションへの落とし込みまで考えることが、リサーチを意味あるものにするポイントだと考えています。

リサーチ会社に調査を頼むと、分析を経てレポートだけが出てくるケースが多々あると思いますが、結果をアクションに落とし込めないと悩まれているケースをよく見かけます。
Goodpatchのリサーチは全プロセス並走型であることも特長で、アクションを一緒につくっていくことを大切にしています。

米田:最後に、Goodpatchが新規事業支援で大切にしていることを5ポイントでまとめます。
まず、ビジネス・サービスの理解、市場や競合がどうなっているのかマクロの視点で見ること。次に人起点でユーザーについて理解するということ。3つ目がクライアントと共創するということで、一緒になってアイディアを考え、プロジェクト終了後も考え方を引き継いでいただくこと。4つ目が考えながらつくっていくということ。最後にプロジェクトが終わった後もサービスが頓挫してしまうことが無いように次のアクションへの落とし込みまですることの5点を大切にしています。

無料相談会開催のおしらせ

今回ウェビナーに登壇したGoodpatchのデザインストラテジストとUXデザイナーが、あなたの新規事業のお悩み相談に乗ります!

その場でお悩みの内容について壁打ちし、Goodpatchがどんなご支援ができそうかプランを提案します。

こんな相談に乗ります

  • 新規事業部門に異動したばかりで何から始めたら良いかわからない
  • 新規事業の検証の進め方に悩んでいる
  • 顧客や市場のリサーチ結果を事業にどう生かせばよいかわからない
  • 新規事業アイデアの出し方、評価の方法を知りたい

ご相談内容が固まっていない段階でも、ぜひお気軽にご連絡ください!