AI(人工知能)の進化は止まるところを知らないーAIツールやプロダクトは私たちの生活に溶け込み、暮らしの質を高めています。皆さんの身の回りでも、Amazonが開発したクラウドベースの音声サービス「Alexa(アレクサ)」やお掃除ロボット「ルンバ」、ヘルスケア/フィットネスアプリ「FiNCなど、AIが身近になっていることを実感する機会は増えています。

AIは私たちの生活をより豊かに、便利にしてくれるものです。では、私たちデザイナーの仕事という場面ではどうでしょうか?AIは必ずしも特効薬のように使えるものではなく、むしろサービスにおけるデザインの観点では、使い方を間違えると悪化させる可能性も秘めているのです。では、どのようにデザインとAIが結びつけば、プラスな化学反応が起きるのでしょうか。

本記事では、AIとは何かというところから様々な事例をベースに、AI時代のデザイナーの役割を考察していきます。

実は誤解されがちな定義。「AI」とは何か

まず「AI」という言葉の意味をみなさんは正しく理解していますか?

AI(Artificial Intelligence)は「人工的な人間の知能を模倣する技術」のことを指します。誤解を招きやすいのが、AIを「人工知能」と意訳したことで、「人間と同レベルの知能」を持っているかのように解釈する人が多いですが、あくまで「人間の『ように』判断ができる」にとどまります。人間と同レベルといっても限界があるのです。

(「技術的特異点(=シンギュラリティー “Technologocal Singurarity”)」という「人工知能が全人類の知性を上回る時点」、つまり「AIが自考し決断を下す能力をもつ瞬間」が2045年に起こるかもしれないと囁かれていますが、これは推測の域を出ません

ここで、AIの得意分野と不得意な分野を明確にしておきましょう。

AIの得意分野

情報処理:
大量のデータを処理する能力(正確性・速度)は人間をはるかに上回っています。時間が経てば物を忘れてしまう人間と異なり、メモリに情報を保存できることが一点。また、サイバー空間上で取り扱われることが多いので、外の世界から想定外の影響を受けることが少なく、リスクや動作の想定や事前対策がしやすいのも理由に挙げられます。具体的には「画像処理」「音声処理」「自然言語処理」といった、構造やルールが確立されているものを特に得意とします。

意図を汲む力:
機械学習によってデータから最善と思われる候補を絞り込んでいき、未来の状況を推測する能力も持っています。例えば「色を変えて」などユーザーと“対話”しながらグラフィックデザインを提案していく「FIREDROP」は、AIが推測力を持っていることを証明する典型的な例と言えます。

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AIの苦手分野

 0から1を創造すること
AIは過去のビッグデータから未来を予測したり、それをベースに模倣したりすることはできますが、全く新しいものを何もない段階から作り出すことはできません。言い換えると、人間のような「奇想天外なひらめき、直感」がないので、その分野ではまだ活躍は難しいとされています。

感受性、倫理観
AIの「感情」の学習は、まだまだ研究過程です。
たしかにAIはビッグデータから感情の要素を検出し、たとえば「悲しみ」を表す作品を生み出せても、その作品は「創作」や「独創性」とはかけ離れていると言えます。なぜなら人間による芸術作品には作り手の何かしらの感情や思いといった「言語化できない表現」が昇華されていますが、AI自体はまだ感情を持つには至っていないからです。

また過去には、人工知能のTwitterアカウントをオープンしたら、差別用語を書き込まれたことで、差別的な人格になってしまい24時間以内にアカウントを停止した事例など、倫理観にも課題が残っています。

関連記事:Microsoftが開発した人工知能「Tay」が数時間でTwitter上での利用停止に

AIはまだ決して万能ではなく、できることに向き不向きがあることを深く理解した上で使わないと、「AIを用いた技術」という事実だけが先行してしまい、ユーザーの生活を便利にするどころか、逆に不便を強いる不幸な結果になりかねません。

デザイナーとしての、AIとの正しい向き合い方

「0から1を創造することは苦手」と先述しましたが、AIは得意な「情報処理」でデザイン領域の手助けをしています。

例えば「Adobe Sensei」は多種多様なクリエイティブツールを作り出しているAdobeが開発している人工知能プラットフォームです。単体のソフトがあるわけではなく、PhotoshopやIllustratorといったアドビのサービスに共通して適用されているAI技術とマシンラーニングを組み合わせたテクノロジーの総称を指します。具体例は以下のような機能があります。

自動リップシンク…Adobe Character Animatorでは、音声や動きをキャラクターがリアルタイムで模倣

カラーマッチ…フレーム内の主要要素の色に一貫性を自動認識で一致させることで、シーン内の動画のテイストを一貫させる機能

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便利なツールは世界中で毎日のように発表・リリースされていますが、「すべての処理をAIに任せる」のは非常に稀なケースです。なぜなら先ほど述べたとおり、AIにも得意なことと不得意なことが明確に分かれているからです。

では、どのようにデザインにAIを活用していけばいいのでしょうか?AIは人間に、ビッグデータから紐解いた最善な候補を提案する。一方、人間はAIの提示した候補から選択・修正をして実行や結果の評価をするのが一般的なワークフローと言われています。

つまり、判断や決断といった思考をつかさどる分野は「人間のしごと」で、流入経路・利用デバイス・男女率・年齢といったセグメント管理や、離脱率などの人間に判断を促す指標を割り出すのが「AIのしごと」です。

将来のAIの利用方法

「WHY」を解決する、ホワイトボックス機能

最善な候補を提案すると先述しましたが、「あなたへのオススメ」が必ずしも正解とは限りません。むしろ、AIが何らかの理由を持って弾いた中にこそ、大事な情報やベストソリューションが含まれているかもしれません。どんな思考で、何を根拠にAIが選択肢を絞ったのかを知らないまま人間が最終判断を下すのは危険です。

そこで、「WHY」を可視化する『ホワイトボックス化』が注目されています。人間→AI→人間と作業の主体が変わるワークフローにおいて、人間だけではたどり着けなかったような新たな観点をAIが提示してくれます。

具体的には「UXの5段階モデル」を用いると、ユーザーストーリーやカスタマージャーニーマップを用いる構造段階、ユーザーテスト分析を行う骨格段階、カラー選定を含む表層段階といった「ビッグデータから紐解いた最善な候補を提案するシーン」において、知能プラットホームに情報を落とし込むことで、AIは新たな選択肢を提示してくれます。

「WHAT」を解決する、パーソナライズ設計

従来のサービス開発では、あるペルソナを仮定し、それに沿ったカスタマージャーニーマップを作って仮説検証するものでしたが、一人一人にベストマッチするとは限りませんでした。そこで思い出していただきたいのが、AIは比較に基づく「意図を汲む力」に長けています。その特性を活かし、ユーザーのレスポンスや評価を学習し、反映していくことが今後可能になってくると考えられます。

事実、画像認識の精度に関していうと、半導体メーカーのNVIDIA(エヌビディア)が開発しているGPU(Graphic Processing Unit)は、識別の正解率が人間と同等レベルまで上がってきています。波形を用いる音声入力なども同様に精度が上がっていくと大いに考えられます。

関連記事:https://www.nvidia.com/en-us/research/ai-playground/(NVIDIAが研究している、異なる写真(上図では山岳風景とゴッホの「星月夜」)を組み合わせて新たな画像を作成する開発ツール『NVIDIA AI PLAYGROUND』)

リアルタイムに行動から感情や意図を分析できるようになることで、即座に個々人にあったコンテンツやリアクションを提示できるようになるのです。これでユーザーのニーズに合った「WHAT」を適切に提供できるようになります。

ユーザーを「まとめて理解する」従来のマーケティングメソッドから、将来的にはより細やかでパーソナライズされたUX設計に変わるかもしれません。

さいごに

今回は、AIの基本情報や正しい使い方をベースに、AIがデザインにもたらす影響などをご紹介しました。

ユーザーが求めているのは心地よい体験であり、そこにAIが介在しているかを重要視しているわけではありません。つまり、デザイナーが重きを置かなければならないのは「時代の流れに身を任せてAIを駆使すること」ではなく「AIがどんな役割を果たし、どう振る舞うとユーザーの体験が向上するのか」をデザインすることです。

今後AIを用いたツールの技術進歩に常に目を光らせ、果たして本当に有益なのかを見極めながら上手に歩み寄っていくことで、より心地よい体験を『共創』していけるのではないでしょうか。