PdM(プロダクトマネージャー)の「スキルマップ」を作ってみた
昨今、プロダクトマネージャー(以下PdM)の需要が高まり、多くの企業で採用や育成に取り組んでいることと思います。しかし、PdMは幅広いスキルや役割が求められるため、どのようにステップアップしていくのか、定義することが難しい面があります。
そこで私たちのチームでは、PdMの「スキルマップ」を作成してみました。あくまで私たちのように「クライアントワークを行うPdM」向けのものではありますが、PdMのキャリアを考えている人や、PdMとして成長したいと考えている人へ、自身のスキルを客観視するきっかけになるかと思い、この記事でご紹介することにしました。
スキルマップと合わせて、各々のスキルをどのように身につけるのかや、スキルを得た先にあるキャリアパスについても触れたいと思います。ぜひご覧ください。
目次
グッドパッチが求めるPdMスキルを「35項目」に整理
今回私たちが作成したスキルマップでは、PdMのスキルを以下の図のように「35項目」に分けています。
この35項目は、「事業戦略」「リサーチ」「ディレクション」「要件定義」「詳細設計」「リリース」「コミュニケーション」「コンサルティング」といった役割に沿って、求められるスキルを細分化したものです。ここからは、役割(カテゴリ)ごとに詳細のスキルセットを紹介していきます。
事業戦略
プロダクトの核となる「事業戦略」の策定は、PdMにおいて欠かせないスキルです。プロダクトの向かう先と向かい方を定義し、チームを前進させます。
- プロダクトビジョン策定
- プロダクトが目指す世界観について、顧客、社会、事業の観点から言語化できる
- 短期プロダクトロードマップ作成
- 四半期〜1年間のプロダクト開発組織の活動計画を、事業目標、開発リソース、ユーザー価値の観点を用いて、着手する優先度を踏まえて描ける
- 中長期プロダクトロードマップ作成
- プロダクトビジョン、顧客ニーズ、事業目標の観点から、3〜5年間のプロダクト成長のステップを描ける
- プロダクト戦略
- プロダクトビジョン達成に向け、市場と顧客に対してプロダクトと事業をどのように成長させていくかの道筋を描ける
- マーケティング戦略立案
- プロダクトを市場に導入していく際に必要なターゲットの分類、メッセージング、チャネル選定などの検討、意思決定ができる
- KPI管理
- リリースによるKPIへの影響を設計し、施策ごとにKPIへの効果検証を行える
リサーチ
プロダクトが「顧客にとって有益なのか」「マーケットから需要があるか」などを調査するスキルです。この領域の能力が高いと、効率良くPMFを達成し、顧客へのインパクトを考慮した施策立案ができます。
- 競合調査
- プロダクトを取り巻く市場に存在する競合プレイヤーの情報を収集し、対象プロダクトの差別化要因を特定できる
- 市場調査
- 外部環境/内部環境を分析し、プロダクト戦略の方向付けと蓋然性を明確にできる
- 定量分析
- プロダクトの利用データおよび、ビジネスメトリクスから仮説を立て、改善や次の活動を計画できる
- ユーザーリサーチ
- ユーザーへの定性インタビューを通して、ユーザーのペインやプロダクトの価値を特定できる
- ユーザー検証
- プロダクトグロースに必要な仮説を立て、仮説を検証するための設計・実査を行える
ディレクション
チームで開発を進めるためのディレクションスキルです。ステークホルダーとの適切なコミュニケーションが求められます。
- 施策優先度管理
- RICEスコアやロードマップ進捗状況から判断し、クライアントと合意の下、施策の優先度が管理できる
- スケジュール見積もり
- POおよび開発チームと適切にコミュニケーションを図り、施策のスケジュールを過不足なく見積もれる
- リソース調整
- デザイナーやエンジニアなど、開発リソースの最適な分配、配置を行い、ロードマップに沿った体制構築、稼働配分をディレクションできる
- 開発ディレクション
- 開発チームに仕様や要件を的確に伝え、進行管理や必要な指示を提示できる
- UIデザインのディレクション
- デザインチームに仕様や要件を的確に伝え、進行管理や必要な指示を提示できる
要件定義
ステークホルダーに対して、やることを伝えるスキルです。何のためにどのような施策をやるのか、チームメンバーと認識をそろえます。
- ユーザー価値定義
- ユーザーペインを明確にし、「誰」を「どのような状態」にしたいか、バリュープロポジションを設計できる
- 要求への落とし込み
- プロダクトの価値をソフトウェアの機能として実装していくにあたり、ユーザーストーリーをベースにした要求定義ができる
- プロダクト要件定義の作成
- 要求定義を踏まえてソフトウェアの実装要件へ落とし込み、エンジニアやデザイナーと合意をとれる
- フィジビリティ確認
- 施策や機能の実現可能性を、各ステークホルダーとのコミュニケーションを用いて調査できる
詳細設計
施策の詳細を設計し、ステークホルダーに伝達するスキルです。場合によっては専門家と役割を分担することもあります。
- 仕様詳細のドキュメント化
- 後に振り返りで見ても把握できるよう分かりやすいドキュメンテーションスキル。またドキュメントを用いて、POおよび開発チームが理解・納得を得られるコミュニケーションができる
- プロトタイプ作成
- 具体的な開発・デザインフェーズに入る前段で、担当者にイメージ理解を促すプロトタイプを素早く正確に作成できる
- ユーザー体験設計
- プロダクトの成長に必要な施策や機能について、一連のユーザー体験の流れを可視化、言語化できる
- 影響範囲の確認
- 一機能の開発を進める上で留意するべき点や、技術的制約を把握し、他領域への影響を鑑みて機能要件を修正できる
リリース
主にエンジニアやPRチームと協力しながら、問題なくリリースを行うためのスキルです。
- リリース戦略設計
- リリースに向けて、関係する外部チームも巻き込みながら必要なタスクの洗い出し及び、適切なPRやプロモーションを実行できる
- ABテスト
- 機能のリリースにあたって、AorBの判断ができるような設計と分析を通して、より効果の高い施策が何かを判断できる
- QA対応
- 要件定義〜仕様策定した機能が正しく実装されているか、リリースにあたって懸念事項がないかをチェックし、問題があった場合に修正依頼を出すことができる
- リリースタスクマネジメント
- リリースにおけるタスクを洗い出し、問題なくリリースできるよう設計・ディレクションが行える
コミュニケーション
ステークホルダーと適切なコミュニケーションを行うスキルです。グッドパッチにおいては、クライアントに対するコミュニケーションを主に記載しています。
- フィードバックの受け取りと提供
- クライアント先や社内から受け取るフィードバックを基にアウトプットをブラッシュアップできる。また、プロダクトの改善につながるフィードバックを行える
- プレゼンテーション
- クライアントに対する「意思決定」「合意形成」「納得」を、提案や依頼を通して得るためのプレゼンテーションができる
- チーム内コミュニケーション
- チームコラボレーションを醸成させるための雰囲気や場作りをファシリテーションできる
コンサルティング
主にクライアントとコミュニケーションをして、プロダクト開発を内製化するためのスキルです。クライアントワークを行うPdMは希少だと思いますが、自社プロダクトを持つPdMでも転用できる内容になっています。
- ドキュメンテーション
- クライアントの内製化に向け、一連のプロセスをドキュメントに書き起こし、各取り組みの概念・フロー・詳細をインストールできる
- ネゴシエーション
- クライアントとの期待値調整を行える
- ファシリテーション
- クライアントが、プロダクトマネジメントスキルを習得するためのプロセスを提示し、リードできる
- プロジェクトの要件設計、管理
- クライアントと約束したゴールと期間に向かって、スケジュールとプロセスを引いてリードできる
スキルをどのように身につければいいのか?
以上、35項目のスキルセットでした。ここからは、これらのスキルをどうしたら身につけられるのか、学習方法をいくつか紹介します。
第三者に学ぶ
「有識者からコーチングを受ける」「セミナーに参加する」「外部パートナーの支援を受ける」といった機会を利用することで、社内では得られなかった知見を獲得できます。ここ数年でPdMのスキルは一般化されつつありますが、具体的な事例を知ったりアドバイスをもらったりすることで、自身の仕事に反映しやすいこともあるでしょう。
一例ですが、プロダクト開発者向けメディアの「ProductZine」内にある「イベント情報まとめページ」を見ると、PdM向けのセミナーをキャッチアップできるのでおすすめです。
コンテンツを読む・見る
SNSやネット記事、動画、書籍など、自身で情報を収集していく方法です。
例えば「X」で著名なPdMをフォローすると、有用な知見を発信してくれるのはもちろんのこと、その人の価値観やプロダクトマネジメントを行う上で大事にしているスタンスなども垣間見ることができるでしょう。
「note」でも、毎日のようにPdMに関する記事が発信されています。記事として整形された状態で発信されるので、Xよりもナレッジを横展開しやすい印象があります。
他には「Udemy」などの学習コンテンツも有用です。曽根原さんはじめ、多くのPdMが講座動画を配信しているので、テキストでのインプットが苦手な方でも効率的に学習できます。
書籍に関しては、以前、PdMに挑戦したいUXデザイナーに向けて6冊の書籍を紹介した記事を作っています。こちらもぜひ参考にしてみてください。
学んだことを実践する
自身のプロダクトで学びをアウトプットします。スキルを獲得する上ではこの工程が最重要です。学習したことの活用を試みるとプロダクトの特性や規模感、置かれている環境などが影響して、そのまま流用できることは多くはありません。
この際、どのように自身のプロダクトに活用できるように自分なりの工夫を凝らすことで表面的に「知っている」状態から「活用できる」状態へと進化します(守破離でいう「破」ですね)。
効率的なスキル獲得のためにも、定期的な「振り返り」が大切
PdMのように求められるスキルの幅が広範な場合、スキルを向上させる際に定期的に振り返ることが大切です。例えば、半期に一度などといったタイミングでスキルマップを活用して、変化を計測することをおすすめします。
環境やプロダクトの状況に応じて、求められるスキルの優先度が変わることもあるでしょう。成長させたい方向性(ベクトル)に変化があるか、見直すきっかけになるはずです。
また、全てのスキルが絶対に必要というわけでもありません。自身の組織体制や一緒に働くメンバーで補完し合えることがほとんどです。
そのため、闇雲にスキルを習得しようとするのではなく、スキルマップなどを用いて自身のWillを明確にし、どの領域に強みを持ったPdMになりたいのかを明示することが重要です。そこから逆算して効率的にスキルを身につけていきましょう。
今後は「スペシャリスト型」のPdMのニーズが高くなる
PdMの役割は多岐にわたるため、今後は役割が分業化され、いわゆる「オールラウンダー型」だけでなく、各領域に尖った強みを持つ人材、つまり「スペシャリスト型」のPdMのニーズも高まってくると考えています。
スペシャリスト型の先駆けとして、マーケティング領域に特化した「プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)」を配置するプロダクトチームも増えてきています。PdMがプロダクト戦略を遂行し、PMMがGTM(市場参入)戦略を遂行する役割を担うことが多いです。
また、現状エンジニアからPdMにジョブチェンジする人が多いですが、この流れから見て取れるように、テクノロジー領域に特化したPdMも引き続き必要とされるでしょう。
そして、グッドパッチとしては、UX領域に強いPdMも今後増えると考えています。誰かに対して変化を起こすことがプロダクトの存在意義である以上、「誰か」の解像度を上げていくことに対する需要も高まるはずだからです。
以前にも、UXデザインの知見がどのようにプロダクトマネジメントに生きるのかをまとめた記事を執筆しています。興味のある方はこちらもぜひご覧ください。
ただし、特定の領域に強いPdMといっても、周辺分野との明確な線引きは難しく、得意でない領域についても、適切にコミュニケーションを図りながら、俯瞰的に意思決定を行う必要があるでしょう。不得手な部分についても、「専門外」と決めてノータッチでいるのではなく、目の前にある機会を獲得していく姿勢が求められます。
一方、オールラウンダー型のPdMの価値が下がるということもありません。スペシャリスト型人材が増えれば、これらの人材を束ねる組織や役割が必要になるからです。
プロダクトマネジメント業務を通して得られた知見は、自身のプロダクトチームで閉じられてしまうケースが多く、企業としてプロダクトマネジメントのスキルを向上させるにはこういった横断組織が重要です。キャリアパスとしても各PdMを束ねられる、よりジェネラルなスキルを持ったポジションが増えていくのではないでしょうか。
育成や採用のためにも、スキルや要件の「言語化」から始めよう
既にPdMを配置している企業や、積極的に育成・採用を行っている会社は、求める要件やスキルの言語化に取り組むことをおすすめします。なぜなら、言語化をせずに何となく「上位職」という考えだと、優秀な人材をいつまでも採用できず、既存メンバーの成長にもつながらないためです。
グッドパッチでは、各企業に則したスキルの可視化を支援したり、PdMを束ねる横断組織の立ち上げ支援も行っています。気になった方は、下記より気軽にお問い合わせください。
関連リンク
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