私たちは世界に何を残せるのか──そんな問いを背景にグッドパッチでは「MAKE A MARK」というコンセプトをグループ総会で掲げました。

グッドパッチで働くデザイナーたちは、なぜグッドパッチに集い、これから何を残していきたいのか。MAKE A MARKというコンセプトに沿って、各々が胸に秘めた思いに迫るインタビュー企画。今回はクライアント事業部でUIデザインチーム全体を統括するディレクターを務める石井克尚が登場。

正社員で1人目のiOSデベロッパーとして入社後、エンジニア組織のマネージャー、デザイナー組織のマネージャーを経験。その後、UIデザイナーとして一度プレイヤーに戻っている石井。「職種やロールにこだわりはない」と語る彼が徹底してこだわるのは「成果を出すこと」。石井の考える、デザイナーとしての本質的な「成果」とは?

iOSアプリの黎明期に手探りで挑戦したアプリ開発

新卒ではプログラマーとしてSIerに入社しました。プログラミングの知識があったわけではなく、パソコンに詳しくなりたくて、仕事にすれば詳しくなれるだろうという単純な理由です。入社してからは、市役所などで利用される防災シミュレーションシステムの受託開発を3〜4年ほど担当していました。

2010年ごろリーマンショックの影響で、アサインされる予定だった大型プロジェクトが白紙になって、社内での仕事がなくなってしまいまして。そこで、以前から興味のあったiPhoneアプリの開発を社長に提案し、自社アプリを作り始めました。iPhoneが世に出て2〜3年くらいのころで、個人でiOSアプリを作る方が増えてきたくらいのタイミングです。

防災システムの仕事もやりがいはありましたが、もっと一般の人が日常的に触れるものを作りたい思いがあったのだと思います。当時、会社にはWindowsのパソコンしかなかったので、「Macを買って、僕を開発の研修に行かせてください」と直談判して。その後、iOSデベロッパーとして出向し、iPhoneやiPadアプリの開発を担当しました。

iOSのアプリ開発を始めたころは、デザインやUIという言葉がまったく分からない状態だったので、とにかくたくさんのアプリに触れようと思い、「1週間で100個触ろう」と決めて片っ端からダウンロードしまくりました。そこで感じたことをノートにまとめ、使いやすいアプリのパターンを探っていきました。

そのころ、グッドパッチがGunosyやPatheeのUIデザインをやっていたり、(現在noteのCXOの)深津さんがUIについていろんなところで話しているのは見ていたので、日本でもこれからUI/UXデザインが重要になってくる空気を感じていましたね。

肩書きはあくまで「ラベル」。エンジニアからUIデザイナーにジョブチェンジ

もっとUIを重視した環境で仕事がしたいと思っていたときに、Wantedlyでグッドパッチの募集を見つけたことが入社のきっかけです。「話を聞きたい」と送ったら、土屋さんから直接メッセージが来まして。iOSのこれからのデザインについてなどを話したら、その場で内定をいただきました。

当時はまだ30名くらいの組織で、全員の顔が見える規模でした。入社初日にオフィスに行くと、土屋さんが怒っていて(笑)。「こんなデザインでお客様のところに行くのか!」と。クオリティへのこだわりを感じましたし、前職では考えられない光景だったので、転職して良かったと感じた光景でした。

入社後は、iOSデベロッパーとして複数の案件を担当しました。リリースしてグッドデザイン賞まで獲ったけど、サービスとしては伸びずにクローズしてしまうなど、苦い経験もしましたね。良いデザインを作るだけじゃなく、ビジネスとして成立していないとダメなんだと、そのとき痛感しました。

その後、エンジニア組織のマネージャー、デザイナー組織のマネージャーを2年ほど経験し、やっぱり現場で仕事がしたいと思いプレイヤーに戻りました。そのときに、デベロッパーからUIデザイナーにジョブチェンジし、今はUIデザイナーやプロダクトマネージャーとしてプロジェクトに関わっています。

「UIデザイナー」と名乗ってはいますが、実は職種へのこだわりはあまりありません。今でも、エンジニアはすごく良い仕事だと思っていますし、自分が作りたいものを自分の手で作れるって、本当に良い。プロジェクトが始まれば、自分のやれることをやるしかないので、肩書きはあくまでラベルだと思っています。

新規事業に挑戦したことで、「クライアントの立場」が痛いほど分かった

今は、クライアントワーク事業のUIデザインチームのディレクターを務めています。もう一度マネージャーロールに戻ろうと思ったのは、一時期、社内の新規事業プロジェクトに参加していた経験が大きかったです。

クライアントワーク組織から離れたことで、良い意味で「外の視点」でグッドパッチのことを見れるようになりました。組織の課題もフラットな視点で捉えられるようになったことで、UIデザインチームの組織を改善した方がよいと感じるようになったんです。組織の目標設定や、評価の仕組み、採用計画などを改善すれば、もっとドライブするだろうと。

現在は、組織の目標設定、等級要件、人材配置、新規商材開発、新卒採用、中途採用、提案活動といった組織的な業務もやりつつ、各メンバーの目標設定や定期的な1on1などもやっています。

また、事業の立ち上げに挑戦したことで、「グッドパッチのクライアントワークが提供する価値は何か」という点をこれまでより強く意識するようになりました。限られた予算の中で結果を出さなければならないという状況で、デザインに対してどれだけ投資ができるのか。事業担当者として、常にその問いに向き合わなければいけません。例えば、今の資金の状況でグッドパッチにデザイン支援をお願いできるだろうか……。

このように、社内にいながらにして、クライアント側の立場でモノを考えられたのは、今思えば貴重な経験だったと思います。結果として、この事業はうまくいかずに畳むことになったわけですが、「クライアントが期待するデザインの投資対効果」というものに対して、よりシビアに向き合う機会になりました。

事業が成長して初めて「成果」。その上で考え方や仕組みをクライアントに残したい

僕たちがやっているのはクライアントワークなので、パートナーの事業が成長することが大前提です。自分たちが納得できるものを作った上で、それが事業に対してきちんとワークすることが重要で、そこまでできて初めて「成果が出せた」と言えると考えています。

独りよがりなモノでもダメだし、KPIが向上するだけでもダメ。両方を達成したい。そしてさらにクライアントの組織にその再現性を残したいと思ってます。考え方や仕組みまできちんと残せるのがグッドパッチの価値だと思うので。

ディレクターになってからは、お客様のニーズを今まで以上に意識するようになりました。メンバーに対しても「お客様のニーズは何か」「課題は何か」を常に考える癖をつけようと繰り返し伝えています。

僕はUIデザインチームを「UIデザインという事業を提供する会社」のようなものだと考えています。クライアントに提供するのはデザインアウトプットだけではありません。再現性のあるナレッジや仕組みもそうですし、「人としての価値」を提供するものだと考えています。

極論、形になったアウトプットがなくても、1時間のミーティングで価値を提供することもできることもある。パートナーのニーズ、抱えている課題を解決することが目的なのであって、提供する形にこだわりはありません。なので、提供する価値のバリエーションは無限にあると思っています。

UIデザインという事業で、顧客の「デザイン投資額」を増やしていく

今、ビジネスの場でも生活の場でも、デジタルプロダクトやソフトウェアプロダクトに触れる機会がとても多く、それゆえにUIの重要性が増しています。今後ますます、良いユーザー体験と事業成長はセットになると思うので、その支えになるような価値をグッドパッチが提供していけたら良いなと思います。

僕はUIデザインという仕事が好きなので、この仕事を続けていきたい。そのためにUIデザインという事業で「顧客のデザイン投資額」を向上させたいという思いがあります。UIデザインに投資する組織が多くなれば世の中に良いアプリが増えていくし、生活も楽しくなると思ってます。それが僕にとっての「デザインの力を証明する」ということです。

個人的には、やっぱり自分でコードを書いてアプリを作るのが一番楽しいので、アプリを作りたいですね。今はiPhoneのなかに自分で作ったアプリがひとつしかありませんが、それを増やしたいなと思います。世の中に良いアプリを増やして、大好きなアプリでiPhoneのホーム画面を埋めるのが目標です。