現在グッドパッチでは、デジタルヘルスケア領域の気になるニュースや取り組みについて発信をおこなっています。前回は、患者様へのユーザーインタビュー実施のポイントをご紹介しました。

https://goodpatch.com/blog/healthcare-02-knowledge

vol.3となる本記事では「フェムテック」に焦点を当て、4つのオンラインサービスの特徴を考察しました。また、フェムテック領域のこれからの可能性についてリサーチを行いました。

フェムテックとは?

Femtech(フェムテック)とは、「Female(女性の)」と「Tech(テクノロジー)」を掛け合わせた言葉で、生物学上の女性がもつ健康課題をテクノロジーで解決しようとするプロダクトやサービスのことを指します。

女性のライフサイクル全体を俯瞰すると、月経分野から妊娠、産後、更年期と起こりうる健康課題は多岐に渡り、またそれらは時期によって大きく変化します。そのためフェムテック領域はユーザーとの接点が非常に幅広く、市場では各サービスがユーザーの生活との様々な関わり方を模索しています。

フェムテック分野の全体像(キーワード一覧)

日本におけるフェムテック市場

矢野経済研究所が行った2022年度のリサーチによると、日本のフェムテック市場規模は2021年で約635億円、2025年には2兆円規模になると予想されています。(出典はこちら

日本では少子化が進んでいるという時流もあり、女性の健康課題の解決を目指すスタートアップが年々増えていると同時に、近年では大企業も少しずつフェムテック市場に参入を始めています。

例えば、2021年8月にはユニクロがフェムテックの取り組みを強化し、エアリズムブランドから吸水サニタリーショーツを発表しました。また、昨年1年間だけでも様々な企業の参入や事業拡大が見られました。以下の図は2022年の日本におけるフェムテック分野の概況です。

日本におけるフェムテック 2022年概況

フェムテック系オンラインサービスの特徴を比較・考察

今回は、フェムテック関連のオンラインサービスからUI/UX観点で注目したいものを4つピックアップし、それぞれの特徴やサービスの強みを考察しました。

1. Clue

引用元:https://helloclue.com/

Clueは、2013年にドイツでリリースされた月経管理、ヘルスレコードアプリです。アプリの特徴を3つご紹介します(詳細はこちら)。

30以上のトラッキング項目をカスタマイズして体調が記録できる

Clueは月経管理を基本としている一方、ユーザーは他にも「体温」「体調(頭痛・胸が張るなど)」「体重」「肌状態」「その日の気分」「食欲」など、30以上の項目から自分がトラッキングしたいものを自由に選んで記録することができます。

マニュアル不要の直感的な操作

体調の記録は大きなアイコンを選択するだけで完了するので、文字をほとんど読まなくて良い気軽さがあります。また、生理日予測は1周期が円で表現されたグラフィックで示されるので、あと何日で生理が来るのかが直感的にわかります。

フェミニンさをなくしたシンプルなビジュアルデザイン

Clueのデザインは、月経管理アプリに多く使用される「ピンク」や「かわいい」といった要素をあえてなくしています。女の子らしいとされるデザインがあまり好みでないユーザーは、Clueのはっきりとした色使いに好感を持つ人もいるでしょう。

考察:

生理記録と言っても、経血量を管理したい人、腹痛などの傾向を把握したい人、感情の揺れを記録しておきたい人など、ユーザーによって気になる項目は様々です。トラッキング項目のカスタマイズ性と直感的な操作性を両立することで、ユーザーによって異なる生理記録のニーズを満たしている点が、本当の使いやすさを追求していると感じました。

また、日常的に使うアプリのビジュアルが好みであることは、ユーザーのエンゲージメントを高める材料になります。Clueはその点を上手く利用して新たなターゲットにアプローチしているといえます。

2. ペアケア

引用元:https://paircare.jp/

ペアケアは、アプリ不要、LINEで生理日予測・共有ができるオンラインサービスです(詳細はこちら)。LINEでペアケアを友だち登録すると、生理日の管理ができたり予測の通知が来るほか、パートナーに招待リンクを送って自分の体調について情報共有することもできます。

毎日使うサービスと連携することで記録忘れを防ぐ

連絡手段として普段からLINEを使う人にとっては、わざわざ他のアプリを開く手間なく月経管理ができて通知が来るので、ペアケアのサービスは生活に馴染みやすく使い続けやすいでしょう。

パートナーや家族に自分の体調を共有できる

ペアケアでは、自分以外のアカウントにも生理予定日や生理開始の通知を送ることができます。生理がくる時期をパートナーにわざわざ伝えづらいという人は、サービス側が共有してくれることで旅行の計画が立てやすかったり、パートナーが状況を察しやすくなります。

考察:

ペアケアは、デザイナーの方が友人や女子大生にインタビューをして、「LINEだけで生理日管理ができたらいいのではないか」というインサイトを得たことで生まれたサービスだそうです。(詳しくはこちら

記録系のサービスでは、ユーザーが入力し忘れてしまったり、途中で面倒になって離脱してしまうといったことが大きな障壁となります。ペアケアは、多くの人が1日1回は開くLINEというプラットフォームを活用することで、それらをうまく解決していると思います。また、従来本人だけが把握していた生理についての情報を、サービス側がサポートすることで共有しやすくした点も、ユーザーの気持ちに寄り添った体験のデザインだと感じます。

3. Popit

引用元:https://popit.io/ja/product/

Popit(ポピット)は、IoT技術を活用したスマートピルトラッキングのサービスです(詳細はこちら)。低用量ピルなどを服用する人に向けて、薬の飲み忘れを検知しスマホアプリで知らせてくれます。

毎日行う動作によって無意識で服用の記録ができる

Popitでは、センサーが搭載された検知デバイス「Popit Sense(ポピットセンス)」をシートタイプの薬に取り付けることで、デバイスが錠剤を取り出す際の音と振動を感知し、服用の頻度を記録します。ユーザーは毎日の習慣を行うだけで、自動的に行動データをスマホアプリに記録することができます。

機能を絞ったシンプルな構成のアプリ

Popitアプリのタブ構成は非常にシンプルで、主要な機能は、服用スケジュールと評価スコアが見られる「ホーム」、カレンダー形式の「履歴」、そして薬の種類を管理する「お薬」です。また、アプリから通知が来るのは飲み忘れがあった時だけです。薬を忘れずに飲むという価値に特化し、付加的な機能拡張を行っていないことがわかります。

複数の薬の服用を一括で管理できる

服用している薬やサプリの種類が多い人でも、1種類ごとに服用頻度や時間を設定できるので、漏れなく飲み忘れを防ぐことができます。またアプリ内では服用タイミングの順に時系列で薬のカードが並んでいるので、次に何を服用するべきかがひと目でわかります。

考察:

Popitは初期設定さえ完了してしまえば、薬を飲み忘れない限りアプリを開く必要もなく、いわば「何もしないでいい」体験設計であるとも捉えられます。また、クリップ1つで行動をデータ化できてしまうという気軽さも魅力的です。

日常的な健康管理に使うサービスでは、ユーザーは何もしないでよければよいほど「これなら続けられる」と心理的ハードルを感じずに利用できるでしょう。今後IoT技術を活用したサービスが増えてくると、Popitのような「アプリを開かないで良い」という体験の価値が重視されるようになるのではないでしょうか。

4. Maven Clinic

引用元:https://www.mavenclinic.com/

Maven Clinicは、2014年にニューヨークで設立された女性と家族のための遠隔医療ベースの仮装クリニックです(詳細はこちら)。「1人の女性の健康を変えることで、同時に1つの家族の健康を変える」といったメッセージのもと、オンラインでさまざまな健康プラットフォームを提供しています。個人ユーザーも利用できる「Maven Clinic」アプリの特徴をご紹介します。

家族計画に関する幅広い診療にモバイルアクセスできる

Maven Clinicのオンライン診療には、妊娠、避妊、不妊治療から育児、小児科、養子縁組まで、幅広い領域の医師が在籍しています。ユーザーが診療のリクエストや質問を入力すると、適切な医師とマッチングされ、その後ライブビデオを介して選択された医師に接続されます。様々な診療科がオンラインプラットフォーム上に集約されているため、忙しい人も必要な時にどこからでもアクセスできます。

企業に向けたサービス提供に注力

Mavenが注力しているのは、企業向けに福利厚生としてサービスを提供することです。従業員の健康を重視する様々な企業から支持を集め、Mavenは女性の健康課題解決の領域で初めて10億ドル以上(約1400億円以上)の評価額を記録した企業となりました。(2022年11月14日の最新の発表では約13億5,000万ドルの評価額)

考察:

Mavenが注目したのは、

1. 忙しい女性は病院に行く時間がないこと
2. 企業は従業員の健康や家族計画をサポートしたいこと

の2つだと考えられます。これらを掛け合わせることで、従来ユーザーが諦めていた、来院にかかる時間や費用といった「当たり前」を覆すオンラインサービスを生み出すことができたのではないでしょうか。今後も成長を続け、企業とその従業員を適切な医師と繋げることで、働く女性の健康と家族計画、そしてその先にいる家族の健康を支えるプラットフォームを強化していくでしょう。

フェムテック領域のこれから

これからも拡大していくことが見込まれるフェムテック領域ですが、今後の注目トピックになっていくとGoodpatchが予想する3つのキーワードをご紹介します。

IoT活用

IoT技術のフェムテックへの活用は、今後ますます増えていくことが予想されます。例えば、生理用品のIoT収納ケースを使うことで月経周期の自動記録ができたり、リストバンド型のウェアラブルデバイスによって基礎体温を記録してアプリで管理できるなど、まだ一般的ではありませんが生活者に役立ちそうな様々なアイディアが考えられます。

メノテック

メノテックとは、フェムテック領域の中でも「Menopause(更年期)」に起こる健康課題に焦点を当てたサービスやプロダクトのことを指します。日本ではまだまだ知名度が低いですが、特に欧米などで発展してきており、市場が拡大しています。

ボディ・ニュートラル

ボディ・ニュートラルとは、アメリカで生まれた自分の体の受け入れ方に関するムーブメントで、「体型のコンプレックスは無理に乗り越えなくていいし、自分の体型に対してポジティブにならなくてもいい」「体に対して自然体でいることに主眼を置き、自分でコントロールできない体の変化をそのまま受け入れる」といった考え方です。ボディ・ニュートラルをテーマにしたフィットネスアプリなどもあり、この考え方はフェムテック領域とも親和性が高いのではないかと考えられます。

まとめ

今回はフェムテック領域のオンラインサービスから、UI/UX観点で注目したい4つについて考察しました。それぞれのサービスがユーザーの抱える課題の本質を捉え、プラットフォームを活用したりデザインを工夫することで独自のソリューションを提供していることがわかりました。

改めて女性の健康課題を俯瞰してみると、生きているだけで周期的に起きるものや、ライフステージの中で重要な意思決定に繋がるものも多く、それらの多くは日常生活と切っても切り離せません。
フェムテックは、日本ではまだ「トレンドに敏感な女性の関心事」といった印象を持たれがちです。しかし、それだけにとどまらずより広い文脈でフェムテックを捉えることができれば、この領域にはもっと幅広く新しいサービスを生み出せるチャンスが秘められているはずです。
Goodpatchも、新たなサービス創出を目指すパートナー企業とともに、フェムテック領域をデザインの力で盛り上げていきたいと考えています。

※今回UI/UX観点でオンラインサービスを取り上げましたが、紹介したアプリが提供するサービス内容やそれに関する治療方法自体を会社として推薦・推奨するものではありません。