現在グッドパッチでは、デジタルヘルスケア領域の気になるニュースや取り組みについて発信をおこなっています。先日は2022年のデジタルヘルス業界におけるニュースをご紹介しました。

vol.1の記事はこちらからご覧ください!

vol.2となる本記事では、デジタルヘルスケア領域でサービス立ち上げやアプリ開発をする時に必要となる「サービスを利用される患者様へのユーザーインタビュー」について、実施におけるポイントをまとめました。

患者様へのユーザーインタビューが必要な理由

近年、日本においてデジタルヘルス領域は注目され、成長が加速しています。そんななかでデジタルヘルス領域の1つとして、様々な疾患を抱える患者様が治療アプリやヘルスケアアプリを使うことが今後増えてくると考えられます。

治療アプリやヘルスケアアプリを開発する際には、患者様の言葉をそのまま反映するのではなく、患者様の感情・思考・行動などを分析することで、本質的な課題やニーズを特定し、高いユーザビリティのサービスを開発することが重要です。そして、高いユーザビリティのサービスを実現するために有効なのが、ユーザー理解やユーザビリティに専門性を持つデザイナーの参画です。

一方で、デザイナーは医療の専門家ではありません。医療従事者と連携することによって、治療や研究に支障をきたさず、医療の専門知識を取り入れながらサービス開発をできるように、丁寧にプロジェクトを進行する必要があります。
今回は、その実践例とナレッジについてご紹介したいと思います。

インタビューしたプロジェクトの前提

背景・目的

今回ご紹介する患者様インタビューのケースは、株式会社DUMSCOと婦人科がん治療に携わる医師が共同研究・開発している婦人科がん患者向けのヘルスケアアプリ「ハカルテ」の開発における婦人科がん患者様へのユーザーインタビューです。

▶︎ハカルテの開発・デザインプロセス詳細はこちら

患者様が治療の合間にご自宅でどのような生活を送り課題を抱えているか詳細を把握しきれていない現状がありました。そこで、患者様が抱える課題やニーズを明らかにするため、大きく「問診」「記録」「QOL」の3つのテーマに対して探索的にヒアリングを行いました。

実施方法

【対象者】

  • 抗がん剤治療中〜予後治療中の方
  • 年齢:30〜60代
  • 人数:7名

【方法】

  • 1人あたり約1時間程度で実施
  • Zoomでインタビューシートを画面共有しながら進行する
  • 患者様が来院するタイミングに病室等で医師のiPadでZoomを設定してもらいインタビューを開始する

【実施までの流れ】

  1. インタビューの方法や質問項目を設計する
  2. 共同研究者である医師に質問項目や実施時の注意点についてレビューしていただく
  3. インタビューを実施!

患者様インタビュー実施のポイント

今回、インタビューにご協力いただいた方たちは1. 現在婦人科がんを治療中であること、2. 生物学的女性であることが、特に配慮すべき点でした。
治療中の患者様は身体的・精神的に負担が生じており体調が不安定であること、また、女性特有の悩みなどを抱えていることに配慮し、インタビューの設計や実施を心がけました。

1. インタビュー設計時に気をつけたこと

①治療への影響に配慮した質問設計

ハカルテの共同研究者である医師の方に、インタビュー内容の確認をしていただきました。患者様に聞く内容に問題はないかや実施の注意点などについてフィードバックをいただき調整することで、事前にインタビュー実施による治療や研究への悪影響が生じないようにすることが重要です。また、調査を実施するにあたり、病院内の倫理委員会に調査内容を提出する必要があり、インタビュー内容や具体的な実施方法の説明と資料の提出をしました。
※あくまで今回は一例であり、調査にご協力いただく病院等の施設によって、事前の確認や提出のフローが異なりますので、早めにその流れもチェックしておきましょう。

【医師の方に確認していただいた項目】

  • 対象者、実施方法
  • インタビューの事前説明
  • インタビュースクリプト
  • 治療状況の説明図など医学的専門知識が必要な部分

【医師の方に確認していただいた観点】

  • 治療に差し支える内容があるか
  • 倫理に反する、患者様を不快にさせる項目はあるか
  • 先生が聞いてみたいこと
  • その他気になる点、懸念点

【頂いたフィードバック】

医師の方にインタビュースクリプトを確認していただき、以下のアドバイスを頂きました。
今回は婦人科がん患者様を対象としていますが、サービスを利用するユーザーによって病状や治療法が異なるため、それぞれの状況に応じて工夫をする必要があります。

  1. 患者様のがんの種類や状態について教えてくださいとお願いすると、患者様にとって重要なことであるため詳細にお話ししてくださり、インタビューが長時間に及ぶことで患者様のご負担になったり、他の質問項目が聞けなくなる可能性が考えられます。そこで、事前にがん種や治療状況を把握し、インタビュアーから患者様に事実の確認をする形で話を進めた方が良いと思われます。
  2. 個人情報の取り扱いは充分に気をつける必要があるため、インタビュー中の呼びかけも苗字のみ教えていただき、年齢も年代を聞くにとどめる必要があります。
  3. がん治療は長期にわたるため、フェーズを整理して話を聞くと理解しやすいでしょう。また、抗がん剤治療は期間が長いため、治療中の変化を把握できるよう前半後半に分けて聞いたほうが良いと思われます。

医師フィードバック時の様子(一部抜粋)

②患者様の体調を優先した柔軟なスケジュール設計

患者様の来院のタイミングに合わせてインタビューを実施したため、診察や治療などの時間に合わせてインタビュー時間が前後しました。また、患者様の体調を最優先に実施をするため、インタビューのキャンセルや日程調整が発生します。
なので、確実にこの日のこの時間に実施できるわけではないので、いつでもインタビューに臨めるように待機すること、インタビュー実施期間に余裕を持たせることが重要になります。

③スムーズにインタビューを開始できるよう医療現場との連携する

コロナ禍において感染症のリスクが健常者よりも高い患者様とは、対面でインタビューを行うことは難しいためオンラインで実施しました。
今回は、患者様が来院された時に医師の方にサポートしていただき、病院内の個室でプライバシーに配慮し、医師が持参しているiPadからZoomを繋でいただいてインタビューを実施しました。また、事前に研究協力の同意書の説明等は医師の方に行っていただき、Zoomが繋がったらすぐにインタビューを開始するという流れで行いました。
ご自宅からインタビューに参加していただく方には、事前に研究同意をしていただいた上、ZoomやLINE Meetingを使ってインタビューさせていただきました。
オンラインミーティングツールは個人情報が特定されない方法で参加できるものを使用し、患者様のプライバシーに配慮した環境を準備してインタビューに望むことが重要です。
また、患者様のリクルーティングからインタビュー開始までのオペレーションをきちんと設計し、事前にインタビューのサポートをしていただく医師の方と擦り合わせておくことが、医療現場の負担を軽減しインタビューを実施するために重要になってきます。

2. インタビュー実施時に気をつけたこと

①患者様向けのインタビュー事前説明は入念に行う

インタビューの冒頭で、必ず患者様にインタビューの目的と諸注意の説明をし、ご同意をいただいてから本題に移るようにしました。

実際にインタビューに使用した説明シート

シートに書いてあることを基本とし、口頭で補足しながら了承を得ました。
特に、2番と4番は患者様への配慮として重要な説明になります。

  1. 途中で医師や看護師に呼ばれたり話しかけられる可能性があり、その場合はそちらを優先すること
  2. 体調不良や疲れ、不安がある場合はすぐにインタビューを休憩、中止できるので気軽に申し出てほしいこと
  3. トイレや水分補給は我慢せず申し出て欲しいこと
  4. 思い出したくないことや話したくないことは、無理強いしないので嫌だと言ってもらうこと
  5. 情報をプロジェクト以外で使わないことはもちろん、誰が何を言ったか直接医師にはわからないようにすること

また、同席者に男性がいる場合やインタビュアーが男性の場合は、男性がその場にいることやインタビューをすることに問題がないか確認をしてからインタビューを開始しました。

②インタビュアーの発言で気をつけたこと

治療への影響に配慮した質問設計をしましたが、インタビュー中の発言にも配慮が必要になります。以下、医師の方にいただいたインタビュー実施者の発言に対する注意点になります。

a. 医療現場と同様に傾聴の姿勢で臨み、インタビューのために無理に話を先に進めようとしない

  • 医療現場でも患者様の話をまずは聞く、傾聴の姿勢が重要となります。インタビューであっても、患者様の話を肯定も否定もせず、まずは傾聴するようにしましょう。
  • 傾聴の姿勢を保ちつつも、サービスの研究・開発のためのインタビューとして目的を達成できるよう、進行するようにしましょう。

b. 治療に影響を与える発言やインタビュー協力を誘導する発言はしない

  • 患者様の治療中の様子や気持ちの発言があった時に、過度に「辛いですよね。」「嫌になりますよね。」など治療に消極的になったり、治療方針に疑いを持ってしまうような発言は控えることが大切です。
  • 今後もインタビューに協力することで治りが早くなるなど、根拠のなく患者様を誘導するような発言は絶対にしないことが重要です。

c. 医学的な質問があっても答えない、話さない

  • 治療や症状に関する質問をインタビュー中に患者様からされても、インタビュアーは答えないようにします。
  • このような治療がある、こういう体験談を聞いたことがあるなど、医学的なアドバイスや内容は話さないようにしましょう。

おわりに

次回のブログでは、フェムテック領域のサービスの特徴ついて分析しまとめてみたいと思います。また、今後はBlog以外での発信も検討しており、ヘルスケアやデジタルヘルスにあまり馴染みがない方も、ぜひ楽しみにしてください!

「ヘルスケアアプリの開発における患者様インタビューの実施ポイント」はGoodpatch Design Advent Calendar 2022 14日目の記事でした。