皆さんは、展示会に足を運んだことはありますか?
東京ビッグサイトや幕張メッセなど、広大な会場に所狭しと並ぶブース。ITなどがテーマの展示会だと、デモを体験できるブースに行列ができることも。最先端の研究開発を手軽に体験できるデモ。こんなところにも、実はグッドパッチが手がけたデザインがあります。
グッドパッチは、太陽誘電株式会社(以下、太陽誘電)が「CEATEC 2023」および「CES2024(※)」に出展した際に披露した「においセンサ」を用いたデモアプリケーション『nioiVISION』のUI・ビジュアルデザインおよび実装を行いました。本記事では、開発プロジェクトの裏側をご紹介します。
※米国ラスベガスで行われる、世界最大規模の先端テクノロジー見本市
目次
目に見えない「におい」を可視化する先端技術
太陽誘電は、スマートフォンを始めとする通信機器や自動車、情報インフラ・産業機器など、人びとの暮らしに欠かせない多様な電子機器に搭載する、電子部品の開発・製造・販売を行っている企業です。世界最小のMLCC(積層セラミックコンデンサ)を生み出し続けるなど、高い技術力を誇ります。
同社が開発している「においセンサ」は、においの情報を可視化し、検知・識別する技術で、においの特徴の言語化や、人体にとって有害な気体のアラートなどへの応用を目指しています。
デモアプリケーション『nioiVISION』では、あらかじめ学習させた複数のにおいを「においセンサ」を通じて識別し、そのにおいが人間にもたらす効能を視覚的な表現と合わせて説明します。
例えば、ラベンダーの精油の香りには、リラックスや安眠効果、気持ちをリセットするといった効能があります。この効能を、においとセットで伝えることで、嗅覚から得られる感覚を視覚的に拡張し、より効能を豊かに感じてもらうことを目指したものです。(参考:においセンサ|太陽誘電株式会社)
技術力の高さや研究開発の魅力を、展示会の来場者に伝えるには?
開発中の先端技術ということで、同社は、展示会でのデモ体験を通じて、自社の研究開発の魅力を来場者へ伝えることを目指していましたが、改善すべきポイントがいくつかありました。
- 来場者へ提供したい体験が不明瞭
- 既存のUIでは、製品の特長や魅力を十分に伝えきれていない
そこでグッドパッチは、ユーザー体験の設計も含めたデモアプリケーションの開発支援を実施しました。具体的に行ったのは以下の4つです。
支援1:デモ体験の導線設計
初めに、デモアプリケーションの機能要件と体験のイメージを共有いただきました。話し合いの中で、メンバー間での体験イメージにズレがあることに気づき、モックアップや体験フローを可視化しながら、目指すゴールの共通認識を図りました。
その結果、イベントブース内で来場者が立ち止まり、デモアプリケーション体験を始めて、終えるまでの一連の流れが明確になり、目指すべきプロダクトの体験が明確になりました。
支援2:UI品質の担保
設計した体験フローに沿って、アプリケーションのUIを新たに作成しました。来場者が体験に集中できるよう、操作を必要とせずに視覚的な要素やビジュアルが自動的に切り替わるよう設計しています。また、スタッフの操作も、当日の慌ただしい中でも迷わず行えるよう、シンプルな方法でセンサーを実行できるよう工夫しました。
支援3:技術の可視化
Adobe After Effectsで制作したモーショングラフィクスやサウンドを使い、専門家でない一般の来場者にもセンサー技術の特徴や独自性をわかりやすく表現しました。動きのある表現により、広い会場でも来場者の目を引きつけ、立ち止まっている間も飽きさせないように工夫しました。
支援4:開発効率の最適化
表現がリッチになった分、開発コストは増加するので、機能実装の効率化と迅速化にも対応しました。プロジェクトの初期段階でハードウェアのエミュレータをGo言語で開発し、Mac内で完結する開発環境を構築しました。これにより、リファクタリング、機能の実装、デバッグ作業を効率的に進めることが可能になりました。
デモアプリケーションはProcessingで実装しており、プロジェクト開始時に太陽誘電様からベースとなるソースコードをご提供いただきました。アプリケーション化の最初のステップとして、全体的なリファクタリングを実施しました。具体的には、コードの構造や依存関係を整理することで、可読性と保守性を向上させました。
この改善により、画面遷移やイベントハンドリング、動画の再生、サウンドエフェクトの再生、アニメーション、多言語対応、ロギングなどの機能要件を迅速に実装できました。
デモの改善でリード獲得数は過去最高、社内のモチベーション向上にも寄与
依頼を受けてから、展示会の開催まで時間が限られていたものの、開発の早い段階で技術的なボトルネックや課題を特定でき、無事にリリース。日本で、そして米国ラスベガスでアプリケーションを用いたデモを体験いただけました。
関心が高まった来場者から、技術面やマーケティング面などに関する質問が増え、コミュニケーションが活発化したほか、見込み顧客の獲得にも貢献。「CEATEC 2023」では、過去最高のリード獲得数を記録したそうです。
また、来場者や顧客からのフィードバックが得られたことで、社内の開発者のモチベーション向上にもつながったといいます。
量産体制に移行する前の研究開発は、形や用途が見えない状態での継続的な取り組みが求められます。体験型展示のデザインを通して、研究の魅力を外部に伝えることで、太陽誘電の社内外に良い効果をもたらすことができました。皆さんも太陽誘電の展示ブースに出会うことがあったら、ぜひ体験してみてください!
クレジット
デザイナー:大島 聖恵
ソフトウェアエンジニア:中田 満
アカウントマネージャー:榊原 龍介
プロジェクトマネージャー:Steven Smith
執筆者紹介: