Goodpatchでは、毎年10月に行われる内定式の際、人生に一度の特別な日になるようにと、「内定証書」を先輩がデザインし、内定者にプレゼントしています。

毎年思いを込めて作っているものですが、今年は「内定証書」をやめ、より良い形を模索した結果、内定記念品として「証の名刺」を制作し、3人の内定者にプレゼントしました。

今回の記事では、どのような思考を経て「証の名刺」が生まれたのか、その制作過程を紹介できればと思います。

本当に内定証書が最適か? 本質を問い直して生まれた「証の名刺」

突然ですが、皆さんは「内定証書」ってどんなものだったか覚えていますか? 入社して間もない若手でもなければ、詳細を覚えている人はほぼいないのではないでしょうか。

今回、内定記念品を検討する際、真っ先に考えたのは「内定証書は保管の仕方に迷ってしまい、本人が活用の方法に困ることがある」ということ。

そのため、今回は「部屋に飾りやすく・飾りたくなるデザイン」にするという方向性で記念品を考え直しました。目につく場所に置くことで、仕事で辛いときやいいことがあったときなど、デザイナーの出発点である内定式を思い出して頑張ってもらいたい──そのような思いから生まれたのが、世界に一つだけの名刺「証の名刺」です。

「証の名刺」に込めた思い、一人ひとり違う模様を施したデザイン

内定式では、内定者の皆さんにデザインへの想いを伝えました。

内定者の皆さんは、内定式を機に「プロとして」そして「グッドパッチのデザイナーとして」認められる存在になります。ファーストキャリアでグッドパッチを選び、高い倍率を勝ち抜いてきた皆さんに、「Goodpatchのデザイナー」になった「証」として、世界に一つだけの名刺をプレゼントします。

3人に渡した名刺はそれぞれ模様が異なっています。憧れのデザイナーになった事実を認めるような名刺は、他の人と同じデザインだと歓迎感が薄れると感じ、一人ひとり個性を持った、世界に一つだけのデザインにすることにしました。

実はこの不思議な模様、「オフィスの写真」をぼかして切り取ったものです。普段の「デザイン業務」でも、いろんな角度から見ることで、さまざまな解決方法や表現を発見できるのと同じように、当たり前の条件を見つめ直し、新しい形を模索して欲しい。そのような思いを込めています。

模様のギミックを明かしたとき、内定者の皆さんはオフィスのどこに模様の場所があるのか、楽しそうに探してくれました。それぞれ違うデザインなので、見せ合って比べるといった交流も生まれやすいのもポイントです。

光によって表情が変わる、透明感ある名刺

名刺の色は、グッドパッチのコーポレートカラーでもある「青」。サンフランシスコの「空の色」をイメージしました。空の色は日々違う表情を見せるので、光や背景によって見え方が変わるのも魅力的だと感じて採用しました。

スタンドは「原石のような存在」という意味合いを込めて石を採用。十和田石という天然石で、青い名刺の存在感をより際立たせてくれます。

箱の底に「内定者に届けたいメッセージ」を箔押しで

箱を開いて、名刺を取り出したタイミングで見えるよう、「底」に内定者へのメッセージが記しました。デザインの力を証明する仲間として、内定者の皆さんに届けたいメッセージを箔押しで印字しています。

このメッセージは「新卒に期待していること」「採用で大事にしていること」を採用チームにヒアリングして構成しました。

「名刺」以外になった可能性も? 制作の裏側を少しだけお見せします

いかがでしたか。この証の名刺、実はアイディア出しの段階では名刺「以外」の案もありました。そんな裏側も含め、制作の過程を少しだけお見せします。

1. 「名刺」以外のアイデア

記事の冒頭で、内定記念品は「部屋に飾りやすい・飾りたくなるもの」という方向性で考えたというお話をしました。

加えて、憧れの「デザイナー」になったこと、「Goodpatchのデザイナー」になったことを記念できるアイテムにしたいとも考えており、その方向性で出てきたコンセプトは以下の4つでした。

①「証の名刺」

入社するタイミングでメンバーがもらう「名刺」をヒントに、ファーストキャリアという特別な出来事を彩り、「デザイナーになった証」を表す「名刺」をプレゼントする案。コンパクトで収納しやすく、スタンドを添えることで飾りやすくなるのが特長。

②「春まで自分を育む」

内定式でチューリップの球根とプランターをプレゼントし、入社式のタイミングで花が咲くという案。

内定式は春から始まるデザイナー人生に向けて決意や希望を抱くタイミングであり、春から少しパワーアップした自分になるために、いろいろな体験を通じて自分自身を育んでほしい、というメッセージを込めています。春まで寄り添ってくれる相棒(球根)というイメージです。

③「新しいステージの扉を開ける」

グッドパッチのデザイナーとして、新たな扉を開く「権利」を手に入れた。というメッセージを込めて「鍵」とキーケースをプレゼント。自分の手で、より良い世界の扉を開いていく姿をイメージしてもらいつつ、家に飾り、初心に帰れるようなアイテムに。

④「今日の決意をいつか思い出す」

内定式で感じた決意や思いを手紙に書き、タイムカプセルのように専用の箱にしまう。1年後、自分の決意を思い出し、背中を押される体験をしてもらうというアイデア。

2. 新卒がより喜んでくれそうなアイディアを探すためにヒアリング

その後、4案から制作メンバーで「名刺案」と「花案」の2案に絞り込み、最後は客観的な立場で意見をくれるであろう、去年の新卒メンバーに「どちらをもらった方がうれしいか」をヒアリングして案を決めました。

ヒアリングの結果、花案は「会社からの宿題だと感じて『育てなければいけない』という義務感が生まれてしまいそう」という意見が出たのでボツに。採用した名刺案については、「特別な仕様だとうれしい気持ちになり、名刺をもらう納得感もある」というコメントをもらいました。コロナ禍の影響もあり、名刺を使う(配る)機会が減ったことで、逆に名刺に特別感を持たせやすくなったという面もありました。

3. 内定式の目的(伝えたいこと・体験してもらいたいこと)を整理

制作物が決まったところで、改めて内定式の目的を見直し、目的が達成されるように、伝える内容や体験を整理していきます。

議論の結果、内定式の目的は「グッドパッチのデザイナーになったことを実感してもらう」「内定者が会社に歓迎されていることを感じてもらう」ことの2つであり、結果として内定者がグッドパッチでの社会人生活が楽しみになり、前向きな状態になれることがゴールと設定しました。

箱の底に「内定者に届けたいメッセージ」を入れたのは、この議論の結果です。プレゼントだけではなく、言葉でも期待値や歓迎を伝えるため。メッセージについては、先に触れたように、新卒採用チームとの話し合いを経て決めています。

4. 理想とする「名刺らしさ」を探る

さて、いよいよ名刺そのもののデザインに入っていきます。まずは、どの要素を載せれば名刺らしさが出せるのかをパターン出しして検証しました。

一般的な名刺には「名前」「会社名」「メールアドレス」が書いてあるものですが、今回はあくまでプレゼント。名刺感を保ちつつ、実用的ではなく飾りたくなるデザインを模索しました。構成要素によっては、名刺ではなく「ショップカード」っぽく見えてしまう点が、意外に苦労したポイントです。

また「どんな情報が載ってたらうれしいのか?」の観点でも議論をしています。内定式の日付や英字のメッセージなども入れていますが、特筆すべきは「入社時の役職」を入れたこと。将来、役職が変わったときに見返すと面白いのではないか、という狙いがあります。

ちなみに名刺にありがちな「会社のロゴ」は入れていません。会社からもらった意識が強くなってしまうと、家に飾ったときにプレッシャーやストレスを感じてしまうかもしれないという理由から。特別感を持たせる一方、記念品という色が強くならないように、というバランスを意識しています。

5. グラフィック表現を模索

名刺というのは、大量印刷のイメージがあります。今回はなるべく「1点もの」を演出できるようにするため、グラフィックの表現にこだわる必要がありました。

製作者としては、グラデーションの表現を使いたいと思っていたものの、表現方法を工夫することで、新たなコンセプトや意味が生まれてしまい、「証の名刺」というメッセージが薄れてしまいます。

なるべくGoodpatchになじみがあるもの、かつ「特定のモチーフ」を彷彿させない、さりげないグラフィックを模索した結果、内定者にとって身近な存在になるであろう「オフィス」の写真を使って、さらにそれをぼかすという案にたどり着けました。

「証の名刺」は特別感を持たせ、透明感を美しく演出するためにアクリルで印刷することに。透明感を生かせる模様はどのようなものなのか、試し刷りを通して、いくつかのパターンや見せ方を検証し、名刺のデザインが完成しました。

6. 箱をデザインする

最後は箱のデザインです。今回、箱はマットな質感で黒に統一しています。蓋に穴を施し、中身の模様がチラッと見えるものや、メッセージを表に印字するものも検討しました。

ただやはり「この箱には何が入っているのだろうか?」というワクワク感の演出や、名刺のカラーを引き立たせるため、中身やメッセージは見せすぎないデザインにしました。

箱の表にはシンプルで「Design to Empower. (箔押し) 」のあしらいに。メッセージは、さりげなく気づいてもらいたい意図もあるため、箱の内底にプリントすることにしました。箱底だと気付きにくいので、目立つよう重厚感のある箔押しで印字しています。

内定式を終えて──来年に繋げる、持続性のあるデザインにするために

内定式当日はプレゼントの際、式を盛り上げるためにコンセプトムービーを流し、制作メンバーから「証の名刺」に込めた思いを伝え、無事に式は幕を閉じました。

実際に受け取ってもらい、写真の秘密を内定者に明かしたとき、「どこの写真なんだろう」と探索してくれている様子がとてもうれしく思ったことを覚えています。

今年の制作チームは、中途メンバーやグッドパッチ歴が長いメンバーで手掛けましたが、私たちも改めて「グッドパッチの新卒文化」への理解のきっかけにもなり楽しい制作になりました!

当日は、内定者以外の社内メンバーからも

「かっこいい」「欲しい」「羨ましい」「新卒として入り直したい…!」

などの声を頂けて、改めて「グッドパッチのメンバーになった証」をコンセプトにしてよかったと思います。

今年受け取ったメンバーが見慣れたオフィスを自分たちの目線で新たに切り取り、それを写真にしてもらう、そして撮影方法や編集ソフトの使い方などを先輩デザイナーが教えてつないでいく……「証の名刺」は、そのようなつながりも考慮しながらデザインしています。

次に作るときはオフィスの2F以外の場所で撮影し、青以外の色も試してもらいたい。来年や再来年は、どのようなデザインになるのか今から楽しみです。

グッドパッチでは、このようにクライアントワーク以外も含め、日々新たなチャレンジに取り組んでいます。デザインの可能性を信じている方、未来を切り開きたいデザイナーの皆さん。一緒に働いてみませんか?

Credits

💙 Designer:Mio Ishiguro
💙 Director:Yuehsheng Han
💙 Photo Direction / Movie:Kai Qin
💙 Creative Director:Ikumi Tochio
💙 People Empowerment Office:Nodoka Ukai / Saori Matsushima / Yoko Takano

執筆者

UI Designer: Mio Ishiguro / Ul Designer: Yuehsheng Han