Goodpatchのクライアントワーク事業を行っている組織では、自分たちの興味領域のデザイン研究や深掘りを行うワーキンググループという取り組みがあり、「ヘルスケアデザイン」を研究テーマとするグループでは、治療アプリを開発しているCureApp社とコラボレーションをする形で勉強会を行っています。

前回は「行動変容」をテーマにした勉強会レポートをお届けしましたが、今回はGoodptachのUXデザイナーが「UXリサーチ」をテーマに発表とディスカッションを行いました。この記事では、その内容のダイジェストを紹介していきます。

別の回の勉強会レポートもCureApp社側で掲載していますので、ぜひこちらもご覧ください。

CureApp×Goodpatch ヘルスケア勉強会 #4「医師の解像度を上げる」

ヘルスケア領域でUXリサーチがなぜ重要か?

UXリサーチとは、製品やサービスの顧客体験を理解し、新たな顧客ニーズの探索や既存の顧客ニーズに合った改善のために行われる調査や分析のこと。企業が提供している製品やサービスとユーザー(顧客)をマッチさせるための役割を担います。

uxresearch

自社の製品やサービスとユーザーをマッチさせるためには、ユーザーのことを知る必要があるわけです。では、ユーザーを知るためには、どのようなことが必要でしょうか?

1つは、製品やサービスのコアユーザーを理解し、行動や思考、感情を抽出することです。自分自身がコアユーザーであれば理解は難しくありませんが、常にそうであるとは限りません。自分がコアユーザーではない場合、できるだけ自分の認識とコアユーザーの考えを近づけていく。その方法がUXリサーチなのです。

特にヘルスケア領域は、ユーザーやサービスに関わる医療従事者の実態が見えづらいところも多く、ユーザーニーズとずれたサービスが生まれるリスクが高い領域と言えます。そのため、関係者の悩みや課題感を理解したサービス開発にUXリサーチが重要なプロセスとなるのです。

UXリサーチを通した企業の製品・サービスへの接合

ユーザーの心理に限りなく近づくためには、インタビューなど直接ユーザーの声を聞くことももちろん重要ですが、単にユーザーの声を聞けば良いというものではありません。

UXリサーチでは、ユーザーインタビュー行動観察などの手法を使いながら、ユーザーの行動、思考、感情を明らかにすることが最も大切になります。

「ユーザーの声をそのまま聞く」という事例で有名なフォードの言葉があります。

もし人々に何がほしいかと聞いていたら、
彼らは最も速く走れる馬がほしいと答えていただろう

Henry Ford

UXリサーチでもフォードの言葉が指し示すところは重要で、リサーチを通し、行動、思考、感情という顕在化している現象を把握した上で、UXデザイナーはその背後に隠れているインサイトを探求すること、そしてそのインサイトをパターン化することで、深くユーザーを知りながら企業が持つ製品やサービスとの接合ができるようになります。

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点ではなく、線、面でのUXリサーチ

製品・サービスにおけるユーザーの新たなインサイトの発見や改善では、プロセスの中で一度だけUXリサーチをやれば良いというわけではありません。Goodpatchのプロジェクトでも、プロセスの工程ごとにユーザーからの声を吸い上げる機会や何かしらの仮説検証を行っています。

uxresearch_howto

仮説検証では、「コンセプト検証」「サービスのコア価値検証」「ユーザビリティテスト」など、プロセスの中で適切な検証方法を選んで進めていきます。

また、毎回違うユーザーの方に対してインタビューや検証を行うこともありますが、各ステップで同じ方に継続してインタビューや検証を行うこともあります。その場合は、アドバイザーとしての契約を結び、接点を頻繁に持てる状態を作っておくことも欠かせません。

また、UXリサーチはリサーチャーやUXデザイナーのみが行うものではなく、他職種の方と共に実施します。

点ではなく、継続的な線としてUXリサーチを行い、チーム全体で面としてユーザーを知る行動を行うことが、自社の製品・サービスとユーザーの接合に繋がるのです。

UXリサーチの実践での気づき

ここからは、実際のUXリサーチで行動観察を行って得られた気付きをシェアしていきます。

ヘルスケア領域のプロジェクトの中で、ある介護施設で壁際に立ち、3時間ほど入居者の方とスタッフの方の様子を観察しました。介護従事者のスタッフの方には、すでに何度かインタビューを行っており、普段の業務や困りごとなどを吸い上げた上で、より詳細を理解するために実施したものです。

そして、行動観察を実施してみるとユーザーインタビューでは得られなかった2つの情報を得ることができました。

1. インタビューやデスクリサーチでは分からない臨場感を五感でキャッチできる

  • ITリテラシーが低いと聞いていたが、慣れていると超高速でタップ
  • 言葉での連携だけでなく、目配せといった細かいスタッフ間連携で仕事が進んでいく
  • 電話が鳴るたびに調理を中断し、小走りで電話を取りに行く。表情は面倒そうな顔

などなど、インタビューやデスクトップリサーチでは、分からない臨場感と発見を得ることができました。

2. インタビューでは言いづらい事柄や発見しづらい事柄を目撃できる

  • 充電のためにタブレットは部屋の隅のパイプ椅子の上に固定設置されている
  • 「出来事はすぐに記録」が理想的だが、入居者から呼ばれる・宅配が届く・電話が鳴るなどが同時に発生することで40分間誰も記録しない
  • 一番忙しい時間帯になると、人手が手薄で職員が早口になり、入居者も静かになる

などなど、介護者の方から話しづらいことや、その環境では当たり前なこと(=課題と感じていないこと)も発見できました。

このように、ユーザーインタビューでは明らかにしきれなかった客観的な実態の把握が、行動観察のリサーチで可能になったのです。

UXリサーチは、単にデスクトップリサーチやユーザーインタビューをすることだけではありません。ユーザー自身が置かれている環境やその中での行動、思考、感情をより客観的な視点で実態を把握することが必要です。客観的に把握する手段として、型に囚われず、状況に合わせて各種リサーチ手法を駆使することが重要だと改めて気付く体験でした。

GoodpatchのUXリサーチへの向き合い方

今回の勉強会では、Goodpatchに所属するUXデザイナーが、普段業務で行っているUXリサーチの考え方や、実際のリサーチを通しての気付きなどをシェアしました。

冒頭に述べたようにヘルスケア領域では、ユーザーやサービスに関わる医療従事者の実態が見えづらいため、デザイナーやサービスの開発者はまず、この実態を明らかにし、客観的に把握した上でユーザーが抱えている課題と自社が考える事柄をマッチさせていく必要があると考えています。

UXリサーチやUXデザインは、ユーザーを知る概念やプロセスだけを指している言葉ではありません。ユーザーを知るための行動自体がUXデザインであり、UXデザイナーはユーザーを知る行動の責任を持ち、実直に向き合う人たちだと個人的に思っています。

Goodpatchには、プロジェクトの中で実践的にデザインを行うことも多くありますが、今回の取り組みのように、他社との勉強会を通した学びを得られる環境でもあります。少しでも興味を持たれた方はぜひお声がけください。