自分たちが作ろうとしているサービスや製品は、本当に売れるのか──。

その確証を得るため、コンセプトやプロトタイプを提示し、ユーザーに利用意向を問う調査を「コンセプトテスト」と呼びます。

コンセプトテストにはさまざまな手法がありますが、Goodpatch Blogでは、一般的には「定量調査(アンケート)」より、背景や文脈を含めて話を聞ける「定性調査(インタビュー)」の方が、検証の精度が高まると説明しました。

今回の記事では、ユーザーインタビューよりも、さらに多くの示唆を得られる「行動観察」という手法をご紹介します。

行動観察とは、実際にサービスが使われる(であろう)現場に足を運び、文字通り「ユーザーの行動を観察する」ことで「どう使われるのか?」を検証したり、本人が意識していない行動から「現状より適切なソリューションを提供できるか?」といった潜在的ニーズを探索したりするものです。リアリティを重視する、最もユーザーの理解を深める手法と言えるでしょう。

話としては単純ですが、いざ行うとなると、なかなかに奥が深いのが「行動観察」の世界。ここからは実プロジェクトで、グッドパッチのデザイナーチームがどう行動観察を進めたのか、生々しい話も含め、実践の記録と気付きをお届けします。

スーパーマーケットを舞台に「行動観察」。その狙いは?

今回、記事で取り上げるのは「買い物を支援する情報提供サービス」のコンセプトテストです。

このサービスは、ユーザーが与えられた情報に満足するだけでなく、「購買につながるかどうか」を重視するものだったのですが、実際に購入する、つまり身銭を切るかどうかは、「使う(使わない)と思います」といったインタビューの発言だけでは確証が得にくいものです。

そこで、私たちは「スーパーマーケット」を舞台に、行動観察を実施することにしました。ユーザーにはそのサービスのモックアップを手に買い物をしてもらい、その様子を観察したのです。

LINEのビジネスアカウントで作成したモックアップ(イメージ)

このように、ユーザーがサービス(プロダクト)を使うに至るまでの障壁が多いケースや、特定の環境で使うものについては、行動観察との相性が抜群だと言えるでしょう。

行動観察の流れ

では、実際にどのように行動観察を行ったのか、そのプロセスを具体的にご紹介しましょう。大まかな流れは以下の通りです。「①検証設計」と「⑧分析」については、これだけで記事が1本書けるくらいには長い話になってしまうので、今回の記事では割愛させてください。

「②事前インタビュー」から「⑦デブリーフィング(振り返り)」に至るまで、どのようなプロセスで進めたのかを細かく見ていきましょう。

②事前インタビュー

「行動観察」といえども、単に観察をするだけではありません。事前と事後にインタビューを設けることが効果的です。

まず、事前インタビューは検証ではなく、観察に協力いただくユーザーのことをしっかり知ることが目的です。今回は以下のような内容を12人のユーザーに聞きました。所要時間は一人あたり1時間です。

普段どのような買い物をするのかを知ることで、買い物における価値観や考え方を把握します。「新しいものに目がない」「いつものやつを買いたい」「失敗したくない」「早く買って帰りたい」など、さまざまです。

事前インタビューで把握した内容と、観察した行動を照らし合わせたときに、事後のインタビューにて深ぼって聞きたいポイントが見えてきます。言っていたことと異なる行動をとる場合もありますが、それはそれでOK。そんな部分に重要な示唆が隠れているものです。

もちろん、行動観察当日に向けたセットアップも忘れずに。安心して観察当日に参加いただけるようにしましょう。

③下見

行動観察で大切なこと、それは「五感をフルに動員して、全てを記録すること」に尽きます。

店内の規模、レイアウト、通路の幅、BGM、ディスプレイの位置、そして混雑具合など、あらゆる要素が買い物に影響します。せっかく現場に赴いているのだから、環境をまるごと観察しましょう。だからこそ下見は大切です。

今回は行動観察当日、早めに現地に行って、スーパーマーケットを自分でグルグル回ってメモをとり、クライアントと共用しているチャットツール(Slack)に投稿しました。

観察に参加しないメンバーも含めて、チーム全体で現場を知ることは、その後の分析の精度にも影響します。環境、行動、発話、これらをどう解釈するかが「分析」なので、ベースとなるファクトを共通認識にしておくことは大切です。

④ユーザーと待ち合わせ

下見を終えて、スーパーマーケットの入り口付近でユーザーと待ち合わせました。

事前インタビューでもお伝えしていますが、改めて「モックアップを使いながら買い物をして欲しい」という説明を行いました。

合わせて「正解も不正解もないので、いつも通りの買い物をしてほしい」という点もお伝えしました。とにかく自然に買い物をしていただくことに気を配りましょう。こういった細かい点もリアリティを担保するには重要です。

また、この場で軽く雑談をしておけるとなお良いでしょう。その日のユーザーの状況、状態、気分などを知る手がかりになるからです。

例えば今回は「普段からこのスーパーはよく使うのですか?」とお聞きすると「ちょっと家から離れているんですけどね、週末だから車でよく来るんですよ」との回答をいただきました。車で来店していることは、選ぶ商品の種類や量に影響するでしょうし、そもそも「なぜわざわざ車で来るのか?」という問いも生まれます。

ただし、行動観察中は先入観を捨て、ただただ観察することが肝心です。そういった事実や問いは一旦ポケットにしまっておきましょう。

⑤行動観察

ではいよいよ、行動観察のスタートです。

私はSlackに延々と記録していくスタイルで、一度の行動観察で100を超える投稿を行います。誤字脱字はもちろん、整った表現である必要も全くありません。見たことや感じたことを、そのまま記録しましょう。そして、ユーザーの行動だけでなく環境面も記録することも重要です。繰り返し書きますが、人の行動は環境に影響されるものなので。

ユーザーの行動としては、例えば「牛肉コーナーをいろいろ見てる」というメモに続いて「しげしげ見たり」と記録しました。「チラ見」ではなく「しげしげ見ている」点がポイントです。なぜそんなに注視したのか?事後インタビューで聞きたいポイントです。

ちなみに、このような「細かすぎる行動」は、ユーザー自身でも忘れてしまうものですが、後から聞けば「ああ!あの時はね……」と思い出して答えてくれることが多いです。特徴的な行動を記録さえできれば、後からいくらでも掘ることができるので、とにかく記録することを心がけましょう。

また、環境面としては「現金キャッシュバックを知らせるアナウンス」があったことも記録しました。今回は特に行動への影響はなかったようですが、その後の行動次第では注目すべき情報になったかもしれません。

他には、例えば「人が来てちょっとよけた」「通路が狭いから割と邪魔になる」といった点も記録しました。店内はとても混み合っていたのですが、それでも、このユーザーは邪魔にならないようにカット野菜をじっと眺めていました。

事後インタビューでお聞きしたところ、スマホのモックアップに表示された「野菜に関する情報」が気になって、カット野菜を見ていたとのこと。ここから深掘りして、さまざまな示唆を得ることができました。

ユーザーの行動に戻りますが、「しげしげ」と似たようなものとして、「ゆっくり移動」「移動が早い」という記録もしました。ユーザーと環境を丸ごと記録する、というのは言うほど簡単ではなく、ちゃんとした文章をタイプする余裕すらありません。それが行動観察なのです。

⑥事後インタビュー

スーパーマーケットの出口でユーザーと合流して、そのまま近くのカフェに移動しました。

少し話が逸れますが、他のチームメンバーが先に店に行き、席を確保しておきました。観察されることも、インタビューに答えることも、ユーザーにとってはストレスになる行為ですから、できるだけスムーズな進行を心がけましょう。

さて、事後インタビューでは、記録したメモを踏まえつつ、その行動の動機やきっかけを聞いていきます。知りたいことは山ほどあると思いますが、インタビューにおいては、まず「ざっくりとした感想」を聞きましょう。

なぜかというと、質問をすることで先入観が入ってしまうためです。こちらから回答を歪めることなく、率直な感想をお聞きする。それが「このサービスを明日からも使ってもらえるか」を検証する上でも、大事な発話になるのです。

インタビューでは、ニーズの具体的なありかを探索するため、行動観察の結果を踏まえていろいろなことを聞きました。先述したような「しげしげ牛肉を見ていたけれど、あれはどんな背景があったのですか?」「混み合う店内でも、カット野菜をずっとご覧になってましたよね。あれは何を見ていたのでしょう」など。

「どんな情報があると良かったですか?」なども聞きました。情報を取り扱うサービスだからこそ、実体験ベースでエピソードを交えながら語っていただけるのは、行動観察だからこそ可能となる「リアリティのあるコンセプトテスト」なのです。

最後に「明日からもこのサービスを使うイメージがわきますか?」を10点満点で評価してもらいました。

注意したいのは、点数を知りたいわけではないことです。その点数にした意図であったり、9点であればなぜ10点ではないのか、2点であれば何があるから1点ではないのかを確かめるのが大切です。あの手この手で「本当に使ってもらえるか」を検証するための問いとして聞きましょう。

⑦チームメンバーとデブリーフィング(振り返り)

細かい分析作業は後日行うとして、行動観察が終わったら、時間は短くても良いので、出来るだけその日のうちにチームメンバーで振り返りを行いましょう。記憶が鮮明なうちに気づきを共有します。

今回は12名のユーザーを5日間にわたって行動観察したので、その5日間は毎日夜に皆で集まってデブリーフィングを行いました。

メンバーそれぞれ「特に気になったポイント」を挙げ、それについて「私もそう思う」「逆に私はこう思った」「むしろこうじゃないか」などと議論をしました。代表的な気付きをいくつか挙げてみます。

移動速度がとにかく速い

ユーザーが売り場内を移動するスピードが想像以上に速かったです。ときには、足早に移動するユーザーを見失ってしまうほど。

移動が早すぎて、スマホのモックアップを見る余裕はない……これは「買ってもらえるか」以前に考慮しなければならないポイントであり、観察してよかったと思いました。まさに、行動観察だからこそ得られた示唆といえます。

「どれを選ぼうか迷う」という体験にも種類がある

言葉にすると同じ「迷う」でも、その種類はさまざまでした。産地の違う2つのバナナを比べて迷っていることもあれば、果物売り場全体をウロウロしながら迷っているユーザーも。

このような「迷う体験」にどのような情報を提供できるかが「買ってもらうための後押し」には重要になりますが、求められる情報にも種類があるということがよくわかりました。

事前インタビューの発話とは異なる行動もある

どれだけ誠実にインタビューに答えてくれる人でも、どこかでちょっといいように、カッコがつくように発言してしまう。それが人間の性です。

事前インタビューでは「買い物はルーティーンでしかない」と答えていた人が、実際には「ちょっとお高いアイスコーヒー」を購入していました。事後インタビューで改めて問うと「ご褒美として買ってみた」とのこと。

人間なのでYes/Noではないグラデーションがあって当たり前で、そのグラデーションはどんな時にどう変化するのか。それが大切な情報となります。この人はこうだから、と決めつけすぎず、ある程度は気分や状況で欲しい情報を選べるサービスでありたいね、なんていう話をチームでしました。そんな柔軟性に「買ってもらえる」ヒントがあるように感じます。

行動観察をするなら、できる限り「リアリティ」にこだわろう

以上、私が担当したコンセプトテストおよび行動観察のダイジェストとなります。いかがでしたか?

「使ってもらえるのか、買ってもらえるのか」「どのような使われ方をするのか」といった観点で、精度の高い検証ができました。行動観察の結果は、その後のプロジェクトにおいても、たびたび参照されました。

「Aさんは、スーパーでこんな動きをしていた。このアイデアは使ってもらえるのではないか」「逆にBさんは、こんな見せ方の方がいいのではないか」など、ユーザーをしっかりと思い浮かべながら検討できたことも、チームにとって大きな価値です。やはり「聞く」だけでなく「見る」ことで得られる情報は段違いに多く、信頼度も高まります。

もちろん、行動観察が唯一の解ではありません。コンセプトテストに唯一解などはなくて、プロジェクトごとに適切なリサーチ手法を考えることが大切です。行動観察という手法は時間も手間もかかりますから、状況次第では、そもそも実施が不可能という可能性もあります。

まずは制約を設けずに「どんな手法がベストか」を考えてみましょう。仮に行動観察を取り入れなくても、それに近しい効果の手法を選ぶこともできます。

例えば、日々の暮らしやサービスの利用について一定期間のあいだ記録をとってもらう「日記調査」であれば、プロジェクトメンバーの負担を軽減しながらリアリティも一定担保できます。また、被験者に協力いただくまでは行かずとも、現場を訪れて観察するだけでも見えてくるものがあるはず。インタビューだって、聞き方を工夫することで、より実態に近づくこともできるでしょう。

決まったルールなどないので、思う存分工夫をして、少しでもリアリティにこだわった検証を目指しましょう。それこそが「開発に生きる」コンセプトテストなのだと考えています。さまざまなデザイナーと、そしてクライアントと。より良いコンセプトテストを突き詰めていければと考えています。

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