ユーザー調査の「使いたいと思います」を信じてはいけない、3つの理由
「アンケートで多くの人に意見を聞いたのに、売れなかった」
「ユーザーインタビューから聞いたユーザーの声を参考にしたのに、売れない」
新規事業が空振り、新商品が売れない……そんな非常事態を避けるため、自分たちが生み出すサービスや製品のコンセプトが、「本当にユーザーに受け入れられるのか確かめたい!」と、ユーザー調査に興味を持つ企業が増えています。
昨今、「UXデザイン」という言葉がよく使われるようになり、ユーザーの声に耳を傾ける文化が浸透してきたのは、とてもうれしいことです。
しかし、調査の実施方法を間違えてしまったり、分析で「ユーザーの声」を正しく取り扱えずに真実とは全く異なる結果を導いてしまうことも少なくありません。
間違ったユーザー調査はプロジェクトを誤った方向に導いてしまうばかりでなく、まったく売れない商品やサービスに対して「売れる」と思わせたまま、莫大な開発費や広告宣伝費を使わせることにつながってしまいます。
冒頭で挙げたような失敗をしないためにも、この記事では、本当の成果につながるユーザー調査の1つである「コンセプトテスト(受容性調査)」とその結果の正しい取り扱い方をご紹介します。
目次
コンセプトテスト(受容性調査)とは?
まずは、コンセプトテストの概要をおさらいしましょう。
コンセプトテストとは、新しい商品やサービスの実開発に取り掛かる前に「コンセプト」を想定ユーザーにぶつけるテストで、その方向性が成果(=売上)につながる可能性があるかを迅速に検証できます。詳しい方法とコツについては、以前掲載した記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
コンセプトテストを行うと、市場に出す前にユーザーの意見や反応を確認できるため、開発後に「そもそも想定していたニーズがなかった……」という悲劇を避けられます。方向性をしっかり定めておくことで、商品の開発中やマーケティング方法を検討する際に、関係者が立ち返る土台としても活用できます。
コンセプトテストと結果分析で、やってはいけない「3つのこと」
コンセプトテストはメリットが多い調査ではありますが、冒頭で記載したとおり、ユーザーの声を正しい分析結果として導き、売上につながるコンセプトを見極めるために、注意すべき点がいくつかあります。
ここからは、テストを失敗させないための、3つの「やってはいけないこと」を詳しく解説します。それらを踏まえて正しくコンセプトテストを行うことで、次にとるべきアクションが明確になり、優先して検討すべき事項が明らかになっていきます。
1. 利用意向を問う設問の「点数評価」を鵜呑みにしてはいけない
コンセプトテストでは、その商品の方向性にユーザーが興味を示しているか測るために「この商品(サービス)を利用したいと思いますか?」という設問がよく使われます。
利用意向はそのまま質問にすると「使いたいと思いますか?」となりますが、実はこの「使いたいと思う」という表現はとても曖昧です。
例えば、テレビやSNSで見かけたもので「気になるな、使ってみたい(買ってみたい)な」と思うことは皆さんもよくあると思います。ですが、そう思ったものの中で、実際に購入したものはどのくらいありますか?
正直、私は気になったものが50個あったとして、購入したものは1つあればいいほうです。もちろんユーザーも同じで、パッとみたものに対して「使いたいと思う」ことと「実際に買う」ことは全く違います。そのため、利用意向を聞く際には、以下のように具体的な行動を問う言い回しにすることが大切です。
また、こうした調査では、意向の程度を測るために便宜的に数字を使っていますが、そもそも人の行動に対するモチベーションは主観的であり、定量的にきっちり切り分けられるものではありません。
さらに言えば、数字に抱く印象(心象)も人によってまちまちなので、点数をシビアにつける人もいれば、甘めにつける人もいるわけです。
実際、定性調査のインタビューで聞いてみると「4:使うと思う」という選択肢を選んだ人の中でも「使いたい人もいるんじゃないですか? 私は使わないですけど」という感じの人もいれば、「めっちゃいいですね、使いたいです!!でも、XXXが気になるので5ではなく4かな」といった温度感のユーザーもいるのが実態です。
こうなると、1と5の差は明確ですが、2〜4の差はほとんどないといっても過言ではありません。さまざまなユーザーの点数の平均をとってもあまり意味がない、と思いませんか?
大切なのは、5つの数字に惑わされることなく「どこに価値を感じているのか?」「どんな課題を解決できるのか?」といった背景や理由を問い、その内容から根拠と温度感を把握した上で点数を捉えることです。背景や理由をアンケートで聞くのもいいでしょう。
また、ちょっとした小技ですが「選べる数字を6段階にする」のも有効です。特に日本人に多いですが、人間は中央の数字を選ぶ傾向が強いため、「3:どちらともいえない」という選択肢があると「どちらかというと……」といった気持ちがあっても3を選んでしまいます。
これは「ゴルディロックス効果」や「アンカリング効果」と呼ばれ、「極端な意見を回避したい」という人間心理から由来しています。
1〜3をネガティブな指標、4〜6をポジティブな指標にして中央をなくすことで、受容性があるかないかをよりはっきりさせることができます。
2. 購入に必要な「前提条件」を忘れてはいけない
先述のように、ユーザーが「使いたい(買いたい)」と思っても、そこからユーザーが実際買うまでには、さまざまな前提条件をクリアしなければなりません。
例えば、10代前半でアルバイトをしていないユーザーや、結婚していて「お小遣い」という形で自由に使えるお金が制限されている場合。商品やサービスのジャンル、価格帯によっては、家族の了承を得ないと購入に至れないという人もいるでしょう。
この場合、市場規模から計算した予算値に対して「買うだろう」と答えた人が多くても、実際に売ると目標に達しません。
ユーザーが「使いたい(買いたい)」と思ってから購入に至るまでの条件は「フォッグの消費者行動モデル」と呼ばれる概念で理解しておくことが有効です。フォッグの消費行動モデルでは、ユーザーが消費行動を起こすまでに必要な条件を「B=MAT」として表現しています。
先ほどのお小遣いの例で説明すると、「M(Motivation)」があっても「A(Ability)」がなければ購入には至りません。この2つに加え「週末に行くキャンプに必要」「古くなってきたので買い換えようと思った」といった「T(Trigger)」までそろって、やっと購入に至るのです。
コンセプトテストでは、「買うであろう」と回答したユーザーに「どんな状況で利用するイメージを持ったのか」まで聞いておくと、その後の売上予測の精度を高めることができるでしょう。
3. 多くの人が良いと言ったからといって「受容性がある」と判断してはいけない
こう書くと身も蓋もない言い方になってしまいますが、ここまで記載したとおり、コンセプトテストは本来「定量調査(アンケート)」より「定性調査(インタビュー)」の方がより多くの示唆を得られます。
定量調査のメリットは「一度に多くの人の意見を聞ける」ことですが、多くの人が「使う」といった商品の背景にあるニーズやペインはすでに顕在化しているもので、市場には他の商品やサービスが解決策として提供されている場合が多くあります。
競合品との差が価格であったり、ちょっとした新規性である場合、すでに広がった市場からユーザーの意識を奪い、イノベーションと呼ばれる大ヒットに繋げるのは困難です。
一方で、まだ解決されていない潜在ニーズを満たす解決策を生み出すためには、少数であっても強く課題感を感じている人や、コンセプトへの共感度が高いユーザーの意見を深く聞いた方が、独自の解決策、つまりイノベーションを起こし得るサービスや商品の開発につなげやすいのです。
例えば、クラウドファイルサービスの先駆者である「Dropbox」や、タクシー配車に革命を起こした「Uber」も、発案者は自分の困りごとを解決したいという一心でサービスのアイデアを磨き上げました。
「どこにでもUSBメモリを持ち歩くのが嫌になり、バスに乗る時でなければ洗濯機に入れるところだった。それは常に災害の一歩手前です。そして、ボストンからニューヨークへ移動中にサムドライブを忘れてしまい、仕事が手につかなくなり、ドロップボックスになるための最初のコード行を書き始めたのです」
ドリュー・ヒューストン(CEO兼共同創業者)、foundrより
これらの事例は、課題の持ち主が自分自身であったことから、課題の背景や本質的に何を解決すればよいかを深く理解していたため、最適かつ今までになかった解決策を考えることに繋がったのではないでしょうか。
とはいえ、定性調査は定量調査に比べると時間もコストもかかりますし、上記の通りインタビューからユーザーのニーズを引き出し、正しい結果を導くには高いスキルが必要です。
良いインタビュー調査をできる人が身近にいない場合、先ほど挙げた「6段階の選択肢」ではないですが、少し工夫することで、定量調査でも確度が高いユーザーの「欲しい」を捉えることができます。
定量調査の価値を高めるために工夫できること
ここからは、定量調査でも正しくユーザーの「欲しい」を捉える方法をご紹介しましょう。
一般的なアンケートを実施するよりは手間がかかりますが、その後使われる莫大な開発費や広告宣伝費を考えると、ここでちょっとした手間をかけておく方がよほど効率的です。
手間をかけるほど確度は上がりますが、状況に応じて使い分けられる3つの工夫をまとめてみました。これらはグッドパッチの案件でも実際に活用した手法です。
工夫1:身銭をきってもらえるか擬似的に検証する
先ほども触れた通り、最も確かめたいのは「ユーザーは本当に身銭(お金だけでなく情報や労力なども含む)を切ってまで、そのサービスを使いたいと思うか?購入するか?」という部分ですよね。これを検証する方法として「プレトタイプ」という手法があります。詳しい方法は以下の記事をご覧ください。
プレトタイプの「プレ」には、「〜より前に」という意味と「プリテンド(pretend=ふりをする)」という意味が込められています。プロトタイプを作ってしまうと予算と時間がかかるので、その前にプレトタイプを実施してアイデアの確かさを検証しよう、という考え方です。
プレトタイプには複数のやり方があり、上の記事では「ニセの玄関型」と呼ばれる手法を紹介しています。これは、SNSなどで虚偽の広告を掲載することで、広告から商品の紹介ページに来てくれるユーザーの割合や、紹介ページから実際に商品を使おう(買おう)とするユーザーがどのくらいいるかを測るというものです。
虚偽の広告なので「ユーザーを騙すことになるんじゃないか」と懸念を持たれる方もいるかもしれません。
しかし、これは欧米では積極的に活用されている手法であり、実際に購入しようとするほどそのサービスに興味を持ってくれたユーザーは、虚偽であることに落胆する以上に、そのサービスが実際に使えるようになるために、前向きな意見を届けてくれるのです。
工夫2:「高いハードルを超えてもらえるか」を検証する
身銭を切るかどうか、と同じくらいユーザーの興味の度合いを測る方法として有効なのは「どれだけ手間をかけられるか」を確かめる検証です。実際にグッドパッチで行った案件をベースに説明します。
その案件では、クライアントが計画していた新サービスの構想がユーザーに受け入れられるか検証するため、価値を言語化し、ストーリーボードを用いたユーザーインタビューを行いました。
インタビューで得られた示唆をまとめ、構想をブラッシュアップする方向性はまとまったものの、その方向性の確度を別の角度からも検証する必要があると感じ、プレトタイプを実施しました。それは「回答負荷の高いアンケートに答えてもらう」というものです。
クライアントの別サービスが持つターゲットリストに向けてメールを配信し、本文には、新サービスの概要とアンケートへのリンクを貼ります。アンケート回答の謝礼は「今後、サービスの追加情報がもらえる」という形に。アンケートのボリュームを「あえて」多くしておくことがポイントです。
こうすると、アンケートにすべて回答し、かつ好意的な内容を記載しているユーザーはサービスに対する興味が高いと分かります。興味を持ったユーザーの割合とその背景、両方を捉えることができるというわけです。
この案件では、興味が高いユーザーにさらにインタビューすることで、磨き込むべき価値に気付くことができましたし、サービスをリリースする際の強力な初期ユーザーを、早い段階で獲得することにもつながりました。
先に述べたように、定量的に把握した受容度はあくまで参考値として取り扱います。大切なので何度も言いますが、どんなユーザーに、なぜ刺さるのか(受け入れられるのか)を正しく認識することが目的であることを忘れてはいけません。
この案件では、「クライアントの別商品に関わりがある人」を母集団としたため、ユーザーの属性などが偏ってしまうリスクもありました。検証の精度を高めたい場合、工夫①で実施したSNS広告などを活用した方が良いでしょう。
また、メール以外の方法として、関連するテーマでウェビナーを開催し参加率を確かめたり、資料(ホワイトペーパー)を用意し、ダウンロードしてくれるユーザーがどのくらいいるかと言った数値を参考にする方法もあります。自社の予算やスケジュール、サービスの検証フェーズをふまえ、最適な方法を選ぶ際の参考にしてみてください。
工夫3:実際に体験してもらい、良し悪しを検証する
冒頭でご紹介した通り、コンセプトテストでは、とあるアイデアに対して、ユーザーが興味を示しているか測るために「この商品(サービス)を利用したいと思いますか?」という問いを提示します。
コンセプトを提示する際は、利用のイメージがわくようにストーリーボードと呼ばれる4コマ漫画を添付したり、サービスの体験がイメージできる動画を見てもらうこともあります。コンセプトの文章だけでは、イメージが湧きづらいことは何となくご理解いただけると思いますが、4コマ漫画や動画でもイメージがわかないユーザーも多いのが実態です。
そこで効果的なのは、簡易的にサービスを体験できるプロトタイプを用意し、それを体験してもらった上で「明日からもこれを使い続けてもらえますか?」と問う方法です。
「いくら簡易的といっても、サービスを作るのはコストが……」と思われるかもしれませんが、Webサービスやアプリであれば簡易的に作れるようサポートしてくれるサービスはたくさんあり、数時間程度で作れてしまうものもあります。
例えば、先日わたしが利用したのはLINEのビジネスアカウントで、サービスのレコメンドを「カードタイプメッセージ」という機能を使うことで擬似的に体験してもらいました。
実際に「いいね」や「口コミをみる」といったアクションも行えるので、そのアクションにどんな意図や期待があったのかも知ることができたほか、どんなユーザーがどんなときに閲覧やアクションをするかまで分かったため、サービスのブラッシュアップにとても役立ちました。
コンセプトテストは、効率的、そして効果的に失敗を重ねられる手段
グッドパッチは、新たな価値を持つサービスや商品を模索するプロジェクトを数多く手がけてきました。定性調査も得意としていますし、クライアントが安心して「これだ!」と言えるための方法を研究し続けています。
ただ、新たな価値を作るのは簡単なことではありません。イノベーションはたくさんの失敗の上に生まれるもの。つまり、いかに失敗を積み上げられるかが重要なのです。とはいえ、失敗に膨大な時間や資金を使うのはもったいない。今回紹介したコンセプトテストは、失敗を効率的、そして効果的に重ねられる手段とも言えるのです。
一方で、コンセプトテストで多くのユーザーに受け入れられることが分かったサービスが、イノベーションにつながったり、大成功したりするかどうかは懐疑的です。
もちろん、誰のためにもならないサービスを作るべきではありませんが、数が少なくとも、熱狂的なユーザーを生むサービスを作るというのも必要なアプローチだと考えています。
分かりやすい例が「iPhone」「LINE」「Twitter」です。サービスに深い愛着を持ったユーザーやデベロッパーの手で、当初の想定を超えた様々な使い方が次々と生み出されたことで、利用者が爆発的に広がっていきました。
最初の使い手を誰にして、その人が次の使い手をどう呼んでいくのか……ユーザーの広がりまで戦略的にデザインしていく。正しくコンセプトテストを行えば、そんなイノベーションに向けたヒントも得られるかもしれません。戦略段階での価値検証や、簡易的なプロトタイプを活用した検証に興味がありましたら、ぜひグッドパッチにご相談ください。