Goodpatchの新卒「UXデザイン研修」体験記──ターゲットと価値に2週間徹底的に向き合って分かったこと
こんにちは。このたび7月1日付でGoodpatchのUXデザイナーに配属になりました、2023年卒の関口と杉本です!
年によって変わりますが、Goodpatchの新卒メンバーは配属部署に関わらず、営業研修、PM研修、UIデザイン研修、UXデザイン研修、エンジニア研修など、「部門研修」という形で各職能のスキルを約2カ月かけて学びます。
そして、今年の新卒研修では「研修を全て修了し、新卒4人のチームで成果物を作って最終プレゼンを行う」というゴールが設定されていました。この成果物のテーマは「政治に興味のない20〜30代に政治参加を促すサービス」。
さらに成果物の条件として、以下の制約がついていました。
- 成果物はテクニカルプロトタイプを目指して制作する
- KGIとして「投票率が50〜60代を上回る」を据える(実際に測定はできないので、あくまでここを目指すという前提)
- 現行のルールに従ってサービスを構築する
- 「生成AI」「XR」「ブロックチェーン」いずれかの技術を使用する
「……え?」
この課題を伝えられたとき、新卒4人全員で顔を見合わせました。自分たちだけでサービスのプロトタイプを作る? 控えめに言っても厳しすぎるのでは……? ここから2カ月の怒涛の日々が始まったのですが、今回の記事ではその中でも、12日間かけて行われた(奮闘した)「UXデザイン研修」の内容をご紹介したいと思います。
目次
12日間の激闘(?)の日々を振り返ります
UXデザイン研修は12日間のプログラムで、最初の2日間はUXデザイナーとしてのマインドセットやスタンスを理解するための講義と演習。3日目以降は、先ほど説明した(激ムズな)お題に沿ってアイデアを考えていく、実践的なワークに取り組みました。
具体的には、インタビューや分析を経てアイディエーションした内容を、「どうユーザー視点を取り入れたのか」といったプロセスを含めて、マネージャー陣にプレゼンするという流れです。
3日目以降のワークでは、デザインプロセスを10日間で実践できるようスケジュールが組まれており、段階を踏んで成長し、UXデザイン研修の最終日である10日目には自信満々のアウトプットを出す……はずでした。
チャレンジングな課題に新卒4人のチーム。当然そんなにうまくいくはずもなく、失敗や想定外のことだらけの10日間に。
ここからは、実際に行ったワークの内容と悪戦苦闘の日々、そして完成したアウトプットまで。Goodpatchの新卒メンバーが一丸となり、試行錯誤を繰り返しながらデサインプロセスに挑んだ一部始終を、ありのままにお伝えします。
UXデザイン研修その1:「UXデザインとは何か」を考える
先に紹介したように、最初の2日はUXデザイナーとしてのマインド・スタンスを学ぶ研修です。
「UXデザイン概論」の講義を受けたあと「GoodpatchのUXデザインとは何か?」という問いに対し、講義の内容や先輩UXデザイナーへのインタビューを通して、自分なりの仮説を立てて発表するといった内容でした。
最初の講義では、UXやデザインに関する学術的な定義や捉え方を学びました。さまざまな書籍や学術書から、体系的にUXデザインを捉えるというものです。
講義の最後には「学校の気になる子へのプレゼントを考える、どうしたら喜んでもらえるかをデザインしきることがUXデザインだ」というカジュアルな解釈も提示されました。「ターゲットを定め、その人の視点で考え尽くして喜んでもらうこと」が最も大事なのだ、という納得感のあるたとえです。
その後、先輩UXデザイナー2人へのインタビューを通じて「UXデザインとは?」というお題に自分なりの解釈を立てていきました。
新卒メンバーがそれぞれ仮説や道筋を立て、問いを設計し、インタビューを実施・分析するといった流れで行われます。
問いの内容は人、というか着眼点によってさまざまです。例えば、UXデザインの対象物にフォーカスしたり、UXデザイナーが行う「伝える」という行為に着目したり。多様なアプローチから「UXデザイン」を解釈しており、同じお題でも結論が異なる、新卒メンバーそれぞれの色が見えたプレゼンになりました。
UXデザイン研修その2:デザインプロセスを実践する(前半)
3日目以降は「政治に興味のない20〜30代に政治参加を促すサービス」の作成に向け、調査、分析、課題と価値の策定、アイデアの策定、価値の検証を行いました。
○ターゲットの設定
まずは「どんな人に向けてサービスを作るか」を明確にするため、ターゲットを策定します。
今回の成果物においては、KGIとして「20〜30代の投票率が50〜60代を上回る、を据えること」という条件があります。デスクトップリサーチから、これを達成するには20〜30代の投票率を21ポイント以上(40%→61%)増加させる必要があると分かりました。
同時に、新卒メンバーの実体験を踏まえて「選挙に全く関心がない人」にアプローチするより、「選挙に行こうとは思ってはいるが、行くときと行かないときがある人」に向けた施策の方が現実的だという結論になりました。そういった人たちは何か選挙に行く「きっかけ」や「インセンティブ」が存在し、その「きっかけ」「インセンティブ」を創出するサービスなら実現可能だと考えたからです。
○課題探索調査の設計・実施
ターゲットを設定した後は「インタビューの準備」です。
先述したターゲットである「選挙に行こうとは思ってはいるが、行くときと行かないときがある人」にインタビューするため、「選挙に行った回数」や「投票に行かなかった理由として、これまでの経験で該当するもの」などを設問としたアンケートを作成しました。
このアンケートをGoodpatchの先輩社員に回答してもらってインタビュー対象を決めつつ、インタビューの内容も作り込んでいきます。
私たちはインタビューに大きく2つの目的を設定し、課題の探索と仮説の検証を同時にできるように設計しました。1つは「選挙に行かなかった日のファクト集め」、もう1つは「選挙に行くことにつながる価値の探索」です。
前者は、選挙に行かなかった日の体験や理由を聞くもので「何がハードルとして存在すると選挙に行かないのか」という課題を探します。選挙に行かない理由やそのときの感情を想定し、検証していくような質問を作りました。後者は「何があると選挙に行くのか」や「選挙に行くときのモチベーション」を問う内容です。
○インタビュー分析と中間レビュー
インタビュー実施後は分析した内容に対し、マネージャーからの中間レビューでフィードバックしてもらう予定でしたが、分析が思うように進まず、インサイトの言語化や確度の高いターゲットの設定まで終えることができないまま報告することになってしまいました。
レビューでは進捗が良くないことに加え、ターゲットや仮説設定の甘さへの指摘もありました。ここまでの成果が芳しくなかったことから、研修担当の先輩方にファシリテーターとアドバイザーをお願いして、1週間の振り返りを実施しました。
振り返りでは、
- まず自分たちが立ち戻れる、プロダクトが目指す世界やゴールを設定する
- そこからズレそうになったら適宜みんなで立ち戻り、出戻りを恐れない
という2週目以降の進め方をチームで決め、この共通認識の下、再スタートを切ることになりました。
UXデザイン研修その3:デザインプロセスを実践する(後半)
○再度のデスクトップリサーチとゴールの再設定
研修担当であるマネージャーからの指摘を踏まえ、再度、課題の確度を高めるためにリサーチを行いました。前回のリサーチでは、20代・30代の動向しか見ていなかったので、より視点を広げて調べることにしました。
海外の動向や、かつての20代の投票率が高かった理由の推察、ライフステージごとに政治の関心が高くなっていく理由など。たとえば、かつて日本は、ライフスタイルが多様化しておらず、年代を超えて悩みが共通のものであった。そのため、画一的かつマクロな政策を打ち出す候補者や彼らが出ている選挙への関心が高かったが、現在は価値観が多様化してきた時代であり、若者の悩みも多様化してきたことによって若者が政治に解決を要請をすることもなくなっていったなどの背景が見えてきました。
次に、課題に対しての熱量や意識を合わせるため、「課題を通じて、自分たちは何を目指しているのか」という点について共通の理解を作ることにしました。
ゴール設定のワークを通じて、「ただの研修課題で終わらせたくない」という共通のスタンスと「若者に政治における役割を持たせたい」「政治だと思わせずに政治とのタッチポイントを増やしたい」という提供者の課題を設定でき、サービスに対する共通理解が生まれ、その後のアイデア創出が、前半よりぐっとスムーズに進むようになったと思います。
○体験価値を導出し、ソリューションのアイデアを考える
次に、その課題を解決した場合にユーザーが得られる体験価値を3つ導き出しました。
例えば、「若者に政治における役割を持たせたい」という方針は、ユーザーインタビューから得られた「投票をしても、政治に参加している実感を持てない」というユーザー課題に紐づいています。これは「投票の効果を実感できる」といった体験価値に変換できます。
関連するユーザー課題は複数あったので、同様に体験価値も複数案考えられます。導き出した体験価値は「誰にとっての価値なのか」という観点で整理をして、精度を高めていきました。
そして、先ほど導出した体験価値を満たすソリューションはどのようなものか、チームでアイディエーションを行い、3つのアイデアを作成しました。
その中の1つのアイデアは「ディベートをするゲームを作り、そのディベートのお題に政治についての内容を入れる」というものでした。このアイデアは「若者に政治においての役割を与える」「政治だと思わせない」という自分たちの共通理解を満たすことができる可能性を持っていたので、最終的にこのアイデアに着地しています。
○価値検証とアイデアのブラッシュアップ
価値検証では、上記のアイデアで本当にユーザーに良い影響を与えることができるのか検証しました。具体的には、下記のようなストーリーボードを3種類作成し、インタビューを実施しました。
ストーリーボードを用いてインタビューを行うことでアイデアが受け入れられるのか、受け入れられない場合には何が障壁となっているのか、ということを明らかにしていきました。
価値検証後には、アイデアのブラッシュアップを行いました。例えば「実際にゲームがあってもプレイしないかも」という意見に対し、ゲームをプレイしない要因について深掘りした上で、その要因をクリアできる要素をアイデアに追加する、といった形です。
○最終レビュー
最終レビューでは、中間フィードバックと異なるマネージャー2名に向け、ブラッシュアップしたアイデアとそのプロセスについて説明しました。
その後の質疑応答では、「本当にこれでKGIを達成できると信じているのですか?」という核心をついた問いが投げかけられるなど、厳しいフィードバックをもらいましたが、まだアイデアを諦める段階ではありません。
今回の「UXデザイン研修」としてのスコープはアイデア創出を行うところまでですが、研修はこれからも続きます。ここから3週間ほどで、さらにテクニカルプロトタイプを作成することになっているので、今回の経験と最終レビューでもらったフィードバックを踏まえて、このアイデアに磨きをかけて自信を強く持った形にしていきたいと思います。
大切なのは「手法を使えること」ではなく「スタンスを身につけること」
あっという間の12日間で、反省も多かった日々ですが、その分得られた学びもあります。最後に研修を通して得た学びをまとめられればと思います。
1.自分たちで考えたからこそ得られた学び
UXデザインに関しては、本を読むことである程度知識を得ることはできます。ただ、知っていることと使えることは全く別で、講義を受けるタイプの研修ではなかったからこそ、実感を持って身につけることができたと感じています。
そして、UXデザインを実践する上で一番大切なことは、手法を使えることではなく、ユーザー起点で考えるためのスタンスを身につけることなのだと理解できました。
2.チームのモチベーション
今回の研修で一番身に染みたのは、チームのモチベーションを意識することです。メンバーのそれぞれがどのようなことに楽しみを感じ、どのようなことに苦しさを感じるのかを理解できるくらいに、普段からお互いに気を配ることが自分たちには不足していました。
厳しいスケジュールの中でも適切に進めるために、チームメンバーの力を最大化する意識を持ち、クライアントワークに取り組んでいこうと思います。
3.チームで「なぜ?」を問い続けることが大切
チームで「なぜ?」を問い続けることは、インサイトを見つけるためにも、チームで共通認識を持つためにも大事だと感じました。
インタビューから言葉を分解したり分析することは、ある程度は機械でも代替できます。だからこそ、まずは死ぬほど考え、仮説で構造的に課題を把握していかないといけない。それを後半はチーム全員でやれたことで課題の構造が共通認識となり、そこからビジョンができて、雰囲気も良くなったし、全員が当事者意識を持てたと思います。
4.ワークに入る前にアウトプットのすり合わせを
もし次に同じようなチャンスがあればの話ですが、自分たちに何が求められているかをしっかり把握した上で取り組みたいです。
正直ワークをしていた10日間は、自分たちの中でロジックを固めることに手一杯でした。もう少し落ち着いて何がアウトプットに求められているかを把握し、内容に反映していければよかったと感じました。
長かったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。記事で書けなかったことも含め、本当に濃い12日間でした。今後も、研修の内容を生かしながらUXデザイナーとして活躍していきます。機会があれば、自分たちの成長過程を発信できたらと思っていますので、楽しみに待っていてください!