「ちょっとした毎日を提供し、ひとりひとりの生活を豊かにする」という願いをもつリクルートライフスタイル。じゃらんやホットペッパーグルメ、Airレジなどさまざまなサービスを手がけています。

今回は、Air事業ユニットUXデザイングループのグループマネジャーの鹿毛雄一郎氏に、Airレジのユーザードリブンなプロダクトデザイン手法について迫ります。

──まずはAirレジについて少し教えてください。Airレジがはじまった背景などをお伺いできればと思います。

Airレジとは、店舗のレジ機能から売上分析、顧客・在庫管理などを一括で行うことができるPOSレジアプリです。
リクルートライフスタイルには、じゃらんやホットペッパービューティーなど、クライアントの「集客」の問題にフォーカスを当てたメディアが多く存在します。Airレジが始まった当初はこの集客の課題解決の一助を担っていました。

当初、Airレジの中に「テーブル管理」の機能がありました。店に来店されたお客様がどのテーブルに座っているかを管理することで、リアルタイムの空席情報を把握することができます。これによって当日予約を受け付けることができ、店のトランザクション(回転率)を上げることにつながります。このように、普段の業務をAirレジで行うだけで、クライアントのデータを可視化し、価値提供したいという思いから、Airレジのサービスが始まりました。

私たちはより多くの業務範囲に介在したいと考えていたので、先日も2018年春より順次提供開始となるAirメイトというサービスを発表しました。これは、Airシリーズを導入している店舗に対して、経営状況を見えるようにする経営アシスタントサービスです。例えば、経営している店舗の中で業績の悪いお店、良いお店が一目でわかります。良い部分も悪い部分も可視化し、対策を打てるようにしています。

──Air事業自体は以前10個ほどプロダクトがあると伺ったのですが、新サービスはどういうタイミングでどのように出てくるのでしょうか?

現在提供しているサービスはAirレジの他にも、待ち時間解消サービスのAirウェイトや、予約管理システムのAirリザーブ、Airペイやモバイル決済 for Airレジといった決済サービスなどがあります。独立したサービスとしての提供はしていませんが、メッセージを配信する機能や、ネット広告配信機能、お店のホームページを作れる機能などもあります。また、Airシリーズ以外のお店の業務課題を解決することができるサービスを紹介するAirマーケットというサービスも提供しています。Airとついていないサービスの中には、レストランボードという飲食店向けのテーブル管理、予約台帳アプリがありますが、Airレジと一緒に使うことでより便利にお使いいただけます。

これらのサービスの中にはトップダウンではじまる企画もあれば、ボトムアップではじまる企画もあります。ボトムアップで始まったサービスでいうと、AirリザーブとAirウェイト、そして先ほどご紹介したAirメイトがあります。リクルートライフスタイルの制度の中に誰でも新規事業の提案を行うことができる機会が用意されているのですが、この中で起案がされ採択されたサービスです。その後特定のクライアントと価値検証を行って、徐々に精度を高めていくプロセスをとっています。

──デザイナーはどのように顧客の課題に気づくのでしょうか?

いくつかケースがあります。1つ目は、お客様の方から膨大な数のお問い合わせがくるので、文面から課題を読み解き理解するというケースです。もう1つは、ビックカメラにあるサービスカウンターにこれから導入しようと考えている方からの要望が上がってくるケースです。

他にも直接クライアント先へ足を運ぶこともあります。また、クライアントの話を聞くだけではなく、実際に体験して課題を実感するために、プロダクト開発に携わるさまざまな職種の人がスタッフとしてその店で働いてみたりもします。実際のお店の環境で、接客をしたり、その他の業務をしながらプロダクトを利用することで改善点に気がつくことができます。普段業務で使うプロダクトになってくると、パフォーマンスが日々の満足度を左右するので、直接サービスを使うことは非常に重要だと感じています。

──鹿毛さんの携わる事業では、普段どういう仕事をしていて、それぞれの役職はどのようにProttを使っていますか?

私の携わるUXデザイングループには全体で60人ほどのメンバーがいます。フロントエンドエンジニアが20人ほどで、残りはデザイナーもしくはディレクターを兼務しています。

日々のプロセスでいうと、プロダクトや事業の成長をプランニングをするプロデューサー(プロダクトの責任者)が今後プロダクトをどのように伸ばすかを検討した上で、KPIやOKRを考えて、各メンバーに落としていきます。定められた目標達成に向けて、デザイナーやエンジニアが案件を通して課題を解決していきます。

UXデザイナーは、ユーザーの理解をより深め、それをチームのメンバーに伝えるということ、そして得られた情報をきちんと分析した上でインサイトを抽出して、プロダクトをデザインする、ということをします。やりたいことが山ほど出てきたとしても、その中から本当にやらなくてはいけないことを取捨選択しています。

デザインしたプロダクトの価値検証をする際、インタビューだけで何が欲しいかを聞いても、正確なフィードバックがユーザーから返ってくることはほとんどありません。そのため、ある程度クライアントがプロダクトを理解できるように、動くプロトタイプを用いて仮説検証をするようにしています。もちろん社内へのプレゼンであれば、紙ベースで書いたものを使ったりもしますが、クライアントに見せるときはある程度精度高いプロトタイプにして、どのような業務で利用できるかということを検証し、フィードバックをもらいます。

──最初からプロトタイピングツールを使って開発を行っていましたか?

ツールは変遷したり、人によっても違っていたりもしますが、はじめからプロトタイピングツールは使っています。デザインを起こしたものを紙に印刷して、切って、iPhoneの上に乗せたりもしていましたね。画面をポチッと押して別の画面に推移する際に、別の印刷した紙を載せたり。

何か新しいUIをデザインして、実際にプロトタイプを作るまでに、上長などから数多くのフィードバックをもらいますよね。そのときに、これまでの静止画や要件が書かれたメモを見せるだけでは、細かい部分での動きや、体験を伝えることが難しかったんです。そんな時にProttなどのプロトタイピングツールを使うことで、動きの中で「どんなシナリオを達成したいのか」が伝わるようになったので、より現実味のあるフィードバックが得られるようになったと感じています。

──かなりユーザードリブンなプロダクト開発手法をとられているんですね。リクルートライフスタイルではどのような人材が求められているのでしょうか?

自分からやるべきだと思ったものをどんどん発信していける人、自分から仕事を生み出せる人ですね。「これやってね」と言われたものを正確にこなす、というよりは「やってもいいですか?」と自主的にアイデアを出してくれる人を求めています。課題を分析した上で、提案をしてくれて、私たちはGOを出すだけということが理想ですね。

弊社はボトムアップの文化があり、リソースがある会社なので、後々自分でサービスを立ち上げたい人にとっては良い環境だと思います。良い意味で、大きい企業のいいところとスタートアップの有情無情な感じが共存している環境で、事業ドメインにとらわれずに色々チャレンジできるところが魅力ですね。

また、社内の風潮としてユーザードリブンな部分もあれば、ビジネス視点を重視している部分もあります。デザイナーとして働いている人も、日々の業務の中で「なぜ今その機能を作らなくてはならないのか」を経営層の人たちと議論できるスキルが必要になります。

──今後の事業はどういった方向を目指していますか?

弊社のクライアントは飲食店も多いですが、アパレルや美容室、銀行やヨガ教室などにも導入していただいております。彼らが彼らのお客様にとって最高の体験を提供することに注力できる環境を提供できたらと考えています。

飲食店を例にとると、「如何に美味しいものを作ってお客様に食べてもらい、喜んで帰ってもらうか」というところに彼らのクリエイティビティを最大限発揮してもらいたい。その他のお金の勘定や仕入れの管理、シフトの調整などはほとんど考えなくて良い世界を作れたらと思っています。

──鹿毛さん、ありがとうございました!